1´.主役になれないモブ少女①
ずっと同じ毎日を繰り返していた。誰にも必要とされないまま。自分が何者なのか分からないまま。モブなんてありふれた存在の中ですら少女に居場所はなかった。
モノクロの世界で生かされ続けた少女は色を知らない。
キャラクターの設定すらされていない少女は自分の顔も分からない。
なにも役割を持つことのない少女は決して主役になることはない。
少女はただ知りたかった。メインキャラクターたちが当たり前のように知っているその常識を。そんな小さなことだけでも主役に近づけると信じたかったのだ。作者が支配していたあの世界において少女は唯一感情を宿していた。
しかし、所詮少女は何億といるモブの一人でしかない。そんなイレギュラーに気がつくものなど誰一人としていなかった。周囲と違い特別だからといってモブが主役になるなど夢物語だったのだ。
適当に配置され、雑に扱われ、時々命を落としたり……。そんな毎日を永遠に繰り返す。感情をもつただの少女が耐えられるはずがなかった。
いつか主役を夢見たモブ少女の姿はすでにない。感情を押し殺し、会話の通じない無機質な同僚たちとモブを全うする。
感情は呪いだ。心の奥底でいつも少女は考える。なんで自分なのかと。どうして自分にこんなにも残酷な特別を与えたのかと。
もう、なにもかも捨てて逃げ出したかった。どうせ少女の代わりなどいくらでもいるのだ。モブが一人消えた所で誰も困らない。世界にとってあってもなくてもどちらでもいい量産品。――だからこそ、少女は選ばれた。
ある日突然モブ少女の目の前に現れたリサイクルの文字。その下にはなにやら文字が連なっていた。
――あぁ、いやだな。次はどこに飛ばされるんだろう。
昔からよくあるようなその通知に少女はため息をつく。
――どうせやることなんて変わらないだろうし、まぁいっか……。
書かれた文章に目を通す仕草もなく、一番下に位置する了承のボタンに触れる。これからどこへ行くことになるのか。それすらも分からないままに。
ピコンッ。すぐに表示される感謝の文字。いつもと少し雰囲気の違うことが気にはなった。でも、あとは結局いつもと同じ。突然の眩い光に少女は目を閉じる。
数秒後そこに少女の姿はなかった。けれど、そのことには誰も気がつかない。たかだか世界からモブの一人が消滅したことくらいでは。ここはそういう世界だったのだから。