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娘の昔語り

この話はシュリ視点となります。



 わたくしには2人父がいる。

 それが当然のことで、不自然であることを今ではよく分かってる。




 シュリーヌ・ロウ・ワツナヴィ・グラディーグルス。それがわたくしの名前。

 グラディーグルスの第一王女であり、王位継承権を唯一持つ者。いづれ国を背負い民を守ることを約束されている。

 …なんて、肩書きは重苦しいけれど、わたくしはのびのびと育った。わたくしが生まれる前にお父様は亡くなってしまった。けれど、お父さんとお母様は、いつも優しくしてくれた。誰もそれを咎めなかった。自然であったことだから。



「お父さん」

「ん?どうしたー?シュリ」



 中庭で日課のお散歩。お父さんはよくお城からいなくなるけど、このお散歩の時間だけは必ず来てくれる。



「だーいすき」

「おう。俺もシュリのこと大好きだぞ~」



 ヘラリと笑うお父さんは、まるでお日様みたいだ。ポカポカと気持ちを温かくしてくれる。

 本が好きで、魔力が大きくて、わたくしにも色々なことを教えてくれる。そんな温かな日が続くのだと信じていた。そして……




 お父さんは、姿を消した。




 毎日来ていたお散歩も、ときどき来ていた城内も、どこにもいなくなった父にわたくしは泣いていた。お母様に尋ねても、分からないとしか答えてくれなくて、悲しかった。


 きっと、わたくしが悪いことをしてしまったんだ。


 嫌われてしまった。


 心が潰されたように悲しかった。苦しかった。

 ただただ泣くだけのわたくしを叱りつけたのは、同い年の少女だった。




「泣いてもどうにもならない。行動して相手を見返すくらい、強くなればいい」




 その少女は半年前、父が連れてきた子だった。

 カナって名前で、わたくしやお母様、お父さんと同じ黒い瞳を持った子供。

 遠いわたくしの親戚で、妹になった少女。


 当時は何で急に妹が出来たのかとか、全く疑問に思わなかった。同い年の友達が出来たみたいで嬉しかった。

 カナが言葉を話したのはあの時が初めてだった。それまではいつも本を読んだりしていて話しかけても一緒に遊んでいても、頷くだけだったから。

 だから…だろうか。カナの言葉が凄く心に残った。強く、強くなればお父さんは帰ってくるだろうか。この国の王女として立派になれば、わたくしを見に来てくれるだろうか。

 なら、まず……



「わたくし、カナの立派なお姉ちゃんになる!」

「は?」



 わたくしより背が低く、同い年であるはずなのに幼く見える妹。わたくしを励ましてくれた小さな少女にまず凄いと言わせよう。




「一緒にお父さんを驚かせよう!」




 そして……強くなった。

 いつもお父さんの傍にいる彼女達には適わないけど、もう待つだけの子供じゃない。

 色々なことを学び、父から教えてもらった術を極める為に努力し、カナと共に外交もやった。


 久々に会った父は、何も変わっていなかった。

 ううん、でも…わたくしに対する態度は変わった。小さな子供に言うように守るように、ただ甘やかすだけじゃない。彼の助けになれる。そのことが単純に嬉しかった。


「…嬉しそうね、シュリ」


 放送が終わり一息ついたわたくしにカナがそう言った。

 これから生徒や職員、管理人等全てが訓練場に集まってくる。その中には恐ろしい妖魔がいるかもしれない。もう被害にあってる人もいるかもしれない。

 それでも、この高揚感は消えてくれない。


「…そうだね。戻ってきてくれていたのは知っていたし、強くなれた自覚はある。でも、まだまだ…まだまだだけど、わたくしに出来ることがあるというのは嬉しいの」


 変わっていなかった父。太陽のようなお父さん。

 当たり前のようにわたくしに愛を注いでくれて…手が届かない遠い人。



「ありがとう、カナ」

「は?」



 だってカナのひと言がなかったら、あの時の小さな少女だった言葉が響いてばければ、わたくしはただ悲しみに嘆く子供のまま大きくなっていただろう。


「自慢の妹をもって、わたくしは幸せよ」

「…あたしも。自慢の姉が持てて良かったわ」


 笑顔で交わす言葉。

 立派なお姉ちゃんになれた。わたくしに自信をくれた、大切な妹。


 頑張ろう。


 この妖魔…ドッペルゲンガーは学園を脅かすだけじゃない。この国までも脅かす存在。許しはしない。

 この国を…お父さんが築いてきた国を壊されることは我慢ならない。


 ふと、母の姿が脳裏をよぎる。

 のんびりとした優しい性格であり、国に生涯をかけた尊敬できる人。

 そんな母が、まだ幼いわたくしに言った言葉。




『この国に生まれてくる王女はきっと、呪われているんでしょうね』




 そう悲しそうに、嬉しそうに――…まるで恋する少女のように。

 お母様はお父さんを見つめて言った。


 我が国の王家には女系しか生まれない。それは千年以上続いているもの。そして皆が呪いにかかるのだ。

 伴侶として望むわけではない。ただ、焦がれる。

 惹かれて惹かれて仕方が無い。



 呪いをかけていく… ただ、愛おしい男性(ひと)


 わたくしも呪われてしまった。

 でも歴代の王女とは違う。父というカタチを貰った。わたくしの本当の父の顔は肖像画でしか知らない。けれど感謝は忘れない。母と結婚し、わたくしをこの世に誕生させてくれて。



 この気持ちは呪いかもしれない。

 でも、この呪いを受け入れたのはわたくしの意思。



 だから、わたくしは全身全霊で応えてみせよう。

 あの人が、父が、好きな人が望むのなら。



「行こう、カナ。生徒達の安全を確保しないと」

「そうね。急ぎましょ」



 わたくしは、なんだって出来る。



ファザコンこじらせてる娘の話。色々事情はありますが、また違うお話で。

読んでくださりありがとうございます。

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