プロローグ
始めにお伝えしておきますと、不治の病は厨二病のことです。
実在する病気とは異なりますので、ゆるい気分で主人公を眺めてあげてください。
「クックック……我が領域に土足で踏み込んだ罪を贖うがよい!」
月と星の光のみの空間で、一人の男が五人の屈強な男たちにそう告げる。
お世辞にも強そうには見えない男は何故か不敵に笑っている。そう、ボクだ。
人工の光が抑えられたこの場所では天然の夜空に瞬く光が降り注ぐ上、通常の月よりかなりの明るさを持つ月の光で、周りにいる人の表情ぐらいは伺えるというものだ。
今目の前に立っている五人の男は歯を食い縛って、頬に汗を流しながらこちらを睨みつけてくる。平均的と言っても過言ではない中肉中背の男――ボクに対して、力比べではどう見ても向こうが格上である上に人数でも分があるはずなのに、だ。
もちろんそれには理由があるし、ボクもそれを理解している。
「グゥ……これが月の女神の加護を持つ者の力か……噂通り恐ろしい圧力だ!」
「だが、私たちもこのくらいで諦めていては神殿を預かる者として……うぐっ!」
今のところボクがこの男たちにしたことは何もない。強いて言えば少し話をして、少しカッコイイ動きをしただけだ。
「ふふふ……やはりワシが見込んだ男は凄いのう」
ボクの後ろにいた女がひっそり姿を現しながら何か言ってる。
「む!その姿、その存在感……もしや、貴女様が……!」
男たちが瞠目しながらボクの後ろの女に叫ぶ。
「月の女神ティエラ様!!」
物陰に隠れるとなくなる存在感の持ち主、ティエラはこの世界の本物の女神である。
何を隠そう、ボクがこの世界にいる原因であり元凶だ。いやまあ、残ったのは自己責任だけどね?
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その日のボクはテンションがかなり高かった。今日は日蝕があるということでボクの心は高ぶっていたのだ。
ボクは控え目に言って厨二病の重症患者だ。自覚がある分まし?まさか。心に湧き上がった言動をまったく制御する気がない厨二病がどれだけダメな奴かは何となく想像がつくのではないだろうか。
「とうとう約束された闇の日が来たか……待ち侘びたぞ!」
朝一の発言である。
もちろん窓のカーテンを勢いよく開け放った後に額に手を当てるポーズ付きだ!
今日も溢れ出る気持ちと興奮は絶好調だ。大学に入って一ヶ月、本来ならテンションが落ち込み五月病などと呼ばれる症状に罹る者が多い季節だがボクには関係ない。
「日輪を蝕む龍の顎を楽しませてもらおう……確か刻限は……」
日蝕は今日の昼過ぎだから、まだまだ余裕はある。せっかくだから朝の儀式の準備でもしておこう。
朝はこんがり焼いたトーストにベーコンエッグを載せたものとコーヒー牛乳だ。大地の恵みを焼き尽くし、そこに命の成れの果てと命の元と一緒にすることにより、我が活力とする。さらには悪魔の飲み物に命を育てる白き元を混ぜることによって、より冒涜的に根源を染め上げる。
朝食が基本このモーニングセットなのは個人的にかなり理に適っているのだ。
朝食の儀式を済ませ、今日の予定を確認したが既に数日前から準備をしているので抜かりはないことの再確認で済んだ。
幸いにも今日は休日だし、特に何かする用事もない。というか今日に備えて済ませておいたのだ。
そういうわけで特にすることもないまま時間まで怠惰に過ごすと、いよいよお待ち兼ねの日蝕の刻限となる。
「ククク……待ちわびたぞ、黒き闇よ、大いなる恵みを蝕みし担い手よ!」
ボクの、いや、我のボルテージが上がっていく!
刻限は来たり。端から徐々に太陽が欠けていき、だんだん辺りが暗くなり始める。
闇の力は強いもので、少しずつ気持ちを不安にさせていくのだから日蝕というものは凄い。太陽がなくなり、月が闇を照らすのでは飽き足りず、人工の光を生み出し続ける人の世の不安定さを映し出すかのようだ。
時は来たれり。
「フハハハハハ!闇より力が湧いてくるぞ……!陽の力が陰に包まれ、両の力が我の内に拡がりよる!」
段々拡がる日蝕を見て、さらに気分は高揚する。今や太陽は半分が黒く染められている。半分を超えて太陽の力が半減する。
『お主、面白いのう』
声が聞こえた。
確かに今ボクは外にいるが、周りを見渡しても人はいない。しかも声はすぐ近くから聞こえたような……
『驚いておるのう、ワシは今お主の頭に直接語りかけておる。周りを見ても見つけられんよ』
とうとう頭がいかれたか、もしくは夢にまでみた異能に目覚めたか!?
『残念じゃがどっちでもないのう。しかしその残念さはよい!お主、こちらに来んか?恐らく双方にとって楽しくなるぞ?』
何言ってるのかわからん……そもそもこちらってどこだ。そして今のボク、端から見たら絶対やべー奴なんだろうなあ。
『お主の世界から見て異世界と呼ばれる場所になるかのう、言動のカッコよさが力になる世界なのじゃが』
「何それ詳しく聞かせてもらおう!!」
それからしばらく異世界とやらについて話してもらった。
曰く、言い回しの強さが力になる。
曰く、行動の香ばしさが強く影響する。
つまり、
「我が厨二力が高まるということか……!!」
厨二病発言や行動が力になり、認められる。それはボクのような人種にはどれだけ恵まれているか!普段抑えることのできないリビドーが溢れることでどれだけ冷たい目で見られているかは理解している。そんなボクが異世界で強い力を持てるのだから、断れるはずがあろうか、いやない!!
「連れて行ってもらおうか!」
『うむうむ、楽しくなりそうじゃ。では――』
ようこそ、圧の世界【ファルテイナ】へ。
その言葉が聞こえた瞬間、ボクの意識は白く塗り潰された。
次は主人公の名前出そうな!!