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13.藤色血脈迷宮①

「はぁ、はぁ、はぁっ、ターニャっ! 次どっちだ!」


 後方へと振り返ることなくターニャに向けて声を張り上げた。先頭をゆくタクトの瞳の先には三つに分かれた通路。どの通路が最適なのか全くわからない以上、頼るべきものは仲間達だ。


「――右よ! 真ん中は行き止まり、左にはナニかいるわ!」


「りょーかいっ、ノーズ左はゲーターだなっ?!」


 進路を右に変更しつつも一応ノーズに確認をとる。そのナニかがゲーターでないのであれば調べてみるのも一つの手だからだ。ただ、今回も帰ってきた答えは同じものだった。


「あぁ、また獣の匂いがここまで伝わって来てるぜ。なるべく戦闘を避けるなら、行かない方がいいかなー。俺達としては行ってもいいけど、タクト先輩を温存するならなしだろ」


 その言葉を聞いてタクトはなんの躊躇もせずに右の通路へと入る。途中に罠が仕掛けられていたら、と考えたりもした。だが、今はそんなことをしている余裕はない。なぜなら当初の予定とは違い、遺跡に辿り着けたのがタクト達だけだったからだ。


 リク達と別れターニャによって空へと飛び立ったちょうどその時だった。突如として嵐の向こう側から鳥のような黒い小型ゲーターが大量に飛び出してきたのだ。


 鋭いくちばしを使い何度もこちらを突き刺そうとしてくる鳥型ゲーター。一体一体の脅威度はかなり低くかった。それに亀型ゲーターと連携が取れている様子も見られず、宙を舞う瓦礫によって墜落する個体もいたくらいだ。


 恐らくあのゲーターは亀型の支配下のものではなくユグドラ自身によって呼び起こされたのだろう。それでもやはり数には敵わない。遺跡へと真っ直ぐに向かっていたタクト達はその場で足止めをくらう羽目になってしまった。――そこで助けの手を差し出してくれたのが彼らだ。


 鳥型の群れに囲まれ身動きの取れないタクト達の元へ同じく空中へと赴いていた他の生徒達が駆け付けてくれたのだ。数人でまとわりつくゲーターを追い払うとそのまま奴らを引きつけるように大立ち回り。最後には「行ってこい!」と頼もしい声援と共に送り出してくれた。


 そんな経緯があり現状遺跡に辿り着いているのはタクト達しかいないのだ。いちいち迷っている暇はない。もしかしたら侵入に成功した生徒もいるのかもしれないが、この遺跡に立ち入った瞬間、通信機が使い物にならなくなってしまっては確認のしようもないだろう。


 タクト達は回廊を駆け抜ける。その手に灯りを持つ者はなかった。この通路もまた蛇足に遭遇したあの部屋と同じく不気味なほどに明るいからだ。あえて違う点を挙げるなら遺跡内部が藤色に包まれていることだろうか。それでも視界が良好なのだから薄気味悪いことこの上ない。


「――っ!?」


 ゴゴゴゴォォ。――と、その瞬間遺跡全体が大きく揺れた。足を取られたタクトは瞬時に壁へと手をつく。それほどまでに強大な振動だった。横に顔を向けると同じように足を止めているターニャ達の姿があり、互いの無事を確認しながら揺れが収まるのをただ待つ。――数秒後、


「……収まった、か? けど、今の揺れは……?」


「間違いなくもう一度光線を使ったんでしょう。目の前に敵がいるのだもの。当然障害は排除するはずよ。そうでなくたってエネルギーが有り余っているのだから、活用しないはずがないわ」


「だよ、な。そうだとしたら……サイクルは、みんなは無事なのか……?」


「それはウチには分からないけど――」


 先ほどからずっと目を閉じたままのターニャの顔がタクトから移される。つられて同じ方向へ顔を向けるとローブを被ったノースがなにやらぶつぶつと呟いていた。


「人狼ゲーム、第二人格――霊媒師。今回の犠牲者は……なし。誰も、命は落としていません。大丈夫、死者の声が聞こえなかったのです。サイクルはともかくみんなは無事でしょう」


「――そっか。ならきっとリクとサダエさんが上手くやってくれたんだろう。作戦通り障壁がうまく作動した、そう思うことにしよう」


「……私達の学園がそう簡単に負けるはずがありません。――それでは霊媒を終了します。タクトさん、頑張ってください」


「あぁ、ありがとな」


 霊媒師のノースに感謝を伝えながら歩みを進めると小さな小部屋に辿り着く。今度の部屋に続く通路は一つだけで、道を選択する手間はなさそうだった。


「――止まって。この通路の先、かなり広いわ。音波でも奥まで探れない」


「……けど、道はこれしかねぇよな?」


「――そう。どうする? 一旦前の部屋まで引き返すのもありだとは思うのだけど……判断はアンタに任せるわ」


「…………」


 タクトは無言でローブを取り払ったノーズへと顔を向ける。それだけでなにを言わんとしているのか察してくれたようで、ノーズは鼻をスンスンとさせるが、すぐに首を横に振った。どうやら奥にゲーターが居座っているのかの判断もつかないらしい。


 ここまで一切の障害を受けずに遺跡を駆けまわっていたタクト達だったが、これより先はなにが待っているか分からない。どうするべきか。ターニャの言う通りに引き返すか? ――いや、


「――行こう。今更引き返す余裕もねぇしな。それに、そんだけ広いんだ。なにもないってこともないだろ」


 タクトはそのまま進む道を選んだ。この先の大部屋にはシラユキへと辿り着くなにかがある。そんな気がしたからだ。


「分かったわ」「ほーい」


 急く足を抑えながら通路の中へ。やはりというか、先ほどまで通ってきたどの通路よりも異質で、壁にはツタがまとわりついている。まるで血管のように脈動を繰り返すそれに言い知れぬ嫌悪感を抱きつつ、幾重にも編み込まれたツタの続く終着点へ。


 藤色に全身を照らされていたタクト達だったがふとその視界がクリアになる。遂に通路を抜けたからだ。辿り着いたそこにはターニャの言う通り、部屋と呼ぶには広すぎる程の空間が広がっていた。


 横幅はサイクルの体育館の倍くらいだろうか。端から端まで全力で走るとなるとそれなりに体力を使うことだろう。だが、それだけではない。この部屋、いや、空間は横だけではなく縦にもゆとりを持っていた。


 タクトは頭上に目線を移しながらつばを飲み込む。そこには天井などなく、ただただ遠くまで暗闇が続いていた。本来であれば空が視認できそうなものだが、そんな景色は欠片もない。


「ほら、見なさいタクトっ。ようやく目的地よ! あれ階段じゃないかしら」


「お、おう、……そうなの、か? 俺には先の通路しか見えないが……」


 封じられた視力が戻り開眼しているターニャの指さす方向を見てもタクトの目には別の通路への入り口が見えるだけで奥になにがあるのかまでは分からない。やはりただの人間と獣の瞳では見えている世界が違うらしい。


「そんならこんなとこさっさと通り抜けようぜ? 無駄に広いわ、天井はないわ、どこ見てもツタだらけで気味わりーよ」


「それもそうだな。遺跡探索もここまでか。後はユグドラのとこ行って、樹をぶった切る。それだけだ」


「へへ、やっと主人公になれるなっ! ユキ先輩も助け出して、これでようやく学園祭が――っと、悪りぃ先輩ッッ!! ぶん投げるぞ!!」


「は? 急になにすん――うぉぉーー!?」


 ちょうど部屋の中ほどに差し当たった所で突然ノーズに胸ぐらを掴まれる。そして、有無を言う暇もなく後方へと投げ飛ばされた。それとほぼ同時だ。()()は宙から飛来してきた。

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