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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫ 【呪詛の鐘の章】  作者: 中一明
ジャパン・クライシス
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ビヨンド 2

では後編です。

 初めて海が剣道を知ったのは郵便にまぎれる形で入っていたチラシだった。

 手作り感溢れるチラシであったが、この街の中に剣道場があると知り興味を持ったのは他ならぬ両親だった。

 習い事はこの街に多くあるが剣道と言うのは珍しかった。

 その昔この街にも剣道の習い事があった時期があり、その時は最後の生徒は海の両親たちだった。

 それも手伝い海自身も興味を抱きだし、実際に見てみようと海が現場に行くことにすると、丘の上にある古く大きな神社を改装した建物は立派に見えた。

 海が正面から木製のドアを薄っすらと開き覗き込むとそこには海の一個上のソラが竹刀を適当に振っていた。

 しかし、その素振りには確かな力強さが籠められており、海自身は自由で力強いその振り方に興味をそそられてしまった。

 毎日学校帰りに剣道場に入って練習を覗き込むのが海の日課になっており、いつしか両親が勝手に剣道への入会届を出していたが悪い気はしなかった。

 剣道着と竹刀をもって階段を昇っていくと見えてくる剣道場の前でふてくされた表情で枯れ葉を箒で掃除しているソラがいた。

「何しているんですか?」

 ソラは首を傾げながらやって来た海を前に小さな不貞腐れているような声で「道場の窓ガラスを割ったから」と素直に答えた。

 周りの掃除を言い渡されたらしいソラはそのまま箒を持ったまま裏庭の方にまで回っていき、海はそんな姿を見ながらゆっくりと道場の中へと入っていった。

 しかし、実際に剣道になるとソラは先ほどの姿を覆すような戦い方をしており、海が勝てたためしはない。

 だからこそ憧れだし、強さもどこか見せる儚さや自虐的なほどに自分を押さえようとする一面も全部が尊敬できた。

 超える事を目標としていくうちに海の中でソラ達に対する遠慮が生まれていき、それが四人の間に小さい溝を作っていった。


 アベルと恵美はゲート一体の簡易要塞の中でガーランドがゲートを超えてやってくるのを待っており、二人は海の幼いころの写真とガーランドの若い頃の写真を見比べながら最後の確認をしている。

「やっぱり似ているわね。こうして比べてみると一目瞭然。でも、問題は双方だと思うから………」

「ああ、海自身もそうだしガーランド夫妻もどうするのかが重要だ。それに、海とは違いガーランド夫妻は他に兄弟がいたはずだ」

「そうなの?例えば?」

「一番上の姉が大学生で中学一年生のテル坊と呼ばれている男の子の二人兄妹だったはずだ。海はその間になるな」

 恵美はアベルの肩に身を寄せながら小さな声で「受け入れてくれるといいけどね」と呟き、アベルも心の中で頷く。

 アベルもまた自らの子に出会う事で救われ、ソラが繋げた輪が恵美を救ったことも事実。なら、海もまたガーランド夫妻を救い、ガーランド夫妻も海を救えるはずなのだ。

「だが、今の海を救うのはソラだと思うぞ。それが出来るのはソラでもある」

「うん。ソラがまず救ってくれないと私達が何をしても意味は無い物ね」

 海が闇に堕ちた理由はソラ達の関係の破綻にある事はアベルが調べるまでも無く恵美が知っていたことであった。

 そう恵美は知っていたのだ。

 海が落ちた理由なんて少し考えれば分かる事でもある。

 奈美は気が付かずに、万理は知っていた事でもある。

「海君は後悔していたからね。あの日ソラに勝負を挑んだことをずっと後悔していて、海君はずっとそれを独り言のように呟いていたからね。特に両親の愚痴もストレスになっていたみたいでね。特に万里ちゃんや奈美はそのことをずっと聞かされていたからね」

「フム。海にとってソラは憧れか………私はガーランドが憧れだったな。いつも私より強くどんなに挑んでも勝てそうにないその姿は憧れだ」

 恵美は口から漏れ出る微笑みを隠しきれず、アベルも途端に頬を赤く染めながら照れくさそうにしている。

 憧れは時に恥ずかしいという感情を思い出させる。

「誰にだって憧れがあると思うが、ソラにはあるのかね?」

「そう言えばホテルで話していた時にはあなたが憧れだった言ってたわよ。進路こそ違うけれど、あなたのように優しく強い人間になりたいって言ってた」

「そ、そうなのか?憧れなんて言われたこと無いしな」

「普通は中々言われないわよ。だから憧れなんでしょ?」

 覗き込む恵美の視線を見ながらアベルは「確かに」と呟いた。

 憧れとはそう言う事だ、「憧れです」と大きな声で叫ぶような人間は中々いない、憧れだからこそその人を追いかけるからこそ努力をするのだろうし、少しでもその背中を追いかけようとするのだ。

 アベルにとってガーランドは憧れだった。超えたい人物だった。

 そして、ソラにとってアベルやデリアも憧れであり超えたい人物なのだろう。

 そんなソラに憧れる人間はそれなりに居るはずで、キャシーや海だってその一人なのだ。でも、そうやって憧れの繋がりが大きな社会文化を形成していくのだろう。

 そう考えるとガーランドも又憧れる人間がいて、そうやって長い繋がりを人はこう呼ぶ。

 歴史。

 人の積み重ねてきた物こそ歴史なのだ。

 命の中で積み重ねるだけの歴史を持つ種族なんて竜や人のように知識を持つ者しかない。

「そう考えたら歴史も全ては知識の積み重ねなんだと思うな。そして、その知識も全ては憧れや嫉妬の積み重ねが歴史になるのだろうな」

「なら、今回もあくまでもその一環?」

「だと思うぞ。ソラは私やガーランドがかつてした喧嘩をするだけの事さ。まあ、剣かというにも少々派手だが、それでも私は信じるよ。私達の息子にも超えれるとな」

 人は超えることが出来る。

 憧れる人を前にして努力することも大事だが、憧れる人物の為にも壁になる為にも努力することも重要。

 ソラはこれからも海の壁として立ちふさがる事を選ぶだろう。

「それでいいんだよ。ソラが壁になる道を選ぶことが大事なんだ。ソラはかつてそんな思いを知らずに逃げ出したんだ。それが今回の問題の一つになっている」

「一つ?」

「ああ、根底はまるで違う。あくまでも呪詛の鐘が掘り返した問題にすぎん。多分これから起きることはこの世界が誤魔化し続けてきた『世界の闇』を『破滅』と共に掘り返し混ぜ返して『混沌』に変えてしまう」

 王島聡の目的なのか、呪詛の鐘の目的なのか、それとも全く違う第三者の目的なのかは分からないけれど、ソラ達四十人が命を懸けて立ち向かう存在こそがそれなのだろう。

 きっとそれは三年前、もっと前から決まっていた事。

 十六年前にこの世界に呪詛の鐘がたどり着いた時点で、社会や国が呪詛の鐘を使った時点で決定されていた事なのだ。

 『混沌』とは本来そうやって生まれ出もの。

「社会文明を混沌に変えるしかないと思う。もう、この世界はその先にしか未来を作れない。今更私達があがいても混沌は変えられない。でも、三十九人はソラに託すことで混沌の先の未来を作れると信じて死んだのだろう」

 最悪の未来とは知識持つ者が作るのだ。

 それを解決できるのも知識を持つ者しかない。

「三十九人は知識を持つ者としてソラを選びとった。それだけの話だ」

「でも、それは覚悟のいる行為だと思う。どれだけ強い覚悟なのか、それは多分託されたソラにしか分からないわ」

「ああ、だから我々はソラを信じ、支えてやることしかできないんだろう」

 二人が微笑む時ゲートの奥から二人の人影が見えてきた。

「ようやく元鞘に収まったようだなアベル」

「待っていたぞ。ガーランド。お前の息子と私の息子が今対決しようとしている」

 隣にはガーランド婦人がアベルに辛さと嬉しさを混ぜっ返したような表情をしながら漏れるような声を絞り出す。

「会わせてください。あの子に……この世界の息子に」

 会いたいという願い。

 それはきっと海も思っている事なのだろう。

 表に用意させた車に乗る中ガーランドが車に乗る前にアベルに近づく。

「大丈夫なんだろうな?」

「ああ、私は信じているさ。私と恵美の息子ならきっと何とかしてくれるとな」

 彼らの前の前には希望があると信じて。

どうでしたか?『ビヨンド』の意味としては色々な思いがありますが、『死後の世界』や『〇〇向こう』『超越』『〇〇の彼方に』と言う意味がありますが、今回は三十九人の想いを受け取って最終決戦へと向かい、海との戦いを通じて超えようとするソラを例えてつけております。今回は最終決戦前の数話を掛けて行われるソラと海の戦いと、ジュリ達を通じてラスボスの物語となります。次回はラスボスが本格的な登場と海との戦いになるんじゃないかなと思います。では!次回!

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