ビヨンド 6
王島聡の過去が語られるお話となります。
王島聡は生まれて幼稚園に入るまで自分の家庭が異常だとは考えたことは無かった。
父親はアルコール中毒で母親はギャンブル依存症、妹は体が弱く家には金が無いのは当たり前、父親は酔った勢いで妹や王島聡を殴るのは当たり前で、王島聡は妹を守る事に必死で、母親は家の金を勝手に持ち出してパチンコに費やす毎日。
その為に中学に上がるころは父親のアルコール中毒こそ大人しくなっていたが、母親のギャンブル依存症はむしろ悪化する勢いで、父親と母親が喧嘩をする姿はすっかり家族内の見慣れた光景であった。
それでも王島聡は自分の妹を守れるならそれでよかった。
父親が妹を殴らなくなってから今度は母親が父親との喧嘩のうっぷん晴らしで殴るようになった。
母親を睨みでもすれば「生意気」だと言って殴るようになり、王島聡は妹を必死で守るようになり、そんな生活が一か月続くと林間学校の日を迎える中、王島聡は妹が心配だったのとお金が無いという理由から林間学校を辞退した。
そう、王島聡は林間学校に参加しておらず事件に干渉していなかった。
しかし、事件当初は妹が外に出たいという願いがあり両親から逃げる手前実は事件現場近くでキノコ狩りをしていた。
時期が時期であるため大したキノコが取れるわけでも無いが、金の無い王島家では山菜やキノコは貴重な食糧であり、母親が金を持ち出してしまった為お酒を買う金の無い父親はどこかに出かけていき、二人は山を歩き回った。
正直遠くに来過ぎたのではと感じた王島聡は帰る為に妹を捜していると、大きな音と少し時間が経ってから煙がモクモクと上がっていき、妹の悲鳴と二人の男性の叫び声が聞こえてくると王島聡は焦りと同時に駆け出していった。
バスが炎々と炎上しており、その手前で二人の父親と知らない男性が取っ組み合いの喧嘩をしているように見え、その傍らでは妹が腕から血を流しながら倒れていた。
だからだろう。
王島聡の側で落ちている『呪詛の鐘』の存在にあまり気持ちがいかなかった。
妹が怪我をしている前で父親は知らぬ男性と喧嘩をしているという姿に怒りを覚えていき、本当に咄嗟の事だった。
バスの破片を握りしめ、握りしめる右手から血が流れていくと王島聡は父親と知らぬ男性の首目掛けて破片を突き刺した。
怒りの溜飲が落ちていきようやく自分がしてしまった事に震えが止まらなくなると、見知らぬ男性は死ぬ寸前まで『呪詛の鐘』を手に入れようとしており王島聡はそっと呪詛の鐘を手に入れた。
後に王島聡はあのバスに四十人がいると知ったが、それ以上に妹の怪我の入院費用を父親の保険金から降ろすが、そのお金を母親が狙い始めた。
妹を守る為に母親を何とか際無くてはいけなくなってしまった王島聡、そんな時保険金を手に入れようとする母親に対して取っ組み合いのけんかになってしまうが、そんな最中『呪詛の鐘』は予想もしない形で母親を殺した。
母親と取っ組み合いになる中王島聡は呪詛の鐘を鈍器のような勢いで振り、その際に生じた音と王島聡の『死ね』という言葉を受けた母親はその場で包丁を使って死んでしまった。
そこでようやく『呪詛の鐘』の効果を思い知った。
何とか妹の入院費を工面できるようになり、親戚の中から自分達の親代わりを祖父母から見つけ出した。
しかし子が子なら親も親である。
祖父母は王島聡の知らない間に妹の病院に掛け合って妹を治療ミスで殺してしまった。
王島聡は大きな叫び声を上げながら憎しみを祖父母にぶつけ、そんな祖父母を信じた自分に怒りを覚えた。
『呪詛の鐘』を使った復讐をする過程で、あの事件の概要を警察官に呼ばれる中で知った。
同時に怒りを覚えた。
「こんな鐘が国が奪い合うから妹が犠牲になるんだ!俺達が何をしたんだ!?妹がどうしてこんなくだらない事で犠牲にならなくちゃいけないんだ!!」
妹を殺した国を、そんな社会システムをいつしか憎しみ怒りをぶつけるようになった。
「クソみたいな人間がシステムを支配するから………下種な人間が国を支配するから妹のような被害者が現れるんだ。そうだ………壊せばいいんだ。システムもそんなものを作り出した人間も全部ぶっ壊す。少しずつ………人間の愚かさで自滅させてやる」
それが王島聡の今回の計画の原因であり、同時に憎しみや怒りで突き動かされてしまった原因でもある。
しかし、そんな話を聞いていたジュリはある疑問がよぎる。
「本当に王島聡は『呪詛の鐘』の所有者なのかな?」
王島聡が黙り込むと周囲に嫌な沈黙が流れる。
日本と言う国が、この世界の矛盾への怒りと、妹を助けてくれなかった人間と言う種族そのものへの怒りを今全てにぶつけようとしている。
「では、木竜……お前とこの少年の願いは一致したという事かな?」
エアロードの疑問に対し木竜は鼻で笑いながら「当然だ」と言葉を放つ。
「私はそもそも人間を滅ぼしたかったのだ、そういう意味ではこの少年と意見は一致している。この人間が作り出したシステムごと人間を滅ぼす。それも人間の愚かさが自らの存在を滅ぼすんだ」
王島聡はスマフォの画面を周囲に見せる。
そこにはアップデート寸前の画面が映し出されており、後は一過程を処理するだけで社会秩序が崩壊する過程に入ってしまうだろう。
全員が何とか阻止しようと動こうとするが、木竜が攻撃態勢を作り出し身動きが取れない。
そして、全員が見守る中王島聡は最後の作業の為に右手を動かし始め、エアロードとシャドウバイヤがダメージを受ける事を覚悟の上で突っこんでくる。
しかし、やはり一歩遅く王島聡のスマフォは最後の過程が終了し、アップデートを完了させたという文字が残酷にも浮かび上がった。
木竜はエアロードとシャドウバイヤを作り出した砲台による熱線攻撃で撃退し、木竜は本来の姿に戻ると万理の家を半壊させた。
王島聡は家から逃げ出すメンツを木竜の上から見守る。
「最後に………崩壊まで二十四時間だ!二十四時間後にほぼすべての人間をどんな形でも滅ぼす!」
「精々阻止する為に抵抗する事だ。最もあの少年は疲労で倒れた状態でどんな抵抗ができるのか分からんがな」
「二十四時間まあ、精々最後の抵抗をすると良いさ」
そう言いながら飛び立っていった。
ジュリは傷ついた二人の竜を抱きしめる。
ソラは眠っている状態で魔導である『竜の欠片』の深層心理に辿り着いた。
水面だけしか存在しないような風景の場所で目を覚ましたソラはゆっくりと立ち上がる。
そこでようやく自分が鎧と言う体で動いているのだと知り、何もない場所を見回すと、目の前に堆虎や隆介たち三十九人が姿を現す。
「私達は竜の欠片が映している記憶で映し出した映像」
「だろうな。死者は蘇らない。それはどんな世界でも変わらない摂理だろうから。でも、こうして会えただけでも俺は嬉しいよ」
気が付くと、エアロードやシャドウバイヤを含めた全ての竜がソラの周りに現れ、ソラの方を見ている。
聖竜が代表して「ここは竜とお前が交わることが出来る場所、お前の体が極限状態まで戦い抜いたために辿り着いた偶然の場所だ」と口を開き、ソラはそんな話を黙ってみている。
「お前にこれから話す物語は二千年かけて続いてきた歴史。竜と人。魔導と呪術。これらが交わって初めて辿り着いた結末。全ての始まりは『竜人戦争』までさかのぼる。二人の竜が恋をして、すれ違って終わったお話。そして、君達四十人が何故選ばれたのかを知る話でもある」
全ての竜と三十九人は全く同時に口を開く。
「「「私達は君を待っていた」」」
どうでしたか?ラスボスサイドにもお話があるという事で作ったお話ですが、今回は下種な人間達がラスボスを象るお話を中心に木竜の復活などが関わっていきます。次回は木竜がどうして人間を滅ぼそうとするのか、そこに『呪詛の鐘』どうやって関わっていくのか、『竜人戦争』などを交えながら語っていき、最終決戦に向けてノアズアークの残党も動き出します。では!次回お会いしましょう!




