手掛かりと事件
「なるほどー。全てを捧げる契約ほど重いものはない。その契約を結んだせいで人間に合わせるしかなくなったから、ルルチェはそんなチビだったんだな。ミイラ取りがミイラになるってこのことだな~ふっはウケる」
「ううう…!酷いですよ魔王サマー!ワタシだって魔力持ちの人間とは思わなかったんですー!そうでなければ高位悪魔である自分がこんな姿になるはずないんです…魔力さえなければ契約成立せず封印だけ解けたのに…」
ヤシャがニヤニヤしながらチビっこならぬルルチェをいじめている。魔力は鎖みたいなものだしなーそれがなければ悪魔と契約出来ない。もし魔力がない人間が悪魔と契約しようとしたら体か魂か、はたまた両方喰われる結果となるだろう。元々悪魔は高位であればあるほど地上には来れない。弱い悪魔ならすり抜けられる魔界から地上に行く層は、強い悪魔の場合魔力が大きすぎて弾かれてしまうのだ。まぁ行ける方法もあるが、面倒くさがってしない奴が多いな。あとは地上にいるものとの契約。契約者に縛られることはあるが、契約者さえ許せば自由に動ける。ヤシャがいい例だろう。
ルルチェは特に契約せず地上へと来るという面倒な方法をとった珍しい部類の悪魔らしい。そのせいで高位でありながら弱体化していた所を封印されたようだ。
「なんで封印されたんだ?」
「…は、ハニートラップに引っかかりましてですね…」
「レイト、その指輪って誰の?」
「院長の亡くなった奥さんのものだった…らしい」
うわぁ…旦那の前で口説いたりしたのかね?
それで天神教に見つかって封印されたのか…もしくはそれがあったから天神教に信仰を持ったのか。それでも殺さず封じたことから、ルルチェが高位の悪魔であることは間違いなさそうだ。レイトも思い切った対価にしたな。それで助かったわけだが。
「あの…ホードラーン先生」
「ん?」
「その…留学生のヤシャ…だよな?魔王って…?」
…まぁいっか。
「聞いての通りヤシャは魔王。で、俺はその契約者だからレイトが悪魔と契約していることが分かった。だから契約者同士、誰かに言いふらしたりしない。安心したか?」
「魔王と…魔王と契約…一体何を対価に…」
青い顔でブツブツ言ってる。いや契約したらヤシャが魔王になったんだよ。俺もおかしいと思ってる。
「契約のことは分かった。で、俺はそのことじゃなくてレイトがルルチェに何をさせていたのか聞きたい」
「…と、いうと?」
「生徒を探っていたっぽいから、何でそんなことをさせていた?いくら悪魔が人に見えないといっても、見えるヤツには見えるから危ないだろうに」
実際ヤシャに見つかってるし。遅かれ早かれ気づかれていたんじゃないか?
でも彼は悪魔の契約者であることをバレるのを恐れていた。なのに…あんな行動をさせていたのは理由があるはずだ。
すると彼は少し悩む様子を見せてから…その理由を話した。
「最近…部屋に誰かが侵入した形跡があったんだ。でも何も盗まれていないし逆に気持ち悪くて…また同じことがあっても嫌だからルルチェを部屋に置いて見張りにした。そしたら…」
「寝てしまったのです」
おい悪魔。
呆れた目を送ると慌てたようにルルチェが言った。
「で、でも起きてすぐわかったのです!レイトと違う匂いがして…それで部屋を隅々まで見てたらベットの下に隠されるようにして変な魔術陣が描かれてたんですっ」
「変な魔術陣?」
それってまさか…。
「匂いはしっかりと覚えたって言ったから、ルルチェにふざけたことをする奴を探してもらってたんだ。それで」
「ヤシャに見つかったのか」
生徒の匂いを嗅いでたのはそのせいか。うーん。
「その魔術陣ってまだあるのか?」
「あるけど…なんか、発動してるようだから最近はベットに寝ないようにしてる」
「それはいい心がけ…ってベットの下ってもしかして俺が座ってる下?」
こっくりと頷かれた。えええ…注意してくれよ。気づかない俺も俺だけど。
俺はベットから降りると下を覗き込む。おお…光ってる光ってる。今までのものと同じだな。
だが今までの魔術陣は全て人気の少ない所に描かれていた。何故わざわざ部屋に?この場所になにかあるのか?レイトが目的?それとも悪魔か?…さっぱり分からん。
「先生。この魔術陣が何か知ってるのか?」
「んー知ってるといえば知ってるし、知らないといえば知らない」
「コータ。この魔術陣、こいつの魔力使われてるぞ」
2人で首を傾げていると、ヤシャのとんでもない発言に驚いた。レイトも驚いてヤシャを見ている。この陣とレイトが繫がっている?確かに他の陣は暗示か何かで生徒が無意識に描いただろうと思っていたけど、悪魔が見張っていたのに無意識でも契約者が変な陣を描けるか?
「レイト、お前さん描いた記憶は?」
「オレは何も描いてない。描いたのは勝手に部屋に来た奴だ。
慌てて否定するように言う彼の隣でルルチェも言った。
「レイトじゃない匂いです。レイトじゃないです!魔王サマに嘘はつきませんですよ…後が怖いし…」
レイトの魔力を吸い上げている。普通陣は描いたものの魔力しか吸えないのに?
いや例外は…1つある。
「だとすると…赤の他人が他人の魔力を吸い上げることの出来る魔術陣を描いたってことになるぞ」
まるで生贄のようだ。
それは最悪な答えだった。
「ヤシャ。他の陣…この陣でもいいが繫がってる人間は全員シロだったな。ならルルチェの言った通り匂いで追えるか?」
「時間が経ち過ぎてる。オレ様でも無理だな」
「なら…唯一の手掛かりはルルチェの鼻にかかってるわけか」
「へ?」
急に言われてルルチェが丸い目を更に丸くする。こりゃ早急にんあんとかする必要が出てきたぞ。
「レイト。契約のことは黙ってやるし、バレそうになったらフォロー入れてやる。だから協力してくれ」
**
「ええーアタシが面倒みるのぉ~?」
物凄く不満そうだ。いつものサイズに戻っているビビはそう言ってルルチェのフワフワな頭の上に乗った。ルルチェもルルチェで嫌そうだ。
「仕方ないだろ。生徒にバレないようルルチェには匂いを嗅いでもらわないといけないんだからな。俺らの中で姿消しの魔法が上手いのは妖精であるビビ、お前だ。一緒にチーム組んで犯人探してきてくれ。頼りにしてるぞ?」
「むぅー…ワタシだって力の制限さえなければ妖精の力なんて借りずに済んだんですぅー…」
ふて腐れているルルチェとは真逆に「頼りにしてる」発言でビビのテンションは上々だ。
「ふっふーん。ビビちゃんの実力にかかれば誰にも気づかれずに犯人捕まえちゃうんだから。ご褒美はハチミツクッキーがいいわ。行くわよポチ!」
「うあんルルチェですー!!」
妖精と悪魔のコンビを見送ると複雑な表情を浮かべまがら同じように見送っていたレイトに振り返る。
「よし。俺達は授業に行くぞ」
「…いいのか?のん気に授業なんてしてて。話を聞いた限り早くカタをつけたほうが」
「他の奴らに色々探らせてる。それに、犯人側に不信に思われたくないから俺らは普段通りの行動しないとな。特にレイト君。見張られてると思った方がいいぞ?直接部屋に陣を描かれたのはお前さんだけだしな」
俺といるときはいいが常に一緒にいるわけにはいかないからな。なるべく相手が気づかないように振舞うべきだろう。
「治癒術についてのコツも教えるから、授業には出てくれよ?」
「…出るよ。ちゃんと」
プイッと子供がするように顔を背けられた。クールそうに見えて面白いよな、レイトって。
さて授業は残りの生徒の実力を見てから講義だが…全員ちゃんと見れるだろうか。もう問題を起こす生徒はいないと信じたい。
そんな不安の中授業は恙無く進んで終わった。ストライキしている生徒はともかく、それ以外の生徒はちゃんと指示通り魔術を発動させアドバイスすると素直に受け止められた。…あの2日間はなんだったんだろう。ギルベルトだけ不機嫌そうにまだ睨んでくるけど。
ともかく今回で訓練場を借りるのは終了してよさそうだ。ミリス先生に明日から教室で構わないって伝えておこう。
「お父…先生っ!」
授業を終えるとシュリが駆け寄ってきた。何だろうと立ち止まり待っていると、彼女は俺の前まで来て迷ったように目をさ迷わせた。何だ?
「えっと…ね。わたくしが、というか…ウリエラが、なんだけど…」
ポソポソと俺にしか聞こえない程度の声で話しかけてくる。ウリエラ?…ああ、あの眼鏡娘の気弱そうな生徒か。今日は病欠ってことだったけど、違うのか?
「その…昨日男子生徒に襲われたの」
「何だって?!」
思わぬ言葉に大声を出してしまった。慌てて口を押さえるが遅い。何事かと注目を浴びてしまっている。ば、場所を移動しよう。訓練場を後にして準備室に2人きりになると問いただした。
「…で、ウリエラは無事なのか?怪我は?」
「怪我とかはしてないよ。ただ…寮に帰る途中でいきなり襲われたみたい。飛び掛ってきたから、咄嗟に防御壁を張って…」
そうか、彼女防御魔術が得意だったな。何よりだ。
「弾き飛ばした相手を杖でボコボコにしちゃったの」
「………」
「ウリエラったらボコボコにした相手を縛り上げて部屋に閉じ込めたんだけど、怖いって震えているのよ」
「怖がる要素が分からないんだが?」
彼女肉弾戦強いのか?ひ弱そうだったけど流石騎士団長の娘ってとこか?
「ともかくそれで今日彼女授業休んだんだけど…その」
「?」
しかし捕まえたなら教師に言うなり兵に突き出したりすればいいのに、彼女はしていないらしい。教師には今言ってるわけだけど。
「その男子生徒が……レイト君なの」
「は?」
レイトが?
いやだって……
「さっき俺の授業受けてたレイトが?」
「そうなの。おかしいの。だって、わたくしも見たもの。閉じ込められてたのは確かにレイト君だった。なのに、ここにいるの」
そもそもレイトとは昨日の夕方から夜にかけて俺が会っているのだ。
であると別人?だがシュリは自分の目で見たという。誰かがレイトに化けているとか?
「ともかく、その少年に会ってみるか。いいか?」
「うん。色々おかしいからウリエラにもお願いして誰にも…カナにしか話してないの。お父さんなら何か分かるかなって」
「お、ダジャレか?」
「え?」
キョトンとされた。ああうん。ごめんな、話折って。
だが生徒が生徒を襲った…平民が貴族を、だ。確かに誰に言っていいか分からないだろう。しかもレイトは別にいるわけだし。
「とりあえずレイトは連れて行くか。有罪にしろ無罪にしろ関係あるかもしれないからな。案内頼む、シュリ」
「うん、任せて」
説明多くてすいません。
読んでくださりありがとうございます。




