妖精とイタズラ③
こちらが少年の顔についての原因を理解していることが警戒を解かせたんだろう。
少女の名前はリシィ。少年はクリク。2人は幼馴染でちゃんとした町の住人らしい。
特に裕福というわけではなく、特に貧しいわけでもない港町の住人らしい。漁業に励み平和に暮らしていたらしい。
・・・10日ほど前までは。
「その日、僕は海辺の小さな入り江で遊んでて…その時綺麗な貝殻があったから、リシィが綺麗な貝殻集めてるの知ってたから、拾ったんだ。そしたら突然声が聞こえて…」
『その貝殻はアタシが目をつけてたのにー!生意気な人間っ!貝殻なんて似合いもしないじゃない!そぉらっオークみたいに醜くしてやるわ。アタシからモノを奪った罰だよーん!』
かん高い女の声がそう告げた。瞬間、顔に痛みが走ったという。そして痛みに悶絶する中、見たことのない小さな羽を持った少女が笑顔でコチラを見下ろしていた。
慌てて貝殻を捨てて町へ戻れば―…皆が悲鳴をあげ、武器を突きつけたという。
「お父さんとお母さんはなんとかボクだって分かってもらえたんだ。それで、多分それは妖精の仕業だろうって。妖精は気まぐれで人によくイタズラするからって…だから、謝りにみんなで入り江に行ったんだ。ここで貝はもう取りません。だらか元に戻してくださいって。そしたら…」
『ええーアタシそんな醜い人間なんて知らなーい!元に戻してってことは全然違う顔だったんでしょぉー?もう本人は死んでて、バケモノと入れ替わったんじゃないの~?』
とてもとても、おかしくてたまらないというように笑っていたという。
「お父さんは見たことがないくらい怒ってたし、お母さんは泣いてた。ボクもどうしたらいいのかわかんなくて…町に戻ったら、友達はボクじゃない、バケモノだって……どんどん町の人もボクを見る目が変わってくんだ。本当にバケモノが入れ替わってるんじゃないかって。お父さん達も最初は怒って否定してくれてたけど…最近は…」
「疑い始めてる、と。それで、ここにはどうして?」
「…妖精をどうにかする方法を教えてやるからついてこいって」
あの逃げていった3人の子達が呼び出したのか。
すると悲しそうにしていたクリクの横でリシィが怒鳴った。
「アイツら最初からクリクのこと嵌めるつもりだったのよ!親に依頼頼んで冒険者に殺させようなんてサイテー!!」
「君はクリク君のこと信じてるんだな」
「幼馴染だもの。顔が変わっても分かるわよ。町の人達も馬鹿みたい!顔だけで判断しちゃってさ!クリクは、優しいのよ。あたしの為に貝殻拾って…イタズラされて、みんなに嫌われても……あたしのこと責めないんだもん」
なるほど。だからこの子だけは彼の味方で在り続けてるのか。
罪悪感と恋心ってとこかな?いい物語になりそうだなー。
「あいつらイタズラ好きだよなー。きっとこうなることも予想してやったんじゃね?多分もう貝殻のことなんて覚えてねーぞ。ただ面白そうだからって理由でこうなったんだろ」
そんな妄想をしているとヤシャが思い出すかのように告げる。
おいおい、子供に容赦ないなお前…こいつが手加減した相手ってそういえば見たことないわ。
「そんな!クリクが何もしてなくてもこうなったっていうの?!」
「なっただろうな。妖精からすりゃ人間なんて勝手に動くオモチャだろ。10日経ったって言ってたな?もう自分のしたことも忘れて入り江から去ったんじゃねーか?」
ヤシャの言葉に2人が息を止めた。いなくなっちゃったか…目に見えて落ち込んだ2人に俺はどうするか思考を巡らせる。解決策としては、少年が少年であることを住人にしっかり認識させること。…これは不可能に近いな。人は疑う生き物だから。
少年を依頼通り殺害する?いや俺そんな人でなしじゃないし。子供好きだし。あの受付嬢も多分町の事情を知っていて俺に押し付けたっぽいしなぁ。多分殺してもクレームはつかないだろうが…人でなしのレッテルは貼られそうだ。
少年を誰も知らない土地へ連れていく。同じことの繰り返しになるよな。
じゃあもう1つしかないだろう。
「妖精のイタズラと称される妖精達の魔法は妖精にしか解けない。それは知ってるか?」
「…うん。お母さんが言ってた」
「よし、なら会いに行くか。その妖精の顔は覚えてるか?」
「「え?」」
2人ともポカンと俺を見上げる。
目が落っこちちまいそうだな。
「覚えてないのか?」
「ううん、覚えてる、けど…」
「なら問題ないな」
「えーオレ様ヤダーあいつらキラーイ」
「同属嫌悪…いや、なんでもない。じゃあ待ってればいいだろ」
「えーヤダー待ってるのキラーイ」
…面倒くせぇこの悪魔。俺は無視を決め込むと2人に視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。ほら、瞬きしないと乾くぞ?
「今から俺と妖精に会いに行こう。そんでイタズラを解いてもらう」
「で、出来るの?そんなこと」
「俺は冒険者だからな。色々ツテがあるんだ」
「ほ、ほんと?」
「ああ」
「…騙してないでしょうね?」
「騙したとしても俺にはなんもイイ事ないだろう?」
疑惑の目で大人に晒されてきたせいか、警戒心は高い。
でも本当なら縋りたい、助けてほしいと目が語っている。
だから、安心させるように俺は笑顔を向けた。
「会いに…行く!」
「あたしもっ!連れてって!」
「よしきた」
笑って2人の頭を撫でてやる。リシィは恥ずかしいのか嫌がったがクリクはかみ締めるようにして涙を浮かべていた。…大人達も近づかなくなってただろうからなぁ。人恋しいだろうに。
俺は立ち上がると決められた言葉を口にする。
「ケイスヌーン・ハデル・アメコーリア・リヌクストリス。我、同盟の証在り。願う。道を繋ぎたまえ」
スラスラと慣れた言葉を零した。瞬間、道は開かれた。
視界が変わる。まるで写真を撮るシャッターのように切り替わる。森の中から妖精の国へと。
一面の花畑。色とりどりの花が咲き乱れ、その中をフワフワと人の手ほどの大きさの妖精たちが飛び交っている。その色も様々なものだから幻想的だよな。これぞ幻想世界って感じだ。実際、ちょっとした亜空間だし。
少年達も突如切り替わった世界にポカンと再び口を開けて周りを見ている。それを見てやっぱりヤシャが笑っている。ついてきたのかよ。
「おや、誰かと思えば…コータではないか。約束の日とはまた違う訪問じゃな。どうした?」
ゆらりと気配が揺れる。そして隣に巨大な花が現れ花びらが開く。そこに腰掛けるように優雅に存在しているのは―…妖精の女王だ。
彼女だけ人と変わらぬ大きさで6枚の透明な羽を持つ。ヒラヒラとした布をふんだんに使った虹色の衣を纏い白い髪を靡かせた美女。白目のない緑黄色の瞳を細めながら口元は面白そうに弧を描いた。
「客人が多いの。用件はそちらかえ?」
「ああ、この少年のことでな」
クリクの背をポンと叩いてやる。大げさなほど飛び上がり俺を見上げる目は明らかに「なんてこと言うの?!」と非難めいたものだ。リシィは慌ててクリクの前に出ようとするがそれをヤシャが押さえ込む。ナイスだ。いや、あれは面白がってるだけだな。
「おやぁ…ほほほ、なんとまぁ可愛らしいイタズラだこと。人間、お前妖精に対して何かしたかの?」
「?!し、してない!何もしてないよ!!」
「ふぅむ。ではお前は我ら妖精が勝手に力を奮いお前にイタズラをしたと?」
「だ、だってそんな…ボク本当になにも…」
「んー?」
「………っ」
「ストップ」
ニヨニヨと少年を追い詰める女王を止める。オモチャを与えに来たわけじゃないんだ。
俺が止めるのを分かっていたんだろう。女王は表情を変えぬまま身を引いた。震えているクリクを慰めるように撫でる。
リシィは意外と騒がなかったなーとチラリ目をやって…っておいおいおい!
「馬鹿っ!ヤシャ、止めろ!!」
「あ?」
なんで止める?と言わんばかりにリシィの唇から離れる。お前っ子供にベロチューかますやつがあるかっ!!
酸欠なのか別の方向なのか顔を真っ赤に染め上げてぐったりとしている。完全に気失ってる…。クリクはどうやら俺が壁となって見えていなかったようで気失っている彼女に慌てて駆け寄っている。
「なんだよ。いいだろ別に。最後までしたわけでもねーし」
「よくねーよ!子供にすることじゃないだろ?!」
「気持ちよければオレは子供でも老人でも構わねーし。それに…静かにさせるなら吸い取った方が早い」
ぐっと言葉につまる。確かにリシィには大人しくしていてもらいたい。なんせここは妖精の国。下手に突っかかればイタズラでは済まされない。
連れてこない選択肢もあったわけだが、離したら可哀想かなーとか思った俺が馬鹿だった。コイツの餌食にさせるつもりはなかった。
こいつ、ヤシャは悪魔だ。何より自分の欲求、快楽を優先する。魔力が高ければ高い相手ほど関係を持ちたがる。勿論好みもあるだろうが、その方がより気持ちがいいらしい。あと感情の揺さぶりとかも好物とか。ちょっとしたオヤツになるって聞いたことがある。
吸い取った、というのはリシィの魔力を口から奪ったのだろう。最初見たときから彼女には魔術師の適正があった。だから魔力は多くあるんだが…まだ自身の魔力を扱ったことのない少女が魔力を多く吸い取られればそりゃ昏睡する。血液を一気に抜かれたようなものだ。回復するからいいけど。
ちなみにこの方法はちょっと前に治療した先祖返りに効果はない。魔力の抜け穴がないせいなのか上手く吸えないんだと。
少し考えに陥っていたせいかヤシャが首に腕を絡ませてきた所でハっとなった。顔面に迫った顔を手のひらで思いっきり防いだ。
いい音!というか危なかった!
「ちっ、気づきやがったか」
「お前っ!俺に迫るなってあれほど!!」
「だってコータが一番気持ちいいんだって。お前が身を預けてくれんなら、最高に気持ちよくするけど?」
「俺は!BLお断りです!!」
日本でまだ生きてた頃BL本を間違って購入したことがある。別に否定はしない。存分に愛を貫いてくれ。だがしかし!リアルでは求めてない!というか俺を巻き込むな!
「毎回そのびーえる?っての言うな。男同士が嫌なら女に変化してやろうか?」
「それでなくともお前は嫌だ!」
「なんでだよ~ワガママだな」
「あー…コレコレ。お主らはイタズラを解かせる為にここに来たんではないんか?」
女王の呆れたツッコミに我にかえる。心なしか少年の目も冷たい気がする…俺が悪いのか?
BLっぽい展開ですが主人公NLですので今後そういった展開はありません。ヤシャさんがじゃれつくのはあるかもですが。




