墓荒らし
俺の故郷ブラック村に最も近い街はミャスライではなくニーナダインだ。いや、距離を測ったことはないから正確にはどちらかわからないが、ニーナダインの方が圧倒的に早く着く。理由は簡単だ。整備されていないとは言え、ニーナダインに向けては道がある。対して、ミャスライからは直線距離ではそう遠くないものの、森を一つ越えていかなければ行けない上に馬が使えない。方向も失いやすい。
そう言うわけで、つい最近までミャスライがブラック村の近くにあるのを知らなかった。いや、忘れていたと言うべきか。森を越えてきた人間なら俺もよく知っているからな。
位置関係をはっきりさせると、ニーナダインから徒歩で1日2日ほど南にブラック村、更にそこから等間隔ほど南にミャスライがある。
検証も兼ねて、ミャスライからブラック村を目指すことになる。考えてみれば村を出てから初めての帰郷だ。カイやミッチェルと会うのも久しぶりになる。まあ、のんびりした村だ。そう変わってはいないだろうが、顔を見せておきたい。これが最後になるかもしれないしな。
森を抜けていく。身重の人間が通るには少し厳しい。道もないし、馬も通れない。鬱蒼と茂っているからすぐに方向感覚を失ってしまいそうだ。そもそもブラック村自体、存在すら知らない人が多いような、辺鄙な村だ。そこを目指して歩いてきたなんてことはあり得ないだろう。
まあ、だからと言って考えられないわけではない。ミャスライの東及び南と西は一応街道が整備されていて、人目もある。人目を避けて逃げ出すというのなら、北しかないか。その先に街がないと知っていても。
だからと言って、遭難する確率の方が圧倒的にたかそうだがな。現に、魔物に食い殺されたのか遺体が転がっている。骨格からして男だ。用はない。
とは言いつつ、俺にとってはホームグラウンドだ。流石にミャスライの近くまで入ったことはないが、ブラック村にいた当時は狩人として森を駆け巡っていた。だから見覚えのある木の傷やちょっとした平地。そんなものが目に入ってくれば、もうブラック村にたどり着いたも同然だ。5年でそう変わるわけじゃない。もちろん変わっているところもあるが。
「これは……」
木に手を当てる。間違いない。この傷には見覚えがある。ブラック村の近くまで来たらしい。
意外とすぐだったな。森の中を抜ける都合上方向感覚を失いやすいが、実はミャスライの方が近いのかもしれない。まあ、馬車は通れないからニーナダインに行くんだけどさ。
ただ、第一王子の母親と目される人物でも越えられるかもしれない。そんなことを考える。
さて、これで夜まで待つことにしよう。大体の最低所要時間は把握できたからな。それに、狩人に発見されて連れてこられたのかもしれない。だとすれば、もっと楽になる。可能だという結論だけで十分だ。
後は、村人に見つからないこと。墓から遺体を掘り出して傷と照合するなんて、あまり人に知られたいはなしじゃない。
しかも、5年ぶりの帰還だ。俺がいることがわかったら歓迎されることだろう。となれば、抜け出して掘り起こすのがやりづらくなる。夜まで待った方がやりやすいってもんだ。
木の上に飛び乗り、簡易ベッドを作る。日が暮れるまであと4時間、寝静まるまでさらに3時間見ておけば十分だろう。久しぶりに仮眠をしっかりとれそうだ。
夜。
俺の体内時計は性格だ。でなければ、勇者パーティーの時間管理を任されていたりするものか。
そっと、簡易ベッドから降りて辺りを見渡す。物音ひとつしない。
「行くか」
そう一言言うと、俺は一路ブラック村へと向かった。ここからの道はニルスよりもよく知っている。
ブラック村は、もう既に炎の明かりが消されていた。
閉鎖的な村だ。夜遅くまで作業をしているなんてことはない。まあ、2人寝ずの番がいるが、それを避けて行動することくらい何の問題もなかった。それに、目的地は村の中じゃない。村のはずれにある墓地だ。
並び建てられた墓碑銘を見て回る。20年少し前に建てられたもので、女性のもので、なおかつブラック村とは縁がないもの。恐らく外輪部に建てられているに違いない。そう考えて調べていくうちに見つけた。
ジャクリーン・フロワここに眠る。恐らくこれだろう。そう思って掘り起こしてみる。
万が一にも人が来たら大変だ。周囲を警戒しながら念入りに作業を進め、棺を掘り起こす。と言ってもとっくに朽ちているだろうが。棺を壊さないようにその周りの土を退け、棺のふたを開ける。ところどころ皮膚や頭髪は残ってはいるものの、ほとんど白骨化していた。
「やっぱりか」
一旦組まれた手を崩し、背中の左側を確認する。大きな傷があった。骨を削るような、そんな傷。よく助かったななんてことを考える。まあ、それはどうでもいい。
問題は、これが、国王のお手付きになったフェーンバッハ前子爵の娘で間違いないことだ。しかも、胎児の骨が残ってないということはどこかで第一王子が生まれたということ。それは当然、ブラック村ということになる。
……頭が痛い。まさか本当にそうだとは。
だとしても、手段は用意してるけどね。
まず、近場の木を使って、新しい棺を作る。大分ぼろいものがいい。そうして、その棺に母親の遺体を入れた。次に、持ってきた荷物をほどく。
中身は王都から持ってきた別の遺体だ。大体死んだのは20年位前。茶髪で、しかも妊婦だ。その痛いから胎児の骨だけを丁寧に取り出し、母親の骨の上にしっかりと置いた。この胎児の遺体が、第一王子になってくれる。
そして、持ってきた遺体を母親の遺体が入っていた棺に納めた。丁寧にふたを閉じ、土を戻す。近くから草ごともらってきて埋めた。これでカモフラージュはできる。調査にやってくる時には完璧に違和感が無くなっていることだろう。
さて、残ったのは母親の遺体だ。まあ、これもどうするかは決まっている。もちろん、棺ごと埋めなおす。
穴を掘る。棺を入れる用の穴だ。しっかりと、棺を沈める。ふたをする前に、一度、祈りをささげた。
俺は、生みの母親の顔を覚えてない。俺が生まれてすぐ亡くなったからで、意識したこともなかった。こうして祈りをささげたのも初めてだ。
……もっと、感慨深いものだと思っていた。俺を生んでくれた母親だ。呪われた血だろうと、それでも、何か涙を流すとかそんなものがあると思ってたんだけどな。
何も思わなかった。
しっかり腕を組ませて、そしてふたをかぶせる。せめて、安らかに眠れますように。
ふたを閉じて土をかぶせる。そして、墓標を引き抜いて刺しなおした。持ってきた遺体用の墓標も作らなきゃいけない。俺の生みの母親(偽物)になるはずの女性だ。名前は何がいいかな。そんなどうでもいいことを思った。
さて、これで肉体労働の方は完了だ。お手付きになった侍女はブラック村までたどり着き、第一王子を生むことなく亡くなった。俺はそのころ同時に来ていた別の妊婦から生まれ、その母親もまもなく亡くなった。そういう筋書きが出来上がる。
あとは、夜が明けたら正式に帰郷しないとな。
この世界にアンデットはいないです。いると面倒なことになるのでw
あと土葬の文化ってよくわからない。




