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俺とヴァイネス

ジャックとヴァイネスって、両思いだと思うんだ(語弊あり)

 途中から、俺は船の方を副官のゴロッソに任せてきた。王都の方で出した依頼を受けたやつらが到着するだろうからな。俺もそのタイミングに合わせた方がいい。

 と言っても、最前線を離れるわけではない。その逆だ。メイデンスではなく、アッフェバーデンへ滞在するのだ。それも、ユリウス・ドーソンとしてではなく、王都でもそこそこの名前を誇っていた冒険者ジャックとして。

 俺は、レインに王都などで依頼を出すように指示を出した。それは、有名な冒険者をアッフェバーデンへ向かわせろというもの。通常より相場の高い金を出して、向かわせる。それだけでいい。だって、カモフラ―ジュだし。

 ……金がどんどん減っていくが、仕方ない。使うべき時に使う、それが金の役割だ。


 それに、テレマンティン伯爵家の不正の証拠をシュートリンゲン公爵に渡したからな。これで、パトロンになってくれるはずだ。




 それにしても、かなり集まったな。アッフェバーデンに来た冒険者たちを見ながらそんなことを思う。俺の顔なじみも何人もいる。ミスリルコーンの方が人気かとも思ったんだが。それに、冒険者は気まぐれだからお金を積んでも動かないことがあるんだけどね。


「よう、お前も金に踊らされた口か?」

「ああ。そういうマイケルこそどうなんだ?」

「金と、まだ見ぬ強敵を求めてだな」


 豪快に笑うこの男はマイケル・シュン。眉間抜きの2つ名を持つ高名な冒険者だ。ニルスたちとも何度かあったことがある。その2つ名の由来は、その強さで敵の眉間を突き刺す……からではなくただ馬鹿だからだ。ほら、真ん中の2文字を取ると、間抜になるだろ。何も知らぬは本人だけだ。

 ただ、実力は確かだし、名前も売れている。というか、2つ名持ちばっかりだ。

 『眉間抜き』のマイケルを始め、飛竜を討伐したこともあるパーティー『白カラス』、女性ばかりの4人組『カサブランカの剣』、『勇者に負けた男』マイナー・リッテンソン、『西から来た女』リオ。その他名だたる2つ名持の冒険者たちと、まだ2つ名はないものの実力を持つ人々。そして、当然俺、『闇の王子』ジャック。

 あの性悪王女! 絶対面白がって2つ名を流しただろうが。闇の王子なんて言う不敬もいい所の2つ名を知っているのは俺とリリアーナ王女の2人しかいない。それからリリアーナが話した人間だけだな。俺はそんなことを話したりしない。絶対に何かしやがったに決まってる。


 まあ、それはともかくとして、冒険者たちに集まってもらえてよかった。まあ、はっきり言って俺はこいつらを戦力としてあてにしたわけじゃない。まあ、戦力として期待していないわけじゃないが、本来の目的はアッフェバーデンに来た。その一言に尽きる。俺が来たということをカモフラージュするために。

 俺が単独でアッフェバーデンに来たとすればどうだろう。今の俺は勇者パーティーを追放された身。取り込んでよからぬことを企む輩がいてもおかしくない。そんな状態で、俺が最前線の都市アッフェバーデンに来た。しかも、ヴァイネスのお膝元だ。何か良からぬことにつながりそうだ。


 だが、数多くいる冒険者たちの一員としてきたのならどうだろう。俺は冒険者としてはそこそこ有名だ。実力もある。そんな俺が混ざっていたとしても、ああ金を稼ぎにしたのかくらいしか思わないはず。味方は。


 だけど、それは違う。俺がアッフェバーデンにいて、そのことをヴァイネスが知っていることに意味があるのだ。


 俺があいつのことを嫌っているように、あいつも俺のことを嫌っている。ずっと煮え湯を飲ませ飲まされ続けてきた仲だ。相手の策略を見抜き、時には裏をかかれ、けれどそれさえも利用し、均衡を保ってきた。同レベルの頭脳でいつもしのぎを削っている。きっとあいつも魔族一の智将だという自負があるはずだ。それが、俺相手に阻まれてきた。これが目の上のたん瘤にならないはずがない。実際俺そうだし。

 俺とヴァイネスの思考回路は似ている。ほとんど同じと言っても差し支えないくらいだろう。同族というやつだ。そういう点では俺はヴァイネスのことを信用している。期待を裏切らずに、こちらに苛烈な一手を加えてくると。だからこそ、俺はヴァイネスの思考回路を読んで次の一手を打つことができる。


 重要なことが一つある。芭蕉扇のヴァイネスは俺のことを疎ましく思っていて、ことあるごとに排除しようとしてくる。俺も同じだ。だからこそ、ヴァイネスが罠があると知っていたとしても、アッフェバーデンに攻撃を仕掛けに来る。絶対に。


「よう、闇の王子。お前も随分有名になったな。あの時はまだ新人だったのに」


 カサブランカの剣のリーダー、ミーアが俺に声をかける。


「その名前はやめてくれ。どこのどいつだ、こんなおかしな2つ名をつけやがったのは」

「確かに、そうだな」


 カサブランカの剣には、俺が新人だったときに少しお世話になった。と言っても、元々盗賊職の役割は得意だったから、あまりお世話になったとは言えないが、それでも俺の恩人の一人だと言える。


「聞いたよ。ニルスのところを追放されたそうじゃないか」

「おかげで、今はとりあえずソロでやらせてもらっているよ」


 ミーアは結構さばさばした性格をしている。そのおかげで話しやすい。ニルスたちと同じ貴重な友人の一人だ。ほとんどの人間が敵か部下になっちゃうからな。

 明るめの栗毛に、緑色の瞳。スタイルもよく、身長も俺より高い。美人で、性格もよく、しかも強い。あこがれる男も多いんだよなあ。俺はサラ一筋だけど。

 あと、年齢は俺より少しだけ上だと思う。聞いたことないけど。


「ならちょうどいい。私たちのパーティーに参加しないか? お前の腕は信用している。特に料理はうまい」

「料理目当てだろ」

「違いない」


 快活にミーアが笑う。こういうやつだった。


「だけど、お前のところは女ばかりだろ? そんな中に男がいていいのか?」

「問題ない。たまたま気が合うのが女ばかりだっただけだ。それに、ジャックの腕はみんな知っている」

「ただ、それだとジークリンデはどうなる?」


 ジークリンデというのはミーアのところの盗賊だ。確かミーアのことが大好きだったはず。


「別に盗賊が2人いても何の問題もないだろう? それに、仕事がだいぶ楽になる。十分な稼ぎはあるしな。どうだ、ジャック。うちに入ってみないか?」

「あ、ああ。ちょっと考えさせてくれ」


 本当は考える必要なんてない。カサブランカの剣は強い。お金も手に入る。陰謀に負けたりだってしないだろう。

 だけど、俺が追放されたのは自由に動き回るためだ。パーティーを組んでしまえば、その利点はなくなる。


「いや、やっぱりやめておくよ。しばらく1人でやってみたい」

「そうか、ジャックならどうにでもなるさ」


 しつこくなく、だけど他人をおもんぱかることができる。それがミーアの強さだよな。


「それより、せっかく港町まで来たんだ。少し遊んでいかないか?」


 そう言うと、ミーアはウインクする。この後は、特に予定もないな。メイデンスはゴロッソに任せてあるし、ヴァイネスを誘い出さないといけないからアッフェバーデンから動けない。なら、息抜きでもするか。




「このサーフィンとやらは便利だな」

「そうだろう? そう思って作ったんだ」


 カサブランカの剣以外にも、海水浴を楽しんでいる冒険者はたくさんいた。騎士や貴族の軍と違って、こうやってのんびりできる冒険者でいる人間も多い。自分たちの都合で行動できるからな。

 サーフィンというのは、板の上に載ってバランスを取り、波を滑走する遊びらしい。だが、これを使えば海上を目立つことなくわたることができる。泳ぎよりも体力が消耗しないし、何かに使えるかもな。


「急いで来てみたら、まだ魔王軍はやってきていないみたいだったからな。最近聞いたものを作らせてみたんだ。こうやって遊ぶ時間もあったしな」

「だな。こういうのもたまにはいい」


 しかし、こうやってのんびりするのもいい。警戒は抜けないけど、たまには血と汗にまみれない時間があってもいい。全て終わったら、サラと一緒にこうやってのんびりできるといいな。


 けれど、そんな時間もすぐに終わる。


「魔王軍だ! 魔王軍の先遣隊が来たぞ!」


 さあ、本格的な戦闘の始まりだ。

ここで新たなヒロインミーアが登場!

そして、わかっているか? 思い出せ、今ジャックが滞在している街の名前を。


そうだ、アッフェバーデンだ。

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