東京決戦 9
連続投稿となります。今回も前後編。東京決戦終結となります。
王島聡という人間をヒーリングベルに訪ねるジュリとイリーナ、するとヒーリングベルは意外と悩み始めた。
「難しい問題ですね。あの少年が周囲の人々の環境と比べると悲運に見舞われていたのは確かですね。それ故に木竜と意見を一致したのは確かですが、しかし木竜を目覚め去られたのは全くの別です。そして、本人たちはそのことには気が付いていない」
イリーナの膝の上で大人しくするヒーリングベル、そのヒーリングベルのピンク色の背中を優しく撫でながら話を聞いているイリーナとその隣に座るジュリ。
「全くの別?それはどういう意味ですか?」
ジュリの言葉に対しヒーリングベルは「そうですね」と言いよどみながら一分ほど悩む、絞り出した言葉は「あの二人はある共通の存在なんですよ」と言い出した。
「あの二人は木竜と王島聡は世界を挟んだ同一人物とか?」
「いいえ、それはありえませんね。しかし、近い。あの二人は異世界を挟んだある共通の存在なのですが………厄介ですね。どう説明すればいいのか。あなた達の言葉でうまく説明できる気がしません」
言葉を選びながら絞り出した言葉は二人の首を傾げるには十分だった。
「情報同一体………と言えばわかりますか?」
二人は首を横に振る事で「知らない」と合図を送ると、ヒーリングベルは説明に困る。
「DNAというか細胞レベルで同じものを抱えているんです。それはオカルトというべきレベルなのですが………あの二人は不幸を集めやすい体質と言うか…………」
「不幸体質みたいな?」
「そうですね。そう言う事になるのかもしれませんが………運命みたいなモノを私達竜の間では『情報』と呼ぶのです。そう言う存在は『因果律』を無視した存在と言うか……」
「『因果律』、確か『何事も原因があるとする原理』の事ですよね?」
「ええ、しかしこの体質は『何事も原因が無い』のが厄介な点なのですよ」
「?どういう意味です?」
「例えば……Aという人間が千円札を拾ったとしましょう。それを警察に出さなければAは罪に問われる可能性が出てきますよね?これはAの行動が原因という事になります。こういう風に行動に『原因』があり、『Aが『原因』をしてしまったから『問題』が起きた』と解釈するのが『因果律』であります。しかし、あの二人は何もしなくても『問題』や『不幸』が起きてしまう。あの二人はどんな行動も全てが『不幸』という結果に結びついてしまうのです。この世界が終焉に向かっているのもそれが原因です」
世界レベルを巻き込んだ今回の問題の根底。
「あの二人が破滅を願うからと言うのも原因ですが、それ以上にあの二人の『不幸体質』と言うのも原因の一つです。阻止できなかったのも、誰も気が付かなかったのもそれが一番『不幸』に辿り着くからです」
「要するにあの二人はどんな行動を起こしても、どんな人間関係も全てが『不幸』になるという事ですか?」
「そうです。原因や因果律は関係ありません。ある意味運命でしょうね。そして、ソラや聖竜のようにそう言う事から阻止できるのもいるのですが……」
ジュリが首を傾げながら「え?どういう意味ですか?」と尋ねると、ヒーリングベルは顎下に指をあてながら到着した駅の看板を眺める。
イリーナがヒーリングベルを担ぎ、ジュリと共に操っている前田信義と一緒に降りる。
「あの二人はそいう因果律や運命に介入する才能を持っているんですよ。実際二千年前は聖竜が介入したばかりに木竜の『世界の破滅』という不幸を阻止しています。最も、本人たちはあまり自覚は無いでしょうね」
階段を下りながら駅前に戻りながらジュリとイリーナはスカイツリーの展望室を眺める。
「そういう人間が色々な『ワールド・ライン』の歴史には存在しているのですよ。不幸な運命などに介入する力を持ち、不幸を解決する力を持つ」
「ソラ君がその一人だと?」
「でしょうね。あの少年は無意識にしろ意識的にしろ不幸を何らかの形で解決しているはずです」
ジュリには身に覚えがある。
堆虎の一件だってある意味堆虎の不幸をソラは『死』を与える形で解決し、海の不幸をソラは『諭す』ことで解決した。
三年間で起きた事件でも同じこと、ソラは『運命』や『因果律』で起きた結果を解決することが出来る。
「勿論本人が介入しなければ解決できないというデメリットがありますがね。勿論だからこそ聖竜は介入することを嫌がるのです。その解決は決して本人が納得する結果ではないからです」
「堆虎さんの解決がソラ君の納得する形では無かったですし」
ソラは堆虎の解決方法を納得していない。
しかし、それはソラがギリギリまで三十九人を見付けられなかったのが原因でもあった。
「解決できるけどそれは本人望む形になるかは分からないと?」
「ええ、それ故に厄介な体質でもあります」
ソラを想い、ソラの無事を祈り、ソラが終わらせてくれると願う。
「行こう。私達が出来ることはソラ君が勝つと信じる事だけだと思う。勝った時に私達が出来ることをするだけだよ」
「はい。私の歌を世界に届ける」
二人はスカイツリーを昇っていく。
俺が踏み込んだ横なぎの一撃を王島聡は姿勢を低くして開始し、そのまま自らの剣を縦に斬りつけてくる。
俺はその攻撃を側面を思いっ切り叩きつけ、攻撃が深く床に突き刺さる。
切断能力や刺殺能力は非常に高いと見ていいだろう。
俺は三歩後ろに飛びながら距離を取るが、王島聡は左手に握られたハンドガンの弾丸を俺へと容赦なく打ち付けてくる。
俺は自分に当たる弾丸だけを打ち落とし、回り込みながらもう一度突っ込んでいく。
横なぎに剣を振り、王島聡はワイヤーで壁へと身を飛ばしていき、俺はそれを追いかけるように壁を昇っていく。
身体能力が高い俺の方が一歩上のようだが、エアロードとシャドウバイヤは木竜相手に苦戦を強いられている。
俺としてはこのまま押し切って木竜戦に加勢したい。
俺はワイヤー切ろうとするが、王島聡は壁に張り付きながらカウンター気味に俺の胴体目掛けて横なぎに斬りつける。
攻撃を受け止めると緑星剣が悲鳴を上げるように削れるような音が聞こえてきて、俺はとっさに身を飛ばしながら緑星剣を守る為に跳んだ。
スカイツリー展望室の屋上に体を強く打ち付け、俺は体を転がしながら追撃に備えて身を整える。
王島聡はハンドガンで俺の退路を断ちながら一気に接近していく。
俺は剣を斬りつけようとする王島聡の腹に強烈な蹴りをお見舞いしてやる。
お互いに沈黙と間が開いてしまう。
「ここまで戦えるとは思えなかった。王島聡。おまえ………人間なのか?」
俺の問いに王島聡は決して答えようとしない。
しかし、王島聡の右目がまるで爬虫類のような目の形へと変貌し、右目回りに木で出来たような鱗が現れる。
「俺の体には木竜の遺伝子が組み込まれている。戦えば戦うほど俺の体は木竜に近づいて行く。お前を超えることが出来る」
俺は二本目の剣を呼び出し、両手に緑星剣を装備し俺は真直ぐ睨みつける。
「それだとお前は人間は無くなるわけだけど。お前はそれでいいのか?」
「いいよ。俺のこの目には妹の遺伝子が組み込まれているんだ。俺は………それだけで幸せなんだよ」
「それは……不幸だよ。お前は自分で自分を不幸にしているだけじゃないか」
「そうかもしれない。でも………」
近くのビルにエアロードとシャドウバイヤが激突し、木竜も少し遠く伸びるにぶつかる。
竜同士の戦闘は周囲の建物を破壊しながら周囲をより火の海に変えていく。
火の明かりが俺と王島聡の体を明るく染める。
「………あいつと一緒に居られるのなら。俺は………何もいらない。たとえ、この目に映る光景が妹が求めない事だとしても」
感想は後編にでも!では!二時間後に!