真綿の計
主人公の思考が想像以上にゲスイ……
でもまあ、陰謀物だし仕方ないよね
(^_-)テヘペロ
さて、これで冒険者ギルドは動くだろう。あれだけ言えば、支部長とて動かざるを得ない。底知れぬ闇の組織がわざわざ顔を見せたのだ。これで損害が出たらと思うと大変だろう。
それに、もともとは冒険者というのは防衛戦力ではないのだ。どちらかというと男爵家の軍の担当。もちろん、自らの拠点を奪われると困るから防衛にも加担するが、単独でもある程度は持ちこたえられる。
ただなあ。今回の場合いろいろと怪しいんだよなあ。なんか不穏な気配がしてるし。
そういうわけで、今回の主力は冒険者たちだ。あ、もちろんニルスたち以外でという意味だけれど。そして、もっとはっきり言うのならば捨て駒である。
まあ、もちろんただ無駄死にさせるつもりはない。冒険者と言えども、人だしね。だから死ねとまではいはないが、死ぬかもしれない、くらいの認識でいる。キールマンをある程度消耗させるために。
正直なところ、勇者パーティーとキールマンが相対した場合、両者が万全な状態であればキールマンを討ち取れる可能性は限りなく低い。恐らく、痛み分けで逃げられる。勇者なんて言われていても、魔王軍四天王はそれほどまでに強いのだ。まあ、キールマンが一番の武闘派というのもあるが。
……そんな奴らの親玉に喧嘩売ろうとしてたんだから、過去の俺たちは何をしてたんだ。
それはともかく、四天王はここで討ち取っておきたい。新しく誰かが四天王入りするとしても、魔王の息のかかった穏健派だろう。現状の四天王を討ち取れば、和平へと大きく動き出す。
そのためなら、犠牲もいとわない。キールマンを討ち取れるというのならば、冒険者が死んだとしてもいい。まあ犠牲は出したくないのはそうだが、その程度のことは言ってられないだろう。
そしてもう一つ。俺もキールマン討伐に参加する。とは言っても、街中で色々工作もしなくちゃいけないし、戦場に立つわけじゃない。というか、普通に戦うのであれば俺の戦力は一流冒険者と大差ない。
俺の本分は、待ち受ける罠の作成だ。まず間違いなく、キールマンは冒険者の軍と遭遇した場合逃げ出すだろう。痛手というわけではないが奇襲の目的は潰せる。よって、気をうかがってくる。そのための退却だ。
だが逃がさない。ここで討ち取りたいからな。逃げた方面にあらかじめ罠を貼っておく。殺せなくていい。消耗させるだけでいい。元より殺せるとは思っていない。毒矢、糸、落とし穴。恐らくキールマンには通用しないだろうが、警戒だけでも体力は使う。そうして、ミスリルコーン方面への街道へ飛び出してきたところを、待ち受けるニルスたちが討つ。そういう作戦だ。いや、ニルスはまだ何も知らないけど。
ただ、南西方向から侵略してこなかった場合は町が壊滅するかもしれない。もちろん、俺が足止めをするが、それがいつまで持つやら。俺とてこんなところで死ぬつもりはないのでね。
けれど、それはほぼないと思っている。これまで、俺は心理戦で相手の策を潰してきたからな。芭蕉扇のヴァイネス辺りは相当苦々しく思ってるだろう。
そんなことを考えながら、俺は罠を仕掛ける。雷槍のキールマンは自分の戦力に特化した脳筋だ。いや、脳筋というのは正確ではないかもしれない。確かに、軍略の才はまったくもってない。けれどそれは、そちらに向けるべきエネルギーを己の鍛錬に当てたからだ。策を弄するのは自分には向いていないと判断し、得意な武力を伸ばしてきた。キールマンはそういうやつだ。たぶん、今回の襲撃もヴァイネスの入れ知恵だろう。
ただし、キールマンは馬鹿ではない。脳筋ではあるが、馬鹿ではないのだ。それは、戦闘になった時に露呈する。
キールマンは、すさまじく合理的に戦う。それは、本来謀略に振るべき頭脳を先頭に振ったからに他ならない。体の使い方、敵の動き、注意の外し方。そんな戦闘に役立つスキルを会得している。だから、はっきり言って普通に戦うにはめっぽう強い。その分、化けて出ることがまずないということでもあるのだけど。
言うなれば、戦い方が愚直なのだ。ならば、その隙を突けばいい。俺が得意な手段は搦め手。それを何重にも何十重にも重ねて、疲弊させる。キールマンの思考を読み、そこに罠を仕掛ける。対キールマン専用だ。こうやって敵の思考を読み、先打ち先打ちしてきたからこそ、俺は勇者パーティーで盗賊として認められていたわけだしな。
もっとも、南西の森一体に仕掛けるわけで、当然発動しない罠があるだろう。というか、残骸も大量に残る。自分すら全貌を把握できないくらいの量の罠を仕掛けた。回収作業面倒だよなあ。初歩的な罠しか使ってないし機密も漏れないから放置するか。でも、ここら一体が危険地帯になるし。ただ、時間の迅速さで言うと……。
よし、放置しよう。
ちなみに街道は除いて設置した。愚直なキールマンは、人目のつかない森を抜けようとするだろうからね。
冒険者で足止めをし、俺の罠で疲弊させる。キールマンからすれば、小癪だと思うだろう。けれど、その程度だ。いつの間にか自らの首が締まっているとはまさか思うまい。だって、野良で行動している自分が同じく野良で行動しているような勇者と遭遇するとは予想できないもんね。俺やヨハネスの計があったからそうなるけれど。
例えるならば、真綿で首を絞めているようなもの。真綿が首にまとわりついても不快だとは思わない。だけど、その外側には本命の麻縄、つまり勇者が待っている。こちらに来た時点で、ほぼキールマンは負け確だったというわけだね。
まあ、この作戦は魔王軍の機密が漏れていない前提だから、ヴァイネスは次から対抗手段を講じてくるだろうけど、一番の武闘派のキールマンを討ち取れればそれで十分だ。
それよりも問題はお金だよ。罠にも当然材料費がかかる。金貨単位で吹っ飛ぶよもう。まあいいか、ミモザカートである程度徴発のめどはついているし。
罠を設置し終えた後は、今現在進行形でミモザカートへの街道を馬車で向かっているであろうニルスたちへの連絡だ。さて、どうやって連絡するか。前回と同じように逆羽矢を使ってもいいんだけど、隠密とは言え一度ニルスたちに接触する必要があるからな。あまり時間は無駄にしたくない。というか、俺はミモザカートで用事を済ませておきたい。
そういうわけで、手紙を残すことにした。もちろん、スパイのシュタインに知られるわけには行かないから、気づかれないような方法で。
通常、馬車を使う時は盗賊が操縦することが多い。だって、戦闘時に一番疲弊していていいのが盗賊だからね。そういうわけで、勇者パーティーに所属しているときは俺が主に馬車を操っていた。そしてその慣例はまだ抜けていない。たぶん。
いや、ニルスたちも操縦できないわけじゃないんだよ。サラとか乗馬すごく得意だし。ただ、役割として俺が担当していたわけで。
そして、御者台と馬車の中には明確な違いが存在する。
それは視点。御者台にいれば基本的に前を見なければいけない。けれど、馬車の中であれば横だったり、後ろの景色を眺めることもできる。
というわけで、俺は地面に文字を書いた。流れていく後方を眺めていればそれが文字だと気づくように縦にゆがませて。はっきり言って、シュタインは頭が働かないから気づくとは思えないし。何か道の真ん中に盛り上がりがあるなーとしか思わないだろう。その点、ニルスたちには他にいくつも連絡方法を伝えている。
書いたことは簡潔に3つ。明日、遭遇、南西門。これで伝わる。ちょうどその翌日くらいにキールマンと遭遇するような地点にね。俺の技術をもってすれば、進軍のスピードを予測することくらい造作もなかった。
さて、一仕事終えたから帰りますかね。まあ、確実というわけではないが、それを外さなかったから今の俺があるのだ。自分の腕と、ニルスたちと、後冒険者たちを信用して俺は一足先にミモザカートへ戻るとしようか。
いや、後の人の被害くらい考えようよ主人公……