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騎士服の呪い

相変わらず主人公酷い

 芭蕉扇のヴァイネスは西海岸に現れるはずだ。というのも、俺があいつだったら間違いなくそうするからだ。俺とあいつの思考回路は似てる。それだけに辛酸をなめてきたし、同時に苦汁をなめさせても来た。雷槍のキールマンを討ち取れたのは、ヴァイネスが俺たちと魔王が通じているという情報を知らなかったからに他ならない。恐らくもう2度と同じ手は通用しない。

 ただ、俺1人が動いたとしてもできることってほとんどないんだよなあ。大軍の指揮はできない。戦術レベルの工作なら俺もヴァイネスも得意だが、現場レベルの指揮ははっきり言って苦手だ。魔王軍四天王でもヴァルターの方が得意だろう。まあ、俺にもある程度は出来なくはないが……。

 それに当たって問題が一つ。俺には権限がない。簡単なことだ。平民の一冒険者に背中を預ける馬鹿はいないということだ。貴族や、冒険者ギルドのマスタークラスであれば従うかもしれないが、どこからともなくふらっと現れた俺に指揮権を渡すような奴はいない。


 ただ、それでは俺が行く意味はない。だからこその騎士団の格好だ。騎士団の伝令の一員として情報を持っていけば、ある程度は口が挟めるようになる。出来ることならば、ヴァイネスが攻め込む前に防備を固めたいが、間に合うかどうか。

 ニルスたちは動かせない。シュテファンを暗殺し、喧嘩を売るような行動をとった。現状、教会派が蜂起するかもしれない。教会派は王国の東部に多いからな。ニルスたちを西海岸へと動かしたら、最悪挟撃される。その可能性は低いが、ヴァイネスが裏工作をしていないわけがない。ニルスたちを西海岸には向かわせられない。サラには別のことを頼んでいるし。


 急がなくてはならない。完全に俺が忘れていたせいだがヴァイネスは向かっているはずだ。その前に会場を封鎖できれば優位に持ち込める。そのためには早い方がいい。


「西海岸に魔族軍が現れたとの情報があります! 至急出立の準備をせよとのことです」

「わかった。感謝する。こちらも準備して兵を向かわせよう。それで、貴殿の名前は」

「はっ! ブリジット・カイナー、所属は王都第三騎士団であります」

「そうか、覚えておこう」


 まあ、偽名なんだけどね。そんな名前の人はどこにもいない。いや、世界中探せばいるかもしれないが。


 とまあこんな感じで途中の街でも援軍を出すように要請しながら、騎士団から派遣された先触れとして魔族軍防衛に参加するよう要請していく。ニルスもサラも向かわせられないからな。兵は一人でも多い方がいい。まあ、大魔法使いがいると壊滅するけど。

 それに、間違いなくヴァイネスは来る。となれば、騎士団も動かざるを得ない。少し矛盾が生まれるが、兵の準備をしろと言われてすぐに出せるのだ。利益の前には目をつぶってくれるはず。たぶん。


 そんなことを考えながら馬を走らせていたのだが……。これはどうしたことか。


「騎士様! いい所に! どうかわれらをお助けください」

「どうした、何があった?」


 農民たちが移住を試みていると思われる隊列に遭遇する。ただ、半分壊滅してはいたが。倒れている人間もいるし、薄くしか息をしていない人間もいる。亡骸に取りすがって泣いている人間も。

 騎士団の制服の弊害だな。当然、騎士団員だと思われるわけで、信用はされるようになるが、その分頼られることにもなる。早く西海岸へたどり着きたいので無視したいところだが、そういうわけにもいかないよなあ。

 しかも、騎士団員が私設軍の部下に勧誘するなんておかしな状況を作り出すこともできないので。感謝されるということくらいしか利がない。まあ、やらないとな。


「ゴブリンです! ゴブリンに襲われまして」

「そうか。回復薬は持っていたはずだ。少し見せろ」

「はい」


 何もできずにおろおろしてるだけだからな。治癒魔法使いもいなければ回復薬もないんだろう。

 この世界は才能を持つものと持たざる者の差が激しい。サラは一応すべての属性の魔法が使えるが、何の魔法も使えない人間もいる。俺だって大抵の武器を使いこなさるが、農民の中には鍬しか上手に使えない奴もいる。


「この子を、この子を見てください」

「左手が腫れてる。毒でも食らったか?」


 まだ10もいかない少女を差し出す父親らしき人物。一応布で縛ってはいるが、その先が紫色に変色している。


「はい、毒矢を。急いで引っこ抜いて布を巻きましたが……」

「いい処置だ。命は助かる。それじゃあ左手を切断する」

「え?」


 一瞬で左手の肘の先辺りを切り落とす。これで、毒に蝕まれた部位はない。後は回復薬を表面にかけて布で縛る。


「そんな、どうして」

「俺は治癒魔法は使えないし、素人だ。俺も回復薬はそこまで持ってない。それに、あの状態じゃこれで精いっぱいだ。教会ならどうにかなったのかもしれないがそこまでの処置はできない。次!」


 一応肘から先は少し残したからある程度は仕事もできるはずだ。命が助かっただけいいと思った方がいい。


「彼を、彼を見てください!」


 そうやって指し示された人物は顔も蒼くなり、息が荒い。右大腿部から出血しているし、他にも切り傷がある。


「なっ!? どうして!?」


 助からない。だから、喉を掻き切った。


「俺の腕では無理だ。せめて苦しませないようにするぐらいだ。次!」


 泣こうが喚こうが、俺の知ったことではない。だって俺は通りかかっただけの他人なのだから。




 最後の人間の止血を終える。亡くなったのが28人、切断したのが5人、怪我をした人物も多い。まあ仕方あるまい。

 ただ、それで終わりじゃなかった。


「これで全員か?」

「騎士様! 妻が、妻がいません!」

「おらのところもだ! 6人いなくなってる!」

「なんだと!? 襲われたのはどれくらい前だ!?」

「30分くらい前かと!」


 ゴブリンは、女をさらって犯すこともある。巣穴に連れ込むのだろうが、30分前か。巣穴にまだついてはいないだろうが、どうなるか。


「あの、助けてもらえませんか! お願いします!」


 さて、どうするか。騎士として最低限の人助けはして見せたとは思う。それに先を急ぐ旅だ。

 まあ、でも、今更急いだところで大して変わらないか。最後まで騎士然としていた方がいいかもだし。


「巣穴に入るまでだ。巣穴に入られれば、俺一人では対処できん」

「それでいいです! お願いします!」


 馬にまたがる。何やってんだか。別に助ける義理も何もないのに。見殺しにしたところで、何人も殺してきた良心が痛むわけでもない。

 あれだな、騎士服の呪いだ。これを着ると、無性に人助けをしなくちゃと思ってしまう。まったく、けったいなものだ。




 結局、捕まった6人は巣穴に入られる前に発見できた。奪還を優先したが、1人は助けられずに逃げられたし、1人は怪我を負って死んだ。満たされたものとはと言えば、俺の自尊心くらいか。

 何をやってるんだろうな。本当に思う。


 そうして、俺は西海岸にほど近い街、リンツァーノルデン公爵領領都アッフェローゼにたどり着いたのだが……。


「伝令! 伝令! 魔族軍にノーチラス砦が占拠されました! 指揮官は芭蕉扇のヴァイネスとのことです!」


 間に合わなかった……。

ゴブリンスレイヤー見たから突発的に書いた

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