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46´.樹に寄り添うのはいつも蛇

「随分古い、遺跡だね。もうほとんど自然と同化しちゃってる。この遺跡は前にもあったの?」


「――いや、上に見える樹と一緒だ。こんなもん前来た時にはなかった」


 この遺跡に近づいて分かったことは二つ。一つはこの遺跡が巨大樹の限りなく近くにあるということ。見上げると上空に藤色が薄っすらと見えることからそれは確実だろう。


 二つ目はかなり古い遺跡だろうということだ。苔やツタ等の植物に紛れたそれは一見すると建物だとは気がつかない。それくらい自然と同化していた。


「ど、どうする? 入ってみる……?」


 目に写る遺跡への入り口を指差しながら、恐る恐るタクトの顔を見る。


 するとタクトは首を横に振り、


「いや、やめておこう。確かに気になるっちゃあ気になるが、嫌な予感しかしない。ここは一旦みんなと合流して話し合うべきだと思う。場合によっちゃ……撤収も考えねぇーとな」


「……だよ、ね。うん、引き返そう――――って、うわぁっ!」


 タクトの意見に賛同し元来た道を引き返そうと後ろへ振り返ったシラユキは、自分で自分の足を踏んでしまう。足がもつれバランスの崩れた身体はコマのようにくるくると回り、そのまま地面に――ではなく、遺跡入口内部へと落下する。普通であればその場で尻餅をつくだけで済んだのだろうに。どうやら少しだけ補正がかかってしまったようだった。


「たぁーく、なにやってんだよ。ほれっ、立てるか?」


 遺跡の内部で倒れ込んだシラユキに近づくなり、少しだけ呆れ顔で手を差し伸ばしてくるタクト。その手を掴み取りながら、


「あはは、ありがと。ほんと、いつもごめんね」


「いいって、今のも能力のせいだろう? 正直言ってすんげぇー面白い動きしてるし、オレからしたら見ててあきねぇよ。……よっと、さて戻ろうぜシラユキ――」


 ガタンッ! 助け起こされ結果的に入ってしまった遺跡から出ようとしたその時だった。突然、入口から差し込んでいた光が届かなくなる。暗闇に放り込まれたシラユキ達はすぐさま入口へと駆け込むが、


「――おいおい、やべーぞ。こりゃー閉じ込められたか?」


「……………ごめんっ。ほんっと、ごめん……」


 携帯しているランプに火を灯しながらシラユキはただ謝ることしかできない。今回は――いや、今回も自分の能力のせいで厄介な展開に巻き込んでしまったようだった。


 ――ほんと、なんで私の能力はいっつもこーなんだろう?


 自分の能力のダメさ加減にため息しか出ない。せっかく強力な能力を持つ異世界人として呼び出されたのに、これでは能力などない方がましなのではなかろうか。


 淡い光を放ちながら揺らめくランプの灯を見つめ、一人落ち込む。


 そんな姿をさらしてもなお、タクトはこちらを責め立てる仕草すら見せない。


「まぁーまぁー、やっちまったもんは仕方ないって。オレも少し不用心だったよ。ほらっ、前向きに考えようぜ。結果的にここを調べることができるってな!」


「うん、そー言ってくれとありがたいけど……。やっぱり優しいね、タクト君は」


「こんなの普通だよ。さっ、歩けるよな? 少し進んでみようぜ。でも、なにがあるか分かんねーし、オレの後ろから絶対に離れるなよ」


「オッケー。はい、これっ。ここ真っ暗だしタクト君が持った方がいいよね」


「おう、ありがとな」


 タクトにランプを手渡し、その背中を追うように入口から伸びる通路をゆっくりと進む。


 遺跡の内部は暗がりのため細部までは分からないが、外見よりもずっと綺麗に見えた。もしかしたら、古そうなのは見た目だけで、そこまで昔の建物ではないのかもしれない。


「おっと、早速。シラユキ、道が二つに分かれてるぜ? ま、これも冒険にゃーべたなやつだな。多分、どっちかが正解なんだろ。シラユキはどっちだと思う?」


「え、わ、私が決めていいの!? えっと、こっち……かな?」


 特に意味もなく左右に分かれた通路の左側を指差す。するとタクトは「分かった」と一言。左側の道に灯りを向け、足を動か――、


 ガタンッ! ――そうとした瞬間。目の前の通路が遮断される。なにやら、上から隔壁のようなものが降りてきたようだった。


「っあっぶねぇー!!」


「だ、大丈夫っ!?」


「あ、あぁ。なんとかな。っていや、まじで潰されるかと思ったわ! ほんと勘弁してくれよー」


「はあぁーー、良かったぁ無事でぇ」


 驚きながらもこちらに笑みを向けるタクト。突然、前方から轟音が響き渡った時には何事かと肝を冷やしたが、幸い大事には至らなかったようでシラユキはそっと胸を撫で下ろす。


「さぁーて、こっちの道は潰されちまったからな。しょうーがねぇ、もう片方に行くか」


「うん、それしかないよね」


 通路の遮断により二択から一択になった道を進む。たった一つのランプの明かりを頼りにシラユキ達は確かに遺跡の中心部へと近づきつつあった――が、


「くっそ、またかよ……これで何度目だ?」


「えっと、多分十回目」


 その後も分岐点へ到達するたびに幾度となく遮断による妨害を受けてしまう。最初こそは驚きはしたが、もうここまでくると「あぁ、またか」といった感想しか出てこない。


 そんな時、タクトがポツリと口にした。


「――こりゃあ、誘導されてんな」


 暗がりの静寂の中、小さく呟かれたその言葉は妙に耳に残る。誘導されている? シラユキはなにも答えずにただごくりと唾を飲み込む。


 薄々感づいてはいたが、やはりシラユキ達はナニモノかに導かれているようだった。けれど分からない。一体誰が自分たちを誘導しているのだろうか。この遺跡に、だろうか。


 しかし、そんなことを考えている間に答えのありかが向こうからやってくる。ナニモノかが決めた通路ばかりを進んでいたシラユキ達の前にようやく部屋が現れたからだ。


「やっと広いとこに出たわけだが。こりゃあ――」


「うん。普通に明るいね」


 部屋の内部は通路とは違い光に満ちていた。だが、それは光源があるからではない。――なにもないのに明るいのだ。外の巨大樹とは違い特に嫌悪感を感じる光ではないが、それでもこれはこれで異常な光景だった。そして、もう一つ目を引くものが、


「ここにもあったな。枯れた樹」


 もう先に通路のない部屋の奥にはごくごく普通の樹が一本立っている。その樹だけを見れば外にあったそれと大差ないが、一本だけとなるとさらに寂しさが際立つ。


「……他にはなにもないね。あの樹も外のと同じだろうけど、一応確認してみようか」


「――ッ!? シラユキ!」


 タクトにそう提案し一歩踏み出したほんの一瞬だ。タクトが急にシラユキの前へと飛び出してくる。すぐに正面を見るとその手にはすでに剣が握られていて、そこにいるなにかと対峙しているようだった。静寂だった遺跡に突然、ガキィーンッと金属の鈍い音が響きわたる。


「はぁーーー!! 押し、斬るッ! ――っちぃ、まだ浅ぇか!!」


 タクトはジリジリと剣でもってその咬みつきを食い止めていたが、瞬時に気力を剣に纏わせる。そのまま素早く二連撃を繰り出すも、その追撃はするりとかわされてしまった。そして、現れたなにかはまるで樹を守るかのようにそのまま中央へと陣取る。


「まぁ、流石に戦闘は避けらんねーと思ってたけどよぉ! ちっと、突然すぎやしねーか。――なあ、ヘビ野郎!」


 中央で蠢くそれにタクトは叫ぶ。が、相手は細長い舌を出しながら身体を震わせるだけで、その声に一切の反応を示さない。


「――透明な、蛇型ゲーターっ!?」


 たった今までなんの気配も感じられなかった部屋に突如として出現したのは乳白色の蛇のようなゲーターだった。全身を透き通った鱗で覆われているゲーターはぬるりととぐろを巻くと、決して奥へは行かせまいとただただ威嚇を繰り返す。


「悪い、シラユキ。頼む、力を貸してくれ!」


「任せてっ、はい!」


 こちらへと振り向くことなく後ろに投げ出されたタクトの手をすかさず掴み取る。その瞬間、淡い光がその手に宿った。


「ありがとなっ! さぁーて? 守るっつーことは、なにかあるんだよなぁ! 悪ぃがそこ、通させてもらうぜっ!」


 蛇に向かって真正面から突っ込むタクト。シラユキはほんの少し後方でその姿を観察し続ける。自分が必要となるのはこの後なのだ。片時も目が離せない。


「気力開放ッ! じゃんじゃんいくぜっ!」


 タクトは以前行ったノース達との試合の時とは違い惜しみなく気力を使用していく。何故なら、今この場にシラユキという別の人間の存在があるからだ。


「はいっ! タクト君、次!」


 タクトが気力を使うたびにまるでリレーのバトンのように後方から差し出される手に触れる。こうすることで一度きりの気力強化を何度でも使用することが可能なのだ。


 今シラユキがするべきことはただ一つ。タクトの動きに合わせてただひたすらに気力のバトンを繋ぐ、それしかない。


 何度もタクトのことを追従し、何度も交差し、なんだったら蛇の前にも飛び出す。シラユキにはもう蛇の姿など眼中にない。見る必要がないのだ。例えその牙がこちらに向けられたとしてもタクトなら必ず守ってくれるから。


 ――だから、とにかくタクト君に気力を渡し続ける……!


 シャアーーッ! タクトとの連携をひたすらに受け続けるゲーターだが、流石に一方的ではない。時たま持ち前のしなやかな身体を生かし、ぬるりと攻撃をかわしてみせる。その動きはかなりトリッキーで、合間合間に差し込まれる攻撃を避けることは正直至難だろう。


「はんっ、クジャタに比べりゃこんなん大したことねーぞ!」


 ただ、このゲーターの力は先の強力なゲーター達とは違い、決して強くはない。今は夢中で確認できていないが、シラユキの視点からでももそれが分かるほど、蛇型ゲーターに脅威はなかった。その証拠に先ほどからその攻撃は全てタクトにいなされている。それはつまり、


「お前は扉持ちじゃねー。だったら、流石にオレでも苦戦しねーぞ! はああァァーー!!」


「…………! ラストっ!」


 パンッ。タクトが雄たけびを上げたタイミングで最後の気力を繋ぐ。手にした剣だけではなく、身体全身すらも光に包まれたタクトはカッと目を見開き、


「これで終わりだ。ぶった斬るッ!!」


 こちらに向け大口を開き一直線に飛びかかってきたゲーターをタクトは力任せに斬りつける。自身を回転させながら威力を高めたタクトの剣はゲーターの喉元をしっかりと捉え、そのまま尾部に向けて一刀両断。見事に二つに分かれた蛇型ゲーターは血飛沫と共に床へと伏せった。


「しゃぁーッ! いっちょ上がりってな! 助かったぜ、シラユキ!」


「えへへ、少しでも役に立てたのならよかったよ」


「「いぇーい!」」


 二人で勝利のハイタッチをする。完全に戦闘をタクトに任せ、サポートに徹していただけのシラユキでもこの勝利は嬉しい。


「さってと、喜ぶのはこの辺にしといて――こいつを調べないとな」


 ひとしきり喜び合うとタクトが蛇の亡骸を調べる。けれど、すぐに首を傾げてこちらを手招いた。

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