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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫ 【呪詛の鐘の章】  作者: 中一明
ジャパン・クライシス
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空は海を羨みながら海は空を羨む 6

三年前の出来事が軽く語られます。

 寺から出ていきそのまま歩いて剣道場への道のりを歩いていると目の前に商店街が見えてきた。

 剣道場までの近道はこの商店街を突き抜けて、途中の曲がり角を右にまわってそこから更にまっすぐ曲がらずに坂道を進むと雑木林が左に見えてくる。そこから雑木林に一本道が続いている。

 その道を昇っていくと剣道場の裏にある打ち木のある広場に繋がっている。

 商店街を歩いていると商店街も閑散としており、どこもかしこも店を閉めており、人のいない商店街と言うのもゴーストタウンを彷彿させるものがある。

 商店街の中を一人で歩き出し、目的の場所で右に曲がりそのまま雑木林前までの坂を上っていき、雑木林への道を進んで行く。

 昔からよく見たことのある道を進んで行き、打ち木が十本刺さっている広場に出ていく、俺は打ち木の一本にそっと触れて、近くの壁に立てかけてある竹刀をそっと触れて持ち上げる。

「こんなに軽かったけ?鉄製の剣を握る機会が多いからな………うわぁ…」

 あまりの軽さに俺は声が漏れてしまう。

 つい握ると目の前にある打ち木に向けて打ち込みたくなる。

 竹刀を片手で握りしめ、腰を低く剣を更に低めに構えながら足腰に力を込めながら全身の意識を正面に鎮座する十本の打ち木へと向ける。

 一本一本の打ち木を仮想の敵として想定すると同時にそれが鎧武者の海の姿と重なってしまう。

 海が十人同時に襲ってくると仮定するとそのまま俺は走り出し、まず二本の打ち木を横なぎに叩きつけ、一本の打ち木を足場にして三本目を足で蹴りつけながら、四本目に二回連続で十字の形に打ち付ける。

 後ろからの斬撃攻撃を想定し、そのまま回避と同時に腹目掛けて横なぎに斬りつけ、六本目に顔面に思いっきり突きを繰り出す。

 最後に残り三本に向かって走り出し、俺はガイノス流の応用技を繰り出すためにもう一度位置を確認する。

「漸【蒼】」

 燕をイメージして作り出された攻撃方法、突きをまず繰り出し、そのまま一回転攻撃と左右の連続攻撃を左右の対象に目掛けて繰り出す。鳥をイメージして作り出された攻撃方法。

 俺は大きく息を吐き出しながら縦に割れている竹刀を見て「やば!?」とおもいどこかにかくそうと振り返ると師範代と目が合ってしまう。

 咄嗟に竹刀を自らの体で隠しながら苦笑いを師範代に返す。

 黒く長い髪を後ろで束ね、剣道着を身に纏う姿と細く真剣に満ち溢れた顔だち、微笑みで返してくれるその立ち振る舞いに俺は渾身の笑顔で返す。

「空君。生きていてくれてうれしいけれど、門下生が置いて帰った竹刀を壊さないでくれるかな?」

「まさかですよ。赤の他人じゃありませんか?それにこれは最初っから壊れていたんです」

 これでもかと言うほどに嘘のオンパレードをミルフィーユのように重ねていき、最後に最大級の笑顔で返してあげると、師範代もそれ以上に裏を感じる笑顔をで返してくれる。

 それで俺の背中、雑木林の方を指さすと嬉しそうに微笑んでいるレクターと心配そうで同時に優しさを含んだ微笑みを見せている二人がそこにいた。同時に二人のそばにはエアロードとシャドウバイヤの両方がニヤニヤしながら俺の方を見ている。

「俺見ちゃった!空がその竹刀を壊す所を!」

「私も見たぞ。なあ、シャドウバイヤ………」

「そうだな。凄まじい音と共に竹刀を縦に割っていたな。まあ、あんな力を込めて何度も叩きつけたり突きつけたりしていたら壊れるだろうな」

 グヌヌ。

 目撃者が多すぎる。これでは誤魔化すのは不可能か。なんて考えて俺はジュリを味方に付けようとアイコンタクトを送るが、ジュリは最大級の微笑みで返してくれた。

 俺は知っている。ああいう笑顔をするときは甘やかしてくれない時である。

「駄目だよ。壊したものは壊したんだからちゃんと謝らないと」

 味方がいないこの状況では素直に謝る方が効果的のようであり、俺は素直に頭を下げて「すみません」と謝ると、師範代は「仕方がないね」と首を横に振る。

 五人で縁側で座りこみ師範代が用意したお茶をすすりながらレクターが一気に飲み干すとそのままの勢いで庭先を走り回る。

「元気な子だね。ソラのお友達かい?」

 師範代にはおおよその話をしているが、俺自身の周辺人物に関してはあまり話していない。

「まあ、元気良くて困っていますよ。ちなみに俺の世代では一番強い奴です」

「ほお。確かによく見るとかなり鍛えているようだな。多分そもそも才能もあるのだろう」

 その辺は誰もが認めるところでもある。いざとなったらレクターならあれぐらいの打ち木は一撃で割りそうな気がしてならない。

「懐かしいね。海や万理や奈美………四人がいてくれた時は四人だけでもどこか賑やかだったね」

 それは俺も同じ意見だが、あの頃に戻りたいかと言われたら俺は拒否をする。

 あの頃はあの頃で正直あまりいいイメージの無い過去だし、俺にとっては嫌な過去や良い過去を含めて今の俺なのだろう。

 それを否定したくない。

「ソラ君はどんな子だったんですか?」

「そうだね………皆のお兄さんっていう感じでもあるんだけど、人が多く入ってくると孤高の存在というイメージが門下生の間で広がっていったかな。だからだろうな。門下生の中では海とソラどっちが強いのかなんて言うのはよく問題になっていたよ」

 俺は初めて聞いた話である。

 そんなことになっていたのか。

「そうなんですね……私の知っているソラ君は意外と負けず嫌いで、みんなの中心にいることは嫌がるけど、意外とリーダーが肌に合う感じかな。結構後輩受けがいいというか。キャシーちゃんもそうですけど、後輩から慕われていますよ」

 それも初めて聞いた話です。

 そうか………それで妙に後輩から色々話しかけられると思った。

「そうなのか…あまりそう言うイメージが無いからね。こっちでは試合に出ないし、そもそも試合をしようとしないからね。負けず嫌いなんてイメージが無いな」

「初めて試合に出たとき、決勝で負けたときはずっと悔しそうにしてましたよ」

「ほお。見てみたい気がするね」

 俺は見せたくない。

 ちなみに去年の試合も見せたくない。

「そうか……楽しそうに試合をしている姿を見て見たかったけど。楽しそうでよかったよ」

 優しそうに微笑む師範代に俺は罰悪そうにしていると、エアロードとシャドウバイヤは腹がすいて仕方がないような仕草を見せる。

「我慢しろ」

 俺が小声で頷くと二人に師範代が豆大福をもって現れる。

 二人は興奮しながらそれを次々と食事していき、俺は大きなため息を吐き出しながら先ほど続きを話してもらう事にいた。

 あの話こそが俺が聞きたかった話なのだから。

「でも、俺と海が周囲にそう思われていたって初めて知りましたけど?」

「そうかい?ああ、ソラはあまり周囲と仲良くするタイプじゃないからね。一人で打ち木相手に叩きつけたりしていたね」

「それを言われるとそうだったような気がするけど………」

「海は海で周囲の人と仲良くしているように見えてあまり話はしないからね。全国クラスの実力者という事もあるしね。余計にみんなから逃げていた所はあったね。だからだろうけど、ソラと海は孤高だと思っていたんじゃないかな?その内奈美や万理が周囲に質問攻めになっていたよ」

「え?何の話です?」

「?てっきり知っていると思っていたよ。君が止める前に海から挑まれた試合、あれは奈美が言い出したのは知っているね?」

「まあ、知っていますけど」

「アレは奈美が周囲からしつこく質問攻めにあったのが理由なんだよ。万理はハッキリ断っていたんだけどね。奈美は断り切れなかったんだね。私はやめた方が良いといったんだけど、周囲からそう押されると海は断り切れなかったんだね。周囲からの期待もあっただろうしね。それに……」

 師範代が続ける言葉を聞くと俺は立ち上がりそのまま練習用の道場の中へと入っていく。

「ソラときちんと決着をつけたかったんじゃないかな?どっちが強いのか。ううん。本当は自分より強いんだぞ。先輩は………俺の憧れなんだって証明して欲しかったんじゃないかな?」


「師範代………皆をここに呼んでください。それと………」

 俺はレクターの方を見ると笑顔で返した。

「レクター………みんなに頼んで海をこの場所まで連れてきてほしい。なるべく海にダメージや疲労が出ないようにしてほしい」

 レクターは親指を立てながら走り去って行き、俺は道場のど真ん中で立ちながら周流する。

「ごめんな不甲斐無い先輩で。不甲斐無いお兄ちゃんでさ。お前の想いに俺は逃げたんだ。誰もが期待していなくても、今更でもいい。俺はお前と戦い勝ちたい。誰もが目をそらしたくなる現実でも立ち向かおう。お前の誇らしい人間でいる為に」

 海が来るまでの間に精神統一をしながら待つ。


どうでしたか?今回は海の過去とその先にある海の願望。それにソラや万理がどうやって関わって来たのか、それがどうやって壊れていったのかが分かるお話になりました。次回はソラと海との戦いを描きながらソラ達の過去を描くお話になる予定です。では!次回!

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