故郷への旅路
調子悪くて、昨日更新できませんでした……
それと、更新頻度落ちそうです。
「収穫はありましたか?」
「ああ、あったと言えばあったな……」
スフィアの問いにも歯切れが悪い。
いや、俺にとって利益になる話だったのだが、まったくわけのわからないことを言われたし、何よりリリアーナ王女が薄気味悪い。人間性を捨て去ったような、そんな恐怖がある。はっきり言って、俺もヴァイネスもかなわないだろうし、何を企んでいるのかわからないうちは流れに逆らうのは得策じゃない、か。
「今日中にガルテンを発つ。ミルキーハウス商会の方が終わり次第、リーベルをアッフェローゼに向かわせてくれ。ああ、それと今動かせる頭の働く奴、いるか?」
「はい。ディタが動かせるかと」
「それじゃあ、教会派の切り崩し工作を任せてくれ。そっちはディタに一任する。後サラの方にも伝令を頼む。リーゼンヌ砦攻撃に加わるように」
はっきり言って、予想外のことが出てきたからな。本当なら、西部戦線にいられたはずなのに。教会派が抑えているだけでよかったのに、西部戦線に手を打てないからこっちから崩さないといけなくなった。
「かしこまりました。シュートリンゲン公爵の方はよろしいのですか?」
「そっちは、一応静観だ。ああでも、金は要求しておけ。それから、怪しい動きをしたらアナスタシアに判断を一任する。スフィアはその他と、あと総合的な統括を任せる」
俺はしばらくの間、表舞台に出て来られないからな。というか、俺が表舞台に出てきたら何を調べているかがわかってしまう。
「ああ、それとリアの方は俺が何とかする。それ以外で、もしも別のところで問題が起こったら、俺は手を出せないからスフィアが判断してくれ」
「わかりました。お任せください」
「留守を頼んだ」
出発する。流石のスフィアにも、俺が思いついたことは話せなかった。流石に突拍子もなさすぎるし、そうだったとしてもいずれ嘘にする話だ。
あまり使うことはないが、本人の意思関係なく情報を奪う方法というのも存在するからな。こればっかりは、俺一人で対処するしかあるまい。
その日の未明に、俺は王都を離れた。王都では、墓荒らしが出たという噂が残った。
真っすぐミャスライへと向かって、第一王子の母なる人物の肖像画を拝みに行ってもよかったのだが、どうせなのでリアに頼まれたルーベンバッハ侯爵領に寄って行くことにした。こちらの問題も、リアだけでは荷が重いだろう。
リアと合流せずに、別口で動こう。具体的には、麻薬の取引をしているところ同士を争わせる。ただ、冒険者ギルド支部長のギュンターと、侯爵の妻ドロリスが敵だ。
逆に俺の味方はと言えば、ここにいないニルスと、危ういリアくらいか。圧倒的に手札が少ないなあ。
闇組織を利用するか。麻薬とは別口で、出来れば他の街から引っ張ってきたい。となれば必要になるのは何か。門番の抱き込みと、勢力の空白圏の作成かな。
現状、侯爵家があるのは領都ローレライの北側のエリア。どちらかと言えば、北側は身分も高く、治安もいい。麻薬組織は南、それから西にも少し。逆に東側は冒険者ギルドのギュンターが管理している。というか、組織の方も頭が安定してなくてギュンターとドロリスにいいように使われてるもんな。
空白地帯を作るとすれば、まず間違いなく南か、ひょっとしたら西なんだが。ただ、空白作っても、当然のようにそれを埋められるよなあ。となれば、南南西の城壁を壊すか。魔物が大量に入り込んで修復がそう簡単にはいかなくなる。ああいや、ミスリルコーンじゃないんだから、魔物はそこまでいないか。むしろ、治安がさらに悪化するだけだ。
空白地帯を作るには、そこに手を出してもあまり意味がない。そう思わせるような土地がいる。となると、考えられるのは、火か。
火魔法はあまり得意じゃない。いや、それよりももっと大事なのは風魔法だ。火種はある程度は調節できるが、風がないと広範囲に燃え広がらない。それから、水魔法の使い手がいられると面倒だし、雨が降っているのも問題だよなあ。
風が強い日を待つか。ああいや、洪水のヴァルターにちょっかいを掛けたら気候操作するくらいの雨を降らせるから、天気が変わりやすくなっている。3日もしないうちに、風が吹くのでは。
吹かなければ、別のことを考えよう。
そういうわけで、ルーベンバッハ侯爵領副都カッツァイにやってきた。どこの街にもスラムというのはあるものだ。そういう人間を動かす。どこにでも悪いことを企むやつはいるものだから。
使える時間は3日くらいかな。それを過ぎたら、俺はフェーンバッハ領へ行く。そのついでに寄っただけだからな。ついでで、苦戦しているリアの手助けをと思っただけだ。1つの貴族家の乗っ取りに失敗するよりも、国を割るような情報を見過ごす方が問題だし。
そのうちの1日を、カッツァイのリサーチに使うことにした。カッツァイは人口自体はそこそこいるんだが、あまり大事な都市という認識じゃないので部下を置いていない。こんなことなら情報収集をさせておけばよかったが、未来の自分がどうなるかなんて、そんな細かなことに注意は払ってられない。
とまあそんな調子で、カッツァイの闇組織の勢力圏を調べ上げる。どうやら、3つ巴の争いになっていて、1つがちょっと現状押されているようだ。よし、君に決めた。
そういうわけで、狙い定めた組織に噂を流していく。内容は、ローレライの内部抗争が激化しているらしいと。それだけで、漁夫の利狙いの人間は出てくるはずだ。
こういう、情報操作はお手の物だ。というか、俺が最も得意とするところでもある。情報の強みは俺が一番よく知っているしね。
ローレライにやってくる頃にはカッツァイで噂は十分に出回っていたし、使い捨てにしても惜しくもなんともないスラムの住人が何人か送られて来ようとしていた。
風は強い。西北西の風。かなりいい感じだ。決行は、今日だな。
雨が降っている。だが、通り雨か。すぐに止むだろう。火をつけるのは大変だが、風は強い。大きな炎が上がれば一気に燃え広がっていくはずだ。
ローレライ南西部にあった廃屋の中に入り込む。寝ていたスラムの人間は切った。どうせ死ぬし、目撃者を作るのも面倒だ。かわいそうには思うが、運が悪かった。
持ち込んできた藁に火をつける。ただでさえ荷物が多いというのに、藁まで持ってきたから大変だ。まあ、荷物は宿屋に置いてきたけれど。
パッと火が上がった。まあ、これだけでは足りない。木材を足していく。それから、死体の纏った布というのも燃えやすい。ある程度の大きさになってきたところで投げ入れた。パッと火の粉が散る。
天井に、火の粉が舞って焼け跡がついた。もうここは十分だろう。そう思って、俺はその場を立ち去った。
1か所出火元を作ったが、それだけでは足りない。当り前だ。火事なんて王都じゃ1日1度は起こる。ローレライでも1週間もないなんてことはまずありえない。そして、風も人為的に起こしたわけじゃない。となれば、ある程度は火事対策もされているはず。
だから、4か所出火元を作る。同じような場所。ある程度の不自然さよりも拙速さを取った。
火が燃え移る。火の粉は風に乗って飛んでいき、巻かれ、そして隣の建物を燃やした。逃げまどっていく人々が見える。この様子なら、通りをまたいだところにも炎は燃え移るだろう。それを、俺は城壁の上から眺めていた。水魔法使いがいたとしても、この炎では全部を消すのは無理だろう。
まあ、火事を起こしたのはあくまでも手段であって、目的じゃない。もうちょっと動かないとね。
もう、お前が魔王でいいんじゃないかな?




