ヴァイネスの作戦は
ごめんなさい、嘘つきました
予定より長くなっちゃいました
おかしい。
何かがおかしい。そう思った。あの後、何度か魔王軍の小規模な襲撃があり、その度に撃退に成功している。騎士団の方も攻め込む好機なんじゃないかなんて意見が燻ってるし。
相手は芭蕉扇のヴァイネスのはずだ。それなのに、どちらかと言えば人族側が押している。俺は何もしていないにもかかわらず。
可能性は3つだ。ヴァイネスが本気を出していない。ヴァイネスが裏で何かを企んでいる。そもそもヴァイネスはノーチラス砦にいない。
ヴァイネスが本気を出していないっていうのはないな。本気で西海岸を占拠するつもりはないのかもしれない。けれど、俺の首を狙ってこない。ヴァイネスならのどから手を出しても欲しいはずだ。そのためには少々の揺さぶりは掛けてくる。けれど、現状俺を狙った刺客は出てきていない。
さらに言うなら、功を焦った馬鹿な冒険者たちが行方不明になっている。攻め寄せようとすれば痛い打撃をこうむるだろう。防御はしっかりとしている。本気じゃないとは考えにくい。
なら、ノーチラス砦にいないのか。恐らくそれもない。ノーチラス砦にいないというのであれば、そういう噂が流れるはずだ。ヴァイネスはもういないと。あるいは、現場の兵の士気にも影響する。王がいる軍勢と王のいない軍勢、どちらの指揮能力が同じだったとしても王がいる軍勢の方が士気が高い。偉い人がいると思うと、上がるものだからな。ヴァイネスは王でこそないが、四天王に収まっている。士気が上がることだろう。
それを巧妙に隠せるとは思わないからな。末端に意図が正しく伝わることなんてまずない。つまり、ヴァイネスはノーチラス砦に滞在している。
なら、答えは1つだ。裏で何かを企んでいる。当然だよな。俺は現状アッフェバーデンから動いていないし俺を殺したいのならアッフェバーデンを襲うのは必須。なんだけど……。
なぜだ。少しではあるが、アッフェバーデン側が押している。どちらかと言えば城壁側に引き寄せたいが、わずかに魔族側の方が損害が大きい。そう誘導しているのか?
わからない。だが、俺の勘は違うと言っている。俺にいなくなられては意味がないからな。
攻城戦というのは、実は意外と取れる手が少ない。奇襲で一気に奪い取るか、圧倒的な物量で制圧するか、敵の補給を断ち、長期戦に持ち込んで疲弊させるか。ああ、あと奇策を用いて攻めるというのもある。
現状、奇襲という手段はない。圧倒的な物量もない。補給を立たれているわけでもない。となれば、ヴァイネスが用意するのは奇策。俺やヴァイネスが得意とするところだ。
まず考えられるのが、現状この街に冒険者が多く訪れている。その中の誰かを裏切らせるか、変装して中に入り込ませるか。そうしてアッフェバーデンを混乱に陥れる。この街の混乱耐性は低い。比較的簡単に街は街として麻痺するはずだ。
ただ、だからと言って城門が開くわけではない。ノーチラス砦からアッフェバーデンを落とそうと思ったら絶対にアッフェバーデンの城壁か城門を越えないといけないからな。あるいは、港に入り込むか。だけど、そこは騎士団が握っている。そして騎士団はそんなポカしない。ついでに言うと俺を殺せるわけでもない。街にただの兵士が何人かが入り込んでも内部が混乱するだけだ。一手足りない。
なら、ただの兵士でなければ。例えば魔法使い。彼らは一人で大きな打撃を与えることができる。ひょっとしたら城壁にもダメージが入るかもしれない。脱出はできなくなるが、捨て駒としてはいい作戦かもしれない。
そこではっと思いついた。魔法使いだ。俺は敵の魔法使いの姿を見たか? いや、見ていない。そりゃ何人かは戦場に出ているが、サラ級はいないにしてもそこから2段階くらい劣るやつはいてもいいはずだ。なのに、姿を見ていない。いるはずなのに。
戦争というのは大体魔法の打ち合いになる。いかに魔法を打つか、そして相手に打たせないか。それが大事になる。海戦なんて特にその傾向が顕著だ。その上で重要になってくることが2つ。1つは当然破壊力。そしてもう1つは、魔法の射程だ。
その2つというのは誤差はあれど大体比例する。破壊力が高い魔法ほど高度になり、射程も伸びる。だから自軍にだけ大魔法使いがいれば相手の射程外からぶっ放せて有利なんだよな。まあ、冒険者として活動するとそれだけじゃなくて小技とかも必要になってくるが。
話を戻そう。言い換えるならば、大魔法使いの方が射程が長いということになる。それと破壊力。それが魔法使いが軍の戦いで重用される理由である。けれど、その姿を見ていない。
おかしい。
例えば、城壁の破壊。そう簡単に崩れるわけではないが、ダメージを与えることができる。
例えば、敵の一掃。もちろん大魔法を使うには下準備が必要だが、それを使えれば強力な一撃となりうる。
他にも、土魔法を使って城壁の周りの土を盛り上げ坂を作って兵に乗り越えさせるなんて使い方もある。あるいは洪水のヴァルターなんかは文字通り洪水を起こしてリーゼンヌ砦の周囲を沼地に変えてしまった。おかげで攻めるのにも苦労している。そんな感じで自分たちの都合のいいフィールドに改編することもできるのだ。はっきり言って魔法使いがいるのといないのじゃ天と地ほどの差がある。
だから、確実にいるはずなのだ。なのに、姿を見せていない。何をしているのか。
いったい何を企んでいる。魔法使いが戦場に顔を出せない理由は何だ。どんな裏工作を企んでいる。魔法使いがいなければ、正面から突破するのは難しいというのに。
いや、逆に考えるんだ。正面じゃなければ、アッフェバーデンを狙えると。なら、それはどこか。地下か。
リーゼンヌ砦もそうだった。ミスリル川の下をくぐるトンネルを掘って侵攻された。それを考えたのは誰か。ヴァイネスのはずだ。なら、下から攻めてもおかしくない。
いや、違うな。ここは港町だ。そして温泉地でもある。当然地下水も多い。そして、街中には結構石畳が敷かれている。そんな中をピンポイントで掘り進められるか? 城壁の内側から穴を繋げるというのも考えたが、地下水で沈没してしまいそうだ。中から突然魔族が現れるというのは考えにくい。
だが、それ以外にも地下に穴を掘る利点はある。地盤沈下だ。地下水が入り込み、城壁が傾くことがある。あるいは、支柱を破壊してもいい。そうすれば城壁はもろくなる。
アッフェバーデンの海抜は低いからな。地盤沈下が起これば水につかって被害が及ぶ。
魔王軍に魔法使いがいないのも納得だ。土魔法を使えれば、掘削が楽になる。
夜、寝静まったころに耳を澄ます。水の音、温泉が湧きだす音、いびき。まだ活動している食事処に娼館、あるいは寝ずの番の騎士団の炎が跳ねる音。それらをすべて排除して、目的の音を探す。
砂の崩れる音。あるいは、岩を削る音。そんな音だ。そんな音を探せ。
北門から外へ出てみた。カサブランカの剣を連れていく。攻めてくるとすればこっちの方角のはず。東はアッフェローゼと繋がっているし、西は港、南にも上陸したという話はない。ノーチラス砦から攻めてくるのならば、北側と、西の港に乗り付ける。現に今魔族軍はそっちから攻めてきているしな。
音がした。この音は、俺の探している音だ。地下の坑道を掘削する音。門から200メートルほどのところか。ちょっと遠いな。
「エフゲニア、ここを掘ってくれ。恐らくその下に、魔王軍が穴を掘っている」
「あ、うん。わかった」
土魔法が使われ、ごっそりと土が削り取られる。その下に、小さな穴が開いていた。直下に気配がないことを確認して飛び込む。たいまつに火をつけると、ミーアとニーナも飛び込んできた。ジークリンデとエフゲニア、リオは待機だ。
「いたぞ、魔族だ!」
ミーアが一気に襲い掛かる。なすすべもなく切って捨てられた。俺も罠を警戒してみるが、ない、か。
「おい、これだけか?」
「これだけだが、どうかしたのか?」
穴を掘っていたのは4人。休憩している奴もいない。一体どういうことだ。数が少なすぎる。
この穴以外にも掘っている穴はあるはずだ。つまり、この穴はフェイク。そういうことになる。心なしか坑道も小さい。湧き水もろくに捨てていない。まるで穴を掘りましたという結果が欲しいだけのようだ。
ほかの穴に本名がある? いや、そういうわけでもなさそうだ。というのも、穴を掘る音が遠い。アッフェローゼを攻めだしてから結構時間がたっているはず。なのに、まだ200メートルも残っているのだ。それより近い所では聞き取れなかった。
となると。
「ああ、いや、何でもない。事前に潰せてよかったな。騎士団に報告しておこう。これで手柄は俺たちのものだ」
「そうだな」
ミーアにそんな台詞を投げかける。これが本命であったとでもいうように。
そんな馬鹿なはずはない。これは本命ではないし、並行するように走る他のいくつかの坑道も本命ではない。なら、下からくるわけでなければ、どこから来るか。答えは簡単だ。
敵は空からくる。
空からくると予想したジャック。それに対してヴァイネスはどこから兵を向けてくるか、どれが本命なのか。読みあいの勝者は!
次回こそアッフェバーデン陥落の予定




