英雄願望
明けましておめでとうございます。今年もぜひ本作品と作者をよろしくお願いします。
お年玉の更新です(毎日更新してるだろという突っ込みはなしで)
それからお年玉ください。お願いします(とっても切実)
ミスリルコーンに雷槍のキールマン現る。その情報は、当然のようにメイデンスにも届いてきた。俺のもとにも、当然のように情報が届いている。恐らく、誰よりも正確な情報が。
ようやくだ。ようやく、ここまで届いたか。そう思う。だって、その情報はヴァイネスのために俺が流したのだから。
雷槍のキールマンはミモザカートにてニルスに討たれたはずだ。それは芭蕉扇のヴァイネスも把握している。けれど、まさか生きているのか。生きていたとしてなぜヴァイネスに接触してこないのか。恐らく疑問が生まれるはずだ。
そして、もう一人、動けなくなる人物もいる。ほかならぬニルスだ。雷槍のキールマンに相対できる人物はと言えば、ニルスを含め片手で数えられるほどだろう。キールマンが出たという情報があったからには、ニルスを向かわせるしかない。ノーチラス砦ではなく、ミスリルコーンに。西部ではなく、東部に、つまり教会派の影響力が多い所に、単騎最強のニルスが行くのだ。教会もそう簡単に事を起こせないだろう。
それに、キールマンが現れたというわけでもないのだ。キールマンが現れたわけではなく、ミスリルコーンの城壁に雷魔法が撃ち込まれた。それも、大規模の。
キールマンが得意なのは雷槍の2つ名の通り、雷――つまり光属性の魔法だ。そして、キールマンはかなりの大規模の魔法を行使できる。それこそ、魔族人族含めて行使できる人間が数えるほどしかいないような。そんな魔法が城壁に打ち込まれた。しかも、敵の影も形も見せず。そんなことができるのはキールマンくらいだ。そう思う人間がいたとしてもおかしくない。まさか、そんな簡単にキールマンクラスの戦士がポンポン現れたりしないだろうということを考えると、キールマンが復活したのではないかと思い込んでも仕方がない。人族は、特にミスリルコーンの人々はキールマンの恐ろしさをよく知っている。あの雷槍がそんな簡単に死ぬわけない、やられたとしても復活してもおかしくない。そんなことを思っているのだろう。まあ、そんな不安をあおる噂を流したのは俺なんだけど。
そんなことはない。ニルスがちゃんと討伐したかも確認しないなんてことはないし、いくら雷槍のキールマンだからと言って、そんな反則的な力は持ってない。魔族とはいえ一応生き物だからな。というか、これまでキールマンよりはるかな力を持った魔王がいたらしいが、そんな奴も復活なんかはしてないし。あれが影武者だったなんてことはないはずだ。
まあそれに、この城壁の攻撃がキールマンの仕業でないことを俺は知っている。だって、これは俺の演出なのだから。キールマンクラスの魔法を使う敵はいなかった。けれど、それが魔族ではなく、人族だとすれば? 当然、人族にだってキールマンクラスの攻撃を仕えるやつがいる。しかも、裏切るなんて普通は思わないから、キールマンの仕業に見せかけられる。
それが誰か、言う必要もないだろう? 簡単なことだ、勇者パーティーの心強い魔法使いにして、俺の恋人、サラ・リーバンスタインしかいない。
王都で俺はサラに指示を出した。東部の領地に帰省しておいてくれと。そして俺からゴーサインが出たら、ミスリルコーンの城壁に雷魔法を放て、と。そうすれば、キールマンの仕業だと勝手に思ってくれ、教会派も、後恐らく通じていたであろうヴァイネスも一部動きを封じることができる。ニルスが動かせなくなるが、仕方あるまい。
教会派は、シュテファンという旗頭を失った。今までの悪事が表に出て紛糾するのも時間の問題だ。リーダーがいなくなった組織は、時間がたつうちに自壊する。それこそ、シュテファンや第四勢力のフィクサーのような頭脳を持つ人間が現れない限り。まあ、暗殺するか部下に取り入れるかするから大丈夫だと思うけど。
そしてもう一つ。国内の、第二王子派を掃除するにはヴァイネスが邪魔だ。だから、それが動けないようにヴァイネスをノーチラス砦に封じ込める。
いつか討ち取らないといけないんだけどね。だけど、今回は先手を打たれているし、そう簡単に死んでくれるとも思えないから。
ここで少し、西海岸の地理について説明しておこうと思う。まずは、占拠されたノーチラス砦。大陸から突き出したノーチラス岬にある西の海の要所だ。ここは第一王子派だった。それから、西海岸から少し内陸部にあるリンツァーノルデン公爵領領都アッフェローゼ。王国の西の都と言っても過言ではない。リンツァーノルデン公爵家は第二王子派の旗頭だから後で潰さないといけないんだけれど。
それから、ノーチラス砦の少し南の位置にあるのが西海岸一の港町アッフェバーデン。ここもリンツァーノルデン公爵家の領地だ。北にあるのが西海岸第二の港町ケッヘルゾーン、ここは第一王子派。そして、その2つの都市から少し南にあるのが俺が今滞在しているドライスリッター子爵領領都メイデンスである。恐らくだがノーチラス砦が占拠された今、この3つの街が対ヴァイネス戦線の最前線になることと思われる。まあ、メイデンスはちょっと遠いけど。
ただ、俺には指揮権がない。なので、それを分捕ろうとドライスリッター子爵邸を訪れた。恰好は、ユリウス・ドーソン、メイデンスで活動している名前だ。
「それで、ユリウス殿。私に何用かな? ノーチラス砦の件で私は忙しいのだが」
デニス・ドライスリッター子爵は領地に滞在していた。役職を持たない貴族は領地経営に励んでいる時期か。ついでに第二王子派だから寝返らせておきたいところだ。
「私もその件で参りました。しかしデニス殿も大変ですな。王国の一大事に兵の準備をしなくてはならないとは」
「私のような零細貴族では、普段生活していくのでいっぱいいっぱいですよ」
ほう。デニスは結構好感が持てるな。重税を課しているというわけでもなく、民の評判もいい。決めた。ちょっとした英雄になってもらおう。
「しかし、こちらにはどのようなご用命で?」
「失礼。私はニルス王太子殿下の勅命で参った。ここに証文もある」
まあ、俺の偽装だけど。ついでに言えばまだニルスは後継者指名されていないから、王太子じゃないんだけど。
「こちらには優秀な兵がそろっているようですな」
「それで、私に何の役割を期待されているので?」
「単刀直入に言おう。ドライスリッター家の旗を貸していただきたい。されば、ニルス殿下にもいい報告ができるというもの」
「そうですか……」
そして、デニスは腹芸に向いてないな。顔に出ている。
俺が言ったことはニルスにデニスのことを紹介するという意味で、それはつまり第二王子派から鞍替えするという意味だ。
さらに、俺が戦力があると言ったときに欲しそうな顔をした。まあ、その方が今は使いやすいけど。
「しかし、ニルス殿下の命としても、そう領民の命を預けるわけには……」
「もうすぐ、ノーチラス砦から戦火が広がると見ておられる。その場合、民を非難させる船が必要だ」
「なっ!?」
驚いた声を上げた。だってそれは、街が一つ敵の手に落ちるということなのだから。
アッフェバーデンは敵の手に渡してもいいと思っている。正確に言うならば、それを補う利益があれば、渡してもやむなしと。この場合の利益とは、ヴァイネスをくぎ付けにすることだ。戦線が広がれば、当然その司令部は忙しくなるからな。
「兵と船は私が揃えておこう。しかし、王国旗を掲げるわけにもいくまい。そこでデニス殿にはドライスリッター家が助けに来たと旗を貸してほしいのだ」
「そんな!? アッフェバーデンを見捨てるというのですか!?」
「人聞きの悪いことを言ってくれるな。見捨てるのではない、民に降りかかる災難から避難させるだけだ」
黙りこくるデニス。もう一押しといったところか。
「それにしても、ドライスリッター領は自然の多いいい所ですなあ」
悪魔の囁きか、天使のお告げか。どう見えたかはわからない。ただ一つだけ言える。俺のこの誘惑は魅力的だったのだと。
「民たちも、ドライスリッター家には感謝することでしょう。一万の民をすくい、メイデンスを西海岸随一の港町まで発展させた民に慕われる領主。ドライスリッター家で、いや、王国でも名君と称えられるようになりましょう」
デニスの視線が泳ぐ。揺れている。恐らくは、利益に対してアッフェバーデンを見限るということを考えているのだろう。俺の提案は魅力的だが、そう簡単に見捨てられないということか。
そう言えば、ドライスリッター家は子爵家の中でも下の方だったか。なら、これでどうだ。
「おお、そう言えば敵の指揮官はあの芭蕉扇のヴァイネスでしたか。芭蕉扇を相手に素早い行動で一歩も引かず民を非難させ、無為な犠牲を減らしたとなれば、軍略にも優れておりますな。あのヴァイネスから一万の民を守るのです。デニス殿が英雄と呼ばれる日も近いかもしれませんな」
俺から提示するのは、英雄という名誉。英雄願望は誰しも持っているものだ。そのチャンスを無為にふいにしたいなんて思うやつはいない。そして。
「名君や英雄と呼ばれるお方を子爵のままで放っておくというのは、いくら王太子殿下といえど薄情と言わざるを得ませんな」
「わかりました。旗をお貸しいたしましょう」
そして、子爵からの陞爵。
俺の口元がにやりと笑う。
まあ、もともとリンツァーノルデン公爵家は潰さないといけない相手だったし、その場合恐らくアッフェバーデンは分割された。その相手がデニスになるだけだ。しかも第一王子派に取り込める。まあ、俺が失敗した場合デニスも命運を共にすることになるがこれを完全勝利と呼ばずして何と呼ぼうか。
思い通りに行ったという威圧の笑み。本来ならば、ポーカーフェイスを貫いているところだからな。これで、デニスは俺、ひいては第一王子に底知れぬものを感じたことだろう。
さて、それじゃあアッフェバーデンを崩壊させる。その次なる作戦に向かいましょうか。
貴族同士の会話書くのって難しいんですよ。特に本音と建て前を両方用意しないといけないから。
あと、ジャックの名前がころころ変わりすぎていて、わかりづらいなーと。スパイ小説の宿命かな?
キールマンさんはやっぱり出番なしです(笑)




