幕間a
「知ってますよ。こいつについては、よくよくね」
「知っていたのか」
「昔の話です。ほんの些細な縁があった」
「顔見知りか」
「そんなところです。ところで、今まで何度も挑戦なされたと」
「聞かんでくれ。凄腕を幾度も雇ったが、魔女め。どんな手を使ったのかことごとく失敗に終わっているのだ。綿密に計画した手さえ無駄骨に終わってしまってな……金も精魂も寿命も尽きた。もう目的は果たせん。この混沌とした世の覇者となるには魔女の身体が必要だったのに……」
「残念ですが、その手の話にはとんと興味がない。昔の人間は自己の境遇に対して異常なほど感傷的だ。自分はそう思いますがね」
「できるか、できないのか」
「野暮は聞くもんじゃありませんよ」
「……それもそうだな」
「構いません。自分を知らない人間はよく使う言葉です」
「……」
「それで、本当に日時はこちらで決めていいんですね?」
「ああ。だが遅くとも今日から一ヶ月以内、必ず首を持ってこい」
「充分です……さあ、我々の巡り合わせに乾杯といきましょう」
「ああ」
「乾杯」
「乾ぱ──」
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「昔の人間はどいつもこいつも……死ぬ時にまでお伺いを立てるなよ……」
手は下していない。
老人はただ、眠りこけるように死んでいった。




