ワンフォーオール・オールフォーワン 3
今回は日本からガイノス帝国に帰る過程が描かれています。前編は日本サイドの話です。
列車に乗って帰る前日の夜。
ベットに入る前にシャワーを浴びて、学校に提出する課題である書類を一通りそろえ、俺のベットを占拠しているエアロードとシャドウバイヤを布団からどけ、俺は布団に腰掛けながら落ち着いている。
書類を鞄の中に入れてしまい、俺の足元ですっかり眠るつもりになっているゴンの頭を優しく撫でてやり、俺は部屋の窓まで移動する。
窓の外から見える夜景はどこか寂しさを感じさせる。
それもそうだろう。
今の日本の状況で一体どれだけの人が夜中に起きて、気楽な生活をしているのだろうか?そんな人間がこの日本だけでなく、この世界でいるのかなんて分からない。
実際皇光歴の世界から多くの人々がこの世界の復興のために協力してくれており、ガイノス帝国だけでなく多くの国から資金のみならず多くの支援がある。
しかし、この状況が良くも悪くも国や地球環境を改善させる可能性もあるのも事実で、これから西暦の世界は良くなっていくかもしれない。
俺達が出来ることはこの二つの世界を繋げていくことだろうし、それが三十九人だけでなく、死んでいった多くの人に報いることになるのだろう。
この社会を変えていく。
王島聡や彼の妹のような不幸を繰り返さないためにも、これからの人々が意識を変えていく必要がある。
俺が出来ることはきっともうこの世界には無い。
今はこの世界にいる事よりも向こうの世界で自分が出来ることをしたい、具体的には………俺の反対側のベットで一か月後に控えている七月上旬に行われる『七夏祭』での出し物に対策を打つべきだろう。
もうそれはノリノリで考えており、一週間後までには書類を帝都の役所に提出する手筈に整えており、書類には出店と書かれておりどうやら出店をすることは既に決定されているらしい。
問題なのは出店の責任者の名前に俺の『ソラ・ウルベクト』と書かれている事だ。
「待ちなさい!俺を出店の責任者にするんじゃない。責任者はお前だ」
「断る」
何なんだその力強さは。
お前がしたいって言いだしたんだろ、それでなんで俺がその責任を一心に受けなくちゃいけないんだ?
「もう、お前が責任者でいいだろう。どうせこの男が責任者をしてもお前が責任を取る事になる」
エアロードの無責任な言葉に俺は黙るしかない。
それは俺自身が思っていたことでもあるし、言っていてどの選択肢を選んでも未来が変わらないという理不尽さに下唇を噛み締めるしかない。
シャドウバイヤが俺の買ってきたコンビニ袋に入っているお菓子を勝手に開ける姿を目撃した。
「どうでもいいけど。今食べたら寝ている最中に吐きそうになるんじゃない?」
「大丈夫。いける」
「待て!それは私のだぞ!勝手に食べるな」
「もう遅いぞエアロード。私は既に食べ始めている」
むしゃむしゃとポテチを食べ始めるシャドウバイヤであるが、それに割って入ろうとするエアロード。
「俺のベットの上で菓子を食うな!そして、レクターはそれに参加するな!」
俺のベットの上にポテチのカスが落ちていくので、俺は強制的にベットを交換することにした。
この汚いベットの上で眠れる自信は存在しない。
その夜、反対側のベットから三人の吐きそうな声が聞えてきた。
俺はバイクを後方車両に乗せていき、自分達の乗り込む列車の前に戻ってきていた。
俺の足元ではゴンが元気よくはしゃいでおり、母さんや奈美を含めて皆で別れの挨拶をしている最中だった。
俺達が不在の間は朝比姉が警護してくれるらしく、俺達は安心して帰ることにしている。
ちなみに朝比姉は昇格が決まったらしく、今回の一件でゆくゆくはトップに立てるだろうという事だった。
一か月後に帝都で行われる『七夏祭』で日本警察側の代表として参加するつもりらしく、俺としては一か月後に再会する予定である。
「泣くな奈美。一か月後に会えるだろ?それまでには万理も良くなっているらしいし、四人でまた一緒に居られるようになるさ」
「分かってるけど……」
「仕方ないだろ?移住のためにも今は両世界間でキチンとした話し合いして細かい条約を決める必要があるんだから」
奈美の不機嫌はそれでも止まらない。
まあ、今すぐにでもガイノス帝国に移住したいという奈美の気持ちは分からないでもないし、しかし日本政府の事情もこの場合は考慮する必要があるだろう。
「そういえば。日本政府って現在どうなったの?」
レクターはどうやら俺達や軍関係者の話を全く聞いていなかったらしく、俺は今から最初っから説明しなくてはいけないらしい。
「東京は壊滅。復興が表面上だけでも終わる間の仮の国会を広島市に作ったらしい」
「?なんで広島市?」
「大阪を含めた人口が多い都市は軒並みアウト。岡山は小野美里市から東京へと向かう途中で襲われたらしく同じくアウト、人口がそこそこ多く、国会を作れるほどにある程度の経済力があるのは広島市ぐらいしか残っていないんだと」
「というより広島市は無事だったわけ?」
「他の県より比較的に無事らしい。まあ、完全に無傷と言うわけでも無いらしいが、それでも他の県より多少はマシらしいな。まあ、木竜からの攻撃を受けていないだけマシらしいな」
「ふ~ん。国会と言っても誰もいないんじゃない?だって皆死んだんでしょ?」
「旧内閣のメンバーは全員残っているらしくて、今はその人達がガイノス帝国との交渉形を引き受けているらしい。まあ、少しずつ国会議員を増やしていくしかないし、それだけは俺達じゃどうしようもないからな」
母さんと父さんは二人で話しているが、話しを立ち聞きしている限りだと、俺と奈美のやり取りを逆にした感じで、この場合父さんが母さんに甘えているらしい。
情けないなぁ。
まあ、いいけどさ。
「レクター君は七夏祭の出店は決めたの?」
「ジュリ!あんた余計な事言わないの!私達まで巻き込まれるでしょ?」
エリーの余計な事を言うなっていう仕草もここまで来ると遅いを通り越して余計な一言である。しかし、俺としては巻き込む人間を増やせたと喜ぶべきである。
「ソラよ。お主凄い良い顔をしておるぞ」
「気のせいだなマリア。俺は決して巻き込まれたことを喜んでいない」
「喜んでおるんじゃな。お主」
俺はエリーに対して「いらっしゃい」と手招きしてみる。
エリーからは鋭い睨みを受けるが、彼女たちが巻き込まれる為ならそんな睨みへのカッパである。
「手伝ってくれるだ!」
「そんな事一言も言っていないでしょ!?勝手に巻き込むな」
「いらっしゃい」
「ソラ。あんたのいい顔がむかつく!やめなさい」
「出店は決めていてさ。ソラが「面倒じゃない奴」って言われたんだけど何かアイディアあるかなって」
「勝手に私達が参加することで話を進めるな!」
「俺としては前に食べた『たこ焼き』が良いなって」
「だから勝手に話を進めるんじゃないわよ!!」
エリーとレクターの話を聞き流しながら、取り敢えずメニューが『たこ焼き』で決定したらしいという新事実に驚くしかない。
昨日の時点では決まっていなかったはずだし、いつの間に決めたのだろうか?
起きてからここに来るまでで三時間しかなかったはずである。
「どこから突っ込めば良いんだろうなと考えたんだけど。もう………面倒だからいいかなって」
「ソラ!あんたの役目でしょうが!ツッコミなさいよ!」
「いやな………ツッコんでもツッコむまいと俺の仕事の分量は減らないどころかむしろツッコむと増えるって気が付いたんだ」
周囲が居た堪れない気持ちになったのか気まずいほどの沈黙が流れる。
列車のベルが途端に鳴り響き、軍関係者が「急いで中に入る様に」と指示が出るので俺は父さんの首根っこを掴んで列車の中に入る。
振り返りながら奈美の頭を優しく撫でながら俺は「向こうで待っているからな」と笑顔で返してやる。
「うん!絶対に行くね!」
感想は次回!では二時間後に!