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先生と魔術式


「来ていただけるなんて私はなんて幸運なんでしょう!今回は引き受けてくださりありがとうございます、ホードラーン先生!」

「ははは…恐縮です」


 ひたすら嬉しそうに話を振ってくるオッサンの頭が気になる。…少し、少しずれてんだよズラならもっとちゃんと被ってろよ…!

 そんな見ていてハラハラするようなオッサンはグラディーグルスという国の王都にあるグラディー学園の学園長だ。そしてココはその学園長室である。


 何故俺がこんな場所にいるかは深い事情があるわけだが、表向きは魔術の講師としてこの学園に呼ばれたのだ。俺の出版した魔術関連の本の評価は高い。だから未来ある若者達へ色々教えてほしいと様々な国の学園から連絡が実際あったが…まぁ研究者のが多かったけど。この学園を選んだのだ。…まさか俺が短期間とはいえ教師をやるとは…。


 そしてこの国、グラディーグルスは魔術に特化している。しかも王都の学園であるグラディー学園は国の優秀な魔術師が講師をやることで有名であり研究者も多い。そのお陰か様々な国の王族や貴族が留学して学びにくる。魔術を上手く使いこなすのも上流階級のステータスということらしい。実際役には立つし自衛手段があるのはいいことだ。魔力を持たない子は跡継ぎにはなれないしな。この学園には来ない。

 そんな厄介極まりない所で、先生をこなしつつやることやらないといけなくなった…恨むぞクレイア。


「先生の講義は午後からです。午前中は学園内の見学でもしてのんびりとお過ごしください。案内には同じ魔術の講師であるミリス先生にお願いしました」

「…どうも」


 学園長の紹介で後ろで控えていた女性が前へ出る。水色の髪は肩で綺麗に切りそろえられており、同じ水色の瞳はキツく釣りあがっている。長い耳が特徴の美女だ。


 エルフか…珍しいな。この世界では親が違う種族で子を宿すと母親の種族で産まれてくる。だがごくたまに別の種族として誕生することがあるのだ。妖精+人間でエルフ。悪魔+人間で魔族。ドラゴンと人間でドワーフなど。人間との交配が多いのは比較的子を宿しやすいのと数の問題だ。人口は人間が一番多いからな。

 だからこの世界でエルフは珍しい。因みにエルフ同士の子供はエルフにならない。人か妖精だ。


「お初にお目にかかります。私、この学園で魔術式の歴史を担当しているミリス・フィーと言います。今回ホードラーン先生の講義の補助を頼まれましたが、こちらに迷惑かけないようお願いします」

「ちょ、ミリス先生…」


 慌てたように学園長が言うが彼女は俺を睨みつけたままだ。敵意バリバリだ。魔術式の歴史か…最近じーさんの作った式の魔術本販売されて革命起きかけてるからな。自分が教えていた術式が非効率だーって言われたらそうなるわな。

 学園長が歓迎ムードだったから上から言われて仕方なく、といったとこか?どっちにしろ俺はまだやらないといけないことがある。友好的に「よろしくお願いします」とヘラりと笑顔を浮かべておいた。が、無視され「案内します。校内は広いのではぐれたら置いていきます」と言われ学園長室から出て行った。ひたすら学園長がペコペコしてくる。謝るなら何で彼女を案内人と補助役に…いや、いいからペコペコしないでくれ。ズラが!ヅラが…!




 嫌っていても仕事はちゃんとするタイプだったようで、ミリス先生は校内を分かりやすく案内してくれた。この学園は11歳から入学出来、5学年制度で学生が全員寮暮らし。基本貴族が入学するが、一般でも優秀な者を一部入学を許可している。一学年にクラスは4つ。ギルドと一緒でA・B・C・Dのクラスがあり優秀な者ほどAクラスの方へ行くシステムだ。多少立場による評価もあるそうだが、しっかりと能力的に高い子供ばかりだとか。


 彼女には教室…授業中なので外からの見学だ。食堂とか資料室とか会議室、実験室など案内され、最後に来たのは野外にある魔術の訓練場だった。世界一の魔術学園であることは伊達ではない。まるでドームのような広い空間に何重にも防護壁が張られており、万が一にでも外に被害が及ばないように設計されている。

 あと治癒の腕輪がある。あれを嵌めて訓練すれば致命傷の攻撃を受けた際自動的に瞬時回復させてくれる素敵アイテム。まぁ使い捨てだし一度しか発動しないから連続でやられるとマズイし滅茶苦茶貴重品だ。天使のごく一部の者しか作れない。うちのナナでも無理な品だ。


 で、その貴重な腕輪を1つ渡され自身も1つ身に着けたミリス先生と訓練場のど真ん中で対峙しております。…なんでこうなった。


「…ホードラーン先生が書かれた魔術式の本、読みました」

「あ、はい。ありがとうございます…?」

「とても分かりやすく、今までの魔術が覆されるようなものでした。今後、あなたの書かれた本の術式が主流となり魔術は扱いやすいものとなるでしょう」


 考えたのはじーさんだけどな。彼女は懐から短杖を取り出す。水晶の珍しい杖だ。美しい模様が描かれている。いや…魔術回路だな。ぼんやりと光って見える。


「ですが、今までの魔術式にも長所はあります。何百…何千年も研究されてきたものが否定され、それを扱うものが軽んじられるのは…1人の魔術師として寛容出来ません」


 その杖をしっかりと俺に向ける。


「証明してみせましょう。今までの魔術式を極めた私と、あなたの術式で」


 ……えー、や、やりたくねぇ…。

 引きつった顔で相手を見るが、彼女は引く様子を見せない。ヤル気満々だ。確かに俺…じーさんが開発した術式は今までのと比べると短縮、使用魔力の削減、威力の増加など良いこと尽くめだ。だが、彼女の言う通り前の術式の方が優れている所もあるのだ。それを個々見つけるのが魔術師として楽しいんじゃないのかなぁと俺は思うが目の前のミリス先生は見つけただけでは済まないらしい。

 だからこその魔術対決。貴重な腕輪をつけてまで…これって彼女の独断だよな?俺怒られるんじゃないか?


「早く杖を出しなさい」


 行動を起こさない俺に焦れたようで催促してきた。さて…どうしようか。実は俺が普段使用している魔術は魔法にほぼ近いものであってじーさんの魔術式ではない。魔術と魔法の違いは簡単に言うと、力を借りて奇跡を起こすか自分だけの力で奇跡を起こすかだ。

 魔術は術式を通さないと発動しない。術式とは…簡単に言うとこの世界の力に指示、命令を出すものだと思ってくれていい。世界の力をマナという。人間でいう魔力と似た力だ。そのマナを術式に組み込み命令、指示を飛ばし自身の魔力で発動させる。それが魔術。一方魔法は術式を使わない。指示、命令を出さず自身の魔力をマナに干渉させ、イメージで形を変え奇跡を起こす。そのせいか魔法は魔力が大きいもの、マナが見えるみのしか使えない。割と自由がきくが魔力は命とも?がっている。あまりに大きな魔法を無茶して起こすと体が崩れてしまう。


 そして俺は魂と呪いの問題で魔力が多く体に含まれている。魔法をイメージで使用し、それを術式でそれをコントロールするのだ。だから魔術とも魔法とも呼べるし、呼べない。それにこの使い方は俺だけじゃないしな…。あるヤツは言った。これは『魔創』だと。だから俺も魔創って呼んでる。


 懐に短杖を出現させ、さも懐にあったかのように取り出す。俺のプランではこうだ。

 魔創を上手く使い最新魔術式に見せてイイ感じに勝負。ギリギリの展開まで持っていく。そして負け…いい勝負だったぜとお互いを称えあう。うん、これでいこう!全く上手くいくとは思えないが!


「いきます…!」


 彼女が術式を組み上げる。術式の組み方は人それぞれ。書いたり言葉だったり、踊りで表現するものだっている。後は元々術式を書き込んである物を使うとかもある。ミリス先生は書くタイプらしい。書いても言葉でも術式は完成すると陣へと変わる。陣は円だ。世界と繋げた証となり、その陣が細かければ内容が多く美しいものであればあるほど威力も変わる。大きく書けば勿論威力はでかいが時間がかかるし術式の理解がないと出来ないし、何より魔力を食う。


 彼女の陣が出来上がる。身丈ほどの大きさの陣に細かく繊細な文字が描かれ淡い青色の光を灯している。綺麗だなぁ流石この学園の先生でありエルフでもある。昔、賢者のじーさんさえ生まれてもいない遥か昔。1人の魔術師が誕生した時からの魔術式の陣。美しい陣は彼女の描いた術式を正確に読み取り何層にもなった文字の螺旋が光を強くした。水、の文字が目に飛び込んでくる。なら……


 俺も杖を滑らせる。「風」「壁」とだけ。簡単な術式を描く。そして出来上がった小さな陣を魔力で覆い、その魔力を分ける。更に分ける。そして、計4つの陣が出来上がりそれを重ねた。4連式の、小さな魔術陣。これが本に書いたものだ。1つの大きな魔術式を書くより1つの小さな魔術式を書く方が断然早い。魔力も少なくて済む。それを魔力で転写し重ねて威力を上げるといったもの。小さな陣を書き分けて重ねて発動出来るものもある。魔力の消費は少ないし早い。小さい為何の術式か分かりにくい。そもそも小さく単調のものを書かないとコントロールが出来なくなる為術式は楽だ。重ねるだけで前の術式では10秒かかったものが2秒で出来る。そして発動魔力は半分以下。そりゃ流行る。だが、ミリス先生の言う通り、昔の術式のがいい所もある。


 単調でないといけない術式のせいで繊細な魔術とかは無理だ。転移術とか高度な魔術ほど術式は複雑になるし魔力も必要になる。だからこそ使える人は少ない。そう、魔術師で高度な魔術を発動させる者は少ないのだ。だからじーさんの術式で革命が起きる。それが許せないのだろう。楽な方で覚えてしまえば難しいことはしたくない魔術師が増える。そうなれば高度な魔術を使える魔術師が更に減る。技術の衰退だ。パソコンに慣れた若者がいざアナログで書類を作ることになって四苦八苦する感じかな。


 陣が出来上がったのは同時。遅出しの俺でも追いつけるじーさんの術式は凄いけど、じーさんも別に以前の術式を否定したわけじゃない。その術式の基礎があったからこそ生まれたものだから。



 彼女の陣と杖に描かれていた魔術回路が発動し大量の水が出現する。それがグルリと集まり5メートルほどの巨大な蛇となる。それが意思を宿しこちらへと飛び掛ってきた。当たれば全身骨がいかれるか水の檻となって溺死か…うへぇシャレにならん攻撃だな。そこまではしないと信じたい…いや、するからこその腕輪か?



 ガァァァァァアアアア!!



 俺も杖を蛇向け魔術陣を光らせる。この書いた陣はダミーで魔創で描いた通りに風の刃が出現し蛇を切り裂く。4連としていた魔術陣の特性を生かすように見せる為、そのまま分裂させ大蛇となっていた水の塊をバラバラにした。


「まだですっ!」


 恐らく術式に組み込まれていたんだろう。バラバラになり雨のように降り注いだ水が地面に落ちると針のように尖り迫り来る。「土」「硬」を書いたふりで地面を硬化させる。水の針は硬い土に阻まれて俺には届かない。…危な…これ魔創じゃなかったら間に合わなかったかも。本気でやりにきて…って次がくるっ!


 再び生み出された水は拳ほどの大きさのものが大量に宙へ浮き銃弾のように真っ直ぐ飛んでくる。…なんだか嫌な予感がしたので硬化した土で四方を覆った。



 ガガガガガガガガガガガガガガガガッ



 前方から来ていたはずの水の弾が後方の壁に当たっている。やっぱ向きを変えたか…絡め技でくるなぁ。

 そして何やら包まれる予感がしたので風を操り上へと退散。おお…水がスライムみたいにさっきまでいた場所を包んでいる。


「飛行まで出来るんですか…あの魔術式では…いやでも一方方向になら…」


 俺が宙へと飛び出した事に驚いて攻撃が止まった。俺としてはここで終わってほしいんだけど。


「お互い相手の意表をつくことは出来ました。どちらの術式も長所はあります。俺としてはこの2つの術式の長所をこの学園の生徒に教えたいと考えています。ですから、協力して授業に挑みませんか?」

「…そうですね。授業の方針としてはそれでいいでしょう。でも、勝負は勝負です!」


 じゃあ俺の負けでいいよ!とは言わせて貰えず再び水が襲い掛かってくる。まだ続けるのか…ん?




「炎よ!水を消して!」




 澄んだ声が響き渡る。俺の前に魔術陣が出来上がり、発動した魔術が襲い掛かってきた水を1つ1つ炎が包んだ。ボシュボシュと音を立てて水が蒸発し消えていく。水蒸気により靄のかかった訓練場にまた新しく人が入ってきた。この学園の制服である白く上品なワンピース。胸元にが学年とクラスを表すブローチが輝く。青の石が4年生であり、薔薇を象った装飾がAクラスであることを示す。


「ミリス先生。授業以外の訓練場の使用は許可がないと使っちゃ駄目って言った本人がやっては駄目です」

「…後で許可証を発行して頂くつもりでしたよ」

「後じゃ意味がないじゃないですか」


 現れた女子生徒にミリス先生はバツが悪そうに目を逸らす。…やっぱ無許可だったか。「あと先生。学園長が呼んでましたよ?」と生徒が告げると彼女は目を伏せたまま「…では授業で」と俺に呟き訓練場から出て行った。

 その姿が完全に見えなくなった所で、クルリと薄紫色の長い髪を靡かせ、黒い瞳を持った少女が微笑んだ。


「お久しぶりです」

「ああ、久しぶりだなシュリ。元気そうでなによりだ」

「そっちも」


 そわそわしていたので手を広げてやると、目を輝かせて飛び込んでくる。あんなに小さかったのになぁ…もう14歳か。早いもんだ。


「制服姿、初めて見たな」

「似合ってるでしょ?気に入ってるんだ。頑張ってAクラスに入れたよ!」


 あのねあのねと嬉しそうに話をしてくるのは子供の頃から変わらない。けど、綺麗になった。

 彼女の名はシュリーヌ・ロウ・ワツナヴィ・グラディーグルス。この国の第一王女だ。



「ゲッ…なんでアンタがここに…」



 そして訓練場にもう1人現れた女子生徒。シュリと同じ色のブローチをつけた赤紫色の髪をオサゲにし、黒の瞳を持つ少女はこれでもかってほど顔を歪ませていた。彼女の名はカナレル・ロウ・ワナツヴィ・グラディーグルス。この国の第二王女。年はシュリと一緒だが双子じゃない。


「カーナー?久しぶりに会えたのにそんな言い方…」

「あーはいはい。悪かったわよ」

「カナも久しぶりだな」


 よっと挨拶すれば少しだけ睨んだ後「…久しぶり」と小さく返事がくる。こっちも相変わらずだな。綺麗になった。女の子は本当成長が早いな。


「ね、お母様に言われて来たんでしょう?」

「ああ、依頼で…聞いてはいるだろうけど暫くこの学園で先生やってるからよろしく頼むわ」

「やったー!」

「うわぁ…」


 正反対のリアクションだが嫌われてはいない、はず。カナには後で本の差し入れをしよう。俺に似て本好きなんだ。



「お父さんと一緒に学園生活ってワクワクするね」

「あたしはクソ親父と一緒なのゴメンだわ…」



 俺は笑って、娘達の頭を撫でてやった。



学園編が始まります。よろしくお願いします。

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