第一王女
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王宮からの登城命令。厄介極まりないが、従うしかない。王宮にも部下は何人か潜り込ませてはいるが、あそこは魔窟だ。ほぐれていない糸に突っ込むのは避けたいが、仕方がなかった。幸いにして、ニルスたちが到着するまで、あと1日ほど時間があるらしい。
それにしても、俺に用とは。冒険者で、ただの平民のジャックを王宮に呼び出す。何の要件か。俺が、勇者ニルスのパーティーメンバーだからか? だとしたなら、追放された無能だと思い込んでいるはず。弱みを教えてくださいとか、そんな簡単なことを言ってくるとは思えないし。
王宮からというのも気にかかる。王宮=王城ではない。王城は、政治機関だ。宰相や役人、そして当然国王もそうだ。後は騎士団の詰め所とかな。執務機関が王城だ。
対して、王宮は王城の一角にある、国王及び、その妻子が住まう場所だ。簡単に言えば、国王の家だな。ただし、ニルスは自らの使用人を雇って1番街の邸宅を管理させていたし、第二王子ガブリエルは、外の王城の外の1番街に住んでいたはずだが……。
あそこにいるのは、国王の娘だけだったはずだ。王妃はなくなったと聞いている。もちろんその世話をする使用人もいるが……。だとするなら、王女が俺に何の用があるというのだ?
第一王女はまだ婚約していない。第二王女は婚姻を結んでいた。第三王女はまだ年若いし、お手付きになった元メイドの娘だ。権力を持っているとは思えない。一番考えやすいのは第二王女だが、あそこは中立だったと聞いている。それに、送り込んだ部下からもそんな情報は聞いていない。
用心していった方がよさそうだな。そう思って、俺は魔王軍から提供された薬品を手に取った。毒薬、睡眠薬、一時的に記憶の定着を妨げる薬。武器は持ち込めなさそうだが、木製のナイフでも人は殺せる。念のため持っていくことにするか。
嫌な予感がしていた。第四のフィクサーが動き始めたということは、蜘蛛が糸を張り終わったことと同義。完成した罠を食い破れるかどうかはわからない。
「スフィア、お前も来い」
「わかりました」
それから、スフィアもつれていく。まあ、お気に入りの侍女として連れまわしているしな。実際有能だし、心強い。
そう思っていたのだけれど。
「登城命令を受けて参りました、ジャックです」
「ジャック様ですね。リリアーナ様が1階の紅茶室でお待ちです。どうぞお通りください」
リリアーナ様、だと? 第二王女ではなく、第一王女、リリアーナ・リーラ=ローゼンクロイツの命だというのか。はっきり言って、なぜか全く理解できない。
リリアーナ・リーラ=ローゼンクロイツ第一王女。ニルスの同腹の姉で、現在齢20。つまり俺の2つ年下。王妃に似て聡明だという噂は聞くが、とても影が薄い。嫁ぎ遅れと言われるような年齢に差し掛かっても浮いた噂の一つもないのは、それが原因なのだろう。
いや、ちょっと待て。影が薄い? まさかそれが、作ったものだとすれば? 影が薄いという印象を植え付けているのだとすれば、相当恐ろしいぞ。
影が薄いということは警戒されにくいということ、それだけ相手の深くまで入り込みやすいということなのだから。事実、今まで俺考えたことなかったし。
ポケットの中に、薬品はある。背中にナイフもある。警戒しろ、俺。そう言い聞かせながら廊下を進む。もちろん顔には出さないけれど。スフィアはどこまで気づいているのか。
「侍女の方はここでお待ちください」
スフィアが離れる。しまった。
まさか、暗殺でもするつもりか? この俺を? 一応これでも勇者パーティーで盗賊として活躍してたんだ。そう簡単にさせはしない。
「どうぞ、中にお入りください」
そう護衛に言われて、紅茶室の中へと入る。
女が一人、ソファーに腰かけていた。こっちを見てにこやかに笑っている。一度、式典で姿を見たことがある。第一王女リリアーナだ。
そして、部屋の中に誰もいない。そんな馬鹿なと思うが、扉越しには誰かがいても、王女以外誰の気配も感じない。天井にも、暖炉内にもそれらしき雰囲気がないし。
「いらっしゃい。待っていたわ」
「王女殿下を待たしてしまい、申し訳ありません」
「構わないわ。私が勝手に急いてしまっただけだから。それより、早くソファーに腰かけたらどうかしら」
「王女殿下のお達しとあらば」
断ってから、王女の向かいへ腰かける。目線の高さは同じ方がいい。まあ、威圧するなら上から眺める方がいいが、今日ここに来た目的はあくまでも対談なのだ。
そうして、リリアーナ王女を観察する。ニルスと同じ流れるような美しい金髪は、よく手入れが入っていることを示していた。そしてパッチリとした蒼い瞳。筋もしっかり通った鼻と唇。控えめに言っても美人だ。傾国の、とまでは言わないものの、夜会にいたら確実に花となるであろう美貌。さらに聡明。影が薄いとは思うまい。
絶対何かある。
「ところで王女殿下。ぶしつけながら、一つ申してもよろしいですか?」
「なんでしょう、構いませんよ」
「殿下はもう少し、自らの高貴な身分をわきまえた方がよろしいかと。侍従の方を1人も部屋に入れないというのは不用心が過ぎるかと。もし私がここで剣を抜いたらどうなさるおつもりなのですか?」
王女殿下が武勇に優れているという話は聞いたことがないし、強者のオーラというのも感じない。はっきり言ってこれじゃ殺されるぞ。流石にそんなことはしないが。
「あらあら、あなたはそんなことをしないでしょ、ジャック」
「そうですが……」
「ならいいのよ。私、人を見る目には自信があるの」
そう言って、リリアーナ王女はくすくすと笑った。やばい、何を考えているのかが全く分からない。
通常、何気ない仕草だったり、表情筋の動きだったりから、ある程度はどう考えているのか推測がつく。けれど、リリアーナ王女からは全く読み取れない。わかるのは、くすくすと笑う仕草が癖なのだろうことくらいだ。
「それに、これからの話はあまり人に聞かれたくないわ。あなたもそうでしょう?」
「何を、話すつもりなのですか?」
「ただの世間話よ。弟が元気にしてるのか気になったの。だけど、ひょっとしたら知られたくないことがあるかもしれないでしょう?」
そうやって笑う笑顔に何か底知れぬものを感じる。
「それならば、直接ニルス殿下にお聞きになられてはいかがでしょうか?」
「それが、あの子私にはあまり話してくれないのよ。それに、あなたにも興味があったしね、ジャック」
「私に、ですか?」
「ええ、聞いたわよ。エルメシア領の辺境にあるブラック村出身で平民だったところ、ニルスを助けてパーティーに加入、暗殺者を一度ならず退け、ニルスの信頼を得たそうね。流石、勇者パーティーに所属しているだけはあるわ」
「恐れ入ります」
「その上、独自の情報網を構築している。流石だわ」
「|殿下もお詳しいことで《どうやってそれを知った?》」
「あらあら。ジャックはずいぶんと私のことを評価してくれているのね」
表情に出さないものの、寒気を感じる。そう簡単にわかることではないはずだ。
「それに、私は優秀な人が大好きなの。それも、天賦の才を持った人が、ね」
「そう言ってもらえると光栄です」
くすくすと人差し指を一本立てて笑うリリアーナ王女。油断できない。
「私、あなたほど、王国の闇に詳しい人はいないと思ってるわ。ニルスが光の王子だとするならば、ジャックは闇の王子ね」
「王女殿下! 間違っても私のような下賤のものを王子などと呼ばないでください。私は生まれも育ちも高貴なるあなた方とは違います」
そして、爆弾発言を突っ込んでくる。俺が慌てて否定しないと、不敬扱いで処刑されてもおかしくはないぞ。
何を考えているのだとリリアーナ王女を睨むがクスクスと笑うだけだ。
「あら、そう言えばそうでしたね。先ほどの発言は撤回しましょう」
恐ろしい。俺だって平民でありながら貴族と渡り合ってきた。が、リリアーナ王女は格が違う。知らないうちに罠にはまってはいないか。
「それじゃあ、お戯れはここまでにして、ジャックの話を聞かせてもらってもいいかしら。どうだった、あの子は?」
「素晴らしいですよ。ほとんどの攻撃を受け流して、傷がついてもエレナ様が治してくれます。それに、サラ様も大魔法を使ってくれますし。策を弄すれば向かうところ敵なしといった具合でしょうか。エレナ様とも仲睦まじいようですよ」
「ジャックから見て、心強い?」
「それは、もう」
「ならよかったわ。あの子に元気にしていてもらわないと」
にっこりと笑う。無事だと知れたのがよかったようだ。それが家族としてなのか、付く派閥を見極めるためなのかはわからないけれど。
けれど、ゆっくりとほほ笑んだリリアーナ王女は。
「それで、進捗の方はどうかしら?」
「進捗、ですか? 火輪のカリンを討ち取って、雷槍のキールマンも討ち取ったと聞きました。リーゼンヌ砦からやつらを押し返すのもそう遠くはないでしょう」
「違うわ。私が聞きたいのはそうじゃなくて」
眉一つ動かさずに。
「魔王軍との和平交渉はどうなってるのかってのを聞きたいの」
とんでもない発言をぶちまけた。
えっ!? 王女様!? なんでそれ知ってるの!?
(作者は知ってるだろうと突っ込んではいけない)




