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36´.狂言交じりの人狼少年少女②

「ちっ、やりずれぇったらありゃしねぇ! いつもいつも違うもん使いやがって! 今度はなんなんだよ!」


「カタナだよ、カ・タ・ナッ! オレの世界にもあった古い武器、さっきも言ったじゃねぇ―かッ!」


「それはノース達にだろ!? そんなことまだ〝共有〟されてないし、俺達は知らねぇ!」


 刀を手にしたタクトが驚愕しているノーズに向けて素早い切り下げを行う。


 ノーズはそれを紙一重でかわしながら、


「にしても今の今までそんな武器使ってなかったじゃねーかぁ! 弓やら槍やら剣の類なら分かる、けど! なんだって急にッ」


「――練習してたんだよ。こっそりな! 驚いてくれてなにより――っだ!」


 タクトの刀がローブの端を捉える。スーっと綺麗になぞる刀は音もなくローブを切断し、その断端がひらひらと宙を舞った。


 あまりにも簡単に切断された自身の服にノーズは顔色を変える。額には薄っすらと汗が浮かんでいるようにも見えた。


「おいっ、会長ッ! 今制服が切れたぞ!? 制服の強度を上回る攻撃は禁止ぃ、確かそーゆールールだよなぁっ?」


 焦りを隠しきれない様子なノーズは修練場の中央、つまりは観戦していたこちら側を見つめる。 


 しかし、隣に座すリクは助けを求めるノーズに対してにっこりと笑みを浮かべるだけで、なにか行動を起こす気配はなさそうだった。


「り、リクさん……? 止めないでいいんですか?」


 するとリクはこちらに文字を向けてくる。


『ふふ、シラユキさん。心配する必要はありませんよ。あれはノーズさん達の演技ですから。このまま続行しても問題ないはずです。――それに、本当に危なくなったらちゃんと止めに入りますから』


「――演技? えっと、良く分からないですけど……。とにかく、止めなくていいんですね?」


『はい。そもそもローブは制服ではないですからね。それでも、一応彼らに伝えてもらってもいいですか? ここからでは文字を見せられないので』


「あ、確かにそうですね。了解しました! ――――おーい、二人ともーーっ! とにかく試合続行みたーい」


 この距離ではまず意思の疎通ができないリクの代わりに、二人に向けブンブンと手を振りながらそう伝える。


「おら、審判が試合続行だってよっ」


「――おいおい、そりゃないってぇ! なぁーおいっ、会長ぉーーッ!」


 頼みの綱の生徒会長に見捨てられたノーズは半ば涙目になりながら、何度も自身へと振り下ろされる素早い一撃をかわし続ける。ただ、どれもスレスレでその刃が捉えるのも時間の問題に思えた。


「このまま攻め切るっ! ――気力変換。これで決めるぜ、ノーズッ!」


 防戦一方のノーズにタクトは目を見開くと気力を纏い、一瞬のうちに懐へと入り込む。なんとか距離だけは保とうとしていたらしいノーズは急接近したタクトに顔を強張らせた。


「ま、まじかっ、間に合わねぇ……!」


 光を放つ刀身がノーズに迫る。このままでは気力の込められた一振りをもろに受けてしまうだろう。当然、ノーズの表情からはひどい焦りを感じさせる。


 ――しかし、どうしてだろうか。シラユキにはなぜだかその表情がわざとらしく感じられた。


 瞬間、焦りの表情はどこへやらニヤリと笑みをこぼすノーズ。自身の身体へ刃が届くより先にローブを被り直す。


「――第六人格、狂人から第三人格、騎士へ! 対象はもちろんノーズ達。まんまと私達の虚言に乗せられてくれましたね? タクト先輩が気力使うの、ずっと待っていたんですからっ!」


 闘争心を露わにしていた先ほどとは違う可愛らしい笑顔。その表情は恐らくノーズにはできない。つまりは今遠目に映るのは彼らではなくノースなのだろう。


 ノーズと入れ替わりで現れたノースは自身の身体に迫る橙色の刀を横から弾く。同時に溜めこまれていたエネルギーが暴発。その余波は凄まじく、少し離れたシラユキ達にまでピリピリと伝わるほどだった。


「…………」


 渾身の一撃を受けとめられたタクトはジッと対戦相手を見据える。その顔つきからはなにを考えているのか感じ取ることができない。


 言葉を発さないタクトにノースは満足そうに口元を緩ませた。そして、再びローブからその茶色の獣耳を覗かせながら、


「ふふ、これで先輩はもう能力が使えませんよね? では、第五人格、人狼。「――気力のねぇタクト先輩に負けてやるほど俺達も優しくはねーぞ? さぁ、そろそろ終わりにしようやっ!」」


 バックステップをしながらノーズは声を張り上げる。勝利を確信したその表情のまま、自らを見つめるのみで動く気配のないタクトに向けて飛びかかった。


「――んなっ!?」


 そんなノーズの先にはなぜか腰の鞘に刀を戻し、目を閉じているタクトの姿。鋭い爪が向けられているにもかかわらず、避けようとする気配すら感じられない。


「……? ちっ、なんだかわかんねーけど……。このままやっちまうしかねぇ!」


 それでももう飛びかかってしまった以上、その勢いを止めることはできない。ノーズは頭を振るうと、そのままタクトに向けて爪を立てた。


「――おっらあァァーーッ!」


 ノーズが完全にタクトの懐に入り込むその時だった。タクトは「ふぅぅ」と大きく息を吐き出す。そして、次の瞬間、


 キーン。目にも留まらぬ速さで抜き出される刀。その刀身に気力を纏った様子はない。照明の光を浴び、ただ銀色にきらめく刀は一つのブレもなくノーズの腹元を――――、捉えることはなかった。


 なぜなら、二人の間に何者かが割り込んだからだ。


「…………」


 修練場が静寂に包まれる。生徒たちは皆一点を見つめていて、そこには今の今までシラユキの隣に座していたはずのリクの姿があった。


 先ほどまでリクのいた場所には余程急いだのだろう。意思疎通に欠かせないスケッチブックが無造作に置き去りにされている。


 突然自分の側から消えたリクの姿にシラユキは目をパチパチとさせていた。数瞬後、ハッと我に帰ると慌ててスケッチブックを拾い上げてタクト達の元へと向かう。

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