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編集長と工場長



「ここは波に乗るべきです先生!新作を作りましょう!」

「無理ですってばぁ~!これ以上は作業が追いつきませんー!」


 ヤル気に満ち溢れている一方と泣きながら無理だと話す一方。毎度のことではあるんだが…俺はどうするかなぁとのん気に考えた。

 ここは俺の屋敷の応接間。外は生憎の雨だがそれでも外に飛び出したい。


「先生のシリーズはどれもこれも最高の売り上げを誇っています。勿論シリーズも手は抜けませんが新しい…そうですね、単発のものを出せば新規ファンもまた増えると思うんです!ここは惜しみなく3冊同時発売とかいいんじゃないですか?!」


 キラキラではなくギラギラと深緑の瞳を輝かせているのはエマー・ロギナストという1人の女性だ。焦げ茶色の髪はしっかりと整えられ今流行の黒のスーツにタイトスカート、黒タイツに赤のパンプスというキャリアウーマンスタイルだ。…はい俺が犯人です。正しくは俺の知識から自作したナナだけど。いつの間にナナのやつファッション誌プロデュースしてたんだ…?


「無理無理無理む~り~で~す~!先生の作品はどれもこれも売れすぎて生産ギリギリなんですよぅ!出来たと思って納品してもすぐ追加注文かかるし工場フル稼働させてもまだかまだかって催促止まらないし紙やインクも生産追いつかないって言われるしぃ~!出来ないことやれって言われても無理なんです!うわぁぁんっお休みほしーよー!」


 対照的に涙で桃色の目を潤ませているのはマイナという女性。美しかったであろう金の髪はボサボサでまとめられるようにして背に流されている。着ているのは甘ロリ系のヒラヒラとした白とピンクのワンピース。これもナナだな…。何よりの特徴は頭に生えている2本の角だ。


 エマーは人間の女性で24歳。俺の本の出版先というか編集長みたいな立場だ。

 マイナは悪魔の女性で272歳。本を作る工場長のような立場だ。


 俺の本は地上界で基本的に売りに出している。だが実際本が作られている現場は魔界だ。なんで魔界かって?そりゃ土地と従業員の確保の為だ。悪魔は基本ヤシャに従う。本の為なら悪魔でも使うぞ俺は。…まぁ無理矢理はさせてないし、給料も休みもあげているのでブラックではない…はず。マイナの疲れ具合からして少し傾いてる気がするが。


「最近図書館の増設が頻繁に行われてるんです。本不足なんてしたくないけど追いつけないんですよーっ!!」


 あ、俺だわごめん。

 本が高いなら量産、貸し出しすればいいじゃないの計画で工場が悲鳴を上げているようだ。計算上そこまでパンクするものじゃなかったはず…。あ、ナナのファッション誌とかヤシャのグルメ特集とか俺の知らない間に出来てた本があったな…あれか。


「マイナ、今工場って何個だっけ?」

「32ですぅ…」

「じゃあ50まで増やそう。それまで新作はなしだ。シリーズものや既刊の印刷中心に動かす。ただ工場が出来上がり次第新作を2つ出す。それでいいか?」

「…仕方ないですね。それで構いません」

「ありがとうございます~あ…でも紙とかインクとかが…」

「原料は妖精の国に確か同じものがあったから俺が交渉してみる。それまで持たせてくれ」

「はいぃ~」


 ハチミツ酒と大量の菓子でOKしてくれるだろうけど。妖精はそこらへん交渉しやすくて助かる。

 でもそんなに無茶させていたとは…悪魔って働き者だよな。俺は手を伸ばすとクシャクシャになっている金の髪を整えるように撫でた。


「悪かった。早めに対策練ってマイナも従業員達も休めるように手配するからな」

「は、はわ…」


 するとマイナの顔がみるみるうちに赤に染まっていく。…男に免疫ないんだっけか。悪魔にしちゃ珍しいよな。


「ちょ、先生!せんせい~っ!わたしも頑張ってますから!バリバリ売ってますかすから!ナデナデしてくださいよ!」


 慌ててエマーが主張してくる。ナデナデって…頑張ってるのは知ってるけどさ…。仕方ないとばかりに整っている髪形を崩さないように撫でる。凄く満足そうだ。片手片手で違う娘っ子を撫でるという謎の図が出来上がっていると、オズオズとマイナが何かを差し出した。


「あの…出来上がった本です。もう出荷は始まってますけど見本はまだ渡してなかったと思うので…」

「お、さんきゅ」


 自分で書いたとはいえ新しい本。テンションが上がる。ウキウキと受け取ると「あ、忘れるところでした」とエマーも何かを取り出すと渡してきた。


「ファンレターです。今回出した魔術の本は反響大きかったですから、いつもより多目です」


 そう言って大量の手紙を本の上に置く。確かに多いな。在り難いことだ…後でゆっくり読ませてもらおう。その大量のファンレターの中にチラリと見えた金の装飾は見なかったことにする。うん、俺は見なかった。視線を逸らした所で2人がじっと見ていることに気づく。はい、どーぞ。

 促すように肩をすくめれば、先手とばかりに話し始めたのはマイナだった。


「今回の『悪の薔薇』シリーズ大変素敵でした!もう悪役になりきる主人公の台詞1つ1つに痺れて痺れて…相手の王子に全く気づかれないで憎まれていく日々が堪りません。愛する人に憎まれて、生きる…羨ましいですぅ。新たに登場したライバルキャラもなかなか腹黒そうで次の本が待ち遠しいです!」


 うっとりとした顔は幼い顔立ちなのに凄い色気を放っている。ただ言ってることが完全にドMだが。実は追い詰められることが好きなんじゃないだろうかと俺は思ってる。次にエマーが口を開いた。


「わたしはやはり『白き空』シリーズですね。物語りも佳境に入りましたが、まさかあそこでヒロインが裏切るなんて…!でもそれは戦場へ向かう主人公を思ってのこと!そして悪役なのか味方なのか分からなかった彼がまさか主人公の兄だったなんて!!次が最終巻となると寂しいですが楽しみで仕方ありませんっ!」


 今度はキラキラと目を輝かせて語る。恋愛もの好きだったのに冒険もの好きになるとは驚いたよなぁ。挿絵の主人公がイケメンだからか?描いたのはナナだ。本当何でも出来るなあいつ。


 キャッキャと俺の書いた本の感想を語る2人は元々俺の書く本のファンだった。量産する為に工場建てたり本屋増やしたりしてバタバタしていると、色んな協力者が出来た。その中でもこの2人は飛びっきりだな。楽しく読んでくれてるみたいだし、書いてて良かったって思う。魔術だけじゃやっぱり本の虫は足らないし。うんうん。やっぱり娯楽もないとダメだよな。ちなみに恋愛ものの物語は実際にあった話をアレンジしたり地球の読んだことあるものをこっち風にアレンジしたりといったものだ。



「「で、次はどんな展開なんですかっ?!」」

「言ったら面白くないだろ…」



 なら早く書け書けというのも困ったもんだけどな。



少し短めです。影で頑張ってる2人の話です。

読んでくださりありがとうございます。

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