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妖精とイタズラ④


「あー、と…そう、この少年にイタズラした妖精を探してるんだ。分かるか?」


 気を取り直すように質問すれば、女王も特にツッコむこともなく思案顔をしてみせた。

 女王に解いてもらうことは出来るかもしれないが…多分大げさなことになる。実際にかけた妖精がイタスラを解いた方が確実だ。


「そうだの…分かると言えば分かる。じゃが、それをしてやることに我が得ををすることは何もないからのう?」

「お、お願いします!教えてください!ボクに出来ることならなんだってします!」


 あ、そんな事言うと…ほら、女王が目を細めてしまった。


「ではその手の中のおる女子供の肉を引き裂いてみよ。そうすれば望みは叶えよう?」


 その言葉にクリクは顔を真っ青になった。

 リシィの体を支える手が震えている。


「で、出来ません…」

「お前、出来ることならなんでもすると言ったじゃろうに」

「だって…」

「出来ない、やれない。いや、やらないかの?何でもするなどと、よく考えもせず口に出すでないわ」


 昔この取引を持ちかけた人間は危機として己の妻を裂いて面白かったのにのうと女王は呟く。

 妖精って本当こう、意地が悪いとこあるよなぁ。


「ちゃんと、この子は出来ることならって口にしただろ?この子にとってこの女の子は大事なんだよ。だから出来ないこと、だろ?」

「ぬぅ…コータはなんだかんだ人間贔屓よの」

「人間だからな」


 不満気な女王に肩をすくめてみせる。あと俺子供は甘やかしたいタイプです。癒しだからな。

 俺が完全にクリクを庇う体勢を見せると彼女は大げさにため息をついてみせた。


「仕方ないのう。何にせよ、コータの客人じゃ無下に扱うわけにはいかぬ。呼んではやるが、交渉はお主がせいよ?」

「十分だ」


 ありがとう、と続けて言えば仕方ない子供じゃと言わんばかりに苦笑いされた。いや俺とっくに成人してるんで…まぁ女王は確実に俺より年上だろうけど。彼女は目を閉じると何か念じるようにじっとしている。その姿にクリクは何が起こるのかと恐々しながらじっとしていた。俺はヤシャが何かしでかさないか監視する。もう問題起こすなよ?

 すると、遠くからボンヤリとしたピンク色の光が近づいてきた。


「女王サマー呼んだー?」


 1匹の妖精がこちらに飛んでくる。ピンク色の髪をツインテールにし、気の強そうな真っ赤なツリ目。可愛らしい容姿だが、生意気そうな雰囲気がある。顔がハッキリと見えるようになった時クリクを見れば、しっかりと頷いた。彼女らしい。


「ビビ、この少年に覚えはあるかえ?」

「少年~?ゲッなんでニンゲンがここに?!ってゆーか知らないっスよーこんなぶっさいくなニンゲン~」

「う、ウソだ!ボクをこんな顔にしたのはこの妖精だっ!」

「あーなんかうっさいっスねー知らないもんは知らないしー言いがかりにもほどがあるってゆーかぁ」


 なんか女子高生にたいな喋り方の奴だな。しかし顔をニヤつかせながらクリクを見ている事からイタズラしたのは彼女で間違いなさそうだ。

 なら……。2人の間に割って入る。いきなり視界に入ったまた違う人間に彼女は不可解そうに顔を歪めた。


「ビビだったか?お前さんこの子にイタズラしたんだろう?」

「なにー?そっちのニンゲンも知らないって言ったら知らないんだってー」

「そりゃおかしいな。俺は女王に少年にイタズラ…魔法をかけたやつを呼んでほしいと頼んだ。そこへお前さんが呼ばれた。つまり、お前さんは女王が嘘をついてるって言ってる訳だな」

「なっなにソレー!?ヘリクツじゃん!アタシは女王サマがウソついてるなんて言ってない!」


 俺の言葉が予想外だったんだろう。慌てたように言い訳してくる。でも、そうなるんだよなぁ。

 チラチラと女王へ困ったように目を向ける彼女だが、残念。そっちは味方じゃないんだなー。


「間接的にそうなるだろ?女王、お前は嘘をついたのか?」


 だからトドメをさそう。困った奴を困らせるのは駄目なことだって分からせようかね。

 女王へ問いかければ静かに彼女は首を横へ振ってみせた。


「いいや?コータに我が嘘をつくなどあるまい。ビビが嘘をついておる」

「うぐっ…女王サマ!なんでそのニンゲンの味方するんスか?!」

「お前は…コータの顔を覚えておらんのか?年に一度我々の祭りがあるじゃろ。極上の蜂蜜酒が振舞われるやつじゃ」

「ああ!ありまスね~あれめちゃ美味しいっスね!年に一度の楽しみであれナシじゃもう生きられないっスよー!」


 ほう、いいことを聞いたな。


「そう。その蜂蜜酒を我に納品しておるのが、この男じゃ」

「ええええぇ?!ニンゲンが?!」


 心底驚愕とでもいうようにビビがこっちを見て叫んだ。


 昔とある薬を作る過程で蜂蜜に魔力を加えることにしたんだが…その蜂蜜が結構余った。そしたらキューのやつが酒にしたら旨いんじゃないかって言ってきたから、作ってみたんだよな。

 それを媒介にして何か使い魔でも呼べないかなーといった所でまさかの召喚されたのが妖精の女王だったのだ。


 女王曰く、ここまで甘くとろけるような匂いと味を持った蜂蜜酒など見たことないそうだ。どうやら魔力を大量に注がれた蜂蜜酒は蜂蜜にうるさい妖精をも唸らせる美酒へと進化したらしい。蜂蜜酒を欲しがったが流石に女王を使い魔には出来ない為、俺は妖精の国へのフリーパスと素材の回収、あとは色々細かい協力を頼み年に一度多めに蜂蜜酒を納品することになった。

 つーまーり、俺がいないとその一年に一度の美味しい蜂蜜酒が飲めないということで俺は大事な妖精の客人となるわけだ。


「自分のしたことを認められない妖精さんは蜂蜜酒なんていらないよなー人間が作ったものなんて飲めないよなー」

「そっそんなこと言ってない!あ…あんたがどうしてもって言うなら、認めてやっても…」

「女王、コイツの分なしで」

「うわぁぁん!アタシがやりましたー!!だから没収するのヤメテー!!!」


 泣き崩れた妖精を前に俺は悪役よろしくフハハハと笑う。それを見て少年が「あの…可哀想だからお酒、分けてあげてください…」と遠慮気味に俺に言ってきた。マジで悪役じゃん俺。


「うぅ…ニンゲンの子供優しい…アタシこんないい子に困ったイタズラしたのね…ごめんよぅ、今戻すから」


 しかしそれが良しとなったのか、素直に少年の方へと飛んで近づく。彼女がクリクの周りをクルリと舞えばキラキラとしたピンクの光の粉が降り注ぐ。それと共にギュルリと彼の顔が変わった。まるでパンをこねたかのように、歪んで戻る。ちゃんとした、人間の子供の顔に。


「クリクっ!!」


 いつの間にか寝かせておいたリシィが正気に戻ったのか駆け寄ってきた。両手でクリクの頬を掴み、じっと顔を見る。ボロリと涙が零れた。


「クリクの…顔だぁ…よがっ…よがったぁぁ」


 彼女の泣き出した顔を見てクリクも元に戻ったのだと実感が湧いたんだろう。ボロボロと彼の目からも涙が溢れてくる。


「リシィリシィ…ぼぐ、ぼぐ…うわぁぁああん!!」


 抱き合って泣く姿に周りを飛んでいた妖精達がどうしたどうしたと言わんばかりに寄ってくる。

 泣き止ませる為だろうか、花かんむりをあげたりお菓子を置いたりしている。基本的に妖精達はイタズラ好きだが悪意はない。それが人間の常識じゃない方向へ行ったりすると、今回のように大変な騒ぎになる。勿論怒らせるためにやる時だってある。楽しいからだ。悪魔と同類だよなぁやっぱ。


「ん?なんだよ」


 チラリと目を向ければヤシャが不思議そうに首を傾げる。コイツは常識知って悪さする方か。

 なんで俺の周りは厄介なものばかりかねぇ。


「おじさん!」

「おじちゃん!」

「おじ…ん?どした?」


 オジサン呼びに思わずツッコミそうになったが見た目若作りでも俺もイイ年だし踏み止まった。




「「ありがとう!!」」




 満面の笑みで言われたお礼に顔がほころぶ。

 「どーいたしまして」と2人の頭を撫でた。


「元に戻したんだから~蜂蜜酒ちゃんとアタシの分ちょーだいよぉ?」


 そして俺の背後でブツブツ言っている妖精。

 分かった分かった。仕方ないとばかりに懐を漁ると双子用に持っていた飴玉があったので、少年達2人とふて腐れている妖精にそれぞれあげた。


「ほい、仲直りだ」


 きっとこの少年と少女は生涯妖精を好きにはなれないだろう。

 この妖精も…いや、忘れっぽいから忘れるかもしれないが、少しでも過去の思い出話として、いつか笑って語ってほしい。

 これもまた、1つの物語なんだから。






**






「それで、懐かれたのか?」

「あー…はははは、はぁ……」


 現在、夕方の港町の酒場。PTの依頼達成の乾杯をする中、メンバーは俺とキューとヤシャとビビ。

 ついてきたよこの妖精…。


 あの後子供2人を家まで送り(家族と町の人達めっちゃ喜んでた)悪ガキ三人と依頼を頼んだ町民はしこたま町の人達と親に睨まれ、依頼達成のサインをもらいまたお礼を言われ、イイ仕事したなーとギルドに報告する前にキューと合流したら「なんだ、PTメンバー増やしたのか?」と言われ振り向けばドヤ顔の妖精1匹。なんでやねん。


「アタシ考えたんだよね~ニンゲンの作るお菓子って美味しいし、あの特上の蜂蜜酒作ってるニンゲンに着いていけば甘くて美味しいモノ食べ放題になるんじゃないかって!アッタマ良いでしょ~」


 笑顔で語る妖精は俺の奢りで彩られているテーブルの上で果物を頬張っている。着いてきていることに勿論気づいていたであろう悪魔はそれを面白そうに見ながら酒を煽り、キューは気にもせずせっせと口に食べ物を運んでいる。因みに今彼女は姿消しの魔法を使っており酒場で妖精を見たという騒ぎは起こっていない。


「ダイジョーブ!女王サマにも許可もらったし、アタシ結構魔法使えるから役に立つよ~?」


 売り込みはこっちが許可してからにしてもらいたい。深い深いため息をつくと俺は酒を手に取った。


 ピンクの髪をツインテールにし、赤い瞳を持ったイタズラ好きの妖精ビビ。

 また俺の屋敷に居候が増えることになった。



仲間が1匹増えました。

読んでくださりありがとうございます。

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