ドッペルガンガー
この妖魔、ドッペルゲンガーが実際に滅ぼしたのは賢者のじーさんだ。
あまりに危険な能力だった為、そうするしかなかったのだと…記録されている。
「ドッペルゲンガー…聞いた事がある。相手の姿や能力を写し取り、その魔力を得て最終的に相手と入れ替わる恐ろしい妖魔だと…」
そうオヴァール王子が言うと皆が息をのんでレイトへと視線が集まる。そう、この妖魔は…
「写した相手の目を…視線を交わすことでドッペルゲンガーの模写は完成する。今、レイトは目を合わせた。ゴッソリ魔力を吸われたな…このままだと、死ぬ」
「じゃあ妖魔を殺せば…!」
「駄目だ。そうすれば中途半端に魔力の繫がりが切れて昏睡状態から目覚めなくなる」
「助ける方法はないの?!」
「あるにはあるんだが…」
知識にある、最終的な治療法。俺は眉を寄せる。縛られたままのドッペルゲンガーはやはりこっちを見たまま動かない。おそらく魔力を食らう方を優先しているんだろう。吐き出すように、一気に答えを言った。
「ドッペルゲンガーと目を合わせ魔力を吸われた場合、1日以内に血縁者の血を飲ませ魔力を分け与える。その間にドッペルゲンガーを殺すんだ」
「え……」
シュリが真っ青になる。そう、レイトは孤児だ。血縁者がいない。だから助ける方法がない。どうする…無理に部外者が魔力を分け与えれば体が壊れてしまう…どうしたら……。
その時、ギルベルトが親指を咥え…腹を噛み切った。ボタボタと結構な量が流れる血に唖然としていると、その指をレイトの口に突っ込む。そして魔力も…っておいおいおい!
「聞いてたか?!血縁者じゃないと拒絶反応で死」
「オレはレイトと血縁者だ!問題ないっ!!」
………はい?
とんでも発言に固まった。他の皆も驚いて…いや、カナだけ無反応でドッペルゲンガーに杖を向けたままだ。知ってたのかよ?!
「説明は後だ!どうすればいい?!」
「っと、レイトに魔力を送り続けろ。まだ完全に魔力を奪われたわけじゃないから間に合う」
「…っく」
恐らく送っていく端から喰われていくんだろう。彼の額に汗が滲む。今のうちにとドッペルゲンガーへと近づく。生徒達からその顔を隠すようにしゃがみ込んだ。先程より魔力を吸ったせいだろう。ギロリと感情ののった表情で睨まれた。その目を手で覆う。
「〝崩れろ〟」
ビクリ、と体が揺れる。悲鳴も上げずただその体は砂のようにサラサラと崩れ、消えた。
それを確認し振り返ると、魔力の流れが止まったんだろう。肩で息をしているギルベルトと多少顔色に赤味が戻ったレイトが転がっていた。
「良くやったなギルベルト。レイトはもう大丈夫だ」
「……そうか」
ほっとした様子でレイトを見下ろす彼の目には家族に向ける情が確かにあった。…いつもの平民呼ばわりはポーズだろうか?色々複雑な事情がありそうだな。
「無茶するわね、アンタ」
「うるさい」
ギルベルトの指に治癒を施しながらカナが呟く。シュリはレイトの様子を見ながら気を失ってるだけだと安心して笑みを見せた。
「良かった。これで解決だね」
「いや、まだだ。何も解決していない。皆、この学園から避難したほうがいい」
「え…?」
俺の言葉に緩んでいた空気が変わる。もうこの学園は安全とは言えない。1人が行動したんだ。他も行動に移りだすだろう。
慌てた様子でオヴァール王子が詰め寄ってきた。
「どういうことかな、先生。今目の前で消えたドッペルゲンガーはまだ生きているのかい?」
「いや、レイトのドッペルゲンガーは消滅した。それは間違いない。いいか、ドッペルゲンガーは群で行動する妖魔だ。1人が見つかればその村は支配されていると考えた方が早いとされる厄介な妖魔だと資料に残っている……恐らく学園内の人間分のドッペルゲンガーがいるだろう」
「そんな…っ!」
ウリエラが悲鳴を上げる。そりゃそうか。目が合っただけで無抵抗に魔力を吸い上げられ殺されるのだ。そして本人が死亡すると記憶さえも奪い取る。ちゃっかり成りすまし群を広げていくという凶悪な妖魔だ。
ただ相手の姿を写すには条件がある。姿を写していないドッペルゲンガーは弱く、素人の剣でも簡単に倒すことが出来る。だからこそ、より強い写し相手を探す。
…学園はそのせいで狙われたか?
写す条件は、相手の一部を入手しそれにまた相手の魔力を込め飲み込むこと。ここであの謎の魔術陣が出てくる。普通ドッペルゲンガーは相手の魔力を奪う時一気に奪う。じゃないと倒されるからな。だが今回、学んだのか誰かからの入れ知恵か。この学園内なら髪の毛や相手の一部を入手するのは簡単だろう。そして魔術陣を描いた。
陣は特殊なものでない限り描いた人物から魔力を吸い取り発動する。ドッペルゲンガーはそれを利用し誤認させ、相手の魔力と陣を繋げたんだろう。半分ほど一部を取り込み写し取った状態なら可能…なのか?そこら辺は俺にも分からないが、それなら全て繫がるのだ。陣で経由し、ドッペルゲンガーは相手の魔力を少しずつ奪っている。一気にしなかったのは郡を大きくする為だろうな…知識もまだほとんどないだろうから魔術陣も内容が滅茶苦茶だったわけだ。
これは…下手をすると何人かもう成りすましが起こってるかもしれない。レイトは、恐らく悪魔と契約していた為上手く魔力を吸い上げることが出来なかったんだろう。だから部屋に直接陣を描きに来た。…が、すぐに気づかれ俺が消してしまった。半端な写しに魔力不足で飢餓状態になり、我慢出来ずウリエラを遅い魔力を奪おうとしたが返り討ちにあった。こんな所か。
「お父さん」
先生ではなく父として呼びかけてきた娘に顔を向ける。
生徒ではなく王女として、目に力を込めている彼女をじっと見た。
「母の代理として…女王陛下から、この国の王位継承権を与えられたわたくしが許します。この学園を、ここにいる人達を、どんな方法でもいい。救ってください。協力は惜しみません」
「…あいよ」
事の重要さを理解し、王女として行動する、か。成長早いなぁ本当。
みんなみんな、あっという間だ。
「父…?」
「え?国王陛下はお隠れになったんじゃ…え?」
周りが混乱している。皆の前で言ったのもワザとだな?俺の指示に従うように仕向けたか。ウインクしてくる娘は本当将来が楽しみです。
なら、イイトコ見せないとな。そして逃がそうと思っていた全員、悪いが巻き込ませてもらう。
「聞いてほしい。ドッペルゲンガーか本人かとの違いは成り代わりが済んでない場合割とする分かる。目だ。目に白目がなく真っ黒なのが特徴だ。本人の魔力を吸い上げると徐々に本人と同じ色になる。ただ完全に魔力を吸われ…成り代わりを済ませたドッペルゲンガーは目では分からない。心臓の上くらいに、変わった紋様が浮かび上がるからそれでしか判断が出来ない」
脱がせる必要があるんだよな。この学園の生徒や教員、他も合わせて大体500人くらいか。
「今から学園内にいる全ての人を訓練場に集めてもらう。男女別に分かれて俺の仲間にボディチェックをさせる予定だ。お前たちはその中に紛れて逃げ出す者、様子がおかしい者、姿が同一の者がいたらすぐ仲間に知らせることをしてもらいたい。だが自分と同じ姿をした者がいたら逃げろ。絶対に目を合わせるな」
チラリ、と気を失っているレイトに目をやれば誰もが理解しただろう。さて…協力してくれるだろうか。Aクラスの生徒である彼らが動いてくれるなら警戒されにくいと思うんだが…。
きりのいいところで止めました。
読んでくださりありがとうございます。




