闇の王子
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それから三人称視点です
「ジョン、出てきてもいいわよ」
少女は庭を眺めながらジョンという人物の名前を呼んだ。長い金髪に蒼い瞳。少女は流石王族とでもいうべき美貌を持つ、第一王女リリアーナ・リーラ=ローゼンクロイツその人である。侍女に用意させた紅茶をのんびりと味わっていた。
その背後に男が一人、音もなく表れた。全身にぼさっとしたフードのようなものをかぶっており容姿も体格もわからないが、声から男だと思える。背はリリアーナよりも少し高いくらいだった。
「それで、どうでしたか? 彼に会った感想は」
「うふふ。彼、とっても面白いわ。間違いなく、天才ね。できることなら私が欲しいくらい」
「リリアーナ様がそうおっしゃるというのは、相当なことなのでしょうな」
リリアーナには好きなものがある。それは『天才』だ。古今東西、どんな技術でも頭脳でもいい。ある一点に特化したような、そんな天才が好きで、それを集めて自分のものにするのが大好きだった。リリアーナが集めた平民たちの中にはそんな天才がいる。突拍子のないアイデアを持ち出し、常人の一歩先を行くようなそんな天才が。そしてどうやらジャックもお目にかなったらしい。紅茶のカップを唇に当てたまま、リリアーナはさも面白そうに笑う。
「そうね。情報のために馬を育てるなんて発想はなかったわ。それに、操る人の数も段違い。虚言の流布も大得意でしょうね。私たちにはできないわ」
ほっとリリアーナははかなげに笑う。地味な印象を抱かれているがリリアーナは美人だ。20歳と嫁ぎ遅れなところはあるものの、とても絵になる。
「だけど、彼が私のものになることはないのでしょうね。どうやら、心に決めた人がいるみたいだもの」
「闇の王子の心に決めた人、サラ・リーバンスタインですか」
「ええ、そうね」
闇の王子などという、不敬ととられかねない称号をジョンは発する。けれど、ここにはそれをとがめる人物は誰もいなかった。
「必要であれば、排除してもいいですが」
「やめておきなさい。不必要な恨みは買いたくないわ。それに、今彼女に死なれても困るもの」
「わかりました」
リリアーナは左手の人差し指を立ててくるくる回す。そうだ、とでも言いたげだ。
「でも、そうね。面白そうだから、闇の王子にも少し頑張ってもらいましょう」
「具体的には何を?」
「そうね、あの噂を、ヘルマンとオリバーあたりにそれとなく流してくれるかしら。それと、サリエラともつながりが欲しいわね」
「わかりました。しかし、彼女が首を縦に振りますか?」
「振るわよ。少なくとも、つながりは持とうとするでしょうね。だって、あの子ジャックのことが大好きだもの」
クスクスと笑う。まったく懸念をしていないといった顔で。
「そうね、ルーベンバッハ侯爵当たりの動向でも伝えてあげたら喜ぶんじゃない?」
ルーベンバッハ侯爵は、スフィアが処刑されかけた原因だった。当然、スフィアはその情報を集めている。それならば、ちょうどいいのかもしれない。さらに言うのならば、スフィアは不要のことで主人のジャックに迷惑をかけたがらない。自分の問題だと思えば、自分で何とかしようとする。その性格をリリアーナはよく知っていた。
さらに言うのなら、スフィアがまだサリエラとして生活していたときに、彼女はあったことがある。当然のようにスフィア=サリエラだということに気づいていた。
「それから、クリスにも伝えといてもらえるかしら。ジャックを使わせてもらうって。それと、これからちょっと動き出すと」
「はあ」
「あら、古巣に帰るのは嫌だった? なら他の人を向かわせるけど」
「いえ、そんなことは。リリアーナ様の命とあれば」
「うふふ」
カシャンと、ソーサーに空になったカップが置かれる。そうして、リリアーナは楽しそうに笑う。ジョンと呼ばれた彼も、リリアーナにとっては玩具だった。
「それじゃあ、よろしくお願いね」
「わかりました」
そう言ってジョンは下がる。それを見送って、リリアーナは1人きりになる。そうして、喫茶室の窓から庭を眺める。
ここには誰もいない。リリアーナ王女は、必要以上に侍従を寄せ付けようとしない。そのことをよくわかっていたのか、誰もリリアーナの近くにはいなかった。
「うふふ、面白くなってきたわ。ジャック、あなたって本当に面白いね」
手すりを愛おしそうになでる。
「闇の王子は本当追放なんてされていない。そうでしょう? だってあなた、勇者パーティーにまだ所属してるつもりなんだものね。欺くための演技ってことかしら。本当に欲しくなっちゃう」
クスクスと笑う。あっさりと、思考の罠をついてジャックたちの偽装を見破ったのだ。
両手を大きく広げて、にっこりと笑う。全てを見透かしたように。
「さあ、ジャック、見せて頂戴。あなたはどんなことを企んでいるのかしら。とても楽しみだわ」
煌めく水のように流れる金髪に、瑠璃のように澄んだ蒼い瞳。リリアーナはそう称えられる。けれど、その瞳が濁っていることを知るものは誰もいない。
なんか、やばそうな人が現れた……
それから、新しい登場人物たち、ジャックにオリバーにクリス。いったい何者なんだ……




