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ドラゴンに求婚された日


 今日も今日とて日課となっている執筆活動を終わらせ、今日の予定を確認している時だった。


「コータ、少しいいか?」

「キュー?」


 珍しく困った様子で俺の所へ来たキュー。とりあえず話だけでも聞いてみるかと「どうした?」と軽く尋ねてみた。彼女は心なしかションボリと体を小さくして話し始める。


「実はな…私の祖父の1000歳の誕生日が明日なんだ。他の者とは一味違う最高のものを贈り物にしようと思ったんだが…」

「思い浮かばず今日まできたのか?」

「う…その、用意はしてあったんだ…」


 ふとキューの祖父のことを思い出す。そうか、あの爺1000歳になるのか。いつまでも死にそうにないくらい立派なドラゴンだったな。祖父や父のことを尊敬している彼女のことだ。贈り物も相当なものを用意したんだろう。Sランクの冒険者だし金には困ってないだろうし、何があったんだ?


「その…幻の酒と呼ばれるオブーフルトの酒をドワーフから購入したんだが、つい我慢出来ず私が飲んでしまってな」

「自業自得じゃねぇか」

「実に旨い酒だった…」

「お前爺の前でソレ言うなよ?」


 ドラゴンは酒好きが多いからなぁ。そのせいなのかドワーフやエルフ、また妖精とも仲が良かったりする。


「でもそれならまたドワーフから買えばいいんじゃないのか?」

「オブーフルトの酒は熟成させるのに200年はかかる。更に材料が希少なものばかりでな、ドワーフが独占しているものなのだ。1本売ってもらえたのが奇跡と言っていい」

「その奇跡を何で飲んだお前は…」


 こら、目を逸らすな。


「だ、だから代わりになるような希少な酒をコータなら知っているかと思ってな。知識の中にないか?」

「酒かぁ…」


 自分も結構好きだ。でも別にブランドとかに拘りはなく美味ければそれを飲む。この世界の酒も結構美味いのが多いしな。この世界…


「珍しい酒、か…」

「ん?なんだコータ。いい酒の情報があるのか?」

「一応知識の中にも珍しい酒はある。ドラゴンから見ても美味だし珍しいってのもある」

「いいじゃないか!それでいこう!」


 キラキラと目を輝かせるドラゴン。うーん、確かにこれなら…なんとかいけるか。ただ……


「海亀種のラプルクルの睾丸を浸したものになるんだが…」


 つまりは金●マだ。精力剤としても強力で昔の王族が好んで飲んだとか。だがラプルクルは深海に住み着いており、捕ってくるのも命がけ。あれAランクの魔物と同じくらい強いしな。小さいのでも2メートルくらいある。アルコール度数も高く、美味いらしい。


「ラプルクルか!あの亀の肉は美味いぞ。肉は燻製にして持っていくのもいいな。今から捕ってくるからコータは酒と燻製の準備をしておいてくれ」

「お、おい!」


 1人うんうん納得して走っていってしまった。思い立ったら即行動の脳筋だからなーキューは。材料とってきてくれるというならそうしてもらおう。一応他にも材料はいる。双子に倉庫から持ってきてもらうことにするか。亀以外は確か在庫にあるはず。


「昔っからキューは変わらないよなぁ…」


 出合った時から脳筋だった。






**






「ここがドラゴンの里かぁ…」


 賢者の知識の中でドラゴンというのは心引かれるものだった。この世界のドラゴンは知識欲が高く、人の世にこっそり紛れ込む高位種も結構いるらしい。賢者のじーさんもそのドラゴンの何人…何匹かと交流し里に遊びに行くほどの仲だ。そして異世界から魂を引っ張ってくるといった話もしていたようで、俺のドラゴンの里見学はあっさりOKが出た。


 指定された森の中には結界があり、手紙と一緒に入っていた護符を翳せば入れた。そこには…少し古いイメージののんびりとした村があり、至る所にドラゴンが寝そべったり空を飛んでいた。人型になっている者も多いがドラゴンの大きさにびびる。デカい…俺なんて一飲みだろうなぁ。


 ドラゴンは属性種というのがあり、主に火、水、雷、地、光、闇がいる。特にどの種と仲が悪いということはなく、区を分けて里を中心として暮らしているという。だから目の前の里には色んな色のドラゴンがいっぱい。鱗の色がそれぞれ属性の色なので分かりやすいのだ。因みにハーフとかはいない。子は雌の属性になるらしい。


「おお、コータ殿。いらしたか」

「こんにちは。手紙の返信ありがとうございます、ターヌさん」


 出迎えてくれたのはニコニコとした赤い髪のおっさんだ。この人が賢者のじーさんと交流があったターヌさん。火属性のドラゴンで結構上の立場の人…ドラゴンらしい。この人がOKしてくれたからこそ俺は里に入れた。ドラゴンが見たかったのと何か古い伝承とか聞けると思ったからだ。感謝しかない。


「あやつが亡くなったのは寂しいが、まさか本当に異世界からの転生を成功させるとは見事だな。ワシも長いこと生きているが異世界のことは知らん。是非教えてくれ」

「はい、もちろん―…」





 ズウゥゥゥンッ





 笑顔で頷いたら物凄い衝撃と音、そして風圧と土煙が辺りを包んだ。何だ?!と見上げれば…俺を中心に複数のドラゴンがサークルを作って見下ろしていた。あ、これ死んだな…とその時は思った。



『これが噂の異世界人か!』

『フム…見た目は人と変わらんな』

『馬鹿、魔力を見ろよ。人じゃ在り得ねぇよ』

『ねぇ異世界人、向こうの世界とこっちの世界どう違うの?』



 やいのやいの。

 …さすがドラゴン。知識欲の塊。どうやら俺が来ることを聞いて異世界の話聞きたさに集まったらしい。ひと言言ってくれよ!マジで齧られると思っただろ!


 俺がビビっていることに気づいたのか皆人型になってくれた。物凄く気さくなドラゴンばかりでお互いに話をして盛り上がり最終的には酒盛り化した。ドラゴンは酒好きと聞いていたから土産に持ってきていて正解だった。

 そして深夜。流石にもう飲めなくて外に涼みにきた。うぇっぷ、この体ハイスペックだから泥酔するということはないが量が量だ。胃がはち切れそう…。全て酒というのも恐ろしい。ツマミのない酒オンリー…ドラゴンはあまり食べないという知識は嘘じゃなかった。


 夜の里は静かだ。人と一緒でドラゴンも夜眠る。闇種はこれからが活動時間だと思うが住んでる場所が里から離れているんだろう。緑が多くこの里の時の流れはゆったりとしていて心地がいい。俺は近くにあった石に腰を降ろすと空を見た。綺麗な星空が見え…え?






 ズドォォォンッ






「うぉあ?!」


 星が降ってくる勢いでドラゴンが降ってきた!真っ赤な鱗が月明かりで煌いて見える。全身5メートルくらいだろうか…朝迎えにきたドラゴン達より少し小柄だ。でも今避けてなかったら俺潰されてたんじゃないか?


『…お前、強いな?』

「は?」


 聞こえてきたのは女の声。このドラゴン雌なのか…と思っていたら尻尾が凄い勢いで俺へと迫る。慌てて飛びのくと風を切るような音と共に近くにあった木々がへし折れた。あ、さっき座ってた石も粉々になってる!?


『強いなら…私と勝負しろ!!』

「はぁぁ?!」


 いきなりのバトル展開に思考が追いつかない。そして目前にドラゴンの鋭い牙が迫った。




――…これがキュー。キュスルとの出会いだった。


 キューは昔からドラゴンにしては珍しい脳筋タイプで色々なドラゴンに勝負しろと迫っていたらしい。しかし実力があった為、同世代のドラゴンでは彼女が一番強かった。ドラゴンの長の一人娘であることから誰も注意出来ずはた迷惑な喧嘩祭りを1人開催していたとか。

 しかし毎日していれば戦っていない相手はいなくなる。年上相手に喧嘩を売るか悩んでいた頃、里に異世界人が来る噂を聞いたらしい。異世界人?→普通じゃない→強い!という謎の連鎖により奇襲された俺は混乱したまま彼女を叱った。もう、なんか話を聞いてくれない状態だったから殴って止めました。だって大きいドラゴンが迫ってくるって心臓に悪いし。そしたら彼女は大人しくなりようやく冷静に話し始めた。


『異世界人、名はなんという?』

「コータだけど…」

『コータか。良い名だな。私はキュスルという。これまで戦ってきた誰よりも強かった…よし!夫婦になろう!!』


 冷静じゃなかった?!


「いやいやいや!種族違うから!」

『人型になればいいのか?』


 そう言うと彼女の体が光り一瞬で消えた。と思ったら目の前にグラマスな美女がいた。赤の長い髪をポニーテールで流し、意思の強い緑色の大きな瞳。そして圧倒的なボイン。し、視線が吸い寄せられる…。この女性があのキュスルと名乗ったドラゴンというのは分かったが、夫婦になるのは意味がわからない。却下します。


「何故だ。この姿はお前の好みじゃないのか?」

「魅力的ではあるけどそうじゃなくてだな…なんでいきなり夫婦になりたいってなったんだ?」

「お前が強いからだ」


 ドラゴンは基本的に力強い者に惹かれる傾向がある。キューは特にソレで自分より強いヤツに出会ったら生涯を共にし、強い子を産みたいと思ったらしい。というより、強さへの憧れが凄い。これはドラゴン関係なく、キューの性格っぽいが。

 そんなこと言われても無理なものは無理だと言って逃げた。ら、追ってきた。しかも父親もノリ気のようだ。父親ターヌさんだって知らなかったんだよ…あの人ドラゴンの長だったの。Wショックだ。






**






 そして夫婦が無理なら子供だけでもって体の関係さえも迫ってくるが断り続けて今に至る。ちゃんと断ってる。断ってるんだがキューのやつその気になるまで待つといって居候というか屋敷に居座っている。昔から今までストレートな好意は変わっていない。悪いやつではないんだが…。


「コータ、混ぜた」

「コータ、これは?」

「ああ、ありがとう。これは後で使うからこっち」


 アカとクロと一緒に酒造りの準備をする。魔術で出来るからこの世界は在り難い。一応燻製の用意もしたけど…肉の量的に全部は無理だな。今晩のおかずにでもするか。


「ただいまー!」

「キュスル帰った」

「きたきた」

「大物を捕ったぞー!扉くぐれないから外に来てくれー!」


 扉くぐれない?!どんな大物持ってきたんだよこの屋敷の扉10メートルはあるんだぞ?!

 慌てて双子と外へ出ると…山があった。


 正確には15メートルもありそうなラプルクルの屍。デカすぎだろ?!唖然としているとやりきった感のキューがご機嫌で歩いてきた。


「なかなかイイ戦いだった。コータこれで良かったんだろう?」

「……うん、合ってる。でもな、キュー」

「うん?」

「こいつは、雌だ」

「……あれ?」

「でっかいー」

「おっきいー」



 結局酒は造っておいてあったハチミツ酒を持っていく事なった。妖精の国へのものだから後日作り直さないといけないな…ビビが怒り狂いそうだ。大量の亀肉は1ヶ月の間俺達の食事を占領することとなった。もう、暫く肉は、いい……うっぷ。



キュスルとの出会いでした。

読んでくださりありがとうございます。

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