東京決戦 4
ソラサイドのお話になります。
体中の痛みで意識が覚醒しそのまま体を起き上がらせると、瓦礫が俺の背中から東京駅のホームの床に落ちていく音が聞えてきた。
実際背中にあった重さはすっかりなくなり、俺は立ち上がる前に両膝を地面に付けながらも周囲を確認する。
崩壊した新幹線のホームと建物に突っ込んでいる軍用列車、幸いと言うべきか列車自体は壊れていないが、逆さになったりしているのまである。
隣の柱に手を付けながらゆっくりと立ち上がると、背中の部分から「何事だ?」というエアロードの声が聞えてくる。
背中のマントからモゾモゾと姿を現したエアロードも俺と同じように痛みで気絶していたらしく、周囲を見回す俺とエアロードは薄暗い駅のホームを改めて確認した。
本来外が見える場所に大きな木の根が張っているように見え、俺が触れたとことからゆっくりとだが腐っていく。
俺は怖くなって一旦放すと腐った所はあっという間に元通りになっていく。
間違いないこれは『超常的な力』で作られたものだ。
俺が幼いころに見た映像が確かなら確か新幹線のホームは上の方に作られているため周囲から外が見えていたはずだ。
それが今では完全に塞がっている。
「これは木竜の呪術だよな?なんとなくでしか語れないけどさ」
「いや、間違いない。これは『世界樹』だな」
俺はもう一度木の根っこに触れてみると同じように根っこが腐り始める。
「止めておけ、この規模の建物を包むほどの大きさだ、先に世界を覆いつくす方が速いぞ。木竜を倒した方が確実だ」
「これって何なんだ?これを放置すればどうなる?」
エアロードは別段隠すこともせず「滅ぶ」と端的に告げてきた。
「世界が………星の命を吸い上げて大きくなる木こそが『世界樹』だ」
「星の命………」
「別のプランだろうな。念のためと言った所か、まあ念の入れようだな」
俺はエアロードと一緒になって列車の出入り口を探し出すが、そもそも目の前にある列車が俺が乗って来た列車なのかどうかすら分からない。
少なくとも列車の中はジュリ達がいたはずなので出来る事なら回収したい。
出入り口を上に見つけ出し、よじ登って電車の中を見下ろすと人一人しかいない、上を歩きながら電車内を外から散策するが人一人すらいないのはいかがなものか。
「ところでソラよ。下の階から多数の気配を感じるのだが、全員下に降りているのでは?」
「それを先に言え!!無暗に探してしまっただろ!」
そう言う事は先に言えという話だ。
俺は電車の上から下に降りるためのエスカレーターを探し出し、列車の上を飛びながら移動して行く。
エスカレーター前で飛び降り泊まったエスカレーターを確認しながら、周囲の電灯に明かりが付いているのが分かるので、電力自体はまだ生きていると見るべきだろう。
新幹線のホームから真直ぐエスカレーターを下っていき、階段を下りていくと東京駅の日本橋方面のロビーに降りてきた。
外への出入り口は案の定木の根っこで閉ざされているが、
俺はならと中央目指して歩き出すと、レクターの元気のいい声とエリーの怒りを滲ませる声と同時に聞こえてきたハリテの音が俺の耳に届くと内心安心してしまう。
歩きながら大きな広場へと顔を出すと心配したような顔で駆け寄って来たジュリ、俺は「大丈夫だよ」と先に言いながら一緒に歩き出し、レクターを中心に集まっている場所まで移動しようとするとジュリの背中シャドウバイヤがいると気が付いた。
「シャドウバイヤさんが助けてくれたの。車内にいたみんなもまとめて無事」
「そっか。ありがとう」
「フム、そこで気を失っていたエアロードとは違うのだ。そもそも突入する寸前までマントの裏で食べ物を食べていた奴とは違うんだ」
「喧嘩を売っているのか?なんなら買ってやるが」
俺とジュリの肩を借りての戦いが繰り広げられており、俺とジュリは無視しながら皆の輪に入っていく。
取り敢えずレクターの両頬が真っ赤になっているのでエリーの方を向くと、エリーは怒りを滲ませる表情で憤慨しており、レイハイムはその後ろであきれ果てている。
「何が起きたらこういう事態になるんだ?」
「それが……レクター先輩がエリー先輩にセクハラを」
俺は内心感心すら覚え、エリーは思い出しただけでイライラし始める。
取り敢えず近くにいるだけで巻き込まれそうなので周囲を見回していると見覚えのない大きな下り坂が見えていた。
薄暗く底の見えない坂がそこには存在しており、俺は見るだけで心の奥からゾッとしてくる。
「どこに続いているのかが分からないの」
ジュリの言葉を聞きながらも底の見えない下り坂から視線を外せずにいると、エアロードが口を開いた。
「昔と同じままならこのまま坂を下っていけば大きなドアとその先に大広間があるはずだ。その先のドアを潜れば外に出れる」
「本当か?」
「ああ、その代り木竜の真ん前に出るはずだが。しかし、ここが出入り口なのは確かだ」
俺は下り坂を覗き込み、そのままレクター達の方へと戻っていく。
ざっと確認した限りは士官学生は全員その場に揃っているぐらいで、他の軍関係者は全くいないように思える。
外に出て居るのだろうと予想しつつ、俺達はレクターと突入するべきか救出を待つべきかを話し合っていると、エアロードが「このままこれを放置すれば二十時間後からは勢いよく成長していくぞ」と言い始めた。
「なら、このまま突入するしかないわけだ。しっかし、二千年前と全く同じ構造化は分からないんだよな?」
「うむ。こればかりはな前だってあくまでも十時間ほどの事で、その一回限りだったからな。この呪術は展開を封じるのに現実世界側に存在する楔とも言うべき道具を壊すだけでいいというデメリットがあるからな」
「楔?」
「木竜の側にあるはずだ。楔は周辺の地域を巻き込んで異空間を形成する。だから全く同じ場所になるとは限らんぞ」
異空間と言う言葉をあえて聞き逃すとして、どうやら楔を壊す必要があるらしい。
「なら取り敢えず俺とイリーナがついて行く必要があるわけだ」
「そうだね。あと木竜対策でエアロードさんとシャドウバイヤさんが同行かな」
なんて言いながら最終的に木竜の元までたどり着くメンバーは『ソラ・ウルベクト』『ジュリエッタ・レイチェル』『エアロード』『シャドウバイヤ』『イリーナ』の五名という事になった。
他の士官学生は全力で五人の血路を作り出す。
よく見ると後ろの方にもノアズアークのメンバーであるヴァースとベースがこちらを見ているのが分かる。
「取り敢えず先発メンバーで組んで下に降ろしてみるか……?」
俺が提案してみるとジュリが人一倍悩んでいる様子。
「どうだろう。何が起きるのか分からないからな……いざという時に対応できる私達で降りるべくじゃないかな」
「………でもさ。ソラに無駄な戦闘をさせるのは」
「だったらソラ以外のメンバーが戦闘させればいいんじゃない?突入時の組み合わせもある程度考えておいた方が良いわね。チーム分けしましょうか」
なんて話がどんどん進んで行くのを見ていると俺はやることが無くなっていくので、この後に控えている王島聡との戦いの為に一旦休んでいる事にした。
少しでも体調を元の状態に戻そうとベンチに座って待機していると、イリーナが水の入ったペットボトルをもって近づいて来た。
「これどうぞ。私の飲みかけですけど」
「ありがとう。ごめんな……こんなことに巻き込んでしまってさ」
「いいえ。私にできることをするって決めましたから」
俺は水を一口だけ飲み息を整える。
「そいえば奈美から聞いたけど将来は歌手になりたいんだっけ?」
「はい。でも……この力があると」
「俺は適当な事は言えないけど、多分大丈夫だと思うよ。いい加減に聞こえるかもしれないけどさ。音竜が元通りになればコントロールの方法が分かるかもしれない。それに……どうしても怖いんならさ俺が機竜に相談してあげるよ」
「………はい!」
イリーナは嬉しそうな声と表情をしながら頬をほんの少しだけ赤らめていた。
どうだったでしょうか?次はいよいよ東京決戦の世界樹攻略戦になります。最後の決戦の地はスカイツリーにする予定です。では!次回!




