とりあえず一撃
この小説は展開が速いのがウリです。たぶん。
はあああ!?
いや、ちょっと待てよ。シュートリンゲン公爵に裏切りの疑いがあるって? それはやばいって。シュートリンゲン公爵は唯一の外部の人間だ。それ以外は勇者パーティーの面々が信頼のおける人間に厳選している。まあ、公爵も信頼していたわけだけど。
それはともかく、シュートリンゲン公爵は俺の追放が偽装だということを知っている人間だ。魔王と和平交渉を進めているのに次ぐトップシークレットだ。それがバレると、俺が格段に動きづらくなる。
刺客というのはどこからやってくるかわからないから刺客なのだ。俺が完全に第一王子派だとばれたら、当然のように警戒される。警戒されないように内部に潜り込んで、にこやかな顔をしてブスリ。それが、貴族の世界で生きるということなのに。
これはまずい。無警戒でポンポン飛び回れるのがわざわざ追放された利点なのに。なのに、もし本当にシュートリンゲン公爵が裏切ったのだとしたら。だとすれば、それは脅しの材料になってしまう。いや、それならまだいい。けれど、その情報が明るみになったとしたら。俺の価値が大暴落することは想像に難くない。
どこへ行くとしても、第一王子派のジャックだということがついて回る。第二王子派から因縁をつけられるかもしれない。あるいは、俺の工作に反発するやつがいるかもしれない。情報は伏せておかないといけないのだ。こちらがばらすその時まで。
どうか、その情報は何かの間違いであってくれ。そう思う。願ってしまう。ただの手違いで、シュートリンゲン公爵は裏切っていない。そうであってくれたらどれほどいいか。そう思う。
ただ、確認しないわけにもいくまい。それだけの大事件だ。そして、もしその裏切りが事実だとするならば、大ごとになる前に潰す必要がある。シュートリンゲン公爵家の不正の証拠はなかったはず。あっても用意に叩き潰される。となると、最悪、暗殺という結論になるか。
ただ、今回はシュテファンの時と違って本物の貴族だ。さらに言うならば国の心臓たる宰相でもある。流石に心臓は言い過ぎか。ただ国の要人であることは間違いない。そんな人間を暗殺すればどうなるか。ただでさえ多い仕事が増えることは想像に難くない。
まったく、余計な仕事を増やしてくれやがって。
西部戦線でヴァイネスと思いっきり火花を散らしている最中だというのに。だけど、帰らないわけにはいかないだろう。これは俺じゃないと手が出せない案件だと思っている。ただ、こちらにも部下を残しておかないとなあ。第一候補はスフィアだが、リリアーナ王女がいる以上王都を離れさせるわけにもいくまい。となるとリーベルと、後は単純な戦力としてカーマインを呼び出すか。
まあ、そう簡単にヴァイネスが手を引くとも思えないから、とりあえず一撃くれてやりますけどね。
「お前ら! アッフェバーデンを落とした今こそ奴らは油断している! 手痛い一撃をくれてやるぞ!」
旗を降ろした船の上で俺は叫ぶ。出発前の激励だ。今回はメイデンスの船団ということがバレないよう、旗は海賊旗だ。さら言うなら、恐らく西部戦線初の本格的な海戦になる。
やることは簡単。補給線を沈める。物資を奪う。ただそれだけだ。
元々海賊の船だったわけで、足は速い。さらに、海での戦いにも慣れている。不意を打つ一撃でもあるわけだから、こちらが有利だろう。
ヴァイネスのことだからメイデンスに俺がいるのはバレているだろうが、だからと言っていつ襲撃してくるかはわかるまい。まあ、対策はしてるだろうし、2回目以降が成功するとは思えないが。でも、ヴァイネス本体にかかわらないことに俺が本気で来るとは思っていないだろう。俺も本気で行く気はなかったし。
「兄貴の言う通りだ! 今こそ俺たちの本領を発揮するとき!」
「ちょうど暴れたりねえって思ってたんだよ」
ああ、エフゲニアがいないのは痛い。あいつも結構な魔法使いだったからな。サラには負けるが、俺じゃあ逆立ちしても届かなかったのに。
海戦は直接近づきにくいから余計に魔法使いの有利不利が出るんだよ。まあ、船が強ければ近接戦になるし、海賊の戦い方はそんなのだけどさ。
実際、動き回る船に魔法を打ち込むのは結構大変なのだ。
「敵影発見!」
「よし、お前ら! 戦の準備だ!」
冒険者も何名か連れてきている。魔法使いと、その護衛だ。船の上は揺れるから慣れてないと戦いにくい。まあ俺は三次元的な戦い方もできるからそこまで苦手じゃないんだけどさ。
この海戦に関してはジャックだとあまりバレたくない。ヴァイネスに与える情報は小さい方がいいからね。そういうわけで今日の俺はユリウス・ドーソンだ。ついでに仮面も被る。
「前口上はいらねえ! よっしゃ魔法部隊放て!」
ゴロッソが指示を飛ばす。いつもよりも最大射程が長いはずなのに、よく管理している。本当にこいつは優秀な指揮官になりそうだ。生まれる環境を間違えたんじゃないか。
ただ、一時的な部下になればいいと思ったので教育は施してないんだよ。惜しいことをした。
魔法が着弾する。相手の船団の数は7隻。その内2隻のマストが折れ、1隻は甲板が燃えている。まあ火は消えるだろうが。
「次だ次! 飛行魔法が使えるやつ以外魔力は温存しなくていい! 出来る最高の攻撃を叩きこんでやれ! 目標はあの一番でっかいやつだ」
俺たちの戦法は一撃離脱。魔法をもう1回打ってる余裕はないからな。
7隻も同時に相手をする余裕はない。いや、あるんだけどスピードを重視した場合相手をする必要はない。なら、一番大きい船を沈める、か。合理的だな。
敵の船の横っ腹に穴が開いた。浸水して傾いていく。あれは沈む。やけくその特攻には要注意だがその分避ける戦力が減った。それじゃあ、もう一隻くらい沈めますかね。俺の魔法でも船底に直に打ち込めば穴をあけられるはずだ。
「俺にも飛行魔法をよこせ! 一番奥の船は俺が担当する!」
「兄貴!? 大丈夫ですかい?」
「任せておけ」
船の中のような狭い所で戦うのはむしろ得意なんだよ。
「引き揚げろ! 撤退だ! 俺たちの勝利だ!」
ゴロッソが指示を飛ばす。よく通る声だ。
3隻の船が沈み、2隻は炎に包まれている。水魔法を使っても消化しきれないだろう。1隻は今必死に鎮火作業が行われていて、もう1隻に俺たちが襲撃をかけていた。
奪った積荷は3隻分弱。敵の船団は2隻まで減った。しかも積荷もだいぶ減った。十分な戦果だろう。
ゴロッソの声に合わせて船から戻ってくる冒険者たち。冒険者登録はしていない奴の方が多いが、もうこいつらは海賊じゃないしな。おいていかれたら大変なことになるしな。
見る見るうちに船が離れていく。足の速さは俺たちに分があるしな。
「大勝利だ! 今夜は酒盛りだ!」
湧き上がる船内。奪ったものの中には金貨もあるしな。ちゃんとした酒場で飲むのもこいつらはいつぶりなんだろうか。
「兄貴も流石っす。まさか一人で一隻沈めるとは」
「まあな。ただ、次からは相手も警戒してるはずだ。下手は打つなよ」
「わかってるっす。任せてもらうっす」
まあ実際は火薬庫に火をつけたんだけど。
さて、これだけ損害を与えれば、ちょっとは時間が稼げるだろう。リーベルも俺ほどではないが相手の心理を読むのが得意だ。上手くバランスを取ってくれるはずだ。
その間に、王都のごたごたをかたずける。
その翌日、俺は港町メイデンスを後にした。目指すは王都ガルテン。陰謀渦巻く一番の魔窟だ。
新章突入! 果たしてヘルマンは裏切ったのか。そしてリリアーナ王女の動きは。
さらに、知られざる秘密が明らかになる……!?




