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偽装でした

今日は初日なんで2話更新したけど、これ以降ほとんどかけてない。

「ジャックすまなかった!」

「そんな、頭を挙げてくれニルス」


 宿屋の俺の部屋。土下座で俺に謝ろうとするニルスを俺は押し留める。後ろではサラが仁王立ちをし、その左手にエレナが掴まっていた。


「私は謝らないわよ」

「別に気にしてないからいいって。みんなで決めたことだし」

「それでも、俺の気が収まらない!」

「じゃあいう。頭を挙げろ」


 そう言って無理やり俺はニルスの頭を挙げさせた。


 なぜ、勇者パーティーを追放されたはずの俺が宿の自室で残りの3人から謝られているか。それは簡単である。要するに、追放されたなんて言うのは演技だったということだ。

 それには、俺という存在が深く関係している。


 俺は弓と短剣と闇属性を操るどこにでもいる盗賊である。というのは建前で、その実は少し違う。索敵、気配隠蔽、罠の作成や御者、料理その他雑用はもちろんのこと、変装、脱走、侵入捕縛尋問暗殺等の工作、さらには独自の情報ネットワークの構築など、全てを一手に引き受ける。俺は有能なのだ。もう一度言う。俺は有能なのだ。

 それのどこが問題になるのかというと、俺は有能過ぎたのだ。ニルスがさっき罵倒したように平民風情でありながら、変えがきかないくらいに有能過ぎた。それこそ、魔王軍との戦いが終わってなお、ニルスが自分の部下として手元に置きたがるくらいに。貴族として取り立て、国のために尽くさせたいと思うくらいに。

 けれど、それには功績が足りなかった。魔王軍との戦闘が終わったとしても、俺の役割は勇者のニルスに引っ付いていた金魚のふんという扱いだ。陰でどれだけ刺客を倒していようとも、盗賊の仕事は地味だ。派手な戦果を挙げるニルスとサラ、聖女という二つ名を持つエレナと違って、俺が正当に評価されることはない。


 なら、俺たちはどうすればいいか。俺とニルスは一計を案じた。勇者パーティーにいて活躍できないというのならば、別の場所で功績を立てさせればいい。

 今この国には2つの派閥がある。一つはニルス第一王子派。もう一つは、第二王子であるガブリエル・ブロー=ローゼンクロイツ。武の王子に大してこちらは智の王子とも呼ばれている。本人はあまり評判を聞かないが、その2人の派閥が対立している。当然俺はニルス派だ。

 そこで、ニルスは思いついた。ならば、それをうまく使えばいいと。俺に対立する第二王子はを一掃させればいい。そうして功績を作り、俺を貴族として召し抱える。そのための策だった。

 ならば、俺は自由に動き回れた方がいい。勇者パーティーのメンバーとしてはなく、勇者パーティーを追放された能無しとして、警戒されずに闇に溶け込めた方がいい。

 だから、俺たちは追放劇を演じた。そうして、俺が自由に動き回れるように。全員、納得ずくでのことだ。


 だから、ニルスが罪悪感を覚える必要は全くないのに。


「ほら、いいから立つ」

「そうか、わかった」

「それに、宿からいつまでたっても3人が出て来なかったら、不審に思われるだろ。別に気にしてないから」

「なあ」


 昨日のうちに荷物はまとめてある。後は、屋根裏に迎撃用の罠を確認すればそれでもう旅支度は十分だ。


「ニルス、どうかしたのか?」

「いや、ちょっとシュタインのことを考えてな。あいつは、第二王子派だろ? 手元に置いておいていいのか? お前の紹介でもっとしっかりしたやつでも……」

「いや、問題ない」


 確かにシュタインは敵だ。リッパード家は明確な第二王子派。そこの三男であるシュタインはいつ裏切るかはわからない。けれど、勇者パーティーのバランスをとるという意味では、第二王子派も1人は混じっていた方がいい。第一王子は親しい物しか信用しないとでもいう諫言が立ったら困る。


「能力からすれば特に問題はないし、身分も表立って事を構えるまではむしろプラスだ」

「だが、あいつはガブリエル側だぞ!」

「昔から言うだろ。友は近くに置け、敵はもっと近くに置けと。裏切りがわかっているスパイ程、怖くないものはないだろ」


 最後の確認を終える。それから、サラのために用意しておいた俺特製の鍵を取り出しての渡した。こういう手先を使う工作は得意だ。


「これ、持ち運びもできる。そんな簡単に開錠できないから、使ってくれ」

「ありがとう。使わさせてもらうわ」


 恋人への選別だ。俺がいなくなると、1人になるわけで、その場合何か問題があるかもしれない。手前味噌になるが、サラは美人だ。少しきつめの性格だが、赤髪緑眼で高身長の容姿は人の目を引く。何かよからぬことを考える輩がいるかもしれない。というか絶対いる。

 彼氏としてはとても心配だ。だから、サラがそんな輩に襲われないように、しっかりとした頑丈な鍵を作った。これで安心だ。


「それじゃあ、行ってくる。なあに、心配しなくていいって。次会う時は叙爵の間だって」

「うん。頑張ってね。それで、無事に帰ってきて」


 うわっ!?


 サラに頬へキスをされた。頬を赤らめて、さっとすました笑顔を取り繕っている。ヤバイ、めっちゃ可愛い。普段はきついけど、こんな風に時折ふとした油断したタイミングでこんな風に甘えてくるとか、めっちゃ萌える。今すぐ抱きしめたい。だけど我慢だ。これは、俺たちの未来のためでもあるんだから。


「なあ、ジャック本当にいいのか? 今なら引き返せるぞ?」

「愚問だな。そんなので俺が止まるなんて思っているのか?」


 ニルスが不安そうに聞く。次期国王がそんな表情するなよ。

 俺は、貴族にならなくちゃいけないんだ。だって。


「貴族になれば、サラと添い遂げられる。なら、やるしかないだろう?」

「ああ、そうだな」


 そう言うと、荷物を背負った俺は宿の部屋を後にした。

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