ワンフォーオール・オールフォーワン 5
後日談エピソード今回は海編と事件の概要が描かれる話で、前編は海のお話になります。
ガーランド家の家は早い………わけでも無い。
アックス・ガーランドの朝は意外と遅く、出勤ギリギリまで寝ており、一番早いのは午前五時に起床する母親とガーランドの長女の『エリナ・ガーランド』である。
まず朝食が出来るまでの間にエリナは北区中を走り回り、その後にガーランドに続くように他の二人の息子が起きるのが午前の七時以降である。
そして、海がこの家に来るのはソラが帰って来る前日の事である。
ガーランドから紹介された時興味をいち早く示したのは長女であるエリナだった。
黒く長い髪をストレートに伸ばし、鍛えられた肉体は芸術と言ってもいいだろう。
彼女は長女として、海を弟として可愛がるようになるにはそこまで時間はかからなかった。
ソラが帰って来た日の早朝、海は午前五時に目が覚めてしまいロビーまで降りるとエリナがジャージ姿で今にも走り出しそうにしており、海は自らも走りに行きたいと言い出した。
エリナと三十分ほど歩いて所で帝池のほとりの小さな広場、ベンチに座りながら息を整える。
「大丈夫?無理して付いてこなくていいのよ」
「大丈夫です!」
無理をしてついて来ようとする海、エリナは海の隣に座りこみジュースを一口だけ飲み、そのまま海へと手渡す。
「貴方のペースでいいからね?でも………無理してない?」
「だって………俺が認められるためには」
認めてもらいたい。
海は新しい家族相手に認めて欲しいという気持ち、エリナには海が今の家族に対してどこか遠慮があるのだと気が付いてはいた。
だから自分に何かが出来るかもしれないと今思いついた。
「認めてもらいたい……か」
目の前に見える帝城に目を移す。
「私達ガーランド家はね帝国に使える武家の一家で、代々軍に士官を輩出してきた歴史を持っている。でも、海も見たと思うけど、弟二人はインドア系でね。運動を大の苦手にしているのよ。私も軍方面を志望するつもりだけど父は息子に軍の士官を目指してほしかったんじゃないかな?」
「でも………俺は本当の息子じゃないし」
「あなたは本当の息子よ。DNA的には父と母の息子で合っているわ。勿論母が腹を痛めて子じゃないけれどね。それでも父も母もあなたを子として認めているわそれじゃ不満?」
海は視線を下に向けたまま黙り込み、エリナは海の頭を優しく撫でて微笑む。
「何よりあなたは私の可愛い弟よ。私は姉弟でもなければ呼び捨てにしないのよ?」
海は大粒の涙をその場で流しながら嗚咽を漏らす。
「今までよく我慢したわね」
エリナの胸の中で涙を流し、エリナも優しく抱きしめる。
海が長年我慢し続けてきた思いが溢れ出てくる中、二人はそのまま残り三十分を過ごした。
俺が病院から出ると太陽は真上を向いており、すっかり時刻はお昼を迎えている。
俺としては適当な所で昼食でも取りたいところであるが、隣にいるゴンを連れている状態で中に入れるようなレストランがあるとは思えない。
やれやれ困ったという風に俺はエアロードとシャドウバイヤを連れて、サクトさんに連れられてどこかえと去っていった父さんと分かれた俺。
俺としては腹が減ったので飯が食べたい。
適当にその辺をブラブラ回ってみるが、それでもペット可の飲食店が中々見つからない。
「やばいな………ペット可物件が中々見つからないな。三つもペットがいると中々……」
「「私達までペット扱いか?」」
「いや、その成り立ちでペット以外に認定するのは無理だろ?」
メインストリートに入ると俺は周囲を見回して、そのまままっすぐと新市街地から旧市街へと向かって足を進める。
勿論簡単に見つかるとは思えないが、裏路地にある様な隠れた名店よりこの辺の飲食店を捜した方がよさそうだ。
トラムに乗って適当に移動するべきか?
なんて考えていると、目の前からガーランド夫妻の長女であるエリナさんが見えた。
「エリナさん。南区に来ていらっしゃるとは……」
「あらソラ君。奇遇ね。弟に帝都中を案内しているのよ。この辺は士官学校もあるでしょ?」
弟という言葉を聞いて俺は『引き籠り』の弟が士官学校に通うとは思えないので、この場合の弟は一人しかいないだろう。
俺と真正面から見ることが出来ないのだろう。
海はうつむいたままエリナさんの後ろに隠れたままでいる。
すると、ゴンが強く吠えると海の足元まで移動して行く、そこまで言って俺はゴンが首紐を再び外している事に気が付いた。
「お前!また外したのか!?どうやって外した?」
「さっき器用に両手を使って外していたわよ。見なかったの?器用なヌートリアね。と思ったけど、よく見るとヌートリアにしては尻尾が長いわね。それに見たこと無い品種だし」
「柴犬っていうんだ。向こうではヌートリアの事を『犬』って言ってさ。向こうでの俺の愛犬なんだ」
ゴンは久しぶりに海に会えた喜びで尻尾を振りながら興奮しており、俺は首紐をそっと付け直しながら俺はエリナさんにこの辺でペット可の飲食店を訪ねた。
ちなみにエアロードとシャドウバイヤはすっかり飽きたようで、俺の両肩ではしゃいでいる。
「午後から聖竜に呼ばれているから出来るなら早めに済ませてしまいたいんですが」
「ならこの先にペット可のレストランがあるわ。そこで一緒に食べない?」
「良いんですか?」
「良いのよ。私達も昼食を食べようとしていた所だし」
俺達はメインストリートにある二階建ての飲食店『イリーマ』に入る。
どうやらガイノス帝国の郷土料理が楽しめるらしく、俺が今までは言った事の無い飲食店だからメニュー表を開いて料理を選ぶだけでも一苦労。
普段から食べている料理を適当に選び、ゴンには好みになりそうなドッグフードに似た料理をそのまま与える事にした。
エアロードとシャドウバイヤも適当な料理を選び出し、料理が出るまでの間俺は海との間に気まずい時間が流れる。
俺がこのまま海に話しかけるべきなのだろうが、どう話したらいいのかが俺には見当もつかない。
「ねえ。二人の出会い………教えて欲しいな」
「そうですね。初めての出会いは………」
俺は剣道場への道で初めて出会ったと語りだし、そのまま海との数年間の道のりを語る。
恥ずかしい話、嬉しい話、悲しい話、その全てを話した。
エリナさんはその話を嬉しそうに、悲しそうに受け取りその全てを真剣に聞いてくれ、海はその間に少しずつではあるがきちんと話を聞けているようだ。
その内、海が口を開くには時間が掛からなかった。
「俺は………先輩が羨ましかった。ソラ先輩が、俺より強くどんな人にでも負けない先輩が羨ましかった」
海から漏れ出る素直な言葉。
「海………俺はそんなお前が羨ましかったんだけどな」
「え?」
「剣道をまっすぐに誰よりも真面目に取り組み、俺には無いまっすぐさと気高さを持つお前を。だって俺は誰かに負けると悔しいと感じ、その為に人前で努力することを恥じていた。でも、誰の前でも変わらず努力し、真面目に気高く挑み続ける姿勢は俺の………理想だ」
海の気高さや真面目さこそ俺が憧れた姿であり、今でもなお海を凄いと思う瞬間でもある。
「お前が俺を羨ましいと思う一方で、俺はお前が羨ましかった。俺達はお互いに認めうライバルだと俺は思っているよ。俺の父さんとお前の父さんがライバルであるように、俺達だってライバルだよ」
「先輩………」
「海………気持ちの整理が付いたなら道場に来い。またお前の相手をしたいし、何より師範代を紹介したいしな」
なんて話をしているとエリナさんは「そういえば師範代がソラの準備が整ったら『百人斬り』をするって言っていたわよ」なんて言い出した。
「え?じゃあ!」
「ええ、それが出来たら上伝に任命するって」
俺は握り拳を机の下で作り、俺としては口元がほころぶ。
感想は次回!では二時間後に!




