1-3
瞬君の一人称が「我」になる時は厨二病モードです。思考も発言も「我」になってアイタタタタ
「まずは世界にある属性を意識して感じるのじゃ。神が存在しない属性もあるのでな、どの属性を感じるかはお主の自由じゃ。まあ基本の樹・火・地・風・水の五大属性と、月・陽の双璧属性が最も感じやすいので、最初はそこからでもよいじゃろう」
やはり多くの属性があると言っても強弱はあるのだな。せっかくなら我が属性と信ずる闇に近しい月属性でも感じとってみるとしよう。しかし、
「感じるといってもどんな感覚なのか理解するのに刻を要しそうだな……」
「ふふふ、まあ初めてじゃからのう、しかし瞬ならば容易にできるじゃろうて」
そう言われて何とか感じとってみようと思うが、特に違和感や別の存在を感じることもなく時間が過ぎていく。
「特に何か特別に感じるものはないな」
「ふむ……もしや異世界の者には時間がかかるものなのかのう?この世界に住まう者ならばそれこそ赤子の頃から感じとり、圧文を無意識に発動させることもあるのじゃが……」
一つ、試してみたいこともある。
「なあティエラ、圧文は言葉と意思だけで発動させることはできないのか?」
呪文のようなものならば感覚に頼らずとも一定の法則に則れば発動するのかもしれない。
「そうじゃのう、可能ではあるじゃろう。適正が低すぎる者でもそういった使い方で圧文を行使することもあるからのう。その分威力は低いようじゃが……まずは慣れることも必要かもしれんのう、一つ試してみるかの?」
「ああ、律数を多めにしてやってみよう。内容は好きにしていいんだな?」
うむ、と頷くティエラを尻目に月に関する、いや闇に関する圧文を考える。
いつものように心の赴くまま詠唱とすればいいだけだろう。
瞳を閉じ、心の赴くままに言葉を連ねる。
「≪我が元に集いし闇よ、命に従え!形を成せ、容を持て、貌を取れ、力の奔流を一つの流れと成せ、凝縮せよ、闇の化身は今一つの個となる!顕現せよ、現界せよ、権能を示せ、暗澹たる存在、始祖の龍、虹たる竜、月光に照らされしその身を現せ!≫」
先に見た龍の光景が頭から離れなかったからか、赴くままに唱えた圧文は龍に関する内容になってしまった。
上手くいけば多少関係する詠唱になっているだろうか。
『主よ、望みを聞こうーー』
「は?」
閉じた瞳を開くと、目の前には龍がいた。黒曜石のような鱗、月のような黄金の龍眼、背丈は10mを優に超え、両手足の鉤爪は簡単に人を切り裂けるだろう。濃密な闇の化身ともいえるこの巨体の西洋でよく見る形状の龍が、我に向かって、
『どうした主、貴方の望むままに希望を仰ってくれ』
主。主人ということだ。我が?一体どういうことかと思考が停止する。
「ふふ、ふふふふ、よい、よいのう、まさかいきなりこんな大層なことを起こすとは面白すぎる!予想の範疇を大きく超えてくるとは、瞬よ、やはりお主と一緒におれば退屈はしないのう!」
ティエラが隣でとても満足げに笑っている。
「すまん、ちょっとどういうことかわからん」
起こったことがよくわからなくなってきて逆に冷静になってきた。
「まあ簡単な話じゃよ。先ほど神がおらぬ属性があると言うたじゃろう?お主はその神がおらぬ属性を使って龍を産み出してしまったのじゃ。龍とは神の眷属か、神が姿を成したものなのじゃが、神がおらぬ属性には龍は存在せぬのじゃ。ふふ、これでお主は神に足る可能性があるということがわかったのう?」
「つまり我が産み出したから主と言われているのか……神になる気はないのだが?」
「うむ、信仰と眷属と能力がなければ神にはなれぬ。理解されぬ存在に力は集まらぬからのう。じゃから少なくともまだ瞬は神にはなれぬじゃろうて」
ふーん。まあ問題ないなら今はいいかな。とりあえずは産み出してしまった龍をどうにかしよう。
「龍よ、名はなんという?」
『名はない。貴方の好きに呼ぶといい。私の使命は貴方の命に従うことだ、願いはあるだろうか』
「ならば貴様に【ビィンデ】の名を授ける。その名が聞こえた時、我の元に顕現するように」
『心得た、主よ。私はビィンデ、主の命に従う者だ、いつでも呼んで欲しい』
そう言って闇の龍は消えた。
「いやいやまさか、意思ある龍を触媒や知識もなしに産み出すとは驚きじゃのう」
「普通はそういったものがいるのか?」
「人が龍を産み出した前例はあるが、意思ある龍ではなかったしのう、産み出す属性に関した強力な触媒が必要なはずじゃ。まあ神なら可能じゃが」
中々あり得ないことをしてしまったようだ。しかし、
「しかし我が偉業を成したからといって変わることはなし!何も問題はないな!」
いつもやっていたことが形になっただけなのだし、気にする必要はないだろう!きっとこんなことはよくあることになる!
「うむうむ、ワシもそんなお主と共に楽しみたいものじゃて。さあ、そろそろフェリスへと赴こうかのう」
確かに色々やっていてかなり時間が経っている。そろそろ宿でも取らないといけないか。
旅はまだまだ始まったばかりなのだから。
次回、そろそろ街に行こうぜ!