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ミーアという女

あれ、主人公ってこんなにヘタレぽかったっけ

 いろいろあったわけだが、温泉は総じて良かった。

 服を身にまとう。まあ、短剣は肌身離さず太ももに括り付けていたし、弓も俺の部屋だ。盗まれたら困るが、罠を張り巡らせているから大丈夫だろう。


 さて、芭蕉扇のヴァイネスはどんな手段に出てくるか。昼間の攻撃で、俺がいるということはわかったはずだ。ここからどういう攻勢に出てくるか。


 ただなあ。俺もヴァイネスも、戦場での指揮はあんまり得意じゃないんだよなあ。相手の心理を読むことは得意だし、裏のかき合いなら五分だとは思ってる。だけど、ある意味で機械的というか、数字でしか見られない、そんな感じがあるからな。

 一つ救いなのは、サラ級もしくはそれに準ずるレベルの魔法使いがいないことか。俺のところにも結構情報が入っている。敗走したノーチラス砦の兵士からの情報も入っているからな。それによると、素早く攻め寄せられ、防御陣形が整う前に攻撃されたとか。大魔法を使われた形跡もなし。砦を壊したくなかったというわけでもないだろうし。


 サラやキールマンみたいな魔法使いがそういるとは思えないが、それに一段か二段劣っても魔法使いというのは役に立つ。だからいかに大魔法を使わせないかっていう戦いになるんだよね。その上で兵同士を戦わせる。だけど、スピードを重視したのかいないという情報が入っている。

 まあ、いるだろうな。隠し玉として。だって、俺が出てくることわかってるはずだもん。


 やめだやめ。こういう指揮はニルスの方がまだましだ。考えても仕方がない。いや、思考を放棄するわけじゃないけれど、考えたところで仕方がない部分がある。


 それより今は、ミーアに酒に誘われてることだよな。お世話になったし、酒を酌み交わすのはやぶさかではないがさっきのあれの後でまだ俺と酒を飲みたいって正気かよと思う。女心とやらはさんざん利用してきたわけだがさっぱりわからん。肝心のサラの考えてることもなぜか読めないしな。

 それにしても、さっきのミーアはすごかったなあ。って何を考えてるんだか。


 でもまあ、行っておいた方がいいよな。カサブランカの剣は強力で、ある程度影響力もある。親密になっておいて損はない。よし、行くか。


「遅かったな、ジャック。待っていたぞ」

「悪いね。俺にもこいつと同じものを。それで、何用だ?」


 酒場のバーから離れた一角のテーブル。その向かいに座った。


「いや、何。せっかくだからジャックの冒険譚も聞きたいと思ってただけだ。ニルスたちも元気にやっているか?」

「ああ、たぶんな」

「加入したのは3年前だったか。やっぱり貴族の相手は苦労するよな」

「ああ。さんざん苦労したよ」


 ミーアは出自を話したがらないけれど、たぶん没落した貴族の家系だと思っている。そのせいか、貴族関係の話を嫌ってるんだよな。

 冒険者が好むのはやっぱり冒険譚だ。小さな英雄が大きな強敵を倒す話は王道だからな。自分以外がどんなことをしたのかも気になる。


「しかし、あの高慢ちきな魔法使いと恋仲になったと聞いた時は驚いたぞ」

「そんなことを言うな。確かに態度はあれだが、めちゃくちゃかわいいんだぞ」

「惚気はいい。それより、そっちの冒険譚も聞かせてくれ」


 それじゃあ、聞かせてやるとするか。俺たちの話を。




「まあ、そういうわけで、火輪のカリンを討ち取ったわけだ」


 だいぶ良いも回ってきた。そもそも俺はあんまり酒が強い方じゃないしな。まあ、前後不覚になるほど飲むことはないし、話しちゃいけない範囲もわかっているが。

 逆にミーアは酒に強い。肌こそ赤くなっているものの、目つきも変わってないし、平衡感覚も崩れてない。


「羨ましいよ。楽しそうだからな」

「そっちこそ、仲がいいじゃないか」


 実際は俺たちは仲がいいけど気の休まる暇がなかったからな。その分は大変だった。こうして温泉につかってのんびりしたのも3年ぶりになるのか。警戒は抜けなかったけど。


「こっちはジークがことあるごとに絡んでくるからな。大変だよ。お代わりをくれ」

「なるほどな」


 店員が新しい酒を運んでくる。


「仲が良かったのなら、なぜ追放されたんだ?」

「それは、いろいろあるんだよ。いろいろとな」


 思わせぶりなことを言う。色恋沙汰とでも思ってくれないだろうか。


「見返したいと思わないか?」

「それは……」

「私たちのパーティーに入ればいい。そうすれば、見返せるぐらいの手柄は手に入るぞ?」


 また勧誘。それではっとした。ミーアに感じて違和感の正体がわかった気がする。


「なあ、ミーア。お前焦ってないか?」

「っ!!!?」


 目に見えてミーアが動揺する。そうか、そういうことだった。何か焦っている。功を急いているというわけではないにしても、時間に少し恐怖を覚えている。このままじゃだめだと、俺を焦って勧誘して。普段ならそういうことはしない気がした。


「ああ、よくわかったな」

「何となくだがな」

「そうだよ、私は焦ってる。私たちはと言った方がいいかもしれないな。ジャックと出会ってから3年もたっているんだぞ?」


 視線がグラスに落ちた。


「エフゲニアが結婚するらしい」

「そうか。めでたいな」

「それはそうだ。だが、その場合今のまま冒険を続けるわけにもいかない。抜けるんだろうな。それに、私も嫁ぎ遅れと言われるくらいの年齢だ。焦っているさ」


 ……俺年齢知らないんだけど。

 冒険者の結婚適齢は大体貴族にプラス5くらい。10することもある。30はまだ行ってないのかもしれないが、大分近いということになるな。まあ俺も、結婚していてもおかしくない年齢なんだけどさ。


「それに、ちょっと前に足を痛めてな。そのリハビリもかねてここにきている。大分焦っているさ。だからこそ、君の力が欲しい。カサブランカの剣を作り直したい」

「なるほどな」


 腑に落ちた。確かに仲間が結婚して、自分も怪我をして。焦らない道理はないか。

 よかった。カサブランカの剣とは敵対したくないからな。第二王子派から声を掛けられてるなんてことであれば処分するのは忍びない。

 いけないな。酒の席だとどうしても表情が緩む。


「そういうわけで、お前の力が欲しい。リオも誘ってるがな。どうだ、受けてはくれないか」

「悪い、やっぱり俺には無理だ。俺はサラが好きだし、追放されてもやっぱりそうだよ。その思いにはこたえられない」

「やっぱりか。なあ、ジャック。もし私と先に恋仲になっていたらどうだった?」

「さあ。でも、今の選択を後悔はしてないよ」

「そっか。お前はそう言うやつだ」


 ミーアもなんだかんだ言いつつ魅力的だしね。だからよくわからない。だけど、中途半端な慰めの言葉はいらないと思った。

 まあ、こんなこと酒の席でしか話せないけれど。


「だけど、私はお前のことを仲間みたいなものだと思ってる。だから、そうだな。1度、1度だけ、まったくの損得なしでジャックの味方をしよう」

「なら、俺もだな」

「それはともかく、今日は酒に付き合え。再会と、エフゲニアの結婚と、後失恋とその他もろもろだ」

「ついでに魔族の撃退祝いだな」

「そういうわけだ。お代わり!」


 高らかにミーアが叫ぶ。

 そうだな、俺も今日は酒に付き合ってやるか。ミーアは俺の貴重な友人だし、損得抜きにした場合、楽しいと思えるから。

ミーア(酔っ払い)

主人公(ほろ酔い)

エフゲニア(知らないところで死亡フラグを建てられた)

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