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青い魔女の通過儀礼  作者: 籠り虚院蝉
Ⅰ 青い魔女と記憶失き獣
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Ⅰ-18 士師、相見える時

 町の北側には以前、シュトートを捕まえるために走り抜けて一度きりだ。それに、頼りになる手掛かりもほとんど無いのに彼女が逃げ出せないよう拘束されているかもしれないとなると、状況はさらに困難を極める。


 北側一帯をしらみ潰しに探していく。小屋や空き家があるならば入ってみて監禁されていないか探し、鍵がかけられた家々には耳をそばだてる。当てのない捜索かもしれない。でもエルネスティーはまだ、この町にいると信じなければならない。


 すっかり雪に覆われた白い悪路を息を切らしながら歩く。クランはこの雪の中、きちんと歩けているだろうか。


「エルネスティー……どこ行っちゃったんだ……」


 色々な思いがその言葉に乗せて吐き出された。そんな時、きゅっという雪を踏みしめる音とは別の「キュッ」という音が聴こえた。


「この音は」


 音に顔を向けてみると、その場所にはぽっかりと満月のような煌めきを携えた光の玉があるのが見えた。そして、その光の玉は地面にほど近い場所に浮かんでいた。


「こんなところにいたの?」


「キキッ」


 シュトート──わたしが書庫に入ろうとした時に足下をすり抜けていってそれきりだった。玄関の鍵は開けておいていつでもシュトートが帰れるようにはしておいたが、まさかまだ帰っていなかったなんて。


 それにしても、南方の生き物であるメガネザルのシュトートがこんな極寒の地にいて平気な訳がない。現にシュトートは丸めた背中に大量の雪を積もらせ、がたがた体を震わせ、今にも息絶えてしまいそうなほど寒そうにしていた。


「ったくもう、なにしてんの。こんなとこで立ちぼうけじゃ凍え死んじゃうよ」


 そう言って震えるシュトートを抱き上げようとした。けれどもシュトートは嫌がって暴れる。そして手の内から逃れたシュトートはわたしの少し先を駆け「キッキッ」っと導くように鳴き、またさらに先へ駆ける。


「シュトート、待って!」


 まさか、彼はエルネスティーの居場所を知っているのだろうか。そんな期待が頭をよぎり彼を追いかけた。


 まるでいつかの逃走劇の再現のように軽快に雪上を駆けるシュトートを追いかけ続けた。そうして辿り着いたのは煉瓦造りの小屋。正方形をしたその小屋には鉄の扉が一つ付いているだけで、窓は無い。


「キッ」


「ここに、エルネスティーがいるの」


 息を切らしたわたしがこそこそと囁くように訊ねると、シュトートは「キキッ」と鳴いて頭を掻いた。


「わかった。シュトートはクランにここを知らせておいて。でももう安心だから、二人で家に帰って部屋を暖めて待ってて」


 わたしはしゃがみ、シュトートの頭を撫でてそう言った。彼は不服のようだったがこの寒さにはさすがに耐えきれないらしく、弱々しく鳴いてからまた雪上を駆けていった。立ち上がって小屋を見る。


 この中にエルネスティーがいる。そうは思うのだが気配はまるで感じられない。しかしそれでも、シュトートを信じるしかないだろう。


 そう思いながら扉の取っ手に手をかけた。


「待てよ」


 そこで不意に背後から声をかけられた。


 この声は。


「イゾー」


 厚手のコートに身を包み、白い息を荒く吐きながら佇む彼の様子は、どうやらここまで全力で走って来たからだろう。だが、どうしてイゾーがこんな時間に、こんな場所に来たのか見当がつかない。


 不思議なことが起こっていて何も言えずに彼を見据えていたのだが、彼は唐突に言い放った。


「悪かった」


「え」とわたしは目を丸くする。「なに」


「魔女、いないから、探してるんだろ」


「そうだよ。どうしてそれを」


 イゾーは一度大きく深呼吸して息を整えると、言った。


「エルネスティーが消えたのは、俺のせいなんだ」


 その言葉にわたしは一気に腸が煮えくり返る感覚がした。詳しい話を聞かなければならない。平静を装って訊ねた。


「意味わからないよ。詳しく教えて」


「怒らないのか」


「それより詳細を」


「あ、ああ」


 エルネスティーを連れ去ったのはエルネスティー暗殺を依頼された殺し屋だった。殺し屋はこの町について事前に情報を掴んでおりイゾーに暗殺計画の協力を打診し、イゾーはそれを受け入れた。一週間ほど彼女の動向を探り、同時に進めていた準備を整えたその殺し屋は、この最北端の地下への出入り口から入った部屋に「舞台」を整えているのだという。それは、今日の零時きっかりに始まったはずだ、と。


「イゾーはエルネスティーが死ぬところを見たかったからここに来たの」


「違う」


「じゃあなんなの」


「俺は、これをお前に届けに来た」


 イゾーはそう言ってわたしに小さなナイフを手渡した。


「これは?」


「それは俺が魚を捌くためにいつも使ってるやつ。俺が生まれた時に父さんが記念にくれたもの」


「そんな大事なものなんで渡すの」


「男のケジメ」


 どう見ても泣きそうな表情をしているが、やはりエルネスティーを危機的状況に追いこんだ意識は確かなのだろう。わたしはそんなイゾーの気持ちを受け入れることにした。


「わかった。ありがとう」


 腸が煮えくり返る感覚は消えないが、それでも彼が反省しているのならと思うと少しは収まる。わたしはナイフを腰のベルトで固定し振り返ると、再び扉の取っ手に手をかけた。


「……絶対に助けろよ。あの男やべえよ」


「わかってる。エルネスティーは絶対に助けてみせるから、イゾーは帰って暖かくして、ちゃんと寝てるんだよ」


 肩越しにそう言って、わたしは扉を開けると中へと入った。背後でかすかに「絶対だぞ」という声が聴こえ、その言葉にしっかりと心の中で頷きながら。


 入ってすぐに階段があった。真っ暗かと思ったが幸いにも壁の蝋燭に火が灯されている。やはり、誰かがこの場所にいるようだ。


 階段を下り終えると地面は湿り気を帯び、黴臭さが鼻を刺激する。長い間誰にも使われていなかったようで、蝋燭の光に反射して大きな蜘蛛の巣も暗闇にぼんやりと浮き上がっていた。


 そこからはなるべく音を立てないように歩き出した。そして、その通路はどこまでも細く、長く、暗かった。自分の殺した息づかいが耳に届いてしまうほどに静まり返っていた。


 エルネスティーの気配は感じなかった。まるで既に生そのものが失われてしまったかのように、なんにも感じない。本当にここにいるのか不安だったが、それ以上に彼女の生死がよほど気掛かりでもあった。エルネスティーはわたしを助けてくれたのに、わたしはエルネスティーを助けられないのかと思うと、悔しくて泣きたくなる。


 だが今は一刻も早くエルネスティーの姿を見つけ出さなくてはいけない。泣くのを堪えて音を立てないようにしながら少し歩を速めた。


 そうしてしばらくさ迷っていると、不意にずっと向こうから息づかいが聴こえた。かなり荒々しく、暴れているのかと思うほどのものだ。わたしは冷静になってそちらに向かってみた。


 数十メートル進むと、薄い光が漏れ出している箇所があった。近づくにつれ息づかいがはっきりと聴こえてくるようになり、同時に、暴れているような音も断続的に聴こえてくる。


 扉のすぐ前に近づくと、荒い息づかいとともに意味なく叫ぶ声と、重い金属音が聴こえてきていた。わたしは悟られないようにその扉をわずかに開け、中を覗き見た。


 中には黒髪に白髪混じりの痩せがちの男。やはり暴れているように見える。そして、視線をさらに横に向けると、


「っ……!?」


 エルネスティーが、いた。


 真っ赤に染まったボロボロの服を着て、寝台の上に体を固定されて男の攻撃を一身に受けていた。髪の毛まで血で真っ赤に染まっている彼女は、体の至る所に太い釘を打たれ、胸が骨まで開かれて、ぴくりとも動かない。


 咄嗟に扉のすき間から体を離した。音もなく壁に寄りかかり、地に落ち、息を殺して、息を切らした。口だけで呟く。


 うそだ。


 うそだ。


 うそ。


「いや……だ……」


 エルネスティーが死んだ。


 死んでいる。間に合わなかった。


 エルネスティーは、死んだ。


 奥歯が鳴るのが聴こえた。すばやくライフルを手元に寄せるとセーフティを外し、立ち上がりライフルを抱えると扉を乱暴に開けて中に入る。相手を見るなりそいつに向けてライフルを撃ち込んだ。


 相手は錯乱しているように見えて素早かった。相手はわたしが扉を開けた瞬間にこちらに気づき、すばやく銃弾の軌道から外れたのだった。


 弾を込める一瞬の間に奴はわたしとの距離を一気に詰める。手には大振りのサバイバルナイフ。装填が間に合わない。


「っ!」


 間一髪のところで銃身を盾にそれを防ぐ。すぐに奴との間合いをとり、わたしはライフルに次弾を装填した。


「片割れか。まさかこの時間に来るとは」


 無視して弾を撃ち込んでいく。狭い部屋で初速は十分のはずなのに弾は当たらない。銃身の長さが狭い部屋での近距離戦闘には向かず、簡単に相手に軌道が予測されてしまうらしい。それでも今度は間合いを詰めるような真似をしてこない。


 男が察したように笑った。


「まあ落ち着け。少し話そうじゃないか」


 黙って死ね。


 わたしは銃弾を放つも、それもひらりと避けられてしまう。


「怖いねえ。落ち着けよ」


「減らず口閉じろ」


「女が乱暴な言葉づかいするもんかね。──うおっと」


 再び弾を装填し撃つも、これもひらりとかわされてしまう。


「少し頭冷やせよ。何があったのか知りたいだろ? 特に魔女に関することは」


「!……」


 わたしは唇を噛んだ。「お前がエルネスティーを殺した」そう言って再び弾を装填し放つ。しかし、これも避けられてしまう。


 男は呆れ顔で撃ち込む弾を避けながら、悠々とした様子で語ってみせた。


「魔女の悲鳴は良かったなあ……。見ろよこの釘。最初は骨盤と肩と、顎の骨に釘を打ち込んでやった。呻き声しか洩らさなかった、こいつはやるなと思ったね……。ひと思いに金切り声でも上げさせてやろうと思って、次に路地裏で拾った針金で目ん玉突き刺して掻き回してやった。どうやらこれは失敗だったようだ。声が掠れて呻き声すら出ない」


 なんなんだこいつ──。


「それなら……と自慢のナイフを手に取ったよ。顔の生皮剥いでやるんだ。こめかみに切れ目を入れて中指を突っ込んで力任せに引っ張る。これにはさすがの魔女も耐えられなかった。素晴らしい悲鳴だ。あんまり気持ちのいい悲鳴で気が狂いそうになったよ。だが自分は紳士、野蛮で野暮な真似はしない。そこでふと、魔女がこの紳士的な行為をどう思っているか気になった」


 顔は乱れた髪の毛で見えないけど、もしかして、あの下は──。


「なあ、気持ちを確かめるにはどうしたらいい? 簡単だ、胸を開いて心臓を鷲掴みにするんだ。心臓を鷲掴みにして、鼓動を確認する。ロマンティックな響きだ。糸鋸と梃子で胸郭を開いた。激しく規則正しく脈打っていた。生命の激しい鼓動は最も愛すべきリビドーだ。逞しいほどのその激しさに、そのまま握り潰してしまいたいほどに魔女を愛しく感じてしまった」


 お前みたいなのがエルネスティーを愛する理由なんてない──。


「指先で心臓にそっと触れると、まるで恋に落ちたように一際大きく脈打った。魔女の心臓の鼓動に合わせて規則正しく握り始めた。握るたびに低く呻く声を聴いてもう理性が崩壊したよ。そんなにいいならさっさと逝かせてやるほうが優しさに違いない。握るリズムを速くし、だんだんと力も強くしていった。そうするにつれ魔女の呻き声も高く感極まったものになっていく。そうして絶頂を迎えるために一段と強く握ると──一際大きな声を上げて魔女は果てた。……魔女が逝く姿に興奮して、もう我慢できなくて、ナイフで体を──何度も何度も何度も何度も何度も──何度も!」


 うるさい、黙れ黙れ黙れ──。


「おかげで魔女の自慢の滑らかな体も、……どうだ見ろよ、世界一綺麗な赤色だ」


 こいつ絶対殺す。


 狭い部屋でライフルはもはや不要だった。


「素手か。サシでやりたいと思っていた。公平にやろう」


 ほら、と投げられたのは刃渡り数十センチのサバイバルナイフ。


 違う。わたしはただお前を、死にたいと口にするまで徹底的に苦しめたいだけだ。


 投げられたサバイバルナイフを手に取り正手で握ると、しっくり手に馴染んだ。そのまま腰を低くし、相手は逆手でナイフを握り同様に隙無く構える。


 お互いに距離を取る。どちらが先に仕掛けるのか、その瞬間を待っている。


 張り詰めるような雰囲気の中、視界の端にはつねにエルネスティーの痛々しい亡骸が入ってしまう。しかし、それを視界に入れまいと目を逸らすのは大きな隙になる。


 それが苦しくて視界が不意に歪んでいく。


「おお?」相手が小馬鹿にしたような驚いたような声を上げた。「泣いてるのかなあ?」


 わたしはそれには答えない。代わりに──。


「来たな小娘ぇっ!」


 迷いもいらない。


 防御に走った相手のナイフを無力化するため自分のナイフを強く握る。そして、相手の防御行動を誘うために彼の顔めがけてナイフを突き出す。


 男はナイフの腹を上手く使ってその攻撃を横に受け流した。横に位置した奴はナイフの底の部分でわたしの鳩尾に強烈な一発を食らわせる。やつはそのままわたしの後方に移動し追撃は行わない。悠然と佇み、立ち直りを待っているようだ。


「ぐ、げほ……」


 すぐに体勢を整えるが、鳩尾に受けた重い衝撃が呼吸を酷く乱した。戦い慣れしている相手だ。アドバンテージは向こうにある。どうせ使い物にならないなら腕の一本くらいくれたって構わない。とにかく左腕は防御に徹し、右手のナイフで活路を開く。


「まだまだ勝負は始まったばかりじゃないか。すぐにくたばらないでくれよ」


「……安心してよ。すぐにでも殺す」


「言ってくれる。それなら今度はこっちから仕掛ける」


 やつはナイフを持つ手を胸の前に構え突進してくる。どこから攻撃が来るか。


 瞬間、左から払い、速い──喉元──。?


「ぐっ!」


 ナイフは咄嗟に差し出した左腕を切り裂いた。傷口は深い。大量の血がシャツを染めた。ヒグマに切り裂かれた傷も同時に開いてしまった。


「どうしたどうしたあ。威勢いい割に弱いじゃないか」


「……っ」


 腕を押さえながら距離を取る。冷静にならないと嬲り殺される。左腕──ごめん。


 わたしは奴を睨み付けた。


「いい顔だ。本気で戦う人間の顔」


「わかんないな。ここ、鏡無いし」


 この状況でなんて余裕のあらわれだ、と奴は笑う。


「余裕じゃない」


「じゃあなんだ」


「お前を苦しめたい気持ち」


 やつは顔を歪ませ嘲笑した。


「頭おかしいんじゃないか」


「殺人狂に言われたくないよ」


 そうだ。お前名前は。と聞かれたので、わたしは答える。


 マルールだよ、と言う。冥土の土産にしてあげるから、と。


「なるほどな、マルール……。冥土の土産にしてやるよ。自分の名前はフォルジェロ。Cold Boarだ」


「……Cold Boar」


 Cold Boar、知っている。もはや馴染み深い言葉だが、フォルジェロというにはエリクではないはずだ。


「この戦いも長々続ける気はない。次で決着つけような」


「……望むところ」


 この変態。上等だ。受けて立つ。


 わたしたちはナイフを構え再び向かい合った。フォルジェロの歪んだ顔は真剣なものになり、眼光は鋭い。本気で殺しにかかろうという目をしている。


 強く気を引き締めて──すぐにわたしたちは動く。


 先に動いたナイフはフォルジェロのものだった。喉元を狙うように左払いを繰り出すのをわたしは左腕で遮る。そのままがら空きの左脇腹に持ち手を変えたナイフを突き立てようとした、しかし、既で左手で防がれ、わたしたちはそれぞれ後ろに飛び退いた。


 再び構えナイフを交じる。フォルジェロが突きを繰り出せばわたしはそれを払い、軌道を逸らしてがら空きの胴体を狙い、わたしが払いを繰り出せばフォルジェロはそれをナイフで遮り素手での攻撃を繰り出す。


 火花が散るほどのナイフの交戦は手負いのわたしには激しすぎた。左腕から徐々に力が抜けていく。判断力も鈍ってきた。


 その時、わたしが繰り出した右払いは一瞬の隙突かれフォルジェロの刃により弾き返された。手の内にあったナイフが乾いた音を立て地面に転がる。


「しまっ……」


 フォルジェロの光刃がわたしの左胸を捉えた──。


「が。あ……っ!」


 わずかに体を逸らすも、ナイフはわたしの左の肺を深々と突き刺した。一気に息をするのが苦しくなり、激痛が走る。


「勝ったな」


 目の前のフォルジェロが勝ち誇った。


 だが。


「っ……それは、どうかな」


「なに、言っ──あ?」


 わたしはイゾーのナイフをフォルジェロの内太股の付け根に突き立てた。そして半回転、力任せに捩り無理やり引き抜く。


「う、ぐあ──」


 苦しげに呻き声を出し、先に離れたのはフォルジェロだった。わたしは激しく咳き込みながら血を吐き、両手を付いて地面に倒れこむ。


 顔を上げてフォルジェロを見ると、ナイフを突き立てた箇所から絶え間なく血が大量に溢れ出ていた。それを手で押さえて慌てて止めようとするも、もう遅い。


「ぐあ、くそ、くそっ! 止まれ! 止まれっ!」


 血が大量に溢れ出て止まらない事にフォルジェロは顔を恐怖にひきつらせながら錯乱した。


 それを見て自然と頬がゆるんだ。わたしは一度死んだ身だ。記憶を失って、エルネスティーも失って、もう、生きていて意味なんかなんにもない。


「うああ……!」


 いつの間にか溢れ出た血で大きな血溜まりとなった中で、顔を真っ青にさせながらのたうち回るフォルジェロ。全身や顔を濡らす赤色が苦しみを伝えてくれるようで嬉しい。わたしは細く息を漏らしながら言った。


「エルネスティーは、これ以上の……痛みを……感じて、死んじゃった……。ねえ、わかるよね……」


「こ、の……クソ野郎……死にたくない……。くそ……」


 フォルジェロは譫言のように弱々しくつぶやきながら、しだいに囁くようになり、口だけをわずかに動かすようになり、ついに、その口のうごきもしずかに、やんでしまった……。


 ねてる、たおれてる、死んで……エルネスティ、いき……くるし……たたなきゃ、のに……。


 うごけない……。


「エル、ネス、……」


 たすけ、……。


「エル……ネ……」


 ねむい……。


「エル……」


 まっくら、


 な──


 ……

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