妖精とイタズラ①
本編スタートです。主人公視点の一人称になります。よろしくお願いします。
「本が読みたい…」
「あと3ページ残っています、マスター」
「分かってる!分かってるけど…!」
俺の独り言に無情にもナナの言葉が被せられる。
その無情さに涙を浮かべながら机の上に広げられた書き途中の原稿を見る。書いても書いてもまだ次があるんだぞ…・
そんな俺を見て不思議そうにヤシャが言った。
「今本書いてんのに本が読みたいって変じゃね?」
「変じゃない!読むのと書くのは別物だっ!」
言い返しているとそこにサッパリとした笑顔を見せながらキューが乱入してきた。ブルンっと揺れる胸に目が行きそうになるがこらえた。なんでいっつも彼女は薄着かな~。
「コータ!適度な運動が一番だぞ。ほれ、我が鍛錬の相手になってやるぞ?」
「お前はただバトルしたいだけだろ…」
自分の呟きにそれぞれコメントをくれる愉快な仲間達にため息をつくと、ペンにインクをつけ直す。あと3ページ完成したら寝そべって本を読もう。そうしよう。
俺が日本…地球で死んでもう何年も経った。気づけば異世界で赤ん坊からやり直し。そして愉快な仲間達と出会って今に至る、と。
凄いな俺の人生。これこそ本に書くべきじゃないかとも思ったが、自分の手元にあるものを見て止めた。ダメダメ、書くものが多すぎる。これ以上抱えてられん。
俺は託された、らしい。らしい、というのはハッキリとした言葉で言われたわけではないからだ。地球で死んだ時、俺に問いかけをしてきたじーさんはこの世界の『賢者』と呼ばれる人間だった。もう死んで魂だけの状態だったけど。多くの知識を持った彼はその知識を多くの人達に伝えたいと考えた。その方法を探して異界渡りをして俺に出会った。そして、本を媒介にして知識を広めることにした、らしい。死んだ俺の魂を引っこ抜いて自身の世界に持ってきたわけだ。別に本は少ないけど存在してたわけだし、異世界人である俺じゃなくても良かったんじゃ…?と思ったが、自分の知識を詰め込むには異世界人の魂のが都合が良かったらしい。
そして自身の知識を詰め込みこの世界へ誕生させた。直接話をしたわけでも教えてもらったわけでもないが、貰った知識の中にその情報が入り込んでいた。ので俺知識チート+作り変えられた魂のせいで体もチート状態で爆誕。いやー大変だった…。
あと植えつけられた呪いのせいで俺はダラダラすることを後回しに今頑張っている。
「主、がんば」
「がんばって」
「うう…お前達が唯一の癒しだ…ありがとう…」
双子の応援に涙を流しながら最後の一行が書き終わる。
ペンで汚れないようペン置きに置くとナナにサっと原稿を渡す。最終チェックは厳しいナナさんが担当なんです。
そして頷くのを見て大きく伸びをした。
「おわっ…たー!!」
「お疲れ様でした」
「今日はもう部屋から出ない!ゴロゴロして本読む!!」
「コータ、今日は冒険者ギルドで依頼を受けると言ってなかったか?」
……………。
「…今日はナシで」
「自分で決めたことを無かったことにするな!」
「そーだぞ。オレ様も楽しみにしてたのにさぁー」
「無かったことにしたいほど今日は頑張ったんだってー!!」
キューとヤシャに言われて数日前の自分を思い出す。確か最近ギルドの依頼を受けていないから久々に受けようかーとか夕食に話して日付も決めたんでした。そしてスケジュール管理をしているナナが書き損じているはずがない。
淡々と今日の予定を告げられる。
「マスター。本日は午前中が執筆。午後は冒険者ギルドに行き依頼を最悪1件は受けることになっています」
「自分で決めたことなんだし責任持てよな~。ほれほれ、準備しねーと」
「私も行こう。共に汗を流すのも仲間の証拠だ!」
「いってらっしゃい」
「いってらっさーい」
ガシリと首をキューに掴まれズルズルと引きずられていく。ニヤニヤと顔に笑みを浮かべながらついてくるヤシャ。3人で扉をくぐるとナナと双子が見送ってみせた。
ゴロゴロしたい…。
**
「“開けゴマ”」
呪文を言えば登録してある場所に?がる扉は便利だが、こうも行きたくない場所に瞬時向かえるのも考えものだな。はぁ…今日は体よりも頭を動かしたかったのに。本が恋しい…読むの専門で。
視界が開けた場所は町の広場の少し入った路地裏。賑わいを見せる通りと潮の匂いに今日は港町にしたのかとキューを見た。場所選択したのキューだったよな?
「今日は依頼完了後魚料理が食べたくてな。いいだろう?」
「別にいいけど、ほどほどにな」
キューは人型をとっているが、実はドラゴンだ。基本食事を必要としない種族らしいが、食べられないことはない。寧ろ彼女は食べる。ドラゴンの時並みの胃袋でかなり食べる。キューは俺と出会って食べる楽しさを知ったと言っていたが…おかげで外食する時は注目の的だ。やったね。
「オレ最高級ワインがいい」
「実費なら止めんぞ」
ノリだしたヤシャにため息をつく。ヤシャも人じゃない。悪魔だ。コイツは俺と契約している為人に近い味覚をしている。ので高級なものばっか頼むので奢りは勘弁願いたい。依頼完了後の話を今からするのもおかしな話だ。2人を置いて広場に出ると早速ギルドの方へと向かう。確かコッチの方に…あった。
大通りの途中にあるボロい建物。いかにも冒険者ですといった人達が出入りしている。その波に逆らうことなく3人で中へと入った。昼過ぎのせいだけあって中にはあまり人はいない。近い窓口の方へ歩いていけば顔見知りの受付嬢がいた。
「キュスル様!ヤシャ様!お久しぶりです!!」
「ああ」
「よう」
輝く笑顔で受付嬢…名前は忘れたけどショートカットの似合う可愛らしい彼女は頬を赤らめ2人を見てそう言った。なんで先頭に立ってる俺を無視しちゃうんですかねぇ。「俺には何も言うことないの?」と思わす突っ込みを入れれば、
「あ、コータさんもお久しぶりです」
と気の無い返事を頂けた。
冒険者ギルドはよくあるファンタジー設定と似ている。ギルドに登録した冒険者はランクが決められており低いほうからE,D、C、B、A、Sランクと続いている。ランクが高ければ高いほど難易度の高い依頼や報酬が多く面倒な依頼を受けられる。勿論実力がなければ上のランクには上がれない。
そして自重という言葉を知らないこのドラゴンと悪魔は見事に数々の依頼を暇だからとこなし、昇級試験まで楽々とクリア。現在数人しかいないと言われているSランクの仲間入りを果たしている。
因みに俺はBランク。ええ、人間ですもの。こいつらと比べないで頂きたい。
そんな3人でPTを組んでいるのだ。Sランクの2人にBランクの俺。受付嬢の態度からしてその評価は言わずもがな知れるというものだ。標準はDかCランクだから!Bランクだってちょっとは凄いんだぞ?!
「PTで依頼を受けたいんだが、Aランクの依頼書を見せてくれるか?」
Aランク以上の依頼書は掲示板に張り出されない。ギルドカードを提示して窓口から依頼書のファイルを借りるのだ。AランクなのはPTの一番下のランクの者の1つ上のランク依頼しか受けられない規則だから。いやいやBも凄い方なんだって。受付嬢そんな残念な目で見るのは止めてください。
「少ないな」
受け取ったファイルをめくりながらキューがぼやく。それを覗き込めば「最近の依頼しかないな。誰か受けたのか?」とヤシャが受付嬢に尋ねた。
「はい。先日AランクのPTがこの町に長期滞在していたので、そのPTがほとんどの依頼を消化してくださったんです」
「運が悪いな」
ギルドや町の人にとってはありがたい事でもこれから暴れようと思っていたキューにはいい迷惑だったらしい。
不満な顔のキューからヤシャがファイルを奪い取るとパラパラと捲った。
「お。これなんてどーだ?ドラキラキノコの採取」
「…喧嘩なら買うぞ?」
「なーんのことやら」
ドラキラキノコは匂いもよく味もいい高級キノコだ。日本のマツタケみたいなものだな。ただこのキノコ、非常に入手が難しい。なんでドラゴンの死骸に寄生して生えるのだ。ドラゴンは強いので討伐は難しい。しかも倒した所でそれは素材の宝なのだ。大体腐る前に全てなくなる。ドラゴン達も自分の死期が近づくと隠れてしまう為ドラゴンの屍を探すのはかなり難しいのだ。
稀に生きたドラゴンにも寄生することがあると聞く。それを知っているからこそキューは怒るわけだ。ちなみにヤシャも知っている。性格悪いからなーこいつ。
俺は殺気を飛ばし始めた2人から離れると掲示板の方へ行く。別にAランクに拘る必要はないし、何かいいのあるかなーと…。
「おお」
思わず目を輝かせた。書庫の整理整頓って依頼がある。Eランクだけどこういった仕事は冒険者はやりたがらない。本を丁寧に扱ってかつ規則通りに並べていく作業を苦痛に感じる奴が多いからだ。脳筋が多いからなー冒険者って。
だからこそ掲示板に残っていたんだろう。あれだな、俺のためにある依頼みたいなもんだよな。よし、引き受け
「「却下」」
「ゲ」
貼られている依頼書を剥がそうとした瞬間背後に気配が生まれた。こういう時だけ息合わせやがる…!
「いいだろー?これも体力勝負な仕事なんだし…」
「いつも似たようなことしてんじゃねーか。オレも本は好きだけど毎日はちょっとなぁ」
「そうだ。何も考えず体を動かす討伐系にしよう」
代わりに押し付けられたのは3つの依頼書。
・クラーケン討伐 50000G Bランク
・ボアサンド討伐 90000G Aランク
・オーク討伐 10000G Cランク
本当にどれも討伐だな…有限実行かよ。まぁこの程度なら確かにいけるだろうが…ん?
「このオークの依頼、安すぎないか?あとランクもB相当じゃ…」
「やっぱり分かっちゃいます?」
苦笑いを浮かべる受付嬢。誤字ってわけじゃないのか。なら訳有り依頼か…面倒な香りがする。
「別の、」
「コータさんBランクですもんね~オークなんて簡単に倒せちゃいますよね~Sランクの方々がPTですもんね~」
ニコニコと。いやあの、そんな営業スマイルで毒吐きながら受けさせようとしないでもらえませんかね?
「どうだな…じゃあPTで依頼を3つ受けて1人1つずつ担当にしよーぜ。一番早く討伐終えて帰ってきた奴が勝ち。残りは今夜奢る」
「いいなソレ」
「まてまてまて!完全に俺が不利じゃねーか!しかもPT意味がない!!」
人外と勝負とか無理だって。それでなくとも今俺の財布には金がないというのに。しかし俺の抵抗空しく3つとも依頼は受理されてしまった。おいいいのか。PTで受けたにも関わらず単独で狩るって目の前で話してたんだぞ。
「頑張ってくださいね~」
…やっぱりイイ笑顔で見送られたのだった。
読んでくださりありがとうございます。




