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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫ 【呪詛の鐘の章】  作者: 中一明
ガイノスエンパイア編
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罪悪感 2

本日三話目です。話を考えるのは昔から好きでワールド・ラインは私が話を考える過程で思いついた作品なのですが、書いていて楽しい作品でもあります!これからもワールド・ラインをよろしくお願いいたします!

 空はキッチンに入って夕食の準備を始めており、大きな鍋の中にはコンソメ風味の厚切りベーコン、キャベツなどを入れたスープ。

 照り焼きチキン、ポテトサラダ等々。

 皿に盛っていき、見ると時刻は八時を過ぎていた。


「帰ってくるのは………遅いんだろうな」


 そう思い、自分の席に座り、そのまま食事を始めようとしたときだった。

「ただいま」そんな声が聞えてきて、空は驚きながらロビーまで出ていくと、玄関のカギをかけたアベルが立ち尽くしていた。


「早かったね。てっきり遅くなると思ったけど」


 アベルは口を一瞬だけ開きかけ、言いよどんでいる。


「空………下の道場に行こう」

「?でも、夕食が冷めるよ」

「そうか?なら先に夕食にするか………うん。そうだな」


 空は首をかしげながら、ブツブツと呟くアベルに疑問を覚えていると夕食後にアベルは「風呂に入る前に地下の道場に来なさい」と告げ、姿を消した。

 アベルの言いつけを守り、地下の階段を下りていき同情のドアを開けると青の簡易な練習着を身にまとっているアベルの姿が有る。


 こう見ると空はアベルの背丈が高くないと思えた。

 肩幅が広いため大きく見えるが、背丈は165㎝程度しかない。空の身長が155㎝程度なので、意外と背丈が近い。

 最も、空自身身長が止まりかけていることに焦りがある。

 しかし、練習着を着ているからか背が低いせいで幼く見えるアベルが、表情からは達人や玄人のような風格を見せる。


「空。俺にはこんなやり方しか知らん」


 握りしめる木剣が大剣に見えてしまうぐらい、オーラのような物が違い、息を呑む空。

 目の前に居るアベルが二メートル越えの化け物に見え、道場に入ることすら躊躇いを覚える。

 しかし、アベルが何かを伝えようとしている事だけは空にも通じた。

 今日のテラとの戦い。それを通じてアベルから空へのメッセージ。


 父親から息子へのメッセージを受け取る為、空も練習着を付け、防具を装着すると同じように木剣を握りしめる。


「お前の三年間を見せてくれ」


 そう言いながら中心から動こうとしないアベルに五歩ほど歩幅を開け、木剣を低めに構えながら腰を落とす。

 ガイノス流はいくつかの基本的な構えが存在するが、空の方は難しい型に分類される方である。

 しかし、アベルの自然体の構えも又型の一つである。

 最も難関な型を目の前に空は踏み込もうとすることすら躊躇してしまいそうになる。

 隙だらけのようで、全く隙が見えてこないアベルの佇まいに、空はジリジリと後ずさりしそうになる。


 ここで逃げたらだめだ。


 自らの心にそう律し、地面蹴って距離を詰めようとしたときだった。

 目の前にアベルが居た。

 蹴ったばかりのタイミングで間の前にアベルが居るのはおかしい。本来であればもう少し距離があってもいいはずである。


「!?あがぁ!」


 腹の防具目掛けて思いっきり蹴り上げ、空の体が数センチほど浮かんでしまう。内臓が絞られるような苦しみを受け、夕食を吐きそうになりながら地面を転がる。

 アベルは、空が地面を蹴ったと認識した段階で同じように地面を蹴って距離を詰めた。先に地面を蹴ったのは空が先だ。しかし、攻撃をしたのはアベルが先だった。

 攻撃を仕掛けようとしている相手にカウンターを決めることは難しい。心理的に目の前から攻撃が来ようとすると、人間は本能的に受け身に走るものだから。それゆえにカウンターは恐怖心との戦いである。


「カ、カウンターとかいうレベルじゃなかった」

「空。お前は無意識に受け身に走ろうとする。それ自体は良い事だ。しかし、お前の戦闘スキルを見てみると、そのスタイルはあまりあっていないようだな」


 空は立ち上がり再び構える。


「ガイノス流の型はこの際別にしよう。問題はスタイルだからな」

「スタイル?」

「戦闘方法と言ってもいい。要するに戦い方だ。攻撃主体と防衛主体の違いだ。お前は性格はガンガン前に出ていく型であるが、戦い方は防衛主体になっているだけだ」

「要するに?」

「心のブレーキや躊躇しない精神を含めてお前は性格と戦い方があっていないだけだ。それを覗けばお前は才能の塊だ」


 構えを解いてふと自分の木剣を見つめる。


「今のはその弊害だ。下手にブレーキを踏まないで突っこんでくるからカウンターを簡単に受ける。ちゃんとした攻撃方法を教えてやる」


 空と全く同じ型で構える。

 元々攻撃を主体とする構えなのは真実で、空の才能を見抜いた師範代が空に教えた方でもある。


「義父さんはその型で戦えるのか?」

「………これが俺のメインの型だ。お前と同じで基本は攻撃主体で組んでいる」


 空も再び構えをとり、沈黙と共に空の汗が地面に染みを作る。それが合図になったようで空とアベルは同時に地面を蹴った。



 地面に仰向けで大の字で倒れている空に、汗一つ掻かないで空を見下ろすアベル。


「やはり才能があるな。一時間の訓練でスタイルをものにしたな。しかし、どうしてそんなに受け身な性格をしていたんだ?」


 空にはそれに対しての明確な答えがあった。

 答えというか、真実がある。


「小さい頃、剣を振るえるっていう幼い理由から近所の剣道場に通っていた」

「それはまた幼い理由だな。しかし、小さい頃はそんなものだろう」

「でも、楽しかった。一個下の後輩や妹同級生の女の子と四人しかいなかった道場だった。俺はまじめに剣道に打ち込もうとは思わなかった。剣を振るうだけでうれしかったから」


 空は身を起こし、遠い空を見るように、懐かしく思うような表情でつぶやく。


「それでも、剣道場では俺が一番強かった。いつしか人が増えていくと、身勝手な剣を振るう俺は皆から距離をとるようになった」

「何故?」

「邪魔になると……思ったんだろうな。いや、どうかな。でも、距離をとるようになった。したらさ………なんていうのかな。練習をするのにも限界があった。何を目標にすればいいのか、楽しいから振るっているはずの剣が楽しく無くなっていた。そしたら……」


 いつの日か、受け身をとるような訓練を自らに課すようになった。

 いつしか、周囲から軽蔑されるように感じ、距離を更に取ると、更におかしな訓練をするようになった。


「だから………こっちに来てから楽しかった。さっきの訓練もすごく楽しかった」


 楽しそうにしながらも瞳の奥にある『罪悪感』を感じ取った。

 楽しいを感じる度に感じる『罪悪感』、その正体は行方不明の三十九人と向こうの世界に残してきた家族や知り合いへの『罪悪感』。


「こんなに楽しくて………いいのかな?」


 膝を抱え、うずくまっているとアベルが空の頭を撫で始める。視線を上に向けると優しそうな表情を浮かべるアベルがおり、空は涙を流しそうになるのを必死に我慢する。


「我慢しなくていい、泣きたければ泣けばいい」


 三年間ため込んできた思い、寂しさ、罪悪感が涙と共に溢れ出てくる。

 ジュリが、レクターが、エリーが、レイハイムが、何より父親になってくれたアベルが居たから孤独になることは無かった。

 一人なら押しつぶされただろうし、一人なら自殺していてもおかしくなかっただろう。

 空はずっと泣き続けていた。


どうでしたか?今回はアベルと空の親子話になりましたね。まあ、空にとっては父親を知らない分どうしてもアベルに父親としての役目を求めています。空の母親は今回のガイノスエンパイア編には登場しませんが、多分次の長編で登場ですね。現在執筆中の話は短編ですので……

では、明日お会いしましょう!

ちょっとずつですが前書きと後書きになれてきました。


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