空街の計
そろそろ毎日更新がきついっす。誰か、私にモチベーション(ポイント)を……
さて、この作戦の肝だが、それは芭蕉扇のヴァイネスを西海岸の戦線に縛り付けること。魔族軍を撤退させることでも、街をしっかりと守り切ることでもない。
……俺にとってはという注釈がつくが。
そのためには何が必要か。ヴァイネスが指揮をとらざるを得ないような、そんな激戦を演じればいい。取って取られて買って負けて。街を侵略されて奪い返してと言ったような、拮抗した泥沼の争いが。
そういうわけで、アッフェバーデンはくれてやるつもりだ。いや、最終的には取り返すかもしれないが、ノーチラス砦が奪われた今、アッフェバーデン及びケッヘルゾーンの奪い合いに持ち込みたい。
もちろん、俺とて無意味に市民を死なせるようなつもりはない。被害は最小限にしたいからな。ただ、街を奪い合うのは確定だ。ならば、被害が及ばないようにするにはどうすればいいか。決まっている、市民たちを別の場所へ避難させればいい。それこそ、メイデンスのようなところへ。
そのためのドライスリッター家の旗であり、海賊たちに恩赦を与えて作った船団だ。まあ、他にも意図がないわけじゃないけどさ。
「しかし兄貴、もう一度聞きますが、その話は本当っすか? その、恩赦をいただけるというのは」
「本当だ。俺に協力すれば、これまでの罪を全部許す。王子殿下からも許可をもらっている」
船の甲板。一番大きな船の船長で、俺が副官に任命した元海賊の頭領が聞いてくる。こいつは海賊の中でも頭を使った作戦が得意だ。こうして俺の副官に任命するのにはちょうどよかった。
「それに、今の俺たちは未来の英雄デニス様の軍勢だぞ? そんな人間を簡単に処罰できるか」
「そうだな、兄貴の言う通りだ」
「まあ、それも、これがうまくいったらの話だがな」
副官のゴロッソが眼を泳がせる。まあ、大丈夫だろう。この船で暴行を起こすような馬鹿野郎がいたら海に投げ捨てるつもりで入るが。
「しかし、兄貴、いくら四天王が攻めてくるっつっても、そんな簡単に街を捨てられませんぜ。俺だって街が残ってたら海賊なんてやってないわけで」
こいつは、どこか壊滅した街の生き残りだったのか。まあ、どうでもいいけど。
「そんな奴は放っておけ。俺たちは救える人間のみを救う。街と命運を共にするって馬鹿もいるだろうさ」
「でも、俺たちが信用できるのか? 本当に魔王軍はアッフェバーデンを襲うのか?」
「ああ。餌は撒かれる。それに、アッフェバーデンは恐慌状態のはずだ。むしろ無理やりにでも乗ろうとする人間に注意しろ」
海戦というのはたいてい魔法の打ち合いだからな。そんな中で俺が人数をそろえたのには理由がある。簡単だ。アッフェバーデンで暴動が起きることを想定しているからだ。つまり、対人間用ということだ。
メイデンスについて海賊たちを味方に付けた後、俺は部下に指令を出した。その内の1つが、アッフェバーデンで噂を流せという指示だ。その内容は簡単。もうすぐ魔王軍がアッフェバーデンに攻めてくる。攻める準備をしている。アッフェバーデンが戦火に包まれる。そんな、人々の不安をあおるような噂だ。
これがミスリルコーンなら、冒険者や戦いに関連する人々が集まったミスリルコーンならいつものことだ。けれど、その噂が流れたのはアッフェバーデン。ノーチラス砦のすぐ近くとはいえ、これまで最前線でもなんでもなかったただの港町だ。当然、混乱に対する態勢も低い。それこそ、俺がちょっと手を加えるだけで街の機能がストップするような。いや、手を加えなくてもよかったかもしれないな。
……実際、俺たちがついた時点で、港は大混乱だったのだから。
「おい、この船はどこへ行くんだ!」
「乗せて、私を乗せて!」
「子どもが、子どもがいるんだ!」
……やり過ぎた。
船を横付けするわけにもいかないなと思って小船を出したのだが、我先にと群がってくるし、中には自分で泳いで船へ向かおうとするやつもいる。俺たちが助けに来たと叫ぼうとも、声が通らない。
アッフェバーデンの軍が逃亡を防ごうと頑張っているが、完全に負けているもんな。というか、兵士の士気も低いし。
食料は大量に積んだ。水も一応はある。だから、かなり多い人数をメイデンスに運べる。が、それでも限りがある。というか、船を何隻も連れてきたが、1隻に受け入れられる人数は限りがあるもんな。
完全に俺のミスだ。
それでも、何とか俺たちは、港に集まった人々のうち、800人ほどを収容し、水も買い込んで出港することができた。途中武器を振り回したりもしたが許せ。また戻ってくるんだから。
「あの、兄貴、これをいつまで続けるんだ?」
「空になるまでだ」
「ええっ!?」
ゴロッソが驚く。こいつ優秀だな。ニルスが国王に就任したら、海軍のいい感じの役職を任せてもいいかもしれない。
「そんなことをしたら、アッフェバーデンから人がいなくなるっすよ!? 魔王軍に奪われますよ?」
「別に構わん。それに、民は救える」
まあ、実際問題俺は町が一つ潰れたくらいでは特に気にも留めないのだ。いや、流石に内乱が起こったら困るけど、魔王軍との陣取りゲームに興味はない。興味があるのは第二王子派の粛清、それから残る四天王ヴァイネスとヴァルターの首だけだ。
あれから、何度も往復した。魔王軍とちょっとした小競り合いもあった。後は、衛兵とちょっとしたいざこざがあって俺が斬り捨てたこともあった。船団員が混乱のさなかで殺されたこともあった。あるいは何を勘違いしたか元海賊の部下が避難している最中に女を犯そうとして、俺が斬り殺したこともあった。けれど、何往復もしたおかげで、人はだいぶ減っている。
避難しようとする市民がいなくなるまで、続ける。それの予想が大体1万人だ。
もちろん、アッフェバーデンという街に誰も残らなくなるわけじゃない。最前線の拠点として騎士たちは集まっているし、金と名誉を求めた冒険者たちも集まっている。気に聡い商人の中で腕に自信のあるものは武器を売りつけに来た。あるいは、ここを離れられない馬鹿な者たちもいる。混乱が収まりつつある中で、逃げ出さない人間もいた。
「土地は奪えばいい。取り返せばいい。だが、失った命は戻ってこない。ならば、命を救う。そのことに何の疑問がある?」
「流石兄貴、かっけえっす。一生ついていきます」
あとはなあ。こいつが結構面倒なことになった。いや、優秀だし、口調に目をつぶればとてもいいやつなんだ。だけど、こうなるのは想定していなかったから。
「ところで、本当に魔王軍は来るんすか? 守りも固いし、アッフェバーデンを奪ってもなんもないっすけど」
一生ついていくと言った後にゴロッソが舌を翻す。まあ確かに、魔王軍が攻めてこなかったら俺たちは勝手に他領の民を奪った逆賊扱いされても仕方ないからな。不安になるのもわかる。
けれど、俺には絶対の確信があった。顔色一つ動かす必要のない確信が。
「来るさ。相手の指揮官は芭蕉扇のヴァイネスだ。そいつが来ないなんてことはありえない。あいつがとてつもなく欲しがる餌を、用意してやったからな」
これが、俺の2つ目の指示。王都や、王国中部の高名な冒険者に、アッフェローゼに向かえば金を渡すと向かわさせた。おいしいおいしい餌のために。それが罠とわかっても、踏み込まざるを得ない。相手が芭蕉扇のヴァイネスだからこそ使える一手だ。
街から人を減らしつつ、餌を用意する。そうして、街を一つ賭けて大掛かりな戦闘を行う。そうしてヴァイネスを縛り付ける。それが、俺の用意した空街の計だ。
躊躇なく街を一つ敵に渡す。それがジャックスタイル。
それにしても、ヴァイネスが食いつきたがる餌。いったい何でしょうね?(すっとぼけ)




