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フィクサーの影

お願いします、ポイントをください(とっても切実)

「魔王軍との和平交渉はどうなってるのかってのを聞きたいの」


 その言葉に一瞬、俺は言葉を失った。


 なぜ、なぜお前がそれを知っている? それは俺たちの秘密の中でもトップシークレットだ。場合によっちゃ、俺が追放されたことよりも秘匿すべき事項だ。俺も部下にその話はしていない。そのはずなのに、どうして普段王宮にこもっているはずのお前がそんな繊細な情報を持っている。


 いや、俺、落ち着くんだ。


「はて、何のことでしょう?」

「隠さなくてもいいわよ。誰かに話したりなんてしないから」


 信用できるか。

 というか、そうじゃなくて、まさかかまをかけられた? 動揺は見せていないはずだが、一瞬反応が遅れた。まさか、それを見越してリリアーナ王女は俺を罠にかけたとでもいうのか? この俺を?

 疑わしいことは前からあった。護衛も侍従も一人もいない部屋。それが、俺をこうして罠にはめるためだったとしたら? 信用できる人間ですら知られたくないような話をする予定だったとしたら? つまり、俺たちが和平を企んでいるという情報をどこかから得ていた? だとしたらどこから?


「はは、王女殿下はご冗談もうまいのですね」


 乾いた笑みが唇から漏れる。

 わからない。けれど、一つ俺にも言えることがある。リリアーナ王女は処分するしかない。知ってはいけない情報を知っていた。ニルスが誰かに教えたという話は入ってきてはいない。ということは、可能性は2つ。敵か、潜在的な敵だ。どちらにしても速やかに排除しておくに限る。ばらされてしまってはすべてが終わりだ。

 かといって、この喫茶室内でというわけにはいかない。俺がこの部屋でリリアーナ王女と会談していたことは周知の事実だ。ここでリリアーナ王女が倒れたり、行方不明になったりすれば疑われるのは当然俺だ。なら、まずは、眠らせて連れ出すしかない。


「冗談なんかじゃないわよ」


 テーブルの下で、ポケットから薬品を取り出す。魔王軍が開発したもので、液体の中にある個体を入れると睡眠ガスが噴き出すらしい。本来は密室に投げ入れるか、俺も抗体を飲んでおくものだがその時間はない。が、リリアーナ王女はどれだけ頭が回ろうと、女だ。効き始めるまでのわずかな誤差があるはずだ。

 上半身を動かすことなく、左手の手先を動かす。だてに盗賊やってない。これくらいは余裕。そう思っていたら、リリアーナ王女が妖しく笑った。


 バコーンなんていう音がして。


 目を見開く。俺とリリアーナ王女の間にあったはずのテーブルが飛び上がる。蹴り上げた状態で固まっているリリアーナ王女の右足。ドレスの裾が少し捲れた。勢いよく蹴り飛ばしたせいか、テーブルがひっくり返る。


 そしてそれは、俺の手元が丸見えになって、俺が薬品を調合しようとしていたことがバレた。そういうことだった。


 俺の左手からビンが滑り落ちる。慌てて掴もうとするも、その前に床に転がり、白い手がそれを拾い上げた。


「あらあら、こんなもの使っちゃダメよ。ジャックはせっかちね。睡眠ガスだなんて」

「なんっ!?」


 流石の俺も驚きを隠せなかった。全て、俺の行動は読まれていた。和平交渉をしていることも、それを指摘すれば動揺することも、テーブルの下で睡眠ガスを発生させようとすることも読まれていたというのか。

 悪魔が見える。リリアーナ王女の後ろにまがまがしい何かが見える。そんな、底なし沼のような恐ろしさを感じる。芭蕉扇のヴァイネスなんて目じゃないくらいの、恐ろしい策謀の片鱗が見えた。

 そんな馬鹿な話があるか。世界を滅ぼそうとでもいうのか。そんなことはないはずだ。


「リリアーナ様? どうかなさいました?」

「いえ、何でもないわ。こちらで何とかなります」


 ねえとばかりにこちらへとほほ笑みながら、俺が座るソファーの横へと座ってくる。


「その様子なら、順調みたいね。停戦条約は結べそう?」

「なぜそれを知っている!」


 答えるとは思わなかった。咄嗟にそんな言葉が出る。もう隠しても無駄だということくらいわかっているからな。けれど、リリアーナ王女はニコッと笑う。


「あら、だって、魔王に仲介してあげたのは私なのよ? どうして魔王があの場所にいたと思ってるの?」

「なんっ!?」


 そう言えば、魔王は言っていた。『人族にも協力者はいる」と。それはリリアーナ王女のことを指し示していたのか。


 まさか。


 まさか、こいつは第四勢力の一員なのか? 突飛な考えだ。けれど安易にも否定できない。そう思えば思うほど、そんな気がしてきた。末恐ろしいと感じる話術。気づかないほど細く、けれど深くまで張り巡らされた情報網。さらに言うなら、俺に接触してきたタイミングもそうだ。第四勢力の存在を疑い始めたタイミングで接触してきた。因果を感じずにはいられない。


「そういうこと。私が教えてあげたの。だから、変に身構える必要はないわ」


 耳元でささやかれるようにして言われる。だけどこれはハニートラップとかそんなもんじゃない。脳に近い部分で感じ取ることにより、無意識化に意識を刻みつけようとしている。洗脳だ。絶対的有利を自覚しているからこそ、こんな行為が取れている。悔しい。

 対談というのは、どちらが主導権を握るか。それに限る。そこに至るまでに情報を集め、策をめぐらせ、相手を舌戦で打ち負かす。そうして、主導権を握った方の勝ちだ。俺だって、ある程度は自信がある。けれど、リリアーナ王女にはその上を行っていた。しかも、俺の心理を読んで的確に弱みを突いてくる。必要とあらば、テーブルを蹴り飛ばしてまで。


「俺に、何を要求するつもりだ?」

「あら、そんなこと、考えてないわよ。でも、そうね。ジャックに頼みごとをしてもいいかもしれないわ。その時は引き受けてくれるわよね?」

「王女殿下の命とあらば」


 地雷を踏みぬいた自覚はあった。だが仕方ない。恐らく、これが最善の選択だったはずだ。四方八方を罠で取り囲むのは俺もよくやる手だから。

 面白いとでも言った笑顔だ。ずっと、くすくすと笑っている。


「私、実はあなたのこと、結構気に入ってるのよ? この国で一番いろんな情報に詳しいのはジャックだわ。優秀な子は好きよ」


 にこにこと笑いながら俺の手を取って立ち上がらせる。


「また来てくださいね。私楽しみにしていますから」

「わかりました」


 気に入られた。その意味をそのまま解釈するやつはいないだろう。利用できる。そういう意味だ。そして、俺に何かをさせる。

 何をさせる気かはわからない。けれど、リリアーナ王女は、ついでにその後ろは何かを企んでいる。それが俺の障害にならなければいいが。


「それでは、王宮の外までお見送りします」

「ありがとう」




 スフィアと合流して王宮を出た。もうすぐニルスたちが帰ってくるがどうするべきか。いや、話したところでどうにもならないだろう。現状第四勢力は巧妙に隠れている。なら、表だってことを構える必要はない。ただでさえ、第二王子派と教会派に足を引っ張られているのだから。教える必要はないか。

 それから。


「スフィア」

「はい」

「第一王女、リリアーナを……、いやちょっと待て」


 スフィアに指示を出そうとして思いとどまる。あの王女がそんな見え見えな罠を仕掛けるか? だったら、俺が打つべき手は監視と偵察じゃない。後手になってはだめだ。先手を取らなければ。


「噂を流せ。魔王軍は和平を望んでいると。ミスリルコーンとリッジモンドを落として和平を結ぶつもりだ。そういう噂を流せ」

「かしこまりました」


 嘘というのは、虚実織り交ぜることで信用が増す。対リリアーナ王女用の嘘だが、果たしてどういう反応をするか。

 はあ、やることが山積だ。とりあえず、第四勢力は大きな動きがない限り抑えておくだけでいい。さて、ニルスが戻ってきたらやらないといけないこともあるし、そちらの準備に取り掛かるか。

リリアーナ王女、結構やばい人。

それから、主人公が女だからというシーンがありますが、これは女性の方が一般的に体格が小さく、体重も軽いため、薬の効きが速いという意味です。決して差別的な話ではありません。

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