第二王子派
新作短編『ネトゲのbotAIが自我を持ったら』投稿しました。
こちらもぜひよろしくお願いします。
シュートリンゲン公爵ヘルマンは、第二王子ガブリエル派と繋がっていた。それを仲介していたのは、恐らくベネディクト伯爵。そのラインは確定ではないが、恐らく間違いないだろう。
そういうわけで、始末しなければいけない。ありていに言えば暗殺だ。シュートリンゲン公爵とベネディクト伯爵の2人。それから、恐らくさらに何人かいるであろう事情を知ってる人物。ああ、シュートリンゲン公爵の侍女のヘレンもそうだな。
普段なら、貴族の暗殺は細心の注意を払って、何か月も前から計画を立てておくものだ。ただ、今回ばかりはそれができない。迅速さが要求されるからな。そりゃ、念のためということで、シュートリンゲン公爵の周りにも俺の部下を忍ばせているが、今回ばかりはあまり意味がない。
というか、問題はただ殺すだけじゃ遺恨が残ることだよなあ。仮にも一国の宰相だし、当然暗殺が疑われる。そして騎士団が動き出す。だからと言って、遺体ごと消すわけにもいくまい。野盗に襲わせるという手もなしだ。繋がりを探るやつは絶対にいるし、何より王都から出るかどうかも不確定。
それから、殺してしまえば、繋がりが消えてしまうんだよな。絶対にベネディクト伯爵以外に寝返らせた奴がいる。つまり、第二王子派の先兵だ。さらに言うなら、シュートリンゲン公爵の影響力は大きい。それに合わせて第二王子派に鞍替えしようなんて奴もいるに決まってる。
それから、恐らくだが殺さなければならない人間はまだいる。シュートリンゲン公爵は氷山の一角だ。それをそそのかした人間も、裏から糸を引いた人間もいる。さらに言うなら、俺の追放が偽物だと知っている人間もいるに決まってる。そのつながりが消えるのは痛い。
そういうわけで、どうにかしてシュートリンゲン公爵から情報を引き出さないといけないんだよなあ。ただ、情報を広められると困るから出来るだけ早く始末しなければいけない。となれば、誘拐して尋問するしかない。
どうしてこうなった。いや、俺が読み間違えたせいなんだけど。愚痴の一つも言いたくなる。
「プルートー、どうだ、調査の方は」
「ヘルマン。あまりいいとは言えないな」
シュートリンゲン公爵を尾行していると、ベネディクト伯爵と会話を交わしている。
ベネディクト家は学問で家を建てた家系だ。その成り立ちから、領地は持たないものの、王国の知恵者としてかなりの影響力を持っている。ただし、慣例として政治には口を出さないのが特徴のはずだ。もちろん、不文法ゆえ、現在の当主プルートーはシュートリンゲン公爵と懇意にしているようだが。
優秀な学者を多く輩出していて、特に科学分野に強いらしい。ただ、俺はよく知らないし魔王軍の方が薬品とかの開発は進んでいるようでもあるが。
2人か。同時に捕えられればなおいい。尋問するときに1人と2人では心理効果が全然違う。
「エーベルハルトの方はどうだ?」
「そちらは、手は打っております。ミスリルは私の研究にも必要ですからね」
俺が教えたことだ。こうして第一王子派の力をそぐために利用されてると思うと口惜しい。パトロンを得るためだったとはいえ、過去の自分を責めたいくらいだ。
「それはよかった。しかし、第一王子はまだ見つからないか」
「そのようですね。彼もしくは彼女に生きていられると困るのですが」
間違いない。俺の前でも言った。少し引っかかるところは間違いない。2人はニルスを亡き者にしようとしている。
「見つけて、始末しなければ。少なくとも安否だけでも確認しておきたいが……」
まさか、もう既に行方不明になったとでもいうのか。そんな情報、俺のところには入ってきていないというのに。
「難しいでしょうね。時間がたち過ぎです。しかも、特徴も何もわかってないと来ている。後々禍根を残すのは間違いないでしょうが……」
「だから、何としても見つけ出さないといけないのに! カールガンツの奴しっかりしていないから!」
怒り心頭のようだ。にしても、カールガンツか。恐らくカールガンツ・フェーンバッハ子爵のことだな。それも関わっているのか。暗殺する人間が一人増えた。そう思っていた。ひょっとしたら、そこで油断したのかもしれない。
何か、ミスをしたとは思わない。気づかれるようなことをしていたとは。けれど、気づかれた。
「誰だ!? そこにいるのか!」
まさか。そう思うが、しっかり捕捉されていた。誰かが入れ知恵したのだろうか。
仕方ない。それに、大義はこちらにある。そう思って体を出す。
「貴公らの先ほどの発言、ニルスを亡き者にしようとしているな。王の臣下として、先ほどの発言許しておけぬ!」
「違う、私は!」
ベネディクト伯爵が何かを言おうとするが、その前に腕をひねり上げる。
「詳しい話は騎士団の詰め所で聞かせてもらおうか。私以外にも聞いている人物がいる。逃げられると思うな」
「違う、ニルスを殺そうなんてしていない!」
「それは、誤解なのだ」
言い訳がましい。手枷を取り出してはめようとした。
「聞いていたぞ。ニルスを残すと禍根を生むとな」
「違うんだ、ニルス王子じゃないんだ」
「貴殿は何も知らぬのだな。私は確かに第一王子の捜索を命じたが、それはニルス殿下ではない!」
強硬に反論される。何だと?
けれど、確かに第一王子とは聞いたが、ニルスとは聞いていない。しかし、ニルスが第一王子だというのは公然の事実だぞ。それを、俺が知らないだと?
考えろ。自分。確かに違和感はあった。捜索を命じた。禍根を残す。禍根というのは、対立候補がいないと成り立たない。それは、別の人間を暗示していた? ひょっとして俺の早とちり? そんな疑念が浮かぶ。
辻褄だけは合う。そう思って、追及の手を緩めてしまった。
「どういうことだ」
それに落ち着き払った態度でシュートリンゲン公爵は答える。やましいことなど何もないとでも言うように。
「簡単な話だ、この国にはいるのだ。公式には明らかになっていないが、幻の第一王子が」
「ほう。作り話にしては面白いですな。話だけは聞かせていただくとしましょうか」
「感謝する」
まだ完全に信用したわけではない。だが、ひょっとすればそうではないかもしれない。辻褄は通っているからな。聞くだけの価値はあると判断した。
「こちらの部屋で話を聞かせていただく。しかし、怪しいと思えば、騎士団に引き渡すつもりだ」
「わかっている、私に隠すことなどない」
第二王子派というのは、そういうことだったのだろうか。その疑いが、俺の思考を奪っていった。
幻の第一王子、だと!?
だれだろう(すっとぼけ)




