表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/44

裏切らない部下の作り方

主人公ェ

 あの後、気づかれないようにミモザカートを脱出し、一路王都へ向かって俺は馬を走らせていた。

 はっきり言って時間を使い過ぎた。仕方がない部分があるとはいえ、もう1日、出来れば2日早く工作を終わらせたかったが仕方がない。それに当初の目的にキールマン討伐は達成したうえに、バングレー男爵も謀反人として処罰されるはずだ。ちょうどいい。


 恐らくバングレー男爵は処刑。その息子ギリーや家臣は強制的に教会送り、つまり幽閉といったところか。その上で、ある程度男爵の血が流れているノックスが男爵家の跡を継ぐはずだ。ノックスは事件が起こった時、ギリギリミモザカートを離れていたことになっている。その父アルフォードよりも傀儡にしやすいというのもあるし。

 それに、いろいろと裏で手を引いているから、俺の思惑通りになるはずだ。


 しかし、今回の騒動は完全に赤字だったな。王都に行ったら、とりあえず資金調達をしなければ。それから、時期が来たらニルスたちを一旦王都に戻して。なかなかに忙しすぎる。それに、現状じゃ入り込めていないところとかもあるから部下も揃えたい。でもお金が大変だ。とりあえず、商会の乗っ取りを急がせよう。そうすれば、資金力に余裕ができる。

 まあ、何はともあれ、王都に早く帰らなければ。時間がおかしくなるので途中補給で立ち寄るはずの街をすっ飛ばしているのだ。これ以上不審に思われるようなことは避けたい。


 と言っても、もう城壁が設けられているような街は王都だけだそれもあと距離にして30キロ程度。ここからどれだけ馬を飛ばしたとしても誤差のようなものだ。




 ローゼンクロイツ王国王都ガルテンは、王国北部の少し西寄りの位置にある。海には面していないが、大きな港町も近くにあり、そちらへ延びる道も大きい。というか、王都を中心として街道は整備されているので、場合によっては道なりは長くとも、王都を経由していった方が早いということもある。早い話が交通の要所というわけだ。

 そんな主要通行路は当然人の行き来も多い。となれば、それを狙った野盗が出るというのも別におかしくはなかった。野盗にしてみても、選択肢が多い方がリスクは少ない。

 そして、その野盗もこんなところで生き残れているということは、手練れぞろいだということだ。襲撃されれば、ほぼ間違いなく負ける。そんな状況でしか襲ってこない。


 現状もどうやらそのようだ。王都方向から剣劇音が聞こえる。ついでに怒号も。どうやら馬車が襲撃されているようだった。見つからないギリギリ外側からその様子を観察する。

 襲撃されているのは、どうやら行商人の馬車のようだ。小規模の商隊なのだろう。馬車は1台だけ、護衛も一桁だ。あ、今1人倒された。家族で経営してるとか、そんな感じかな。リーダーらしき商人が必死に抵抗している。まあ、娘さんがどうなるかというのは日の目を見るより明らかだし。

 ただ、勝ち目はなさそうかな。野盗の人数は15人くらい。さらに言うならば、少しずつ押され始めている。周囲には俺以外に助けに来られそうな人はいない。まあ、俺ならば蹴散らすのは造作もないが。

 よし決めた。ちょうどいいから時間が来るのを待つことにしよう。


 俺は、部下が欲しかった。さらに言うならば、俺を裏切らない部下が。王都で屋敷を管理させているスフィアとか、商会の乗っ取りを命じているリーベル、今は貴族の屋敷に潜入させているアナスタシア。後はいろいろ各地に派遣している人たち。リックもその中の一人だな。そいつらみたいに、忠誠心が高くて有能な部下が欲しい。まあ、教育は拾った後でやればなんとかなるんだけれど。

 問題は、裏切らないというところだ。はっきり言って情報を扱うという仕事柄、裏切られたらそれは致命的な隙につながるからな。

 では、どうすれば裏切らないか。まあ、簡単に言えば、恩義を感じさせればいい。絶望的な状況から救い出してやったとか、あるいはとてつもないカリスマを見せつけたとか。まあ、後者はニルスのような王族でもない限りかなりつらい。ぶっちゃけ俺も無理だ。となれば俺が取る方法は必然的に前者に限る。

 例えば、冤罪で処刑されそうになった貴族の令嬢を死んだことにして別の名前を与えるとか、スラムで人の目を盗みながら精いっぱい生きてきた子どもに仕事を与えるとか、借金で人身売買されそうになっていた村娘の借金を肩代わりしてやったとか。あるいは、野盗に襲われて仲間を殺されていたところを、間一髪で助け出すとかな。そうやって、俺が絶対的なものだという認識を最初に刷り込ませるのだ。あ、あとは人格形成前後の幼い年齢の方が擦り込みやすい。

 そういうわけで、俺は突入するタイミングを計っていた。別に早く助けるメリットも思い浮かばないしな。あまり早すぎると、敵の親玉に勘違いされるかもしれないし。

 よし、今だ。


「お前ら、そこで何をしている!」


 そんなことを叫びながら俺は馬から飛び降りる。そうして、一番近くにいた1人を斬り捨てた。

 敵の数はこれで11人。逆に商人の方は護衛の1人と母親、娘。その内母親は深手を負っている。俺は治癒魔法が使えないし、使えたとしてももう手遅れだろう。けれど、1分くらいなら娘を守っていてくれそうだ。


 護衛の人間とは逆側から切りかかる。スピードに乗って、一気に剣をかわして懐に忍び込み、鼠径部を切り裂く。致命傷は与えた、次だ。

 俺の戦い方は、罠を駆使して敵を翻弄するのが本来の戦い方だ。けれど、普通に戦うのも騎士団の平団員くらいの実力はある。そうじゃないと、勇者パーティーで一緒にいられない。とは言っても、敵が自由に動けないように時折援護する程度だったが。

 その場合は、自分の身軽さを生かして、スピードに乗った戦い方をする。でも俺が握ってるのは短剣だし、突き刺すと抜かないといけないから、主要な血管を切って放置だ。




 正直なところ、結構きつかった。余裕ぶって見せたけれど、こういった戦いは本分じゃないし、集中力が持たない。それに、これからも集中力を使うしな。


 戦いは終わった。俺は勝った。ただ、途中まで無事だった護衛の1人も切られたので、生き残ったのは俺以外では商人の娘と思しき人物だけだ。年齢は、10を過ぎたくらいか。母親に取りすがって泣いている。その目はもう何も見てはいなかった。


「その、すまない。間に合わなかった!」

「どうして、どうしてお母さんを!」


 そう言って少女は俺の服を掴んだ。涙にぬれる。


「あ、その、ごめんなさい。あなたは助けてくれたのに酷いことを言って」

「いや、俺こそ済まない。もう少し速く馬を飛ばしていれば助けられたのに」


 そう言って、俺は口惜しそうな顔をする。演技は得意だった。こういう時は、手柄を誇るよりも、神妙にした方が印象がいいのだ。


「私は、シャルロッテ・リオンと言います。リオン商会の娘です。もっとも、何もかも失ってしまいましたが……。あの、それで、よろしければあなたの名前を聞いてもいいですか」

「そう言えば、名乗ってなかったな」


 見た目以上にしっかりしているらしい。いや、しっかりしなければいけないと無理をしているか。


「ジャックだ。王都で冒険者をしている。ブラック村出身で、ジャック・ブラックと名乗るところもあるがジャックでいい」

「ジャックさんですね。助けていただいたところ申し訳ないのですが、何もお礼をすることができないのです」


 シャルロッテの瞳には相変わらず絶望が浮かんでいた。稼ぎ手をなくした10歳そこらの娘の人生だ。これからを悲観していたとしてもおかしくはない。

 改めてシャルロッテを観察する。栗毛色の髪はよく手入れが行き届いている。目を引くほどの美人というわけではないが、さりとて顔が悪いわけでもない。体はまだまだ未発達といったところだが、そういう特殊な趣向があることくらい俺も理解している。よくて娼館、悪くて奴隷みたいなところだろう。それも、表に出せないような。

 まあ、俺の部下にするためにわざわざ助けたんだから、そんなことはさせないんだけどね。


「その、申し訳ありません。本来なら、お礼をするのが普通なのですが、うちは借金もあり、食いつなぐのが精一杯なのです」

「そうか」


 そうして、俺は腕を組んで見せる。考えていますよといった風に。


「その借金はどれくらいだ。店を売ればどうにかなるくらいか?」

「え、あの、はい。売れば、そんなに大きな額にはならないと思いますが……」

「だったら、俺の家に来い。こう見えても俺は結構名前が売れた冒険者でな。王都の4番街に家を持っている。ちょうど、人が欲しかったところだ」

「え、その、いいのですか?」


 まあ、その後どんな仕事をするかはわからないが、今日食べる飯にも事欠くありさまということはないだろう。ちなみに4番街というのは王城から同心円状に広がるエリアの中央から4番目という意味だ。ここには貧乏貴族や、ちょっと裕福な冒険者、中規模の商会が立ち並んでいる。ちなみに王都は7番街まであった。

 手を差し伸べる。そうやって、不器用ながらも笑顔を作って見せるふりをして。


「ああ、こっちから頼みたいところだ。それに、みすみす死なせてしまったのもあるしな」

「そんなことないです、精一杯働かせてもらいます! よろしくお願いします!」


 そう言って、シャルロッテは笑顔を向ける。それを見て、俺は落ちたなと確信した。


 裏切らない部下を作るには、もう一ついい方法がある。それは、恋心を抱かせることだ。

 絶望的な状況から、自分に優しく手を差し伸べられた。恋をするにしては、十分な条件だろう。

 恋心というのはおかしなものだ。それに囚われると、理性が聞かなくなる。たとえ頭ではメリットが大きいと理解していても、その人を害する行為は取れなくなる。そうやって、崇拝に近い恋心を抱かせれば、俺のことを第一に考えるようになって、裏切るなんて好意ができなくなる。そうしていつの間にか捨てられるのが怖くなって、思い通りに働く信頼のおける部下の完成というわけだ。実際、スフィアとかアナスタシアとかはそんな感じに思考を誘導させてもらった。

 感情というのは厄介なものだ。特に恋心というのは。自分でも捨てられない。押し殺そうと思えば思うほど、思いは募っていく。まあ、それを、恋心に報いるわけでもなく利用させてもらっている俺が言えたことじゃないのかもしれないけどさ。


「でも、その前に、父と母とみなさんを弔ってもいいですか?」

「ああ。それくらいはかまわない。俺も手伝うよ」


 だけど、本当に恋心は厄介だよ、サラ。

ちなみにシャルロッテちゃんはヒロインの予定はないです。まあ、活躍するかもしれませんが、主人公が本当に心を許しているのはサラだけです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ