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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫ 【呪詛の鐘の章】  作者: 中一明
ジャパン・クライシス
114/156

ワールド・ポイント 5

王島聡とソラサイドの話です。

 この世界は理不尽で不条理だと俺はよく知っている。

 案外人と言う種族は理不尽で不条理な生き方をどこかで容認し、理不尽さを感じながらも、不条理なルールや摂理を受け入れながらも生きているのだろう。

 妥協。

 この言葉が結局はこの世界平和への道なのかもしれないが、妥協は自分の目標への道を諦める事にもつながる。

 だから人は簡単には妥協しない、だから争う。

 自分の夢や目標を信念と変え、信念を争う為の原動力として変えていく。

 でも、そうやって人は前に一歩一歩進んで行き、様々な文化や歴史を積み重ねてきたのだろう。

 『歴史』と『文化』の積み重ねは『争い』や『戦争』の繰り返しなのだから。

 それは皇光歴の世界も西暦の世界も変わらない。

 人は第二次世界大戦の最中『核』を手に入れたように、貴族紛争の後に『魔導機』を手に入れたように、こうして人類は争いの後にそれを新しい文化に変えていった。

 しかし、そうやって道具はある意味一部の人には『畏怖』すべき対象として、ある人はその道具を『英雄』として語り継ぐ。

 ガイノス帝国には『魔導機』は英雄だった。

 貴族支配を終わらせ、生活文化やレベルを著しく上昇させた。

 しかし、人と言う種族が、知識を持つ生き物が存在する限りは争いは無縁なのかもしれない。

 それでも堆虎は決して恨みはしなかった。

 どんなに理不尽で不条理な状況でも、彼女たちは恨みこそすれ復讐すれどそれでもそんな世界を受けれ入れた。

 死者は何も言わなない、何も語らない。

 死者は記憶として、歴史として積み重なっていく本の一ページに刻まれるだけ。

 思い出して記憶に刻み、辛くなった時や挫けそうになった時に思い出すだけ。


 俺は目覚める前に堆虎と逢っている。

 俺の後悔での象徴でもある堆虎、目の前で俺と戦いながらも俺は全く気づけなかった。

 堆虎は堆虎で思うところがあったのだと俺はあの研究所跡地の惨状を見たときに気が付いた。

 隆介たちを殺してしまったことを後悔し、それしかなかったこの世界や自分達の世界に対する苛立ちもあったはずだ。

 それでも俺の中にいる堆虎は微笑んでくれる。

「君達を救えなかった事をどこかで深く後悔している。幸せを感じる度に俺は罪悪感に押しつぶされそうになる。でも、それももうやめるよ。だって、罪悪感を感じる度にみんなに不幸を押し付けているんだって思うから。辛い顔をすればみんなが同じ顔になるから。だから………やめる」

 生きる者は生きる者の役目がある。

 命は生きたその瞬間から死に向かって生きる。

 人の生き様と言うのは『死』を迎えた瞬間に分かるというが、人生とは人が生きる過程を言うのであればきっと、『死』を迎えた瞬間ではなく、人生を振り返った時がその人の生き様を決めるのだろう。

「君達は自分の生き様を見付けたのかな?」

 俺の問いに堆虎達は答えてくれない。

「俺はまだ………見つからないよ。戦い迷い、傷つけながら自分も傷つけてる。どれだけ歩いても自分の『生き様』が見つからない」

 それでも歩くことを止める事は出来そうにない。

 やめてはいけない気がする。

「思い出して、苦しんで、傷つけあって、喚き散らしながら、それでも………笑いながら生きるよ」

 みっともなく足掻き、地べたを這いずり回りながら醜く生きて、どこまで戦い抜いて見せる。

 守って見せる。

 君達が守り抜こうとした世界なのだから、この世界がどれだけ醜く酷くできていても、どれだけこの世界が理不尽で不条理にできているんだとしても、それでも俺は守り抜いて見せるよ。

 王島聡を止めて、この世界に生きる人を少しでも多く救う事が俺のなすべきことで、やりたい事なんだから。

 いい加減目を覚ます時だろう。


 王島聡はスカイツリーから東京の街並みが燃え盛っていくのを見下しながら、それをどこかで美しいと感じる自分の感性に気が付いた。

 終焉は美しく見えるというが、まさしく燃え盛り、今までの文化や歴史を破壊していくこの光景は美しいのかもしれない。

 この眼下では今でも人々が争い、ある人は逃げる為に必死で、ある人はこの状況下でも自分の利益を出す事に慢心しているのかもしれない。

 それでいい。

 他人を考える余裕がある人間はきっとこの世界にはもうあまりいないことだろう。

 あまり………いない。

 まだ抵抗しようとする人間達はこの世界にいる。

 向こうの世界にもいる。

 しかし、結局の所で王島聡からすればここまで追い詰めた時点でもう既に勝っているも同然なのだ。

 徹底的に戦う事を選んだのは、木竜と王島聡は決めていたことだった。

 自分達の命を最後の瞬間まで燃え上がらせ、最後の瞬間まで費やそう。

「例の武装兵器が運び込まれました」

 そうやって取り出されたのは人一人分は張りそうなほどの大きなアタッシュケースで、自衛隊員が丁寧にパスワードを打ち、ゆっくりとスーツの蓋が開いていく。

 中には仰々しい包装材に包まれた一本の両刃片手剣とプロテクター付きの戦闘用服、スナイパーライフルの弾丸をハンドガン用に改造し、ハンドガンも連射力を低下させる代わりに一発一発の出力を上昇させた一品と専用弾丸を入れたマガジンが四つ。

「このプロテクター付き戦闘服の背中には小型バッテリーが装着されており、電力を小さなバッテリーに充電することが出来ます。この両刃剣は電力を充電することでを切断力を最大まで高めることが出来ます。バッテリーは体中に電力を供給することで立体的な動きをすることが出来ます。磁力を利用することで金属製の壁に張り付くことも可能です」

「ふ~ん。結構考えてあるんだ。これって何か模範にしたものがあるわけ?」

「はい。これは向こうの技術である『魔導機』を模範としており、こちらの技術を何とか魔導機と呼ばれる力に近づける為三年間高めてまいりました」

「ああ。そう言えばそういう技術もあるんだっけ?木竜が種の時代の話だからどうもよく分からなかったけどさ」

 木竜が『原初の種』だった時代の記憶は断定的にしか記憶していない。それ故に魔導機の記憶も断定的な記憶としてしか聞いていないので、王島聡としてはあまりピンとこない話でもある。

 しかし、便利な力で向こうの世界ではこの技術故に大きく発展を遂げたらしいことは聞いている。

「まあ同じ技術があればっていう夢のような思いで作ったんだろうけど………」

 技術的に無理がある構造をしており、重量や生産コストを見れば『魔導機』遠く及ばないことは明白である。

 腕に巻き付けたり、スマフォ型に押し込めたり、武装と一体化させるタイプも存在する『魔導機』、最大のメリットはそれ以上に万能性の高さがメリットと言えるだろう。

 デメリットは『魔結晶』と呼ばれる道具の中心の生産性が多少低いという一点で、それ以外においてはメリットしかないといえるだろう。

 最も生産できるだけの技術を持つのは魔導同盟の3国だけで、他の国は長年の戦争状態で技術力が大きく低下しているのが現状だと王島聡は知っていた。

「最も、生産数は帝国、技術レベルは技術大国、種類のバリエーションは魔導大国に軍配が上がるようだがな」

「なるほど、その辺はその国の特徴が反映されているわけだ」

「今回の帝国は軍事力としても最大勢力だという事もあるし、油断は出来ん。中には中々の使い手がいるらしいし、特にガーランド家は気を付けておいた方が良い。貴族紛争以降帝国内で最大勢力を誇る一族でもある」

「魔導機の扱いはその人達が一番強いと?」

「ああ、その上今は『ウルベクト家』もある。自衛隊から聞いていただろう?」

「魔導協会第一席序列第十位『ウルベクト家』だったか?魔導『竜の欠片』の使い手……」

 武器のふちを優しく触れながら目線を少しだけ落とす。

感想は次回で!

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