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16´.日輪蝕む黒き獣①

 バサッ。しばらくするとスクリーンの方からなにやら羽音が聞こえてくる。その音に顔を上げるとそこにはターニャの姿。後方には何人かの生徒たちが追従していた。


「サダエ、聞こえてる? 取りあえず何人か連れてビルジに到着したわ。でも、これは一体どーいうこと? どこにもゲーターの姿がないのだけど。ゲートが出現したのは本当にここであっているの?」


「あぁ、こちらがゲートの反応を検知したのはビルジの座標で間違いない。他ならぬこの私が自宅警備委員から報告を受けたのだからね。それに今は確かに肝心のゲーターの姿を確認できていないけど、最初の衝撃は全員が体感したはずだ。敵は確実にサイクルに侵入しているよ。くれぐれも油断は――」


 ザッバアァーンッ。サダエが言い終えるよりも先に正面の映像に水滴が飛散してくる。見ると画面奥中央に見えていた湖から巨大な水柱が確認できた。どうやら、この距離にまで水しぶきが飛ばされてきたようだ。


「――ターニャンっ、もう分かっていると思うけどあの水の柱はゲーターの仕業だっ。全く水中に潜むことで観測から逃れるとは恐れ入った。とにかく、だ。君達はこのまま戦闘態勢にっ。――さぁ、来るよ!」


 サダエはマイクに向けて言い放つ。それとほぼ同時だった。スクリーン上に大量の水を撒き散らせながら巨大な黒い異形が現れる。


 刺々しい四本の腕に体格とは不釣り合いな程の長い尾部。全身黒ずくめな為身体のパーツを詳しく観察することは困難だが、それでも一目で危険と分かる三重の奇形顎。そして、その全身を支えている強靭な脚。


 昨夜のゲーターとは違い動物のような姿ではない。その人型とも違う特異な容姿にAの手は一瞬静止してしまうが、頭を振りなんとか作業に戻る。それでも、時折スクリーンへと自然に目線が誘導されるのは仕方のないことだろう。


「昨日に比べたら随分小さいわね。まっ、そんなことゲーター相手に関係ないのだけど。――みんなっ、気を引き締めていくわよッ!」


 ターニャの号令と共に十人前後の生徒たちが各々の武器を手にゲーターの元へと駆けていった。よく見るとその場で待機している白衣の生徒達の姿も見られる。どうやら、前線に出た生徒全員が戦闘に参加するわけではないらしい。


 ターニャのように自らの肉体を武器とする者。剣や槍を握りしめる者。少し離れた位置から弓矢を撃ち放つ者……。多種多様な生徒たちが見事な連携を見せながらゲーターに攻撃を加えていく。


 しかし、当然ゲーターもただで攻撃を許すほど優しくはない。ドスのきいた叫びを上げながら両腕を振りかぶるとそのまま地面へと叩き込む。瞬間、発生するのは先ほど体育館で感じたものとほぼ同規模の衝撃と地鳴り。A達のいる視聴覚室にまで及ぶその揺れに足を取られたのか、画面に映る生徒の中には立つことすらできない者も見受けられた。


 ラゥラガァァーーッ。そんな獲物を逃すはずもなく、ゲーターは自身の前に向けて片腕をブンッと振るう。するとその生徒の周りにキラキラと輝く無数の光弾が現れた。いまだに膝をついたままの生徒は周囲を覆うかのように配置された光のドームに絶望の表情を浮かべることしかできない。そして、その光弾は中心に向けて収束する。



「――気力流動ッ! 誰一人としてぇ、やらせはしねぇぞ!」


 

 仲間を包んでいる光弾の一部を切り裂き、その爆発に突如として割り込んできたのはタクトだった。手にした剣だけでなく全身を気力で覆われたその身体には少しの傷しか確認できない。どうやら、気力による強化で光弾を受けきったみたいだ。


 見ると身動きの取れなかった他の生徒も同じよう救出されている。タクトと共に前線へと赴いた生徒達がゲーターの猛攻を防ぎきったのだ。


「ほら、大丈夫かよ。――まだ、やれるな? よしっ、行くぞッ!」


 タクトはへたり込む生徒に手を差し伸ばし助け起こすと、その生徒と共にゲーターの元へと足を踏み出す。当然、その際に生徒と接触していたからだろう。タクトの手からは橙色の光が灯っていた。


 それから数分が経過した。決死の戦いの中でも未だに人数を減らすことのないタクト達。その間決定打こそなかったものの、それでも暴虐の限りを尽くすゲーターと渡り合うことができているようだった。


「サダエさんっ、煙幕を頼む。それと弓道部に伝えてくれ。準備ができたら合図すっから、奴の右腕に目印をってなっ!」


 タクトの要請にAは二つ前の席に座る男子生徒の元へと急ぐ。用件を伝えると男子生徒はオーケーサインと共に目的の人物と通信を始めた。


「――りょーかい、今伝えさせたよ。だけど、タクト君、君は一体どうするんだい?」


「はっ、決まってんだろ? 今一番厄介なのはあの馬鹿げた振動だ。だったらまずはあの腕をぶった切るッ! ――んじゃ、そういうことだからさ。ターニャ、オレをアイツんとこまでぶん投げてくれ」


「はぁーー!? あんたはまたそーやって無茶苦茶――って、言ってもどうせ聞かないんでしょうねっ。いいわよ、どうなっても知らないんだからッ!」


「――上等! みんな、後頼むぜ!」


 タクトが笑顔を見せると同時に彼らの背後からなにかが投げ込まれる。その無数の小さな玉は地面に衝突するなりモクモクと白い煙を発生させた。


 ゲーターを包む白い煙。それを確認したターニャはタクトを片手で持ち上げて大きく振りかぶると、


「――それじゃあ、行ってきなさあぁぁーーーーいっ!」


 そのままタクトを煙幕の中へと投げ入れた。投擲されたタクトの姿はたちまち見えなくなり、その後どうなったのか映像からでも確認することができなくなってしまう。


 しかし、それでも確かに分かることが一つ。それは一瞬だけ点灯した光だ。タクトが普段扱うそれを目にした刹那、片目を鋭く光らせた弓道部員らしき生徒が弓矢を二回連続で放つ。


 その先端が僅かに発光している矢はタクトの消えた場所を通過すると、同様に煙幕へと飲み込まれていった。


「はぁぁああーーッ! その腕ぇ、貰ったぁ!」


 そんな中響き渡るのはタクトの声。そして、雄叫びと共に耳に入るのはなにかを切断した音だった。

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