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青い魔女の通過儀礼  作者: 籠り虚院蝉
Ⅲ 百年の孤独と人間の玉響
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Ⅲ-2 三度、白き士君子と出会い

 辺りは木々すら霜が張って、また一層雪深くなっているように感じられた。


 再び森に入ったのは先日置いて来てしまったわたしのライフルと男の人の荷物を取りに来たからだ。ここ数日は吹雪でなかなか外に出られなかったし、空のご機嫌がいい内に終えないと次の秋まで回収できなくなる。


 しかし、まだ暗い内に起きて軽食とサバイバルナイフだけで森に入ると何だか妙に心細い。今の状態は多分、半身を失ってる感じ。


 それにしても、男の人が持っていたバッグは何だったんだろう。腰に下げられるものだったけど予想に反してずっしりしていた。今にして思うと護身用の手榴弾だったのかもしれないし、もう少し丁寧に扱えば良かったかな。下手に扱って壊さなかっただけマシだけど。


「何考えてるんだろう」


 不安な想像ばっかりして良くない。それに、ここら辺は冬眠せず起きている飢えたヒグマがいるかもしれない。


 はっ、とその考えが頭を過ぎった瞬間、近くに獣の息遣いを感じた。


 まさか、本当にヒグマが。


 冗談じゃない。


 念のため持ってきた武器はサバイバルナイフ一本だけ。ライフルが無い今、もし襲いかかられたらひとたまりも無い。下げているホルダーからナイフを正手に持ち、ぎゅっと握って嫌でもわかるへっぴり腰で構えた。


 雪を掻き分ける音。


 体毛が擦れる音。


 激しい息遣い。


 いる。


 わたしの──。


 後ろ──。


 に──。


「ふごっ」


「えっ?」


 呆気に取られた時には、ふかふかするでっかいものに体の周囲をぐるぐると、擦り付けられるように触られていた。そのふかふかの感触はヒグマの硬い毛ではない。視界に入った体は白く、次いで雄々しい白亜の牙が光った。


「えっと、Cold Boar、だっけ」


 恐る恐る名前を呼んであげたら一層嬉しそうに体を擦り付けてきた。毛並みに手を通すとほかほかあったかくて、冷たくなっていた手がじんわり熱を取り戻した。


 ところでどうしてこんな所にいるの、問い掛けるときょとんとした表情でわたしを見つめてから、また思い出したように体を激しくなすり付けた。


「ええ……」本当にこの猪、何を考えているかわからない。「あのね、ちょっと落ち着いて」


 そう言ってCold Boarの動きを止め、屈んで顔を向かい合わせた。


「わたし、これから遠くまで行くんだ。だから少し心細くて。もし君が付いて来てわたしの事守ってくれたら、すごく嬉しいんだけどな」


 でも、いつかの時みたいに邪魔になるような事したら、すぐに置いて行くからね。


 Cold Boarは真顔のような表情で考えあぐねるように視線を向けた。鼻をふごふご何度か鳴らしようやく決心したとわかったのは、わたしを見ながら「ぶるるっ」と一際大きく(いなな)いたからだった。


 毛並みをさっと撫でて立ち上がり歩き出すと付いてくる。


「ありがとう。少しの間だけどおともの役よろしくね」


 任せとけ、と言わんばかりに鼻を鳴らして返事。これでちょっとは安心して進めそうだ。


 それから途中Cold Boarが雪に埋まったり、遠くにいるリスを追い掛けようとして大変だったけど、どうにか目的地に辿り着いた。案の定バッグとライフルは雪に埋まってしまっていた。


「ここで待ってて」


 言い付けて座るのを確認して雪の中からそれらを掘り起こした。こびり付いた雪を払い落とし、ライフルを肩に下げ、バッグは腰に巻いて下げておく。中身大丈夫かな、とも思ったが、何だか大事そうなものだし勝手に開けて確認するのも失礼な気がしてやめておいた。


「ねえCold Boar、これに入ってるもの何だと思う?」


 わたしよりずっと鼻の利く彼なら中身が何なのかわかるかも。そう思いくつろぐ彼に近付いたのだが、これがどうやらいけなかった。近付くなり落ち着かせていた腰を急に上げ「ふごっふぐっ」と激しく鼻を鳴らす。その様子は明らかに緊張感が漂っていて、しかもそれは腰のバッグに向けられていた。


 そしてその途端、Cokd Boarはものすごい勢いで腰バッグに噛み付き無理矢理引き剥がし始めた。


「ちょ……ちょっと待って! 止まれ! とーまーれっ!」足の縺れる雪の上で腰をぐいぐい引っ張られてどうにかならない訳が無い。「あっ──痛った──わぷっ」


 雪に足を取られ体が宙に投げ出される感覚──顔から突っ込んだおかげでライフルが後頭部を強打、とっても痛い。マフラーとコートの隙間から侵入する雪の冷たさも相まってすぐには起き上がれなかった。


「くうう……」とんだ踏んだり蹴ったりだ。


 少しして雪を払い落としながら立ち上がり、キッとCold Boarを睨み付ける。


「あのねえ、ちょっとは《《もの》》ってのを考えてよ。人の重心は腰にあるの。そこを無理に引っ張ったらどうなるかなんてわかるでしょ、だから、めっ!」


 腰をぽんぽん叩いて強調しながら叱ってみても、当の彼は知らんぷり。賢いのかお馬鹿さんなのか、それともわざとなのか、よくわからない。 


 諦め混じりの溜め息をひとつ吐いて、わたしは改めてバッグに意識を向けた。Cold Boarがこれに噛み付いて引っ張ったのは中身が危険なもので、わたしから引き剥がそうとしたからだろうか。それとも彼にとって美味しいものでも入っているのか。重さからしてどう考えても金属質のものっぽいけど。


「君には悪いけど、これは持ち主がちゃんといて持って帰らないといけないものなんだよ。もし今度さっきみたいな事したら、おともの役はそれまで。いい?」


 彼は「ふんっ」とあからさまに不満そうな鼻息であしらった。そして踵を返し、足跡を辿って歩き出した。


 あの態度から察するに、仕方無い付き合ってやる、と言った具合だろう。見つめているとこちらを振り向き「さっさと帰ろうぜ」と言わんばかりに首をふいっと向こうへ向けた。わたしも歩き出し、彼の後ろに付いて行く。


 そう言えばこの猪、イマイチ現れるタイミングがわからない。最初に出会ったのはエルネスティーと喧嘩して家出した時、その次は、馬にLegion Graineを移植して少しの眠りに就いた時、らしい。野生でほとんど初対面なのに、どうしてこんなに懐いてるんだろう。やっぱり昔、何か関わりがあったのかな。思い付きで呼んであげた「Cold Boar」でやたら嬉しそうにする理由もわからない。


「記憶、か」


 謎を解明しようとすると必ず突き当たるその袋小路に溜め息を吐いていたらしい。白い息が鼻先を濡らして、ちょっぴり擽ったくなった。


 いくら考えたって単独自力で答えなんか出て来ない。答えが記憶の中にあるのならそれは尚更だ。いっその事過去なんかすっぱり忘れて、今とこれからの生活を精一杯楽しんでしまおうか。過去に何があったのかも幾つか思い出された記憶ではあまり良いものでないとわかっている。明確な家族らしい家族も、きっとパパだけに違いない。


 思い出さない方がいい事もある……。


「ねえCold Boar」呼び掛けると立ち止まってこちらに振り向いてくれた。


「わたしの事すごく慕ってくれてるし、たぶんわたしの事好きなんだろうけど、それってどうしてなの?」


 野生の猪に聞いて何がわかるって言うんだろう。そんな呆れに応じるように彼は「つまらない事聞くなよ」とでも言いたげに顔を振りまた歩き出した。やっぱり野生の猪に聞くなんて馬鹿げていた。仕方無くまた彼の歩みの後ろに付いていくと、今度は「ふっ」と彼自身が歩みを止めた。


 急にどうしたんだろ、そう思った矢先、彼は帰り道から大きく逸れた方向へ一目散に駆け出した。


「えぇっ?」


 驚きながらも戦車並みの勢いで雪を蹴散らし走る彼を、必死で追いかける。何とか追い付こうとするけどその差はどんどん開いていく。その内急斜面に突き当たって滑って行くCold Boar。二本足のわたしは派手にずっこけて雪だるまみたいになりながら、最下に転がり落ちてしまった。


「何なの今日……」


 愚痴りつつも彼を探すと、吹き溜まりの陰に身を寄せその向こうをじっと見ている姿があった。まとわりついた雪を落として彼と同じようにわたしも陰に身を寄せた。


「Cold Boar、あれは」


 訊ねてみるが当然答えない。


 視線の先には倒れた馬と馬車、あちこち散らばる野菜や雑貨、そしてその横でうんざりしたように立ち尽くす壮年の男の人の姿があった。傍らの斜面には転がり落ちたような激しい雪の跡があり、さらに上に向けると南西からアンルーヴに入るための橋が見えた。ラスカシェロスへと向かう際、わたしとエルネスティーも通った道だ。


 どうやらあの人は深い雪の白のせいで道を見誤って足を踏み外してしまったらしい。


「……あの人を助けてあげたらいいんでしょ」察して言うと「ふしゅ」とひと鳴き。「わかったよ」


 毛並みをひと撫でして吹き溜まりの陰から立ち上がった。「すみませーん、貿易商の人ですかー」声を掛けるとこちらに気付いた。


「そうだけど……きみ、アンルーヴの人かい」


「うん、一応。偶然見かけて来てみたんだ、橋から踏み外したみたいだなって。怪我は無い?」


「ああ大丈夫。それにしてもご覧の通り、橋から馬車ごと落ちてしまった。この道は橋を越えてからもしばらく森が続くだろう。これじゃ無理かろうと途方に暮れていたんだ」


「わたしで良ければ手伝うよ。ここで会ったのも何かの縁だし。それに、向こうにいる猪もね」


「はて、猪……」


「白くてよく見えないけど、ほらあそこ」


 目を細めてようやく姿が見えたのか、その表情は少し驚いたものに変わった。白い猪なんて御伽噺の動物みたいだもんね。


 手招きして寄って来た彼の毛に指を通すと、「よく懐いてるね。ペットか何かかい」


「ううん、初めて出会った時からこんな感じで」


「へえ……と、ひとまず馬と馬車を立て直していいかな。そろそろ愛馬たちが怒り出しそうだ」


 倒れた馬を横目に申し訳無さそうに呟く貿易商さん。


「そうだね。今はお馬さんと馬車を助けなきゃ。Cold Boarも手伝ってね」


 いつの間にか手から離れ倒れている馬と見つめ合っていた彼は、呼び掛けると「ふごっふ」とひとつ嘶き。やる気充分だ。


 馬を雪の中から救い出し、馬車を立て直して散らばった荷物を整理、斜面を皆で登って行く。途中やわらかな新雪で体勢を崩し掛けあわや振り出しに戻ろうか、という肝の冷えた場面もあったが、無事に橋の上まで到達した。


 今は貿易商さんの馬車の荷台にいて、積み荷のおやつと紅茶で休憩がてらお礼をいただいているところ。紅茶はエルネスティーも好きでよく飲むダージリンだけど、おやつはぺったりした黄色いパウンドケーキみたいな焼き菓子だった。目の前に出されてそのままぱくっと食べようとしたら、「おっと。この部分は紙でね、食べられないんだ」と底の部分の茶色い薄紙を取ってくれた。


 ひと口頬張ればたまごの優しい味わいたっぷり、パン・デ・ローというお菓子らしい。昔、ポルトガルって名前の国でよく作られていたみたい。


「いや、本当にありがとう。きみがいなきゃ馬と積み荷、どちらも断念せにゃならんかった」


「ううん、こちらこそ森の中でこんなに美味しいもの食べられるなんて。貿易商さん……えと、そう言えばお名前まだだったね」


「グスタフ・ウォルツ。すまんね、名前のひとつ聞かれてからじゃないと名乗れないなんて。きみは?」


「わたしはマルール。よろしくね、グスタフさん」


「そうか、マルール。不思議な名前だね。よろしく。アンルーヴにはしばらく滞在するつもりさ」


 そう言ってパン・デ・ローをかじるグスタフさん。


「そう言えば、グスタフさんはどうしてアンルーヴに来たの?」


「んん」ダージリンで飲み込んで「野菜を届けるためさ」


「野菜?」問うと、「この時代野菜ってのは肉や魚よりも貴重なんだよ」と答えてくれた。


「貿易商やる前は世界中を旅してた。方方を巡る過程で色んな食糧事情を知ったのさ。アンルーヴみたいな雪深い地方や、レキエムエルトみたいな厳しい砂漠地帯、リアリンガはムシ暑すぎてすぐ食べ物が腐って大変だった。そういう場所へ行って、色んな人を見て、旅は続けたいし困っている人は助けたいと思った。それだけだよ」


 旅をしながら困っている人を助けるってとっても難しそう。こんな時代だし、旅するってだけで危険な事も多そうなのに。それをひとりでやってるのは、何だかわたしにはスケールが大き過ぎて想像もつかない。


 けれど、グスタフさんの旅がそれなりに順調なのは荷台に積まれたたくさんの荷物でわかった。


「色んな所に行って色んなものを取り引きしてるんだね。この箱にはどんな野菜が入ってるの?」


「その箱は海の向こうの大陸由来の野菜が入ってる。サボテンとかリュウゼツランとかだな、香りの良さから飲み物になるものが多い。マルールは好きな野菜あるかな」


「好きな野菜」真っ先に黄色くて甘いスープが頭に浮かんだ。「かぼちゃが好きだよ。わたしの好きな人が作ってくれて、これがすごく美味しいんだ」


「そうか、じゃあ次に来る時は甘くて美味い上物を仕入れておくとしよう」


「楽しみにしてるね」


 ダージリンとパン・デ・ローに舌鼓を打つのは終わり。グスタフさんは荷台を降り、馬車の近くで馬と戯れているCol Boarに歩み寄った。


「すごいな、僕が近付いても威嚇も怖がりもしない」


 わたしも降りて「本当に御伽噺の動物みたいだよね」と言う。


「まあ、おっちょこちょいなのが玉に瑕な子なんだけど」


 軽く毒吐くと、Cold Boarはグスタフさんの手をすり抜けてわたしに勢い良く突進して来た。



━━━━━━━━



「いっつもこんな感じなんだよ。余計な事言うとすぐど突いて来ようとするの」


 怒りながら言うと、ははは、と乾いた笑いで応えるグスタフさん。


「しかし、きみの言う通り御伽噺みたいな猪だね。言葉がわかるのかな。──と、そうだ、御伽噺と言えば」グスタフさんが言いながらふと気付いたような声を上げた。「助けてくれたお礼に僕のお気に入りの品を見せよう」


「お気に入りの品?」


 彼は休憩中も肌身離さず身に付けていた腰のバッグからひとつの箱を取り出した。「ほら、これだ」


 小さな指輪を入れられるくらいの箱の中には小さな薄い羽みたいなものが入っていた。虹色に透けるように光っていてすごく綺麗。「これは?」


「これは竜の鱗って言われている代物だ。大陸から地続きの、高い山の麓の小さな村で代金の代わりに貰ったんだ」


「竜の鱗? 伝説とか神話の? どう見ても魚とか虫の羽にしか見えないけど……」


 楕円形のそれは大きさ的に見るからに小さい生き物のそれ。とても竜の鱗には見えない。


「う、まあそう見えても仕方無いが。しかし羽にしてはなかなか頑丈だし、柔軟性もある。見た目も綺麗でお守りにするにはちょうどいいさ」


「ふうん。ちょっと触ってみてもいい?」


「ああ、どうぞ」


 小さな箱から取り出して手にそっと乗せてみる。明らかに虫の羽とは違う滑らかな触り心地、半透明で虹色に光るちっぽけなそれは、確かに何だか守られてる、守ってくれているって感じがする。


「グスタフさんの言う通り軟らかくて軽いね。魚の鱗みたいな……」


「そうだろう。それにこれが竜の鱗かもしれないってのはちゃんと理由があるんだ」


「面白そう。聞かせて欲しいな」


「へへっ。いいとも」


 グスタフさんは得意気に鼻の頭を掻いた。


「竜は昔から御伽噺や伝説、架空の物語の中の生き物だった──てのは今は昔の話だ。百年前から伝えられる戦争の後、世界各地でそれまで見られる事の無かった新種の生き物が発見されるようになった。一本角の生えた馬にピンク色のワニ、夢を食らうバク……ま、その伝えられる生き物のほとんどが、やはり伝承の域を出なかったんだが……」


 ──かつてこの世界には六つの大陸があった。六つの大陸には六つの大山があり、そこには天空の人々が遺した願いを叶える宝物があった。落し子として地上で生きていた竜の子が、自らの願いを叶えるために宝物を探す旅の中で、同様に苦しい思いをしている人々の願いも叶えていく。その過程で竜の子は自分の事を忘れないようにと鱗を与えた。旅を終え天空に舞い戻った竜の子は、やがて天空で竜王となり、地上の争いを無くし人々は平和になった──


「って、御伽噺なんだ」


「それで、これがその竜の旅の証って事」


「その地で伝えられていた話によると、どうやらそうらしい。確かに、遥か昔この世界にはもうひとつ大陸があったらしいな。今は海深くに沈んでしまったらしいが」


「今も竜っているのかな」


「見た事は無いが、空を飛ぶ蛇みたいな生き物の目撃談は色々耳にしてきた。しかも、竜の血や肉は万病に効くとも言われてるしな。もし本当に今もいるなら一度は見てみたいな」


 そう言ってグスタフさんはお茶を飲んだ。


 世界って色んなものがあるんだな、と素直にそう思った。美味しいお菓子にサボテンにリュウゼツラン、レキエムエルトにリアリンガ、どれもこれも見た事も聞いた事も無い。それに加えて万病に効く竜の体。もしかすると世界には、エルネスティーも知らないLegion Graineを治すための素材があるかもしれない。


 ここでグスタフさんが立ち上がった。わたしは竜の鱗を丁寧に箱に戻して手渡した。「ん、そろそろ出発するよ。俺は町に行くがマルールはどうする? このまま馬車に乗ってくかい」


「いいの?」と答えるも馬車の外で馬と戯れているCold Boarが気になった。彼にありがとうを言わないと。


「Cold Boar」馬車を降りて呼び掛ける。「用も済んだし、わたしこのままグスタフさんと町に帰るよ。君は大丈夫?」


 そう言うと彼は馬と戯れるのをやめてこちらを向いた。「ふごっ」とひとつ鳴いてわたしの体を一周して、そのまま森の方へと振り返らずに去っていった。


「わたしの事守ってくれてありがとねー!」


 手を振って叫ぶが、その時にはもう雪の白に紛れて見えなくなっていた。


「いやほんとに……不思議な猪だねえ」


 グスタフさんが呟くのに心の中で頷き、わたしたちもアンルーヴへと帰路に着いた。

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