表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/31

ドラゴンの昔語り

この話はキュスル視点となります。



 ああ、これが運命というものか。

 そう思わずにはいられなかった。





 私の考えは単純だ。好きなものは好きで、強いものが偉い。ドラゴンである皆は遠まわしな答えほど好むようだが私はそれが面倒だ。


 キュスル。それが私の名。身内の者や仲のいい者はキューと呼ぶ。火のドラゴンであり、誇り高きドラゴンの里の長の1人娘だ。私の祖父は強い。そして父も強い。誰よりも強く賢いから、私の家系は長を受け継いでいるのだと母が言った。私の憧れだ。

 どこの誰よりも強いのなら、父や祖父が世界の王になるのかと聞けば「そうではないよ。ワシより父より強い者は多くいる。力だけではないのだ。ワシ達が選ばれたのは、そういった強さを皆が認めてくれたからだよ」と父に言われた。意味が分からない。強い者が強い。それでいいじゃないか。強ければ里の者を守れる。魔物にだって勝てる。そして誰よりも輝いて見える。だから、私は強さに憧れ自身もその高みへ行きたいのだ。


 下の者に勝っても意味が無い。同世代の雄と勝負するようになった。相手が勝てばお前の子を産んでやると条件をつけて。私は自分の強さと美しさや価値も分かっているつもりだ。ホイホイ釣れた雄達を叩きのめしていると、いつの間にか相手がいなくなっていた。年上のドラゴンとも戦ったが、強いと言われている者は言葉巧みに戦いを避ける。だから面倒で避けていたが、もう力づくで勝負に持ち込んでしまおうか?

 そんなある日、父が嬉しそうに言ってきた。


「昔の友人が亡くなったんだが、夢を実現させたようだ。異世界からこの世界へ人間を呼んだらしい」

「異世界?」

「この世界とは異なる世界から来たということだよ。ああ、違う世界とはどのような所だろう。久々に新しい知識が増えそうだ」


 この里に来るそうだぞと言った父。違う世界…想像出来ない。人間はドラゴンより弱い。だが、違う世界ではそうじゃないのかもしれない。ワクワクしてきた。知らない世界の相手。どんな人?間?男?女?

 知りたいという欲求。それはドラゴンの本質。私にもあったんだな。




 そして異世界人がやって来た。戦いを邪魔されたくないので夜まで待つ。チラリと見た異世界人だった人間は特に人間の男と変わらなかった。というかヒョロっとした人間だ。弱そうに見える。

 でもあの体に、魂に宿している魔力の量。人間ではありえない。ドラゴンである私よりも多い。強いものほど魔力の量は多い。ああ、早く戦いたい。あれは、強い。


 夜になった。人間の男はフラリと1人外へ出てきてくれた。好都合だ。上空へ飛び上がり、そのまま一気に奇襲をかけた。






 ズドォォォンッ






 男はそれを避けた。驚きの表情で私を見ている。そうだ、楽しもうじゃないか。


『…お前、強いな?』

「は?」


 問いかけ死角から尻尾を叩きつける。だが避けた。あっさりと当然のように。ああゾクゾクする。


『強いなら…私と勝負しろ!!』


 我慢出来ずに飛び掛る。牙の餌食にしようとすれば、上へと逃げられた。この男飛べるのか。飛行の魔術は人には難しいと聞いていたが…流石異世界人。しかし上に逃げたなら丁度いい。喉の奥に魔力を高め、狙いを定める。男は空中で停止したまま。口の中から熱が溢れそれを男目指して、一気に吐き出した。






 ゴォオオオオオオオ!!!






 炎ブレス。火のドラゴンの最大攻撃。夜空に光強く伸びる炎は赤ではなく白。ここ一番の魔力を込めた。


 さぁどうする?避けれも体が溶けるぞ異世界人。

 すると何でもないかのように、宙へと浮いていた男は手を一振り。それだけ。たったそれだけで炎が消えた。私の最大の攻撃が、実にアッサリと、消えてしまった。


 目を見開き驚きで一瞬動きが止まる。その少しの間に男の顔が目の前に降りた。



「いきなり何すんだ馬鹿っ!!」



 ゴインッ



 頭に衝撃を受けて、私は意識を失った。




 目を覚ますと男が覗きこんでいた。

 圧倒的な強さだった。私の求めた強さだった。


「お前ね、初対面の相手にいきなり攻撃した挙句ブレス吐くってどんな悪役だよ。俺結構ドラゴンに歓迎されてると思ってたけど、実は嫌われてんの?」


 ショックだわ…と凹んだ彼に慌てる。嫌いだなんてとんでもない!私がいかに戦いに勝つことに拘っていたか、強さに憧れていたか、異世界人にワクワクしていたか伝える。引かれた。ショックだ。


『異世界人、名はなんという?』


 男の名前を知りたくて聞いてみれば、アッサリと「コータだけど」と名乗った。コータ…不思議な響きだが、男にとても似合っていた。


『コータか。良い名だな。私はキュスルという。これまで戦ってきた誰よりも強かった…よし!夫婦になろう!!』


 名乗り、率直に願い出た。この男の、コータの傍にいたい。強い雄と一緒にいるなら夫婦になるのが一番だ。すると子供が出来るな。コータとの子か。強い子になるだろう。素晴らしい。

 だがコータは種族のことで断ろうとしてきた。確かに異種との交配は子は出来にくいが出来ないわけではない。人型になってもコータは頷かなかった。一度この姿で人里に行ったことがあるが、雄によく声をかけられたし私から見ても強く美しい姿だと自慢出来る。でもコータはダメだと言う。何故夫婦になりたいのかって?そんなのコータが強いからに決まっている。それが何故分からないのだろう?


 翌日コータは帰ってしまった。だから追いかける事にした。父にコータを追いかけ嫁にしてもらうため里を出たいと話した。すると少し考える素振りをしたが、すぐ許可をしてくれた。


「確かにコータ殿は強いだろう。その強さはキュー、お前の知らない強さだ。学んでくるといい。きっとお前の糧となる」


 知らない強さ?どういう意味だろう。不思議に思いながらも、父はコータと夫婦になるのは賛成のようだし問題ない。コータの所へ行こう。


 里の外は広い。そして広い地上界ではなく、コータは魔界に住んでいた。私よりも先にコータの元には天使と悪魔がいたこと。そしてコータの呪いのこと。国のこと。本のこと。色々なこと知り、学び、答えを貰った。里の中にいた頃には知らなかったこと。ワクワクだけじゃない。ドキドキする。この感情はコータが教えてくれた。


 父が言っていたことが分かった。コータは強い。その強さを見せ付けられ――…私は嫉妬した。知らない強さの答えに。ああ、私はなんと愚かだったのか。強き者とはこのような男のことを言うのだ。私はまだまだ…手すら届いてもいなかった。


 隣に並ぶ資格はない。今はまだ。いつかきっと並んでみせる。本能的に子は欲しいと思うが…体だけの関係はダメだと言われた。うーん、人間の男は乳がデカイ女が好きだと聞いたがコータは噂に聞くツルペタが好みなんだろうか?

 魅せられた強さはきっと私に必要なものだった。だからコータと出会ったのは、運命なんだろう必然だったのだろう。




 ドラゴンとしてじゃない。私はもう1人の女として、コータと夫婦になりたい。




 愛し愛される関係になりたい。お人よしで本が好きで、優しく強いコータと共に終わりに向け生きていきたい。

 だからコータ、私は諦めないぞ。


 いつか夫婦になって子を産んで、父や祖父に見せに行こう。

 今日も笑いあいながら、その未来を目指していく。




恋に愛に変わった時の昔話はまた別の機会で。キュスルは真っ直ぐです。

読んでくださりありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ