東京決戦 5
東京決戦ラスボス戦前の前哨戦となります。
皇帝陛下と天皇陛下、ガイノス帝国最高議長と元内閣総理大臣が一堂に会する皇居の別室で話し合うために人を避けながら護衛要員も最小限に収めている。
「私はこうなる事をなるべく防ぎたかった。しかし、私の力が及ばず」
元総理大臣事『直衛敏行』は項垂れながら申し訳なさを見せ、同時にガイノス帝国最高議長は「それはもういいでしょう」と話を区切る。
「しかし、今は少年達に任せるしかできません」
皇帝陛下と天皇陛下はどこか苦しそうな表情を見せる。
「一人の少年の怒りと憎しみがこの世界の終焉のもたらしたとするのなら、これも必然という事なのですかな」
「天皇陛下。全ての原因は我々の世界にいた木竜です。そして、その繋がりがここまで事態まで発展した。しかし、このままの事態を引き起こした以上両世界の周辺国は黙っていないでしょう。どっちの為にも妥協点を見出す必要はあるでしょう。最高議長何かアイディアはあるかな?」
「そうですな。この場合はまずこちらの世界の周辺国を納得させる必要があるでしょう。アメリカなどの大国を黙らせる手段は簡単です。我々が同盟なり条約形を組めばさすがに手を出しにくさが出るでしょう。この場合、条約はある程度対等な形にしたいですね。この状況での条約はあくまでもこれ以上争うつもりも無いというメッセージですので。責任の押し付け合いをここで一旦やめようというのが目的ですので」
最高議長が出す提案を元内閣総理大臣は眼鏡の位置ずれを直しながら手元のタブレットに大まかな条約内容をお互いに確認しながら決めて聞くと、天皇陛下は不意に「これもこの世界が存続できるかどうかですね」と独り言のように呟く。
「大丈夫ですよ。天皇陛下。『星屑の英雄』がいますから。彼ならきっとこの世界も救ってくれる。私はそう信じます」
皇帝陛下はソファから立ち上がり、ゆっくりと窓の外から見える風景を遠い目をしながら見つめる。
「彼は我々の世界を救ってくれた。三十九人の意思が一人の少年の軌跡が今この世界を明るく照らす『道』になろうとしている。信じてみたいんですよ。この二つの『ワールド・ライン』を結ぶ繋がりになると」
「皇帝陛下」
「信じてみたい。四十人がワールド・ラインを超えたことには意味があると、二つの世界を救う軌跡になると。私は今でもそんなバカげた事を信じていたいんだ。愚かかもしれないけれどね」
皇帝陛下は空に浮かぶ空母の明かりが夜空を明るく照らし、月と星々の光も負けじと窓の外から見えてくる。
「あの少年はこの三年間歩き、時に迷いながら、時に導かれながら歩き続けてきた。三十九人とて同じことだ。人らしく時に泥にまみれながら、地を這いながら、傷つけ合い、時に喜びを分かち合う中で人は生きているんだと信じたい」
この世界は複雑にできている。
皇帝陛下の言葉を受けながらこの戦いの終わりを信じて祈る事しかできなかった。
皆で坂道を降りていくと歩いて三十分の所で断崖絶壁のような大穴が見えてきて、そこから穴の外周をぐるりと回る方で道が進んでいるのが見て取れる。
レクターは大穴を覗き込む。
「ねえ、これってどこまで続いているんだろ」
「さあな。木の根っこが穴の底目指して伸びているからな。案外地球の中心のエネルギー目指して伸びているのかもな」
俺が適当な言い方をしているとレクターは何に納得したのか分からない表情で「なるほど」と呟き、俺は「今のは適当に言っただけなんだが」という言葉をまるで聞いていない。
まあ、この話についてはあまり意味があるとは思えない。
ここまで特に目立った戦いも無いのでこのまま外周をぐるりと回っていく。
どこまで降りていくのかが分からないが、地面や壁や柵などには東京駅のデザインがそのまま反映されており、この場所があくまでも東京駅をモチーフにしているのは間違いない。
俺は大きな門をくぐると同時に竜の欠片が反応して俺の風景だけを別の場所に切り取ったような感覚を覚えた。
渋谷のスクランブル交差点のど真ん中、車も人もいないこの交差点の異常さを俺は『夢』なのだと信じて見回す。
竜の欠片が見せる夢だろうと自分に言い聞かせて一歩前に踏み出し、途端に襲い掛かってくるように周囲のネオンの影に隠れた深い闇、闇が集の景色を飲み込んでいき、俺の体まで集まっていく。
這い上ろうとする闇に竜の欠片が守ろうとするのが見て取れる。
これは現実だ。
俺は今一瞬で渋谷のスクランブル交差点にいる。
でも、どうやってこの場所までたどり着いたんだ?
操られた人も同様に闇に飲まれていき、俺は一人の女性に手を伸ばし引き揚げようとするが飲み込む力の方が強くあっという間に地面に広がる闇に飲まれていった。
人の命を飲み込もうとしているんだ。
世界樹が飲み込もうとしている命、世界樹は命を飲み込んで大きく成長していくんだろう。
間違いない。
俺は世界樹が闇から外に出てしまったんだ。
「エアロード!シャドウバイヤ!」
「ここにおる。言わんでも分かっている」
「弾かれたな。闇から外に出てしまったんだろうな。エアロード、木竜の居場所は分かるか?」
「フム。こちらの方向だな」
エアロードが指さす方向には東京スカイツリーがあるはずだが、俺だけでも木竜の方に向かうべきか、仲間達の所に戻るべきかで悩む。
「みんなの所に戻れる?」
「いや、今から戻ったら時間が掛かり過ぎてしまうぞ。それならこのまま出口の方から行った方が速い。今は仲間達を信じるしかない」
俺はエアロードとシャドウバイヤが元の体に戻ると同時に背中に飛び移る。
「二人共真直ぐスカイツリーまで頼む」
俺はまっすぐにスカイツリーの方向へと飛びながら移動して行く。
ソラが消えたという話は門をくぐってから一番端っこの大きなドア前に辿り着いた所で気が付いた。
「いつの間に消えた?」
レクターは「分かんない」とジェスチャー混じりで答える。
「大穴に堕ちたんならさすがに誰かが見ていると思うけど?誰にも気が付かずにしかも二人の竜と一緒に消えたというのが気になるんだよね」
レクターの言い分にジュリが思考を巡らせながら仮説を立てようとするが、何せ情報が足りない状況では仮説も立てられない。
すると、キャシー達後輩が大穴の下に付いている木の実のようなモノが増えていると指摘し始めた。
よく見ると先ほどまで通って来た道の途中にも、同じような穴がそこらへんについており、一緒に降りてきていたマリアと朝比が覗き込むとその実の中には人がすっぽりと入っていた。
「これ全部人が入ってる!なにこれ」
エリーが「気持ち悪い」と口元を押さえながら苦しそうにしていると、ジュリはソラが消えた理由に検討を付けた。
「もしかして、ソラ君はもう外に出て居るんじゃ。『竜の欠片』は耐異能が非常に優れてる。この場所は栄養を人などの生き物から奪うための場所なんだと思う。きっと東京中に根を張り巡らせて人をこの場所に集めている。ならソラ君はその逆」
「その逆とは?ジュリ。何が言いたい」
「ソラ君はその力に弾かれた。吸収する力とソラ君の竜の欠片が力の近い部分に近づいてしまったから反発してしまったんだと思う」
だから弾かれた。
世界樹がある程度意図的にソラをはじき出した。
「今毎外に出て居るんだと思う。きっと外側から木竜側を目指している」
レクターは「なら」と言いながら大きな両開きの鉄のドアに手を掛ける。
男子数人と共にドアをゆっくりと開けていくと、そこには東京ドームと同じ広さを持つ大広間が姿を現した。
感想は後編で語らせてもらいます。では二時間後に!