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恐竜時代で放課後を  作者: 半ノ木ゆか
第5話 未来の街へ
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#22 マキナさんの正体

「いらっしゃいませ!」


 暖簾をくぐると、店主の威勢のいい声が響いた。だしのいい香りが俺の鼻をくすぐる。蕎麦を啜っていたお客さんが、俺の恰好を珍しそうに見遣った。


 席に着くと、店員のお兄さんが湯吞を持ってきてくれた。


「お決まりになりましたら、そちらの画面でご註文なさってください」


 そう言って、卓上に置いてあったタッチパネルを手のひらで指し示す。A4くらいの大きさで、店のロゴが表示されていた。


 彼が立ち去ったと同時に、俺はそのパネルを取った。触れると、料理の写真が画面いっぱいに並ぶ。どれも美味しそうで、目移りしてしまいそうだ。


 でも、俺はある写真に釘付けになった。目をつむり、自分がそれを食べているところを想像する。口のなかに唾液がじゅわりと溢れた。


 ……よし、これにしよう。


 俺はその写真に触れて、「註文」の文字を押した。


 お茶を口に含んで、料理が来るのを待つ。高窓から陽が差し込んで、テーブルを照し出している。空腹だから、待っている時間がとても長く感じた。


 俺は四次元ペンダントを探った。最初はノートを取り出そうと思ったけど、あれは海で濡れてふやけちゃったんだっけ。


 千変鏡を取り出す。その時、太陽の光が鏡面で跳ね返った。目を瞑る。


 見上げると、天井に光の四角が描かれている。俺はぼんやりとそれを眺めた。鏡を傾けていくと、四角が壁のほうへ滑っていった。


「お待たせいたしました。ご註文の品でございます」


 店員のお兄さんがやってきた。俺は慌てて千変鏡を仕舞った。お兄さんは微笑んでいる。耳たぶが熱くなった。どうしよう、子供っぽいことをして遊んでるって思われちゃったかな。


 目の前にどんぶりがコトンと置かれる。それを見た瞬間、俺の羞恥心は吹き飛んだ。


 カレー南蛮だった。美味しそうな匂いが食慾をそそる。お兄さんが会釈して、立ち去る。俺はわくわくしながら箸を構えた。


「い、いただきます!」




 日本橋のたもとで待っていると、車の列に見慣れた銀色の車体が見えた。太陽の光を反射させて輝いている。


「おーい、こっちこっち!」


 空に向って手を振った。


 ハザードランプを点滅させながらマキナさんが降り立つ。その姿は新品同様だった。ドアが元通りにくっついているし、車体の歪みもなくなっていた。


「マキナさん、直ったんだ! よかったな」


「はい」


 彼女が元気のない声で言った。俺は首をかしげた。どうしたんだろう。もう不具合はないはずなのに。


「実はまだ修理が終ってないんだよ。部品は買い揃えたから、羽揺の家で着け直そうと思って」


 ツキが窓から顔を出し、補足する。


「そうだったのか。じゃあ、今度こそ俺の家に帰ろう」


 俺が言った、その時だった。


「やっと見つけた。こんなところにいたなんて」


 蕎麦屋の場所を教えてくれた、あのパトカーが着陸した。俺は慌ててマキナさんの後ろに隠れた。


「ほら、あの少年ですよ」


 パトカーが言った。彼から女性が降り立つ。警察官の制服らしきものを着ていた。茶色い髪をまとめて、帽子の中にしまっている。首には四次元ペンダントをかけていた。ツキのペンダントにそっくりだけど、宝石は、深い海のような青色をしている。


 ツキはそれを一瞥した。一方のマキナさんは、車載カメラでパトカーと自分のボンネットを交互に見ている。


「名前と住所と出身の時代。さあ、今度こそ答えてもらいますよ」


「――識別番号を調べて」


 マキナさんの姿をまじまじと見ていた警察官が、パトカーに指示した。


「えっ、でもまだ少年の身元を」


「いいから調べて」


 警察官がぴしゃりと言い放つ。パトカーは渋々従った。


「……ちょっと失礼」


 マキナさんから「ピッ」という電子音が鳴った。彼女が我に返り、身構える。


 パトカーが昂奮した様子で報せた。


「識別番号、ゐの一〇の〇七。例の事件で盗難届が出ているパトカーと同じです!」


「なんですって?!」


 警察官がパトカーの車内画面を覗き込み、目を見開いた。俺も耳を疑った。


「例の事件」って、さっき街中で流れていたあのニュースのことだよな。絶滅動物とパトカーが警察の施設から盗まれたっていう、あの事件だよな。


「マキナさんって、パトカーだったのか?」


 彼女は答えなかった。ツキがドアを開け、小声で言った。


「羽揺も乗って。今すぐ帰ろう」


「署まで来ていただけますか」


 警察官が俺たちに向き直り、言った。


「その()()()は盗難車の疑いがあります。お話を伺います」


 青い四次元ペンダントをキラリと光らせて、警察官が詰め寄る。俺はツキに目で訴えた。ツキとマキナさんが言った。


「構わなくていいよ。乗って」


「私に乗ってください」


「で、でも」


 パトカーも警察官も、噓を言っているようには見えない。俺は戸惑っていた。


「ツキ、これは一体……」


「僕を信じて」


 真剣な眼差で俺を見つめてくる。


 俺はマキナさんに飛び込んだ。ツキが叫んだ。


「マキナ、離陸!」


「はい!」


 マキナさんが飛び立つ。


「待ちなさい!」


 警察官もパトカーに乗り、追いかけてきた。

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