表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫ 【呪詛の鐘の章】  作者: 中一明
ジャパン・クライシス
129/156

ワンフォーオール・オールフォーワン 4

後編。ガイノス帝国サイドの話になります。万理再登場です。

 列車の風景は素早く見慣れた帝都周辺の草原へと変わっていき、列車の窓から見る景色に俺はすっかり飽きてしまったので、ポケットから取り出した携帯を弄っている。

 目の前ではレクターが隣のエリーからギャアギャアと叫ばれながら、その全てを無視して『七夏祭』の書類を記載していく。

 チラッとしか見ていないのだが、どうも俺以外に後何人かが勝手に書き込まれている。

 レクターの事だから事後承諾を決めるつもりなのだろう。

 この際俺は不満も言わん事にした。

 ちなみに父さんは前方の席で先ほどから独り言をブツブツと呟いているところを見ると、母さんと分かれたことを未だに根に持っているらしい。

 どうせ一か月後に再開するのだから今ここで別れることを根に持たれても困ると言う者だ。

 この人変な所で子供っぽい所を持つので、こういう時の機嫌直しには時間が掛かる。

 俺とレクターを挟んでゴンは尻尾を名一杯振りながら窓の外の景色に興味津々で、帝との外壁が目の前に近づいてくる姿を見て興奮しているようだ。

 俺としては故郷に帰って来たという気持ちしかないので特に興奮することは無い。

 一か月後に再開した奈美のテンションの高さを想像するだけで気が滅入るし、その上父さんのテンションが最高値を記録するのだろうと思うと「めんどくせー」という気持ちしか生まれない。

 俺の隣でジュリが眠りに更けており、俺は俺の肩に倒れているジュリの髪を優しく撫でながら俺は彼女の寝顔に視線を向けてしまう。

 きっと彼女なりに気を使う場面が多く、気疲れだけでなく頭を使う場面が多かったはずだ。

 ジュリに少しでも休ませてやろうという気持ちと、愛おしさが俺に彼女の頭を撫でながら携帯を弄らせていたのかもしれない。

 少しだけだがこの寝顔を写真に撮って永遠に収めておくべきなのでは?という思考が生まれ、葛藤をしながら心の中で「一枚だけ」と言い訳しながら音をギリギリまで抑えながら取った。

 どうやら起きなかったらしく、俺は安心しながら携帯をポケットの中へと入れる。

 するとどうやら帝都に入るようで列車は地下へと潜っていった。


 帝都南区メインステーションの地下ホーム、ジュリは寝起きで眠そうに目を擦りながらホームに立っており、どうやら未だ覚醒とはいかないようで、先ほどからどこか寝ぼけている。

 俺はもう一枚とってもいいか?とも思ったが、今取ればジュリは一瞬で覚醒するだろう事は想像にたやすい。

 ゴンは先ほどから左右を見回しながら落ち着きがない。

 俺はゴンの首紐を握りしめながら、父さんを強引に引きずりながら、ジュリを誘導してやりながら上を目指す。

 見慣れた駅のホームに辿り着き、士官学生全員で駅前広場に集合すると、軍関係者の「解散」の言葉と同時に何人かの生徒があちらこちらに散っていく。

 駅の中に戻っていく生徒や、バスやトラムに乗って各地に移動して行く。

 俺はエリーとレイハイムが駅の中に戻っていく姿を見送り、俺は「取り敢えず」と言いながら父さんの機嫌が戻るのを待っている事にした。

 その頃にジュリがようやく覚醒したらしく、俺はあちらこちらに行きたがっているゴンを押さえながら遠目にサクトさんを見付けた。

「ソラ君たち、到着したわね」

「サクトさんどうしてここに?」

 俺の質問に彼女は「アベル君に呼ばれてね。あなた達を家まで送るわ」と言われたので俺達は甘えることにした。

 ゴンを連れて車でまずレクターの家、その後にジュリの家に送った後、俺達は南区の家の前に立っていた。

「ところでソラ君。この後少し時間いいかしら?」

「別にいいですけど?どうしたんですか?」

「万里ちゃんの意識が前に戻っているんだけど、あなたに会いたがっているの」

 俺はそこまで聞いて万理と向き合う事になるのだと思い、同時にここで逃げたら俺は一生万理や海と向き合うことは出来ないと確信した。

 それに、ここで俺は万理と会って事の成り行きと結末を語っていく必要があるだろう。

「分かりました。今すぐ準備しますから少しだけ待ってくれますか?」

「ええ、アベル君もついてきなさいよ。どうせ今日は軍本部に行かないんでしょ?」

 父さん未だに機嫌が悪いらしく反応が鈍い。しかし、そこは年上のサクトさんである笑顔のままで威圧する姿は姑を連想させる。

 言葉にしたら叱られるでは済まないので心に伏せておくが。

 エアロードとシャドウバイヤに「家に居る?」と尋ねるが、本人達もついて行くと聞かないので俺はこのまま荷物だけを置いて病院に向かう事にした。

 南区の新市街地西区よりに作られた大規模病院。

 縦に十階と横には東京ドームよりやや大きい大きさを誇るこの病院、大学が所有しており、サクトさんの個人的な知り合いがいるらしく融通してもらっているらしい。

 俺達はゴンを病院内に入れるわけにはいかないので、比較的やる気の無い父さんに押し付けて俺はサクトさんと二人っきりでエレベーターに乗り込んだ。

「ごめんなさいね。本当はもう少し時期を開けてからにするべきかと悩んだなんだけどね。今どうしても相談したいことがあるって本人が言って来てね」

「?そういえば、サクトさんの養子になるんですよね?」

 するとサクトさんは「うん」とは言わないので、その辺が万理が俺に相談したい内容なのかもしれない。

 そう言えば、万理には祖父母がいると聞いたことがあるな。

 なんて考えながら万理の病室前に辿り着き、サクトさんが開いた病室のドアを潜るとサクトさんは後ろで手を振りながらドアを閉めてしまう。

 俺は勇気を振り絞り、「元気?」と言いながら病室の中へと入っていく。

 病室には清潔感のある白い内装をしており、中はベット以外に簡単なテレビや棚が置かれているだけの質素な造りをしている。

 ベットの上には白い病院着を着ており、服の上からでもかすかに見える包帯と、点滴が腕に繋がっているのが見て取れる。

「うん。痛みはもうないかな。ごめんね今日帰ってくるって聞いてどうしても……」

「別にいいさ。でも、言われるまで多少は遠慮していたかもしれないけどな」

 俺は近くにパイプ椅子を広げて座り、俺自身が聞き出すべきか万理が言い出すのを待つべきかと悩むが万理から言い出してくれた。

「サクトさんが養子にならないかって聞かれて。実は祖父母からも帰って来ないかって」

「お婆さんとお爺さんは万理の心配を?」

「ううん。単純にお父さんの一件で周囲から攻められているから、私を盾にしたいんだと思うの。お父さんがしようとしたことがもう世間にばれているし、だからサクトさんが養子にする事でその辺の回避しないかって」

「それで?万理はどうするつもりなんだ?」

「うん。その辺で悩んでいるんだけど。どうするのが良いのかなって。先生は一か月もすれば傷は塞がるから九月には退院できるらしいんだけど。サクトさんは「帰る必要はないと思う」て言ってくれて」

「でも万理としてはサクトさんの好意に甘えるべきなのか、それとも断って祖父母の家で暮らすべきなのか?」

「分かっているの。サクトさんの家の方が楽しいし、海君やソラ君や奈美ちゃんと一緒に居られる。でも、それを……」

 甘えと思ってしまう。

「甘えてもいいんじゃないか?下手に苦労する道を進む必要があるとは俺は思わないけど。それに………父親の一件で祖父母が苦労するのは分かるけど、それで実の子供が責任を取るのは俺には理解できない」

「ソラ君」

「外を歩けるようになったら帝都を見て回ろう。奈美にも約束しているんだ。それに気に入るさ」

 万理は一筋の涙を流し、声を絞り出す。

「本当はね。前々から祖父母から嫌がらせを受けていたの。それをサクトさんに話したら変える必要は無いってこの病院を紹介してもらって。それだけでも………心苦しくて」

 俺は万理を抱きしめる。

「良いんだよ。遠慮するなって言われたんだろ?だったら遠慮しなくていいんだよ。俺に相談してくれてありがとう」


 そして―――――、生きていてくれてありがとう。


どうだったでしょうか?結末まで少しづつ進んで行きますので、次回は聖竜を交えた話と海の話になります。では!次回!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ