俺たちの新たな戦い
過去編とか言いながら、たった3話しかないという現実。
「なあ、どうするべきだと思うか」
「和平交渉のことだな。恐らくは、停戦だとは思うが……」
「そうだ。お前たちの意見も聞きたい」
夜、魔王たちが去った後で、俺たちは会議を行っていた。火を使うわけにもいかず、携帯食料と水で過ごしている。当然声だけが頼りの暗闇だ。まあ、周囲200メートルくらいに罠を仕掛けたし、星明りもあるから襲撃されても迎え撃つことはできるが。
「私は、停戦に賛成です。その、魔族領もそうなのでしょうが人族も疲弊しているのは確かです。一時でも停戦条約を結んで、建て直した方がいいかと」
「私は反対よ」
サラが言う。意外だった。てっきり賛成かと思っていたが。
「もちろん、このままでいいとは思ってないし、魔族に恨みがあるからそう言うんじゃない。もちろん、恨みもあるけどね。ただ、現状で停戦条約を結ぼうものなら、間違いなく国が割れるわ。それこそ、魔王軍四天王みたいに、離反される」
「それは俺も思っていた。魔族に恨みを持つ者は多いからな。恐らく、ガブリエルを担ぎ上げる」
第二王子ガブリエルは、まだ立場を明確にはしていない。だが、停戦条約の件が明らかになれば、担ぎ上げられ、このまま黙っていることはできないだろう。
「そうなった場合、ある程度掃除する必要がある。しかも、四天王を倒しつつ、な」
「ええ。そうよ。ここは、考えるふりをして、時間を稼いだ方がいいと思うわ」
「それで、お前はどう思う、ジャック」
「俺?」
驚いた。こういう話には俺は参加しないのが通例だったから。
忘れられているかもしれないが、俺は平民だ。当然貴族の義務などというものもない。まあ、魔王を討伐すればその功績で貴族に、なんて話も出ているが、まだ平民の俺の意見を聞くのは予想していなかった。
「お前の意見も聞いておきたい」
「そうか、俺か」
少し考える。
「俺は、停戦条約を結ぶべきだと思う」
「ほう、なぜだ」
「俺は、家族が1人もいない。父親にはあったことがないし、母親も俺を生んですぐなくなったそうだ」
「何となくそうだとは思ってたけど……」
「ただ、それは魔王軍のせいじゃなくて、病死だった。それも、本来なら届いていたはずの薬が、作っているところが他の村に送る余裕がなくなったかららしい」
静寂があたりを支配する。そう言えば、俺の出自に関してはあまり話したことがなかったな。
「今は魔王軍という分かりやすい敵がいるが、敵はそれだけじゃない。むしろ、魔王を倒したとして、戦争が終わるわけじゃなく、倒したとしてもそれが始まりだ。なら、俺は国力の増加に努めるべきだと思う。争わずに済むのなら、その方がいい。」
「そうか」
目を閉じてうんうんうなっているニルスの姿が想像できた。
「だが、本当にお前はそれでいいのか?」
「どういう意味だ?」
「お前に貴族位を与えるという話はどうなる?」
「あ」
完全に忘れていた。魔王を討伐したメンバーの一人としてなら、大きな功績がある。けれど、停戦交渉となれば、俺の功績は目立たない。ニルスが無理やり取り上げようと思えば、反発は免れないだろう。
これでは、サラはどうなる? 俺が貴族なら、サラと添い遂げられる。けれど、その場合、戦略結婚の駒として使われることになるぞ。どうすればいい。
「それなら、敵対派閥をジャックに処理してもらえばどうかしら。そうすれば、功績ができない?」
「流石だ、サラ! 愛してる!」
「ちょっと、今言うことじゃないでしょ!」
あ、ごめん。ちょっと調子乗っちゃった。
だが、考えればいい手かもしれない。この4人の中で、この手の工作に一番長けているのは俺だ。そして、ニルスからしてみればサラという鎖がある限り、俺が離反することはない。俺がさらにぞっこんなのはみんな知ってることだからな。
「まあ、それならば一石二鳥だな。だがどうする? 魔王軍四天王も討伐しなければいけないぞ」
「なら、俺がパーティーから抜ける。俺一人で裏に潜ることにすれば、ニルスたちは四天王討伐に専念できる」
「そうか」
仕方がない。これが恐らく現状で打てる最善の一手だろう。サラに会えなくなるのはとてつもなく寂しいが、これも俺たちの未来のためと思えば納得できる。
「なら、話を詰めよう」
「そうだな」
そうして、その会議は深夜まで続いた。
「それで、そちがどういう結論に至ったか聞かせてもらえるかの」
「ああ。俺たちは、そちらと停戦条約を結ぼうと思う」
翌日やってきた魔王にニルスが答える。今日はまだ、剣を構えていない。
「その返事を待っていたぞ。ならば、その条件に付いて話し合うとするかの。ヨハネス!」
「はっ! こちらとしては、飛竜連峰及び、ミスリル川以南を我が領地、以北をそちらの領地としたい」
まあ、大体そうなるだろうとは予想していた。はっきり言って天然の要所を越えた土地があっても統治するのが難しい。
「リーゼンヌ砦はどうする気だ?」
「それは、王国に返還しよう。そこにいたるトンネルも埋め立てる」
「リーゼンヌ砦は受け取ろう。だが、トンネルは埋め戻さなくていい。管理もそちら側に任せる」
ニルスが言う。頭の回転が速い。
この停戦条約を長く続けたいというのなら、交流は不可欠だ。互いの交流が深まり、深い位置にくさびを打ち込むほど、再びの開戦がしにくくなる。そのため、ミスリル川を横断するルートはあったほうがいい。そういう判断だ。
「そうか、ならばそうしよう」
その言葉に魔王が少し顔をゆがませた。ヨハネスと意思の疎通ができていなかったらしい。悪いが、そんな思い通りに行かせるつもりはない。それに、こちらでも利益のある話だ。すぐに納得したのか表情が切り替わる。恐らく、今後俺たちが生きている間は戦争を起こす気はなくなったのではないだろうか。
「それから、これは我が魔王軍が開発した薬品だ。我々も協力しないとは言わん。表立ってはできないが陰ながら援助させてもらう」
「感謝する。ジャック、受け取れ」
ニルスの命で俺がヨハネスと呼ばれた魔族から薬品を受け取った。俺が一番上手く使えるという判断なのだろう。
「交渉を公にするのは、四天王を討伐したタイミングでいいか」
「ああ、構わない」
四天王を討伐するタイミングはこちらで決められる。ならば、それまでに国内の敵対派閥を一掃する。それが俺の役割だ。
「こちらからも秘密裏に、定期的に使者を送る。細かい条件はその時に決めるとしよう。それでいいか」
「ああ、問題ない」
「交渉成立だな」
握手はまだだ。油断していいわけじゃない。だが、停戦に向けて進むということで一致した。もちろん、排除しなければならない障害はまだまだ多いが。
「妾がミスリル川を越えるまで送ろう。安心せい。そちらは妾にとっても重要じゃ。危害は加えん」
「それはそれは。ご温情感謝する」
魔王からの送って行くという申し出。ありがたかった。魔族領で略奪をしないといけなくなるところだったからな。
「今日は、魔族にとっても人族にとっても、歴史に残る日になるじゃろ」
「ああ、だといいな」
そう、ニルスと魔王は言葉を交わした。
方針は変わった。魔王軍を退けるという戦いから、魔王軍と和平を結ぶために、四天王及び、王国内の主戦派を一掃するという方向へ。俺たちの新たな戦いが始まる。これまでとは違う、俺1人ですべてをまかなう、新しい戦いが。
絶対に、生き残って見せる。そしてサラと祝言を挙げるのだ。
というわけで、ニルスはジャックを追放するのですね。
にしてもこの小説って、イチャラブ要素全然ないな。




