追放されましたが
わりと勢いだけで書き始めました。
言えない、プロットがほんの少ししかなくて書きだめもないなんて絶対言えない……
「ジャック! 貴様をこのパーティーから追放する!」
目の前で剣を突き付けながら男が叫ぶのを、俺は打ちひしがれながら聞いていた。
高貴なものしか持つことを許されざる金髪に、180センチを超える恵まれた体格。筋肉質で、一緒に風呂に入った時は腹筋がよく割れていたのを知っている。瑠璃のような澄んだ蒼い瞳に俺の無様な姿が反射している。
男の名前はニルス・ルート=ローゼンクロイツ。ここローゼンクロイツ王国の第一王子だ。齢17にしてその剣の腕は一流で、王国内に彼に比肩するものは片手で数えられる程度。しかも、光と水の魔法に精通し、勇者の名前を欲しいままにしている。この国最高の剣士と言って過言ではない。ローゼンクロイツ王国の武の象徴であり次の王として人格者としての名声も高いのだが……。
「駄賃だ。くれてやる。それをもってさっさとこの町から出ていけ! この平民風情が!」
すさまじい役者だな。ここまでとは。金貨の入った袋を意地汚くも拾いながら俺は思う。正直な話、金貨はいくらあっても足りる気がしないんだ。実際このパーティー一番の金食い虫だし。
「こんな最前線の町にいられても足手まといで迷惑なだけだ!」
「ちょっと、ニルス、そこまで言わなくても」
今とりなそうとしてくれている少女の名前はエレナ・クロム=シュートリンゲン。名門シュートリンゲン公爵家の次女で、父親は内政部門のトップを務めているというこちらも貴族様だ。非常に珍しい銀色の髪に灰褐色の瞳、強力な治癒の魔法を有する。とても心優しい性格の持ち主で、誰にでも分け隔てなく接することからついたあだ名は聖女。ついでに言うとニルスの一つ年下で婚約者である。
ここは、王国南東部の町ミスリルコーン。ここから10キロ少し南下すれば、魔王軍との境界地帯となっているミスリル川にぶち当たる。西に70キロほど離れた場所には、つい最近魔王軍に占拠されたリーゼンヌ砦がある。要するに最前線地帯である。とはいっても魔王軍が本格的に攻勢に乗り出してこないおかげでここは冒険者やそれを支援するギルドや鍛冶屋、雑貨屋でにぎわっているのだが。けれど、最前線地帯で危険なことに変わりはない。
「大体こいつは金食い虫なのだ! 平民風情で大した装備もしないくせに金を食う。能力だってシュタインがいれば十分だ!」
ニルスがシュタインと呼ばれた男を呼び寄せる。金髪に灰青色の瞳、中肉中背。名前はシュタイン・リッパード。侯爵の三男で、俺の代わりに勇者パーティーに取り入ろうとしている、有り体に言えば俺たちの敵である。
「そういうわけでお前はもう用済みだ!」
「ニルス、そんなこと言わなくても」
「もういい。サラ、お前からも言ってやれ!」
さらに赤毛の女が前へと進み出る。サラ・リーバンスタイン。齢19にして闇を除く、火・水・風・土・光の5属性を操る魔術の天才である。闇と治癒も軽い物なら使えないというわけではない。こちらも当然のように、伯爵の長女と貴族で、勇者パーティーの一員であった。はっきり言って攻撃力ならニルスよりも上である。緻密で、時に大胆な魔法の使い方は正直に言ってとても頼もしかった。
その緑色できりっとした意志の強そうな瞳が俺をにらみつける。いや実際性格も結構とんがってるんだけど。
「こんな奴と今まで恋人やってたと思うと反吐が出るわ! さっさと鼠は鼠らしくここから消え去りなさい! 踏みつぶすわよ!」
うへぇ。仮にも俺は一応こいつの恋人なんだけど……。今の状況では何にもならないよなあ。
ちなみに、今鼠と形容されたのが俺ことジャックである。もう一度言う、ただのジャックである。つまりは平民。まあ、明確化のためにジャック・ブラックと名乗ることもあるがただの平民である。貴族ばかりのパーティーの中で俺だけが平民なのは訳があるのだが……。今は関係ないか。
ちなみに俺は身長が160足らずとこの中で二番目に小さい。一番はエレナだ。そして、平民に最も多い特徴である栗色の髪に、明るいブラウンの瞳。役割は弓と短剣を使う盗賊とありふれたものだ。そんな、どこにでもいそうな冴えない22の男。それが俺、ジャックである。
「そういうわけだ、さっさと荷物をまとめてこの町から出ていけ! 殺されないだけありがたいと思うんだな!」
「……そ」
石畳の道を左手で思い切り殴りつける。視界の端でニルスが剣を鞘にしまうのが見えた。
「くっそおぉぉぉ!」
そう叫びながら、集まっていた人込みをかき分け、押し倒し、俺は宿屋の自室へと飛び込んだ。目の端に涙を浮かばせながら。
まあ、安心してください。そんな悪い人じゃないんで
あ、違う。これから悪い人たっぷり出てくる